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其の壱 苧環勝のケース
人を呪わば穴二つ
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私はパソコンを立ち上げると、検索履歴を追っていった。一時期都市伝説にハマって色々と検索していた時、誤って踏んでしまったページを探す。静まり返った部屋にカチ、カチとマウスを操作する音だけが響く。
(………見つけた!)
そのページには、様々な人を呪う方法がまとめられていた。その中で、今手元にあるもので出来るものを探す。
(これは材料が足りない、これは時間がかかりすぎる、これは、………これは?)
私の目に留まったのは、"血の呪法"という儀式だ。必要なものは、ろうそくと呪いたい相手が写っている写真と...私の血。これならば今すぐにでも出来る。その手順を何度も何度も確認しながら、頭の中でイメージを膨らませた。
夜も更け深夜零時を回った頃、私はその儀式を始めた。まず手元にろうそくとマッチを準備し、部屋を真っ暗にする。すぐさまマッチを擦りろうそくに火を灯す。暗闇にろうそくの頼りない灯りが揺らめく。
次にろうそくを地面に置き、その手前に勝が映った写真を、そして写真の前に私が座る。ろうそくと写真と私が一直線になるような形になった。
その後、自分の指先にカミソリで軽く傷を付ける。すっと切れた皮膚からはじわじわと血が滲んできた。その血の一滴を写真に落とす。これで、儀式の準備が出来た。
そのまま目を閉じ、呪文を唱える。
「我が血を持って苧環勝に災難を。全ての力を注ぎ込んだ憎しみを形に、今こそ形に」
両手で血をこぼさぬよう写真を持ち上げ、ろうそくの上にかざす。写真は瞬く間に灰になっていく。同時に、私の血はふつふつと沸き立って蒸発していく。錆びた鉄のような匂いが鼻を突く。この間も、先程と同じ呪文を唱え続ける。
「我が血を持って苧環勝に災難を。全ての力を注ぎ込んだ憎しみを形に、今こそ形に。我が血を持って苧環勝に災難を。全ての力を注ぎ込んだ憎しみを形に、今こそ形に。我が血を持って苧環勝に災難を。全ての力を注ぎ込んだ憎しみを形に、今こそ形に」
そして、写真は完全に燃え尽き灰と化した。次が最後の工程だ。
「今こそ形に」
そう唱えると、私はろうそくの火に息を吹きかけた。室内を暗闇と静寂が支配する。ろうそくを地面に置くと、深いため息をついた。
儀式を終えても、どうにも私の心は晴れなかった。この儀式にどれだけの意味があったのか。どうせ、明日になったらまた勝の間の抜けた顔を見ることになるだろう。もう、疲れた。抱えきれない虚しさを抱えた私は、ただただうなだれていた。
すると突然、消えていたろうそくがボオッと激しく燃え盛った。
「ひっ!!」
短い悲鳴が口から漏れた。ろうそくは暫く燃え盛った後、その炎を自ら消した。それは、闇からの来訪者が現れた合図だった。
いつの間にか、私の目の前には、暗闇に白く輝く少年が立っていた。
◇
そして私は、その少年に勝への恨みのたけをぶちまけ、少年は私の想いを汲み勝は亡き者となった。これが、今回の事件の真相だ。このことは私以外知る由もない。
これは後から聞いた話しだが、勝は少年に殺された当日も、女性とトラブルを起こして警察の厄介になっていたそうだ。最早怒りを通り越して呆れ果てた。やはり勝は死んで当然の人間だったと思う。
しかしこれで、私は晴れて自由の身になった。今はそれを喜ぶとしよう。そう考えていると、背後から何かの気配を感じた。
振り返ると、音もなくあの真っ白な髪をした少年が現れていた。
「…ありがとう。あなたのおかげで、私は自由になれたわ」
少年は何も答えない。勝の事を話した時もそうだった。そもそも言葉が通じているのかすらよく分からない。
「あなたも、あるべきところに還してあげる」
血の呪いには、"呪い還し"というものの記述もあった。呪いが成就した後にこれを行わないと、今度は自分自身に呪いが返って来るのだという。
再びろうそくと今度は私が映った写真を準備し、前回と同様の手順を踏む。少年は、それをただじっと見つめていた。血を写真に落とすと、呪文を唱える。
「我が呪いは果たされた。この血を持ってあるべき処に還られよ」
写真が灰になると、最後にまた「還られよ」と唱えろうそくの火を吹き消す。再び部屋は暗闇に包まれた。少年の姿はもう見えない。儀式が無事に終わったことに安堵しながらも、部屋の電気を付けるために立ち上がろうとした。
ガッ!!!
一瞬何が起きたか分からなかった。顔の辺りに衝撃が走る。私は目を瞠った。掴まれている。私の口が、闇から伸びた白い手に掴まれている!!
「ムグッ!! モガモガ!!!」
声を発する事が出来ない私を尻目に、その手にかかる力はみるみる強さを増していく。苦しい。苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。
(お願い!! もうやめて!! 死んじゃう!!)
私が最後に見たのは、闇に浮かび上がった少年の、歪な笑みだった。
了
(………見つけた!)
そのページには、様々な人を呪う方法がまとめられていた。その中で、今手元にあるもので出来るものを探す。
(これは材料が足りない、これは時間がかかりすぎる、これは、………これは?)
私の目に留まったのは、"血の呪法"という儀式だ。必要なものは、ろうそくと呪いたい相手が写っている写真と...私の血。これならば今すぐにでも出来る。その手順を何度も何度も確認しながら、頭の中でイメージを膨らませた。
夜も更け深夜零時を回った頃、私はその儀式を始めた。まず手元にろうそくとマッチを準備し、部屋を真っ暗にする。すぐさまマッチを擦りろうそくに火を灯す。暗闇にろうそくの頼りない灯りが揺らめく。
次にろうそくを地面に置き、その手前に勝が映った写真を、そして写真の前に私が座る。ろうそくと写真と私が一直線になるような形になった。
その後、自分の指先にカミソリで軽く傷を付ける。すっと切れた皮膚からはじわじわと血が滲んできた。その血の一滴を写真に落とす。これで、儀式の準備が出来た。
そのまま目を閉じ、呪文を唱える。
「我が血を持って苧環勝に災難を。全ての力を注ぎ込んだ憎しみを形に、今こそ形に」
両手で血をこぼさぬよう写真を持ち上げ、ろうそくの上にかざす。写真は瞬く間に灰になっていく。同時に、私の血はふつふつと沸き立って蒸発していく。錆びた鉄のような匂いが鼻を突く。この間も、先程と同じ呪文を唱え続ける。
「我が血を持って苧環勝に災難を。全ての力を注ぎ込んだ憎しみを形に、今こそ形に。我が血を持って苧環勝に災難を。全ての力を注ぎ込んだ憎しみを形に、今こそ形に。我が血を持って苧環勝に災難を。全ての力を注ぎ込んだ憎しみを形に、今こそ形に」
そして、写真は完全に燃え尽き灰と化した。次が最後の工程だ。
「今こそ形に」
そう唱えると、私はろうそくの火に息を吹きかけた。室内を暗闇と静寂が支配する。ろうそくを地面に置くと、深いため息をついた。
儀式を終えても、どうにも私の心は晴れなかった。この儀式にどれだけの意味があったのか。どうせ、明日になったらまた勝の間の抜けた顔を見ることになるだろう。もう、疲れた。抱えきれない虚しさを抱えた私は、ただただうなだれていた。
すると突然、消えていたろうそくがボオッと激しく燃え盛った。
「ひっ!!」
短い悲鳴が口から漏れた。ろうそくは暫く燃え盛った後、その炎を自ら消した。それは、闇からの来訪者が現れた合図だった。
いつの間にか、私の目の前には、暗闇に白く輝く少年が立っていた。
◇
そして私は、その少年に勝への恨みのたけをぶちまけ、少年は私の想いを汲み勝は亡き者となった。これが、今回の事件の真相だ。このことは私以外知る由もない。
これは後から聞いた話しだが、勝は少年に殺された当日も、女性とトラブルを起こして警察の厄介になっていたそうだ。最早怒りを通り越して呆れ果てた。やはり勝は死んで当然の人間だったと思う。
しかしこれで、私は晴れて自由の身になった。今はそれを喜ぶとしよう。そう考えていると、背後から何かの気配を感じた。
振り返ると、音もなくあの真っ白な髪をした少年が現れていた。
「…ありがとう。あなたのおかげで、私は自由になれたわ」
少年は何も答えない。勝の事を話した時もそうだった。そもそも言葉が通じているのかすらよく分からない。
「あなたも、あるべきところに還してあげる」
血の呪いには、"呪い還し"というものの記述もあった。呪いが成就した後にこれを行わないと、今度は自分自身に呪いが返って来るのだという。
再びろうそくと今度は私が映った写真を準備し、前回と同様の手順を踏む。少年は、それをただじっと見つめていた。血を写真に落とすと、呪文を唱える。
「我が呪いは果たされた。この血を持ってあるべき処に還られよ」
写真が灰になると、最後にまた「還られよ」と唱えろうそくの火を吹き消す。再び部屋は暗闇に包まれた。少年の姿はもう見えない。儀式が無事に終わったことに安堵しながらも、部屋の電気を付けるために立ち上がろうとした。
ガッ!!!
一瞬何が起きたか分からなかった。顔の辺りに衝撃が走る。私は目を瞠った。掴まれている。私の口が、闇から伸びた白い手に掴まれている!!
「ムグッ!! モガモガ!!!」
声を発する事が出来ない私を尻目に、その手にかかる力はみるみる強さを増していく。苦しい。苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。
(お願い!! もうやめて!! 死んじゃう!!)
私が最後に見たのは、闇に浮かび上がった少年の、歪な笑みだった。
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