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この町は地図に載っていない。ナビゲーションも絶対に案内しない。もし万が一誤って迷い込んだりしたらそのまま消される。組織の人間が暮らす、人口五千人程の小さな町。見た目は普通。どこにでもある町並み。引退した人間が農業や商業を営み、この町を作っていく。お店では諍いを起こさないのがルールだ。孤児院から鍛錬を経て成人となったらこの町の住人になる。とはいえ、ほとんどが色んなところに派遣されるので、ここはある意味、故郷という存在なのかもしれない。明日から違う町でほぼ知らない奴と同棲かと思うと、アパートの自分の部屋が愛しく感じる。
初めて女友達以外の人間をその部屋に入れる。恋人でも、ましてや好きでもない初対面の男。
っていうか、恋人いたことないのにどうすんの? 恋人ごっこ? どうせフリならこの際、理想の恋人同士を演じてやろうじゃないの!
黒い革張りの二人用ソファと、ヒョウ柄のシルクで揃えたベッド、その間に真っ赤なハート型のローテーブル。赤い壁に赤いカーテン。小物もなるべく赤で揃えた。床はフラッグチェック。ヤマトタケルはぐるりと見回して無表情のままで言った。
「頭が痛くなる部屋だな」
「一晩くらい我慢したら? 二度と来ないんだから」
「そうだな」
「――で? ヤマトタケル。仕事の内容は? まさか本気でアンタの家政婦をするだけ?」
「町田八重子、お前は弱い。お前を危険な目に遭わせるわけがないだろう。このおれが」
右フック、からの、左からアッパーで首を狙って、右からハイキック、半回転で後ろ回し蹴り、全部躱された。背後を取られて首とみぞおちをがっちりと腕でロックされた。コイツ、やっぱり腕も胸板もがっちりしててたくましい。いや、そうじゃない。全然身動き取れない。
「何が不満なんだ。おれじゃダメか?」
トゥンク♡ シチュエーションが羽交い締めなのに、甘い台詞に乙女心が過敏反応を示した。
「な、なによ……! なにがよ……!」
ギリギリと締めあげられる。
「おれのターゲットは、お前だ。町田八重子」
ズドンと衝撃が走った。――いや、撃たれた訳じゃない。ショックのあまり、頭の中で何かが弾けた。
「アタシが、神話ネームに狙われるほど、何をしたっていうの!? 仕事で一度も失敗したことないのに!?」
「そうだ。お前は真面目に仕事をこなしてきた。ちゃんと知っている」
「じゃあなんで!?」
「お前は一生懸命仕事をしすぎた」
「それで? アタシなんかボスの気に触るようなことした?」
「いいや。そんなことはない。ボスは……、まあ褒めていた」
はいー! 末端のことあんま気にしてないやつー!
「まだ恋もしたことないのに!? カレシもできたことないのに!」
「だからそのシチュエーションを準備しているだろう」
「なっ、ハッ? アタシに選択権ないの!? 最初で最後の恋人が、アンタ!? せめてお見合い写真みたいなの用意して候補いくつかあげてよ!」
「そんなものは必要ない」
「いや、いるし! 要る要る!」
「おれじゃ不満なのか?」
頸動脈を押さえられ、じわじわと意識が遠のいていく。
「いや、不満って……」
そりゃ、なんで殺してくる奴と恋なんか……。
言う間もなく、アタシの意識は途切れた。
初めて女友達以外の人間をその部屋に入れる。恋人でも、ましてや好きでもない初対面の男。
っていうか、恋人いたことないのにどうすんの? 恋人ごっこ? どうせフリならこの際、理想の恋人同士を演じてやろうじゃないの!
黒い革張りの二人用ソファと、ヒョウ柄のシルクで揃えたベッド、その間に真っ赤なハート型のローテーブル。赤い壁に赤いカーテン。小物もなるべく赤で揃えた。床はフラッグチェック。ヤマトタケルはぐるりと見回して無表情のままで言った。
「頭が痛くなる部屋だな」
「一晩くらい我慢したら? 二度と来ないんだから」
「そうだな」
「――で? ヤマトタケル。仕事の内容は? まさか本気でアンタの家政婦をするだけ?」
「町田八重子、お前は弱い。お前を危険な目に遭わせるわけがないだろう。このおれが」
右フック、からの、左からアッパーで首を狙って、右からハイキック、半回転で後ろ回し蹴り、全部躱された。背後を取られて首とみぞおちをがっちりと腕でロックされた。コイツ、やっぱり腕も胸板もがっちりしててたくましい。いや、そうじゃない。全然身動き取れない。
「何が不満なんだ。おれじゃダメか?」
トゥンク♡ シチュエーションが羽交い締めなのに、甘い台詞に乙女心が過敏反応を示した。
「な、なによ……! なにがよ……!」
ギリギリと締めあげられる。
「おれのターゲットは、お前だ。町田八重子」
ズドンと衝撃が走った。――いや、撃たれた訳じゃない。ショックのあまり、頭の中で何かが弾けた。
「アタシが、神話ネームに狙われるほど、何をしたっていうの!? 仕事で一度も失敗したことないのに!?」
「そうだ。お前は真面目に仕事をこなしてきた。ちゃんと知っている」
「じゃあなんで!?」
「お前は一生懸命仕事をしすぎた」
「それで? アタシなんかボスの気に触るようなことした?」
「いいや。そんなことはない。ボスは……、まあ褒めていた」
はいー! 末端のことあんま気にしてないやつー!
「まだ恋もしたことないのに!? カレシもできたことないのに!」
「だからそのシチュエーションを準備しているだろう」
「なっ、ハッ? アタシに選択権ないの!? 最初で最後の恋人が、アンタ!? せめてお見合い写真みたいなの用意して候補いくつかあげてよ!」
「そんなものは必要ない」
「いや、いるし! 要る要る!」
「おれじゃ不満なのか?」
頸動脈を押さえられ、じわじわと意識が遠のいていく。
「いや、不満って……」
そりゃ、なんで殺してくる奴と恋なんか……。
言う間もなく、アタシの意識は途切れた。
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