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水ノ灯(ともしび)

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遣らずの雨の言う通り

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 ゆったりとした朝寝から目を覚まして、守はひとつ寝返りを打った。慣れない布団と寝乱れた浴衣が絡みつく感触。すぐ隣で寄り添って寝ていた淳は夢と現の狭間にいるようだ。とろりとした瞳で守を見ると、ゆっくりと瞬きをする。

「そろそろ…帰らねえと…」

 言いながら守は布団の上で体を起こす。乱れた髪を直そうと手を上げると帯の解けた浴衣が邪魔をした。体の下敷きになった浴衣をゆるゆると引っ張り出してきちんと袖をつくる。淳はまた眠りそうになりながら唸り声で返事をした。
 昨日は美味いものを食べ、温泉を堪能し、宵の口から酒を飲んで同じ布団に入って夜更かしをした。たっぷりと朝寝も楽しんで昼にさしかかろうという頃だ。もう充分過ぎるほどに満喫した。いつもの場所に帰らなければいけないだろう。旅先から日常に戻るというのはいつでも寂しいことで、例に漏れず二人にも名残惜しい気持ちはあるのだが。
 もぞもぞと淳が体を起こし、ひとつあくびを漏らす。守よりもひどく寝乱れており、片袖が肩から抜け落ちそうになっていた。少し肌寒く、両の手で浴衣をかき合わせる。守も自分の浴衣を直しながら寒さを感じていた。窓の外を見れば雲が重く垂れ込めている。部屋は薄暗く、そのせいで時刻がわからないほどだった。まだ日の出前だと言われても信じて寝入ってしまうだろう。心地よく疲れた体はまだ眠りから覚めきっておらず、いくらでも眠れてしまいそうだ。布団の中は二人分のぬくもりがとどまっていて抜け出ることが憚られる。

「眠いねえ……」

 淳が今にも落ちそうな瞼で本当に眠そうに呟くので守は思わず笑ってしまった。昨日あれだけ動けば当然だろう。駆け回って作業をしていただけでなく昨夜は旅先だからとつい回数を重ねてしまったのだから。守もその気配につられて瞼が重たくなってしまう。これではいけないとぷるぷる頭を振ってみるが意思に反して体は動くのを厭った。
 突如、地に鞭を打ち付けたような高い音がして二人は同時に窓の外に目を向けた。ゴロゴロゴロ、と雷鳴が続く。二人は同じように反応してしまったのがおかしくて顔を見合わせてくすくすと笑った。さらに柔い土を抉ろうとするかのように激しい雨が降り出す。窓ガラスに隈なく水滴がついたかと思うとたちまち曇り、外の景色は白い靄に包まれてしまう。守は四つん這いで窓辺まで這っていって不明瞭な外の景色を眺めた。

「あーあー……」

 吐いたため息が僅かに窓を白くする。ガラスを叩く雨音がうるさいほどだ。雷の音が断続的に何度も続く。近いね、と淳は守の後ろ姿を見ながら言った。おお、と守は返して窓をなぞった。湿気を含んだガラスは冷たく指を濡らす。急に冷えた体をぶるっと震わせて、守はおとなしく淳の元に戻ってきた。

「まーもる」

 すっかり布団に潜り込んでいた淳が溶けた響きで名前を呼ぶ。淳の手が守の冷えた手を温かく握った。

「もうちょっといようか?」

 仕方ないという言い方で、そんな笑顔をして。守は眉を下げて微笑むと淳の隣に潜り込んだ。外気に冷やされた体をぎゅうぎゅうと押し付ける。冷たいね、と柔らかく言うと胸に入れてくれた。淳の体温が染みていく。

「帰るの夜になるかもなあ…」

 未だ止まない雨の音に、守はそうぼやく。

「だったらもう一日泊まっちゃえばいいじゃない」

 無責任にそう言うと淳は守の足に足を絡めた。守は唸って少し悩むとひとつ頷いた。そうなればいいのに、を、そうしてしまうのが二人のやり方だ。後でどうにでもするさ、と守は淳に倣って成り行きに任せる。この体温と鼓動から抜け出せるものか。淳がすぐにうつらうつらとし始めたので守の呼吸も自然と凪いでいく。雷鳴は遠のき、柔らかい雨の音が溢れていた。二人は雨にひきとめられて、まどろみは朝寝から昼寝に変わる。
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