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第2章〜ふられたての女ほど おとしやすいものはないんだってね〜③
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波乱の金曜日と一転して、心穏やかに過ごすことが出来た週末を挟んで、週明けの月曜日のこと。
いつものように登校すると、オレの所属する2年1組の教室には、先週までとは少しだけ異なる風景が広がっていた。
オレたちのクラスは、一学期の終わりまで席替えが行われることなく、名前の五十音順で席順が決まっている。
一番窓際の出席番号が小さい数字の生徒たちの列は、教室後方の三番手から女子の大島睦月、副委員長の上坂部葉月、そして、最後方に委員長の久々知大成という並びになっている。
明るい日差しが射し込む上に、もともと、クラスの中心人物である正副委員長の席が近いこともあって、オレたちのクラスでは、窓際の列に生徒が集まる傾向にあったのだが……。
そのクラス内の人だかりが、明らかに二つに別れているのだ。
具体的には、上坂部の席と久々知の席の間には、見えない壁のようなモノが出来ている。
席が前後していることもあり、大島と上坂部が会話を交わしていること自体は不自然ではないのだが……。
これまでなら、事あるごとに、後方の席の久々知に話しを振り、近くにいる男子たちをも話題に巻き込んでいた上坂部が、誰かに遠慮しているのか、幼なじみに話しを振ったり、彼らの会話に加わろうせず、大島と同じく吹奏楽部に所属している浜小春と熱心に話し込んでいる。
そんな様子を見るともなしに確認し、
(なるほど、上坂部は気持ちを切り替える方向に決めたか……)
と、考える。
金曜日に駅までの帰り道に語ったオレの言葉も、土曜日にカリスマ高校生に送った相談も、どちらも無駄になってしまったようだが、本人の決めたことであるなら仕方がない。
無関心を装いながら、通学カバンを自分の机に置いて教科書類を取り出そうとすると、またも、後ろの席から、小柄な男子生徒が声を掛けてきた。
「ムネリン、ムネリン! 大変だよ!」
「今日はナンだ? まこりんペン」
塚口マコトに、そう返答すると、
「あ~、その呼び方はヤメてって言ってるのに~!」
と、憤慨するように言うが、オレのことを不本意な呼び名で呼ぶことに対するカウンター・パンチであることを伝えておく。
ムネリンというフレーズを使って良いのは、オレが存在感を消すときだけなのだ。
ただ、男性アイドル事務所に所属できそうなくらい可愛らしい顔立ちのクラスメートは、「そんなことより!」と、話題を強引に変更する。
「あの窓際の様子を見てよ! 上坂部さんと久々知くんの間には、明らかに壁が出来てるよネ? ねぇねぇ、ムネリン! 金曜日のカラオケで何があったの? 知ってたら教えてよ」
「別に、特別なことは、ナニもねぇよ。気になるなら、オマエも一緒に来れば良かったじゃないか?」
そう返答すると、ヤツは、苦笑いを浮かべながら、
「いや~、ボクなんかが言っても、みんなの邪魔になるだけだし……」
と、心にもない言い訳をのたまう。
(嘘つけ……修羅場に発展することを見越して、道連れにしようとしたオレを躊躇なく見捨てたくせに……)
というわけで、薄情なクラスメートに対して、上坂部や久々知のプライバシーを情報開示してやる必要性を感じなかったオレは、教科書類を机に仕舞い、カバンを机上から下ろしたあと、心の中で、
(\ムッネリ~ン/)
と、つぶやいて教室内ステルスモードに入る。
そうして、始業のチャイムが鳴るまで、平穏なひと時を過ごそうと考えていたのだが……。
五分も経たずに、
「ムネリン、ムネリン! 起きなよ!」
と、オレの背中をさするクラスメートが居た。
「なんだよ、塚口。ヒトがささやかな平穏の時を過ごしてるのに……」
貴重な睡眠時間を奪われたことに抗議の声を上げながら、塚口マコトの顔を睨みつけると、相手は振り向いたオレの背後を指さしながら、状況を説明する。
「上坂部さんが、ナニか用があるみたいだよ」
塚口の言葉を受けて、再度、態勢を教室の前方に向けると、副委員長の上坂部葉月が、少し困った表情をしながら立っていた。
「ねぇ、立花くん! ちょっと、私のお願いを聞いてくれない?」
上坂部は、そう言いながら、顔の前で両手を合わせる。
(これ以上、ナニに関わらなきゃいけないんだ……)
そんな感情が表情に出てしまったのか、相変わらず申し訳なさそうな顔色の上坂部に代わって、いつの間にか、オレの席のそばに来ていた大島睦月が副委員長の言葉を代弁する。
「今週の土曜日に、生徒会のメンバーと有志で、ひばりヶ丘学院の演劇部の劇を観に行くことになっているそうなんだけど……ウチの学年からは、葉月と久々知が行くことになってたんだって。だけど、久々知が急に行けなくなったみたいで……立花、アナタ、久々知の代わりに演劇観賞に行ってみない?」
大島の言葉に、上坂部は力強くウンウンと、うなずいている。
「いや、ナンでオレが……!?」
そう反論しようとするが、なぜか副委員長の肩入れしている大島は、オレの耳元に形の良い顔を寄せ、低い声でささやく。
「アナタ、いまの状況を把握してるんでしょ?」
「いや、だからって、オレじゃなくても、例えば塚口とか……」
と言いながら、後方の席を振り返ると、出席番号がオレのひとつ後のクラスメートは、先週と同じく、いつの間にか姿を消していた。
(チッ……あの野郎、また逃げやがった)
北条時行と同じくらいの逃げ上手の若殿ぶりを見せたクラスメートに毒づきながら、オレは、自分の席の前に立っている女子二名に返答する。
「わかった……とりあえず、話しを聞いてから決めさせてくれ」
なんとかそう答えたオレは、
(また、今週も厄介事に巻き込まれるのか……)
と、内心でため息をつく。
ただ、そんな心配など些細なモノに感じるくらい、騒がしい未来が今週のオレには待っていた。
いつものように登校すると、オレの所属する2年1組の教室には、先週までとは少しだけ異なる風景が広がっていた。
オレたちのクラスは、一学期の終わりまで席替えが行われることなく、名前の五十音順で席順が決まっている。
一番窓際の出席番号が小さい数字の生徒たちの列は、教室後方の三番手から女子の大島睦月、副委員長の上坂部葉月、そして、最後方に委員長の久々知大成という並びになっている。
明るい日差しが射し込む上に、もともと、クラスの中心人物である正副委員長の席が近いこともあって、オレたちのクラスでは、窓際の列に生徒が集まる傾向にあったのだが……。
そのクラス内の人だかりが、明らかに二つに別れているのだ。
具体的には、上坂部の席と久々知の席の間には、見えない壁のようなモノが出来ている。
席が前後していることもあり、大島と上坂部が会話を交わしていること自体は不自然ではないのだが……。
これまでなら、事あるごとに、後方の席の久々知に話しを振り、近くにいる男子たちをも話題に巻き込んでいた上坂部が、誰かに遠慮しているのか、幼なじみに話しを振ったり、彼らの会話に加わろうせず、大島と同じく吹奏楽部に所属している浜小春と熱心に話し込んでいる。
そんな様子を見るともなしに確認し、
(なるほど、上坂部は気持ちを切り替える方向に決めたか……)
と、考える。
金曜日に駅までの帰り道に語ったオレの言葉も、土曜日にカリスマ高校生に送った相談も、どちらも無駄になってしまったようだが、本人の決めたことであるなら仕方がない。
無関心を装いながら、通学カバンを自分の机に置いて教科書類を取り出そうとすると、またも、後ろの席から、小柄な男子生徒が声を掛けてきた。
「ムネリン、ムネリン! 大変だよ!」
「今日はナンだ? まこりんペン」
塚口マコトに、そう返答すると、
「あ~、その呼び方はヤメてって言ってるのに~!」
と、憤慨するように言うが、オレのことを不本意な呼び名で呼ぶことに対するカウンター・パンチであることを伝えておく。
ムネリンというフレーズを使って良いのは、オレが存在感を消すときだけなのだ。
ただ、男性アイドル事務所に所属できそうなくらい可愛らしい顔立ちのクラスメートは、「そんなことより!」と、話題を強引に変更する。
「あの窓際の様子を見てよ! 上坂部さんと久々知くんの間には、明らかに壁が出来てるよネ? ねぇねぇ、ムネリン! 金曜日のカラオケで何があったの? 知ってたら教えてよ」
「別に、特別なことは、ナニもねぇよ。気になるなら、オマエも一緒に来れば良かったじゃないか?」
そう返答すると、ヤツは、苦笑いを浮かべながら、
「いや~、ボクなんかが言っても、みんなの邪魔になるだけだし……」
と、心にもない言い訳をのたまう。
(嘘つけ……修羅場に発展することを見越して、道連れにしようとしたオレを躊躇なく見捨てたくせに……)
というわけで、薄情なクラスメートに対して、上坂部や久々知のプライバシーを情報開示してやる必要性を感じなかったオレは、教科書類を机に仕舞い、カバンを机上から下ろしたあと、心の中で、
(\ムッネリ~ン/)
と、つぶやいて教室内ステルスモードに入る。
そうして、始業のチャイムが鳴るまで、平穏なひと時を過ごそうと考えていたのだが……。
五分も経たずに、
「ムネリン、ムネリン! 起きなよ!」
と、オレの背中をさするクラスメートが居た。
「なんだよ、塚口。ヒトがささやかな平穏の時を過ごしてるのに……」
貴重な睡眠時間を奪われたことに抗議の声を上げながら、塚口マコトの顔を睨みつけると、相手は振り向いたオレの背後を指さしながら、状況を説明する。
「上坂部さんが、ナニか用があるみたいだよ」
塚口の言葉を受けて、再度、態勢を教室の前方に向けると、副委員長の上坂部葉月が、少し困った表情をしながら立っていた。
「ねぇ、立花くん! ちょっと、私のお願いを聞いてくれない?」
上坂部は、そう言いながら、顔の前で両手を合わせる。
(これ以上、ナニに関わらなきゃいけないんだ……)
そんな感情が表情に出てしまったのか、相変わらず申し訳なさそうな顔色の上坂部に代わって、いつの間にか、オレの席のそばに来ていた大島睦月が副委員長の言葉を代弁する。
「今週の土曜日に、生徒会のメンバーと有志で、ひばりヶ丘学院の演劇部の劇を観に行くことになっているそうなんだけど……ウチの学年からは、葉月と久々知が行くことになってたんだって。だけど、久々知が急に行けなくなったみたいで……立花、アナタ、久々知の代わりに演劇観賞に行ってみない?」
大島の言葉に、上坂部は力強くウンウンと、うなずいている。
「いや、ナンでオレが……!?」
そう反論しようとするが、なぜか副委員長の肩入れしている大島は、オレの耳元に形の良い顔を寄せ、低い声でささやく。
「アナタ、いまの状況を把握してるんでしょ?」
「いや、だからって、オレじゃなくても、例えば塚口とか……」
と言いながら、後方の席を振り返ると、出席番号がオレのひとつ後のクラスメートは、先週と同じく、いつの間にか姿を消していた。
(チッ……あの野郎、また逃げやがった)
北条時行と同じくらいの逃げ上手の若殿ぶりを見せたクラスメートに毒づきながら、オレは、自分の席の前に立っている女子二名に返答する。
「わかった……とりあえず、話しを聞いてから決めさせてくれ」
なんとかそう答えたオレは、
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