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其の壱 苧環勝のケース
あいつ
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買い物袋を片手に自宅の玄関を開けると、パタパタと軽快な足音が近づいてきた。
「おかえりなさい。お勤めご苦労様です! 例のものは?」
「ああ、ただいま。はい、これ」
妻は買い物袋をそそくさと受け取り、にっこりと微笑む。
「今日は何か変わったことはなかったか?」
「特にはなかったけど、どうしたの?」
「いや、それならいいんだ。それより…」
「お腹すいてるでしょ! ご飯もうできてるから、着替えてきてね~」
妻の美心と結婚してから、二年と少し経つ。家事は一通りこなすし、何かと気を効かせてくれる、俺にはもったいないほどの良妻だ。おかげで、結婚生活に不満を感じたことはほとんど無い。
寝室で部屋着に着替えた後、リビングに行くと妻がテーブルに料理を運んでいた。
「今日は和食か。いいね、そういう気分だ」
「でしょ~。そうなんじゃないかと思ったの」
「美心、お前いつの間にエスパーになったんだ?」
「ふふっ、あなたの心の中はお見通しよ」
「怖いことを言わないでくれ」
妻の手料理をつまみながら、またとりとめもない会話をはずませる。彼女がこういう事を言い出す時は、大体何かに影響を受けた時だ。この間は、俺が持っている少年漫画をいつの間にか読んで自分は実は宇宙人だ、などと言っていた。馬鹿みたいな会話だが、こういった日常のやり取りが大事なんだと思う。
食事を終えると、俺はいつものようにベランダへ向かう。
「あー、またタバコ!」
「まあまあ、たまには許してくれよ」
「そう言って毎日吸ってるじゃん!」
「おっと、そうだったか」
おどけてみせると、妻はケラケラと笑いながら片付けに戻った。ベランダに出た俺は、タバコを口に咥えながら携帯を取り出す。
不在着信:62件
未読メッセージ:135件
最早ため息も出てこない。淡々と電話は着信拒否、メッセージは迷惑メールに設定していく。慣れた作業とはいえ、これがもう二ヶ月も続いていると考えると辟易とする。妻には心配させるといけないので、まだこの事を伝えていない。しかし、もし今後被害が拡大していったら、と考えると恐ろしい。
(この程度じゃ、警察も取り合ってくれないだろうしな…どうするか…)
このまま自然に消えてくれればいいが、あいつがそんな玉とも思えない。いつかこの家を特定してくる、そんな予感がする。そうなれば、被害は真っ先に妻の美心に行くだろう。
(それは、それだけは絶対に阻止しなきゃならない)
俺は、"あいつ"との共通の知り合いを頼ることにした。メッセージで連絡を取り事情を説明すると、直ぐに既読がつき二つ返事で協力を約束してくれた。まずはこの週末、彼女に会って対策を練ることにしよう。
携帯に集中していたせいで、咥えていたタバコはほとんど吸えずに灰と化した。もう一本吸おうかと思ったが、結婚した時に家では一日一本と妻に約束しているので、名残惜しいが断念した。前言撤回、結婚生活にも若干の不満はあった。
リビングに戻ると、妻はバラエティ番組を見ながらケラケラと笑っていた。この笑顔を、俺は守っていかなければならない。それが、夫である俺の役目だ。妻に今週末予定が入ったことを伝えると、先約は自分だと口を尖らせてぶーぶー言っていたが、後日埋め合わせをするということで納得してくれた。
「もし浮気だったらぶっとばすよ!!」
「大丈夫、そんなんじゃないから」
浮気の方がまだ可愛いくらいなのだから、先が思いやられる。
「おかえりなさい。お勤めご苦労様です! 例のものは?」
「ああ、ただいま。はい、これ」
妻は買い物袋をそそくさと受け取り、にっこりと微笑む。
「今日は何か変わったことはなかったか?」
「特にはなかったけど、どうしたの?」
「いや、それならいいんだ。それより…」
「お腹すいてるでしょ! ご飯もうできてるから、着替えてきてね~」
妻の美心と結婚してから、二年と少し経つ。家事は一通りこなすし、何かと気を効かせてくれる、俺にはもったいないほどの良妻だ。おかげで、結婚生活に不満を感じたことはほとんど無い。
寝室で部屋着に着替えた後、リビングに行くと妻がテーブルに料理を運んでいた。
「今日は和食か。いいね、そういう気分だ」
「でしょ~。そうなんじゃないかと思ったの」
「美心、お前いつの間にエスパーになったんだ?」
「ふふっ、あなたの心の中はお見通しよ」
「怖いことを言わないでくれ」
妻の手料理をつまみながら、またとりとめもない会話をはずませる。彼女がこういう事を言い出す時は、大体何かに影響を受けた時だ。この間は、俺が持っている少年漫画をいつの間にか読んで自分は実は宇宙人だ、などと言っていた。馬鹿みたいな会話だが、こういった日常のやり取りが大事なんだと思う。
食事を終えると、俺はいつものようにベランダへ向かう。
「あー、またタバコ!」
「まあまあ、たまには許してくれよ」
「そう言って毎日吸ってるじゃん!」
「おっと、そうだったか」
おどけてみせると、妻はケラケラと笑いながら片付けに戻った。ベランダに出た俺は、タバコを口に咥えながら携帯を取り出す。
不在着信:62件
未読メッセージ:135件
最早ため息も出てこない。淡々と電話は着信拒否、メッセージは迷惑メールに設定していく。慣れた作業とはいえ、これがもう二ヶ月も続いていると考えると辟易とする。妻には心配させるといけないので、まだこの事を伝えていない。しかし、もし今後被害が拡大していったら、と考えると恐ろしい。
(この程度じゃ、警察も取り合ってくれないだろうしな…どうするか…)
このまま自然に消えてくれればいいが、あいつがそんな玉とも思えない。いつかこの家を特定してくる、そんな予感がする。そうなれば、被害は真っ先に妻の美心に行くだろう。
(それは、それだけは絶対に阻止しなきゃならない)
俺は、"あいつ"との共通の知り合いを頼ることにした。メッセージで連絡を取り事情を説明すると、直ぐに既読がつき二つ返事で協力を約束してくれた。まずはこの週末、彼女に会って対策を練ることにしよう。
携帯に集中していたせいで、咥えていたタバコはほとんど吸えずに灰と化した。もう一本吸おうかと思ったが、結婚した時に家では一日一本と妻に約束しているので、名残惜しいが断念した。前言撤回、結婚生活にも若干の不満はあった。
リビングに戻ると、妻はバラエティ番組を見ながらケラケラと笑っていた。この笑顔を、俺は守っていかなければならない。それが、夫である俺の役目だ。妻に今週末予定が入ったことを伝えると、先約は自分だと口を尖らせてぶーぶー言っていたが、後日埋め合わせをするということで納得してくれた。
「もし浮気だったらぶっとばすよ!!」
「大丈夫、そんなんじゃないから」
浮気の方がまだ可愛いくらいなのだから、先が思いやられる。
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