蠱毒な少年 -闇に咲く白い花-

こーいち

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其の壱 苧環勝のケース

真相

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 夫のしょうは隣町の路地裏で遺体となって発見された。

 頭部に激しい損傷があること、抵抗した跡があったことから殺人事件として捜査していると、我が家に訪問してきた警察の方が言っていた。驚きを隠せずにいる私への追悼ついとうの礼もそこそこに、事件当時の事情聴取を受けた。



 私は、警察の方に勝が死んだ前の晩の事を話した。その日、夫は帰ってくるなり、と。それ以上の事は自分にも分からない、と。警察の方は荒れた家内の様子とマンションの監視カメラの映像から、それが真実だと受け取ってくれたようだった。


「奥さん、さぞお辛いだろう。お気を確かに。旦那さんを殺害した犯人は、我々が必ず捕まえます!!」


 そんな、ある種お決まりな言葉を聞いてからはや三日が経っていた。勝の葬儀も終え、漸く一息つく時間が出来た。私は、一番にこう思った。


(まさか…)


(まさか、本当に殺してくれるなんて…)


 勝を殺害した犯人は未だ捕まっていない。いや、捕まるはずはない。

 勝を殺すようにに願ったのは、他でもないなのだから___。





 勝は、私にとってあまり良い主人ではなかった。

 彼は昔ながらの考えの持ち主で"女は働かずに家を守るものだ"と言い、結婚すると専業主婦をなかば強制させられた。私は結婚しても働きたいと何度も言ったのだが、勝はそれを聞き入れてはくれなかった。

 一緒に暮らし始めてすぐその理由が分かった。勝は家事というものが全く出来ず、またしようともしない性格だった。ゆえに、私に専業主婦を強制させた。当の本人はというと、好き勝手に働いて休日はまた好き勝手に遊んでいた。結婚したらタバコもやめてくれと言っていたのだが、結局やめてくれなかった。

 それだけなら、まだよかった。働いた経験のある私は社会人の辛さというものも知っているし、生活費は全て勝頼みだったのであまり文句も言えなかった。


 私の琴線に触れたのは、勝がだった事だ。

 結婚する前からその気はあったが、結婚した後もその性格が収まることはなかった。金曜の夜はほぼ毎週飲んだくれて帰ってくると、"今日は後輩の○○ちゃんと飲みに行った~"などとのたまう。それに私が怒っても、暖簾のれんに腕押し。次の日にはケロッとしている。

 そんな勝に嫌気がさした私は、とうとう働いていた時の貯金を崩して探偵に調査を依頼した。依頼内容は勝の身辺調査。期間は一ヶ月。それは、半分賭けでもあった。もしその間に何もなければ、私は勝と夫婦の関係を続けていこうと、そう思っていた。

 しかし、そんな私のあわい期待はわずか二週間で崩れ去る事となる。




 調査を依頼した探偵から"中間報告をしたい"という連絡があり、私はの事務所へ向かった。


「結論から言います。旦那さん、女性と会っていましたよ」

「え…!?」


 その一言で受けた衝撃は甚大じんだいなものだった。探偵の方もそれを察したのか、少し間を置いて話し始めた。



「心中お察しします。話を続けても?」

「…はい」

「依頼を受けた次の週の土曜日と昨日、旦那さんはで、2会っていました。あまり鮮明ではありませんが、こちらがその時の写真です。心当たりは?」


 探偵の方が持ち出してきた写真には、確かに勝と見知らぬ女性が写っていた。しかも、依頼をした一週間後の土曜は、元々私と出かける約束をしていた日だ。それを破ってまで、別の女と会っていたとは。胸の奥から、どろどろとした熱いものがこみ上げてくるのを感じた。


「いえ…どちらも存じ上げません」

「左様ですか。話の内容までは聞き取ることが出来ませんでしたが、どちらの女性とも…」


 それから先の話は殆ど耳に入ってこなかった。探偵の方には引き続き調査を依頼すると、足早にその場を去った。

 家に帰ると勝が何か話した気なことを言っていたが、それを聞く気には到底なれなかった。顔も見たくなかった。すぐさま寝室に駆け込み布団を頭までかぶると、私はさめざめと泣いた。


 次の日、勝は私の様子など意にも介さず仕事に向かった。その行動も信じがたいものだったが、勝に何かを言う気力もせていた。

 夕方頃になって漸くベッドから這いずり出しリビングに行くと、棚の上に飾ってある額縁に入った写真が目にとまった。結婚旅行に行った際に撮った勝とのツーショット写真だ。幸せそうな表情を浮かべる私と目が合う。



 私の理性はそこで限界を超えた。


「うわあああああああああああああああああ!!!!」


 私は目についたものを片っ端から投げ飛ばし、踏みつけ、引きちぎり、力尽きるまで暴力の限りを尽くした。気がついた頃には、部屋の中はまるで台風が通過した後のようにぐちゃぐちゃになっていた。どうして、どうしてこうなってしまったんだろう。


「うっ、グスッ、ううううううううううううううううう...」


 私はリビングの真ん中に座り込んで号泣した。勝が帰って来てこの部屋を見たら、何と言うだろうか。驚くだろうか。心配するだろうか。激怒するだろうか。どんな反応でも、それで私と向き合ってくれたらいい。そう思った。


 日が暮れた頃帰ってきた勝は、私を見つけると直ぐに駆け寄って心配した。それは良かった。しかし、その後私を寝室に連れて行くとすぐさま何処かへ出かけていった。

 私はあまりのことに呆然とした。こんな状態の私を放っておいて行く場所が、他にあるのだろうか。一度飲み込んだどろどろとした熱いものが、またふつふつと湧き出してくる。


 あいつのせいだ。


 私がこんな風になってしまったのは、


 全部全部全部あいつのせいだ。


 呪ってやる。
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