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チョコレート万歳
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春一番、といったところか。
今朝までの豪雨が嘘であったかのように風には暖気が含まれていた。
今期最後のレポートを提出して帰っているところだった。
青野の背中に菅田の陽気な声がかけられ、振り返る。
坂ばかりの大学のなだらかな線上に菅田が立っていた。
「なにしてんの」
もう大学はテスト週間も終わり春休みに入っている。
登校する必要などないだろうに。
菅田は急ぐわけでもなく青野の隣に並んだ。
菅田が言うにはグループ発表の最終まとめをしていたらしい。
大変だな、と青野は口先だけでねぎらった。
「そうでもねえんだな」
菅田が弾んだ声で言うので青野はどうしたのだと横目で見やる。
授業外の活動は菅田のもっとも嫌う面倒事そのものなのに。
菅田は緩いジーンズに両手を突っ込んで軽い足取りをみせていた。
その手首に似合わないかわいらしい紙袋がひっかけられている。
十中八九これが理由だろう。
尋ねれば待っていたと言わんばかりに菅田は紙袋を差し出してきた。
青野はその中身を見やる。
紙袋の中には蓋の部分が透明になっている箱が入っていて、桃色と茶色のマカロンが並んでいた。
そういえば今日はバレンタインデー当日だったか、と青野は思い出す。
「グループのさ、違う学科の子に貰った」
青野も菅田も経済学部だ。
人文学科の授業だろうから法学部か語学部の女子だろう。
ふーん、と青野は唇をとがらせた。
大学生ともなればクラスなどなく、高校生の頃にはいたクラス中に配る女子の存在はなかった。
「でもそれ義理だろ」
青野に言われ、そうだけどさ、と菅田は少しすねたように言う。
他のメンバーにも男女問わず配っていたらしい。
当然だろうと青野は思う。
明らかに女好きするマカロンを本命へのプレゼントには贈らないだろう。
しかし形は見事に整っていたと思う。
菓子作りをしない青野にはわからないが、手間のかかりそうな菓子だ。
チョコレートを買ってきて溶かして固めるのとは訳が違うだろう。
とん、とん、とん、と二人そろって最後の段を降りる。
手首に引っかかったままの紙袋が太股に三度当たった。
ふと、青野が持っていた鞄を漁った。
財布やらキーケースやらの間から探り出したものを菅田に手渡す。
菅田は握らされた正方形の小さなチョコレートを見て、青野を見た。
「それ、本命チョコ」
青野は菅田の手を指しながら言う。
マジか、と菅田はもう一度チョコレートを見た。
「だって付きあってんだろ俺ら」
青野に言われ、そっか、と思いだしたように菅田が言った。
スタスタと歩き始めた青野を追って菅田も歩き始める。
急な坂を下りて大学からでたところでまだ緩やかな坂が続いている。
「ホワイトデーに三倍返しな」
青野が笑う横で、菅田はチョコレートの包み紙を開けて口に放り込んだ。
二十円分の甘さが口に広がってべたりと舌にへばりつく。
昔と値段は変わっても変わらぬおいしさだ。
「六十円かよ」
まだミルクチョコレートの風味が残る口で言えば、もうバレた、と青野が笑う。
どうせレジ横に置いてあったものでも買って鞄に入れたままにしておいたのだろう。
少しベタリとした食感は溶けかけていたに違いない。
「家いってい?」
当然のように青野の家の方角についてきながら菅田は言う。
横断歩道に止まった二人の前を二人乗りのバイクが走っていった。
「いーよ」
青野がいつものように答える。
菅田は青野の家にほとんど住んでいるのではないかと言うほどに入り浸っていた。
流行のゲームがあるからだという理由が大きいのだが。
なんか腹減らない?と話しながらだらだらと歩いていく。
一月後にはさらに暖かくなっていることだろう。
牛柄の包装紙が手からこぼれ落ちて春めく風に運ばれていった。
今朝までの豪雨が嘘であったかのように風には暖気が含まれていた。
今期最後のレポートを提出して帰っているところだった。
青野の背中に菅田の陽気な声がかけられ、振り返る。
坂ばかりの大学のなだらかな線上に菅田が立っていた。
「なにしてんの」
もう大学はテスト週間も終わり春休みに入っている。
登校する必要などないだろうに。
菅田は急ぐわけでもなく青野の隣に並んだ。
菅田が言うにはグループ発表の最終まとめをしていたらしい。
大変だな、と青野は口先だけでねぎらった。
「そうでもねえんだな」
菅田が弾んだ声で言うので青野はどうしたのだと横目で見やる。
授業外の活動は菅田のもっとも嫌う面倒事そのものなのに。
菅田は緩いジーンズに両手を突っ込んで軽い足取りをみせていた。
その手首に似合わないかわいらしい紙袋がひっかけられている。
十中八九これが理由だろう。
尋ねれば待っていたと言わんばかりに菅田は紙袋を差し出してきた。
青野はその中身を見やる。
紙袋の中には蓋の部分が透明になっている箱が入っていて、桃色と茶色のマカロンが並んでいた。
そういえば今日はバレンタインデー当日だったか、と青野は思い出す。
「グループのさ、違う学科の子に貰った」
青野も菅田も経済学部だ。
人文学科の授業だろうから法学部か語学部の女子だろう。
ふーん、と青野は唇をとがらせた。
大学生ともなればクラスなどなく、高校生の頃にはいたクラス中に配る女子の存在はなかった。
「でもそれ義理だろ」
青野に言われ、そうだけどさ、と菅田は少しすねたように言う。
他のメンバーにも男女問わず配っていたらしい。
当然だろうと青野は思う。
明らかに女好きするマカロンを本命へのプレゼントには贈らないだろう。
しかし形は見事に整っていたと思う。
菓子作りをしない青野にはわからないが、手間のかかりそうな菓子だ。
チョコレートを買ってきて溶かして固めるのとは訳が違うだろう。
とん、とん、とん、と二人そろって最後の段を降りる。
手首に引っかかったままの紙袋が太股に三度当たった。
ふと、青野が持っていた鞄を漁った。
財布やらキーケースやらの間から探り出したものを菅田に手渡す。
菅田は握らされた正方形の小さなチョコレートを見て、青野を見た。
「それ、本命チョコ」
青野は菅田の手を指しながら言う。
マジか、と菅田はもう一度チョコレートを見た。
「だって付きあってんだろ俺ら」
青野に言われ、そっか、と思いだしたように菅田が言った。
スタスタと歩き始めた青野を追って菅田も歩き始める。
急な坂を下りて大学からでたところでまだ緩やかな坂が続いている。
「ホワイトデーに三倍返しな」
青野が笑う横で、菅田はチョコレートの包み紙を開けて口に放り込んだ。
二十円分の甘さが口に広がってべたりと舌にへばりつく。
昔と値段は変わっても変わらぬおいしさだ。
「六十円かよ」
まだミルクチョコレートの風味が残る口で言えば、もうバレた、と青野が笑う。
どうせレジ横に置いてあったものでも買って鞄に入れたままにしておいたのだろう。
少しベタリとした食感は溶けかけていたに違いない。
「家いってい?」
当然のように青野の家の方角についてきながら菅田は言う。
横断歩道に止まった二人の前を二人乗りのバイクが走っていった。
「いーよ」
青野がいつものように答える。
菅田は青野の家にほとんど住んでいるのではないかと言うほどに入り浸っていた。
流行のゲームがあるからだという理由が大きいのだが。
なんか腹減らない?と話しながらだらだらと歩いていく。
一月後にはさらに暖かくなっていることだろう。
牛柄の包装紙が手からこぼれ落ちて春めく風に運ばれていった。
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