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其の弐 桃日絆希と篠懸才児のケース
わたしの依頼
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それは、昨晩、私が想代香のノートを見返していた時だった。最後のページに、ウェブのURLのようなものが書かれているのを見つけた。前に見たときは、確実になかったものだ。
パソコンを立ち上げてそのURLを打ち込むと、いかがわしい都市伝説がまとめてあるサイトに飛んだ。そして、そこで私は"蠱毒な少年"の話を知った。
私は、それを呼び声だと思った。この"蠱毒な少年"は、私を呼んでいる。自分は近々お前の近くに現れる。だから、お前も来い。そういうメッセージだと受け取った。
そして、奴は宣言通り現れた___!
「あなたが……"蠱毒な少年"!!」
私が立ち上がってそう叫ぶと、真っ白い髪の少年はにたり、と口角を歪めた。なにがおかしいんだ。よくも、よくも想代香を…!!
「お嬢ちゃん!!」
「おじいちゃんは逃げて! こいつはわたしがなんとかするから!!」
そう言ったものの、対抗する手段なんて持ち合わせてはいない。目の前の少年は、人間を遥かに超える力を持っている。私のような何の力もない人間にどうにかできる存在ではないことは分かっていた。けれども、立ち向かわない訳にはいかない。想代香の無念を晴らせるのは、私しかいないのだから。
私は、椅子の近くにあらかじめ立てかけてあった長さ五十センチ程の護身用の棒(篠懸さんの事務所のロッカーに入っていた)を手に取り、数メートル先の少年に向かっていった。
「あああああああああああああ!!!」
叫び声を上げながら、持てる力の全てを使って少年に棒を振り下ろす。
バチイイィィン!!!
激しい音を立て、振り下ろした棒が少年にぶつかる。いや、ぶつかっていない。少年は棒を片手で軽々と受け止めていた。私は少年の手を振り切ろうとするが、掴まれた棒は万力で挟まれたかのようにビクともしない。
「なっ、何で!!」
少年はその歪んだ笑みを一層強くすると、空いたもう片方の手を私の方へ伸ばしてくる。それをかわそうとするが……まるで床に縫い付けられたかの様に、その場から動けない。脚だけじゃない。手も、胴も、顔も、まぶたすら動かす事が出来ない。私は、まんまと少年の懐に呼び寄せられたのだ。
「あ...ああ...」
私の口からは、言葉にならない音が漏れるのみだった。少年の手はもう目の前まで迫ってきている。結局、私は想代香の敵を前に何も出来なかった。
想代香...内香さん...篠懸さん...お父さん、お母さん...。ごめんなさい。私は...私は...。
「やめんか!!!」
突如、凄まじい怒声が部屋中に響き渡った。少年の手が止まる。その瞬間、少しだけ体に自由が戻った。何とか頭だけ動かして声の方を振り返ると、おじいちゃんが杖もつかずにこちらへゆっくりと向かってきていた。
「お前さんの狙いはわしじゃろう。その子は関係ない」
少年はおじいちゃんの方をじっと見つめた。その顔は、もう笑っていない。
「ここでは迷惑になる。わしについて来い」
そう言うと、おじいちゃんは踵を返して事務所のドアの方へと向かった。白い髪の少年も、何も言わずにおじいちゃんの後についていく。
「お嬢ちゃん、この少年が見えるという事は、何か並々ならぬ因縁があるのじゃろう。その歳で、かわいそうに」
おじいちゃんは背中越しで私に語りかける。
「わしは、若い頃散々人に迷惑をかけてきた。そして、その事をずっと後悔して来た。この歳になってやっと、その報いを受けることになったというわけじゃ。わしのことは、気にせずとも良い」
「お、おじいちゃん...」
「じゃが、お嬢ちゃんはまだまだこれからじゃ。一時の感情に支配されてはいかん。わしのようにならないためにも、な」
そうして、おじいちゃんと少年は事務所を出て行った。私の体に自由が戻ると同時に、意識は暗い闇へと落ちていった___。
◇
「それで、篠懸さんに起こしてもらうまでわたしは意識を失っていました」
「そうか………大変な目にあったな。俺の責任だ。すまない」
「そんな! 謝るのはわたしの方です! "蠱毒な少年"の事を分かっていたのに、篠懸さんに相談もしないでひとりで突っ走って……ご迷惑をおかけしました」
「そうだな。そこについては大いに反省してもらおうか」
「はい…すみません」
「だが、悪い事ばかりじゃないだろ」
「え...?」
悪い事ばかりじゃないとは、どういうことだろうか。結果的に色んな人を巻き込んでしまって、おじいちゃんも助けられなかった。篠懸さんは、一体何を言いたいのだろうか。彼は、そこで初めて私に笑みを見せた。
「これで、お前の依頼は達成されたな」
「あっ...」
想代香が死んだ理由を知りたい。私が篠懸さんに持ちかけた依頼は、あの少年の存在を確認したことで確かに叶えられた。
「あの少年をどうにかしたいって依頼は、絶対に受けないぞ」
「それは…わたしも無理です」
顔を見合わせる私と篠懸さん。
「フッ、フフフ...」
「アハッ、アハハハ...」
私達2人は、しばしの間笑いあった。
パソコンを立ち上げてそのURLを打ち込むと、いかがわしい都市伝説がまとめてあるサイトに飛んだ。そして、そこで私は"蠱毒な少年"の話を知った。
私は、それを呼び声だと思った。この"蠱毒な少年"は、私を呼んでいる。自分は近々お前の近くに現れる。だから、お前も来い。そういうメッセージだと受け取った。
そして、奴は宣言通り現れた___!
「あなたが……"蠱毒な少年"!!」
私が立ち上がってそう叫ぶと、真っ白い髪の少年はにたり、と口角を歪めた。なにがおかしいんだ。よくも、よくも想代香を…!!
「お嬢ちゃん!!」
「おじいちゃんは逃げて! こいつはわたしがなんとかするから!!」
そう言ったものの、対抗する手段なんて持ち合わせてはいない。目の前の少年は、人間を遥かに超える力を持っている。私のような何の力もない人間にどうにかできる存在ではないことは分かっていた。けれども、立ち向かわない訳にはいかない。想代香の無念を晴らせるのは、私しかいないのだから。
私は、椅子の近くにあらかじめ立てかけてあった長さ五十センチ程の護身用の棒(篠懸さんの事務所のロッカーに入っていた)を手に取り、数メートル先の少年に向かっていった。
「あああああああああああああ!!!」
叫び声を上げながら、持てる力の全てを使って少年に棒を振り下ろす。
バチイイィィン!!!
激しい音を立て、振り下ろした棒が少年にぶつかる。いや、ぶつかっていない。少年は棒を片手で軽々と受け止めていた。私は少年の手を振り切ろうとするが、掴まれた棒は万力で挟まれたかのようにビクともしない。
「なっ、何で!!」
少年はその歪んだ笑みを一層強くすると、空いたもう片方の手を私の方へ伸ばしてくる。それをかわそうとするが……まるで床に縫い付けられたかの様に、その場から動けない。脚だけじゃない。手も、胴も、顔も、まぶたすら動かす事が出来ない。私は、まんまと少年の懐に呼び寄せられたのだ。
「あ...ああ...」
私の口からは、言葉にならない音が漏れるのみだった。少年の手はもう目の前まで迫ってきている。結局、私は想代香の敵を前に何も出来なかった。
想代香...内香さん...篠懸さん...お父さん、お母さん...。ごめんなさい。私は...私は...。
「やめんか!!!」
突如、凄まじい怒声が部屋中に響き渡った。少年の手が止まる。その瞬間、少しだけ体に自由が戻った。何とか頭だけ動かして声の方を振り返ると、おじいちゃんが杖もつかずにこちらへゆっくりと向かってきていた。
「お前さんの狙いはわしじゃろう。その子は関係ない」
少年はおじいちゃんの方をじっと見つめた。その顔は、もう笑っていない。
「ここでは迷惑になる。わしについて来い」
そう言うと、おじいちゃんは踵を返して事務所のドアの方へと向かった。白い髪の少年も、何も言わずにおじいちゃんの後についていく。
「お嬢ちゃん、この少年が見えるという事は、何か並々ならぬ因縁があるのじゃろう。その歳で、かわいそうに」
おじいちゃんは背中越しで私に語りかける。
「わしは、若い頃散々人に迷惑をかけてきた。そして、その事をずっと後悔して来た。この歳になってやっと、その報いを受けることになったというわけじゃ。わしのことは、気にせずとも良い」
「お、おじいちゃん...」
「じゃが、お嬢ちゃんはまだまだこれからじゃ。一時の感情に支配されてはいかん。わしのようにならないためにも、な」
そうして、おじいちゃんと少年は事務所を出て行った。私の体に自由が戻ると同時に、意識は暗い闇へと落ちていった___。
◇
「それで、篠懸さんに起こしてもらうまでわたしは意識を失っていました」
「そうか………大変な目にあったな。俺の責任だ。すまない」
「そんな! 謝るのはわたしの方です! "蠱毒な少年"の事を分かっていたのに、篠懸さんに相談もしないでひとりで突っ走って……ご迷惑をおかけしました」
「そうだな。そこについては大いに反省してもらおうか」
「はい…すみません」
「だが、悪い事ばかりじゃないだろ」
「え...?」
悪い事ばかりじゃないとは、どういうことだろうか。結果的に色んな人を巻き込んでしまって、おじいちゃんも助けられなかった。篠懸さんは、一体何を言いたいのだろうか。彼は、そこで初めて私に笑みを見せた。
「これで、お前の依頼は達成されたな」
「あっ...」
想代香が死んだ理由を知りたい。私が篠懸さんに持ちかけた依頼は、あの少年の存在を確認したことで確かに叶えられた。
「あの少年をどうにかしたいって依頼は、絶対に受けないぞ」
「それは…わたしも無理です」
顔を見合わせる私と篠懸さん。
「フッ、フフフ...」
「アハッ、アハハハ...」
私達2人は、しばしの間笑いあった。
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