BLエッチの後で シチュエーション限定SS

水ノ灯(ともしび)

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雪の降らない夜

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 寝室の窓を開けるから、東京の夜が流れ込んできた。とっくに消したエアコンの残りと二人の体温で温まっていた空気が逃げて、冷たい風が入り込んでくる。寒さはますます厳しくなり、温度計の数字がなくなる日々が続いていた。

「今年は雪降るかなあ」

 大野は細く覗いた空を見上げて言う。星も月の明かりも見えない暗色は塗りつぶしたキャンバスのようだった。こんな一部では雲がかかっているのかどうかも分からない。

「降ったら大変だよ」

 酒井は画面の光を伏せて、寝転んだまま見上げる。大野の手元でライターのホイールが回った。金属が擦れる音がして、一瞬炎の明るさが目を焼く。
 こんな都会で大雪に見舞われたら、この世の終わりが来たような騒ぎになるに決まっている。交通網が途絶えることを思って憂鬱になった。停電なんてしたらもっと最悪だ。ただでさえ毎日寒くて起きられないのに。
 いっそ果てしなく降った雪がビル群をショートケーキみたいに真っ白にして、全部埋めてしまったら面白いかもしれない。そしたら街ごと冬眠して、春が来るまで待つのだ。雪が一斉に溶け出したら今度は街中水浸しになってしまう。みんな目が覚めたら海の中だ。

「ねえってば」

 どうやら呼ばれていたらしい。心地よい疲労で眠気に襲われた体は、半分夢の中に入り込んでいた。目を上げると、大野は瞳の細さを半分にして笑っていた。

「どっか行きたいねって。雪見にさ」

 細い煙が上がっている。窓に吸われるように消えていく。

「ん……どこ行く?」

 瞬きが重たくなる。目尻の皺が深くなって、眉が緩むのをぼんやりと見ていた。乾いた唇が煙草に寄せられる。

「ふぉっはいろー?」

 不明瞭に発された音に思わず噴き出せば、吐き出された煙も笑いの形をしていた。日本の一番端っこまで雪を楽しみに行くのもいいかもしれない。

「いいね」

 呟いた声は掠れていた。久しく見ていない雪景色はどこまでも真白く心の澱まで吸ってくれそうだ。

「っくしゅ」

 大野がくしゃみをしたので目が冴えた。気付けば室温が随分下がっている。手元のリモコンでエアコンを付け直し、脱ぎ捨てられたパーカーを拾ってやった。

「そんな格好してるから」
「さっきまで暑かったんだもん」

 下着だけで夜風に当たっていた体は冷えてしまっていた。酒井と違って鍛えられた筋肉質な体は熱を灯しやすく、行為の後に寄り添って眠ると熱いくらいだ。気持ちよく運動をしたスポーツマンみたいだと思う。熱のこもった肌は湿ったベッドの中にいてもどこか健康的だ。
 煙草を消して窓が閉められる。逃がされていた煙の匂いがふわりと戻ってきた。一緒に大野も隣に帰ってくる。なんとなく手を伸ばして触れた肌が冷えていたので、毛布を跳ね上げて大野にかけてやった。溜まっていたぬくもりが逃げていってしまう。それでも冷えた体を温めるように毛布の中に引っ張り込んだ。

「あったけ」

 大野は染み入るような声を出して、湯たんぽ代わりに酒井を抱き込んだ。冷え切った服の生地が熱を奪っていく。

「ちょっと」

 文句を言うと胸元に埋まった鼻先に煙草と夜の匂いが入り込んできた。首筋に触れた大野の手はそれでも温かかった。

「北海道、雪が止んでからかなあ」
「それじゃ意味ないじゃん」

 雪見がしたいと言った口があっさり主張を変えるので笑ってしまう。くふくふと笑った声が緩くなっていて、暖房が急速で風を送る音が聞こえてきた。大野も暖かさに負けて眠たくなってきたらしい。抱き寄せられた胸がゆったりと上下するのが伝わってくる。
 この街に雪が降ったら、きっと一番に今夜を思い出すだろう。抱き込んだまま眠ってしまった腕から苦労して抜け出して、子供みたいな寝顔を見た。
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