負けヒロインに花束を!

遊馬友仁

文字の大きさ
5 / 57

第1章〜どうぞ幸せになってほしいなんて しおらしい女じゃないわ〜④

しおりを挟む
「とりあえず、ホワイトノワールでも食べる?」

 話しが、まだまだ長くなりそうだったので、これまでほとんど会話を交わすことがなかったクラス委員の女子生徒にヨネダ珈琲の名物でもあるデザートの一品を薦めると、彼女は、黙ったまま、コクリとうなずいた。

 念のために説明しておくと、デニッシュパンにたっぷりのソフトクリームが盛られたこのスイーツのお値段は、おおよそライトノベルの新刊一冊分に相当する。

(さらば、ガ◯ガ文庫の新刊……)

 そう心の中で念じつつ、店員さんに追加注文をオレは、元の自分の席に放置したままにしていた『ナマガミ』のヒロインたち……もとい、携帯ゲーム機のプレイフォーメーションBETAベータとスマホや財布などが入っている通学カバンを取りに行ってから、ふたたび、上坂部葉月かみさかべはづきと対峙する。

「まあ、仲良くしてた転入生に、好きな男子を取られたら、そりゃ、ショックだよね……」

 独り言をつぶやくように、ポツリと言うと、彼女は、また鼻をすすりながら、言葉を漏らした。

「ただ、好きだったワケじゃないもん……ずっと、一緒にいた幼なじみだもん……」

「そうか……」

「どうして……? コナンくんだって、上杉たっちゃんだって、幼なじみを選ぶじゃん? タチバナくん、喫茶店でゲームをしてるってことは、アニメとかマンガとかも好きなんだよね? ねぇ、大成たいせいは、どうして転校生の立夏りっかを選んだのかな? 答えてよ!」

 ホワイトノワールでも食べて落ち着いたら帰ってもらおうと考えていた矢先に、女子生徒は、いきなり核心に迫る話題をブッ込んできた。

 しかし、彼女は、どうやら大きな勘違いをしている――――――。

 繰り返しになるので、再度、詳細を述べることは控えるが、上坂部葉月かみさかべはづきの認識とは正反対に、二十一世紀の青少年向けマンガ・アニメの分野において、幼なじみキャラは、負け組グループの筆頭的立ち位置にあると言っても過言ではない。

 ただ、そのことを、滔々とうとうと語ったところで、相手にドン引きされるだけであることは明白なので、ここは、一般人的見解に寄せて、返答しておく。

「いや、まあ……アニメやマンガと現実は、違うからさ……」

 そんな模範解答的な返答とは別に、オレには考えていることがあった。
 ラブコメ作品において、彼女のような幼なじみキャラだけでなく、ヒロインレースに敗れてしまう、いわゆる負けヒロインには、いくつかの傾向がある。

 ・恋愛感情に素直になれないキャラ
 ・幼なじみのように関係性の変化に乏しいキャラ
 ・オカンや姉のように上から目線で口うるさいキャラ
 ・暴力&暴言キャラ

 こうした(お約束)な要素に加えて、オレが独自に研究した深夜アニメの傾向を加えると、以下のようになる。

 ・青い髪の色のキャラ
 ・担当声優が、石原◯織さんである。
 (声優が顔出し出演する番組で「ずっとフラれる役をやってんの」というご本人の発言があった)
 ・ライバル役の担当声優が、戸◯遥さんである。
 (異星人や異界キャラを演じて、他のヒロインとの争いに勝ち抜き、主人公と結ばれる役は数知れず。最近では、ラブコメとは関係ないアニメ作品『轟け!トロンボーン』でも転校生役を演じて、主人公からソリストの大役を奪うという離れ業をやってのけた ← しかも原作とは異なるアニメのオリジナル展開である)

 まあ、このような現実の恋愛には関係ないメタ・フィクション的な見地はさておくとしても、実際のところ、前半に挙げた4つの事例に関しては、実際の色恋においても、ある程度当てはまるところがあるかも知れない。

 男女問わず、暴力を振るったり、暴言を吐く人物が相手に避けられるのは当然のこととしても、恋愛感情に素直になれず、関係性の変化に乏しく、年上のように上から目線で口うるさい異性となれば、現実の恋愛でも交際相手として避けたくなるのではないだろうか?

 久々知大成くくちたいせい上坂部葉月かみさかべはづきの実際の関係性が、どのようなモノであったのか、彼らと親しい訳ではない(しかも、クラス内では空気的存在である)オレには、知る由もない。

 ただ、学校関係者からも優等生と評価されているであろう上坂部葉月かみさかべはづきが相手に暴力を振るったり、暴言を吐くようなタイプには当てはまらないとしても、彼女の話しぶりから察するに、他の三点については、大いに該当する可能性が高い。

「なあ、ちょっと聞きたいんだけど……やっぱり、付き合いが長くても、相手に好きだって伝えるのは、難しいモンなの?」

 我ながら、デリカシーのない質問をしていると思うが、彼女はうつむきながらも、オレの問いかけに答えた。

「それは……やっぱり、関係性が長いからこそ、今さら言えないってこともあるし……いまの関係を壊したくないってことも……」

 なるほど、これで、3つのうちの2つの条件は、すでに満たしている。だが、失礼ついでに、もう少し、掘り下げてみよう。

「そっか……でも、それだけ、長く関係が続いてるなら、なんでも話せる仲だったんじゃないの?」

「うん……大成たいせいってば、一年のときから委員長を任されてるのに、なかなか提出物とか出さなくて……いつも、私が注意しなきゃいけなかったんだよね……だから、大成には私が付いてなきゃっ……て思ってたんだけど……」

 はい、確定の赤ランプをいただきました。
 女子特有の、この謎の上から目線の発言は、思春期男子から一番避けられてしまうパターンだ。

『もう、ホントに私がいなきゃダメなんだから!』

 なんて思っていたのは、女子の側のみで、実際のところ、男子の側は、くらいにしか感じていなかったのかも知れない。

 傷口にクレイジーソルトを塗り込むようで、本当に申し訳ないが……。

 いまの会話で確信した――――――。

 間違いなく、上坂部葉月かみさかべはづきは、押しも押されもせぬ負けヒロインだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」 「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」 「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」 県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。 頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。 その名も『古羊姉妹』 本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。 ――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。 そして『その日』は突然やってきた。 ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。 助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。 何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった! ――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。 そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ! 意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。 士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。 こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。 が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。 彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。 ※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。 イラスト担当:さんさん

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...