蠱毒な少年 -闇に咲く白い花-

こーいち

文字の大きさ
4 / 47
其の壱 苧環勝のケース

日常、時々ストーカー

しおりを挟む
 明け方。

 空が薄く白み、徐々に目覚めゆく街中を、一人の男が駆け抜ける。

 人にぶつかりそうになっても、車にひかれそうになっても、全くスピードを緩めず何かに取り憑かれたように走る男。乱れた服装とその表情からは、激しい焦燥しょうそうが伺える。

 男は適当な路地裏へ駆け込むと、壁に背中を預け地面に腰を下ろした。額の汗を拭い、息を整えながら頭を抱える男。と、そのすぐ目の前に。

 真っ白な髪の少年が、まるでようにして現れた。

 絶叫する男。

 少年は小さな手で男の頭を掴む。男は必死に抵抗するが、少年の腕はがんとして動かない。男は大声で何かを喚き散らすも、少年はまるで聞こえていないかのように答えず、



 ついには男の頭をまるでスイカのように握り潰した。


----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


 午前七時三十分。

 いつものように出社し自身のデスクに腰を下ろす。PCの立ち上がりを待ちながら書類を眺めていると、部下の女子に声をかけられた。


「おはようございます、苧環おだまきさん。コーヒーでも飲まれますか?」

「ああ、ありがとう。じゃあ一杯貰おうかな。」

「ミルクと砂糖はいつもの量にしておきますね」


 返事代わりにひらひらと振ると、部下はすたすたと給湯室へ歩いて行った。何一つ変わらない、いつもの日常だ。

 運ばれてきたコーヒーをすすりつつ、PCでメールの確認をしていると胸ポケットに入れた携帯が鳴った。メッセージが来た音だ。


「係長、職場ですよ~」

「分かってるって。ちょっとマナーモードにするのを忘れてただけだよ」


 茶化してくる部下を尻目に、携帯を操作しマナーモードに設定した後、メッセージを確認する。

   その内容に、思わず顔をしかめた。


「またか...」


 周りに聞こえないように、一人ごちる。その内容は、俺に対する罵詈雑言ばりぞうごんの数々だった。ほんの一瞬目にしただけでも、気分が悪くなる程だ。


 変わりない日常に浮かび上がる一点の歪み。俺はこの二~三ヶ月、ストーカーの被害に悩まされていた。


 ストーカーと一口に言っても、何か実害を受けたというわけではなく、今回のようにメールやメッセージアプリで罵詈雑言をまくし立てられるようなものだ。何度ブロックや通報をしても、次々にアカウントを入れ替えて追撃してくるので流石に参っていた。

 俺は仕事に集中するため、携帯の電源を切りカバンに突っ込んだ。





 客先からのメールに返信し、ふと時計を見ると二十時を回っていた。


「もうこんな時間か。そろそろ帰るかな」


 デスクの書類を整理し帰り支度をしていると、別の部署の女子が声をかけてきた。


しょうさん、お疲れ様でーす。まだ残ってたんですね」

「ああ、でもそろそろ帰るよ」

「えぇー残念。ね、今度の終末飲みに行きませんか? この間の話の続き、聞かせてくださいよぉ」

「今週末か…。悪い、妻と予定があるんだ。また今度な」

「ぶぅー」

「そんな顔しても駄目だ。それよりお前、胸元開けすぎじゃないか? またお局さんに小言言われるぞ」

「余計なお世話でーす! それに、小言ならもう言われましたよー!」


「じゃあなおさら気を付けなさい」


 とりとめのないやり取りをしながら、ふと携帯を放置していた事を思い出す。電源を入れると、大量のメッセージに埋もれて妻である美心みこから連絡が来ていた。


『帰りに牛乳とバター買ってきてー』

『分かった。○印のやつな』


 返信すると、すぐによろしく、と返って来た。俺はこの時間から向かっても開いているスーパーに当たりを付け、会社を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

三分で読める一話完結型ショートホラー小説

ROOM
ホラー
一話完結型のショートショートです。 短いけれど印象に残るそんな小説を目指します。 毎日投稿して行く予定です。楽しんでもらえると嬉しいです。

7日目のゲスト

うごの筍
ホラー
深夜1時56分。その時刻になると、必ずチャイムが鳴る。 シングルマザーの美咲は、幼い息子とセキュリティ万全のマンションの12階で暮らしていた。そこは母子を守る安全な場所のはずだった。 しかし、その平穏は「見えない訪問者」によって壊される。 モニターには誰も映らない。なのに、通知は毎晩届く。 最初はエントランス。次はエレベーターホール。 無邪気な息子の行動をきっかけに、正体不明の「ゲスト」は厳重なセキュリティをすり抜け、確実に美咲たちの玄関へと距離を詰めてくる。 人間の恨みか、それとも……? 逃げ場のない密室で、徐々に迫りくる恐怖。最後の夜、あなたの家のチャイムが鳴るかもしれない。

処理中です...