BLエッチの後で シチュエーション限定SS

水ノ灯(ともしび)

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じゃれあう二人

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 寝室の空気には濡れた気配が未だ色濃く残っていた。息はすっかり整ったが上がった体温は戻りきっていない。森田に丁寧に拭われた肌に不快なべたつきはなく、新しいシーツの上でぐったりと横たわっていた。隣で同じように横になった森田が身を寄せてくる。腹に腕を回し、石井の背に胸をくっつけた。

「あっちぃ」

 掠れた声で言い、石井の手がぐいっと森田の顎を押し上げる。うぇ、と間の抜けた声をあげ、森田は苦笑しつつ体を離した。こほ、と石井が軽く咳き込む。喉が渇いて痛んでいた。水をねだる前に冷たさが頬に触れる。振り返ると森田が笑って水のペットボトルを石井に触れさせていた。

「口移ししてやろっか?」

 キャップを外しながらからかうように言う森田に、ばか、と返すとひきつれるような痛みがあった。眉をしかめると、森田の手がそっと石井の頭を支える。自分で力を入れる気など少しもない石井は、唇に飲み口が当てられるとされるがままに水を飲んだ。きんと冷たい水がとろとろと丁寧に流れ込んでくる。渇いた喉を潤し、火照ったままの体に心地よく染み込んでいく。何度か喉を鳴らして飲み込むうちに、一筋だけ唇から溢れて水が伝っていった。もういいと思った瞬間に飲み口が離れていく。そっと頭が戻され、零れた水を拭われた。

「あー喉いてぇ」

 石井がぼやくが、その声は先ほどよりも潤ってしっかりとしていた。森田がくすりと笑って汗で湿った髪をかきあげる。

「あんだけかわいい声だしてたらね」
「そう聞こえんのはお前だけだろ」

 男があんあん言うのを聞いても楽しくないだろうと石井が不機嫌そうにすると、森田は愛おしそうに目を細め、んー?と曖昧に言うばかりだ。余裕のない森田の声の方が余程かわいいだろうに。快感の狭間に聞く熱い吐息混じりの声は、いつも子供のような素直さで石井の名前を呼んでいる。その声だけで腰から溶け落ちてしまいそうなのに。思い出して少し熱の入ったため息をつけば、森田の指が唇をなぞった。がぶ、と軽く噛み付いてやれば大げさに声をあげて慌てて指を引き抜いていく。

「痛いじゃんかよぉ」

 歯型のついた指を涙目で見つめながら森田が拗ねたように唇を尖らせる。石井はけらけらと楽しそうに笑って森田の方へ向き直った。

「俺の方が体いたいっての。ガツガツやりやがって……腰取れたらどうすんだよ」

 取れねぇって、と笑って森田は噛まれた指を石井の腰に回した。つうっとなぞる指先に思わず体がびくりと跳ねる。ぞわぞわと広がる感覚を噛み殺してなんともないような顔で森田を見返した。

「俺だって背中痛いもんよー」

 言いながら、森田の指は石井の背骨を辿るようにゆっくりと上っていく。ぞわっとした感触も背を駆け抜けていき、石井は少し眉をひそめた。背を抱いた手が石井を引き寄せ、胸の中に抱きこむ。石井の耳朶に唇が寄せられた。

「お前が感じまくってしがみついてくるからさぁ」

 ひそめた声が耳に吹き込まれてぞくっと背筋に震えが走った。勝手に瞳が潤むのがわかって唇を引き結ぶ。森田の胸を押し、体を離した。

「じゃあ見せてみろよ、背中」

 挑発するように、くいっと指で示してやれば、森田は少しきょとんとしておとなしく背を向けた。森田の広い背中には確かに石井が引っ掻いたのであろう爪痕が残っていた。赤くなった痕は血こそ出ていないがヒリヒリと痛みそうだ。爪は切り揃えたつもりだったが振り落とされそうになって夢中で背にすがった記憶がある。がっつくからだっつの、と思いながら赤い痕にべろりと舌を這わせた。

「うゃっ!?」

 ひっくり返った声をあげて森田がびくんっと縮こまる。石井の方が驚いてしまって動きを止めた。暫くしてじわじわと石井の口角が上がり、ぶふっと吹き出した。笑うなよう、と拗ねた声色で言う森田の耳はほんのりと赤く染まっている。

「なに、気持ちよかったの?」

 かわいい声あげやがってと思いながらからかえば、森田はますます真っ赤になってしまった。覗き込んで名前を呼べば、森田は首を横に振って顔を隠してしまう。顔を見るのを諦め、背中に唇を落としていく。ちゅ、ちゅ、と音を立てて痕をなぞっていくと森田の背中が小さく反応するのが唇で感じられた。ちろりと舌を出してゆっくりとなぞってやると、森田はびくんっと背をしならせた。ばっとこちらを振り返った森田が思いきり石井を抱き締め、胸に閉じ込める。

「もうそれ禁止!」

 少し強い口調は余裕のない時のもので、思わずにやけてしまう。禁止ってなんだよ、と思いながらはいはいと気のない返事をしてやる。とりあえずぎゅうぎゅうと締め付けてくる腕の力を抜かせようとぽんぽんと肩を叩いてやった。苦しいほどの力が緩まり、解放されてくたんとシーツに横になる。なんだか急に疲れが戻ってきたように感じて、瞼が重くなるのがわかった。

「もう寝る?」

 森田がそれに気づいて優しい声を出す。んー、と曖昧に答えて森田に擦り寄った。森田は幸せそうに微笑み、頭を撫でてやる。石井は森田の胸にそっと唇を触れさせ、思いきり吸い上げた。ぴりっと走った痛みに森田は少し眉根を寄せる。首のすぐ下、鎖骨の間にくっきりと赤い痕がついた。石井はそれを満足そうに見やる。

「あーあ、もう……」

 森田はその痕をなぞり、満更でもなさそうに苦笑する。明日は第一ボタンまできっちり締めたダサい格好しやがれ、と、してやったりとばかりに微笑んで石井は目を閉じた。
 森田は石井と自分の上にシーツを引き上げる。冷え始めた体に互いの体温が心地いい。森田の穏やかな心音を聞きながら、石井の呼吸はゆったりと落ち着いてくる。森田は寝かしつけるようにそっと頭を撫でてやっていた。すう、と寝息が規則的になっていく。
 ふと、森田は頭だけを起こすと石井に覆いかぶさった。耳を越え、首の横に口付ける。強く吸い付き痕を残すと、仕返しだとばかりに満足気に笑った。ちゅ、ともう一度痕の上から口付けて体を戻す。石井にぴったりと寄り添うと、森田も体の力を抜いて目を閉じた。心地よい疲れの中ですぐに眠りは訪れる。ぼんやりとしたまどろみの中、この痕はどう隠そうかと考えて石井はほんのわずかに微笑んだ。
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