負けヒロインに花束を!

遊馬友仁

文字の大きさ
48 / 57

第4章〜こっち向いてほしいけれど あきらめることも私なりのファイトでもある〜⑤

しおりを挟む
「えっ! オレと? えぇ!?」

(「私と付き合ってくれませんか!?」 たしかに、いま、浦風うらかぜさんは、そう言ったよな……?)
 
 下級生の突然の言葉に、「なぜ?」の嵐が、オレの脳内を吹き荒れる。
 そんな困惑するオレの様子を見てとったのか、すぐに、長洲ながす先輩が、浦風うらかぜさんに訂正をうながす。
 
「ちょっ、ちょっと、弥生! それじゃ、意味が変わっちゃうから! タッチーに付き合ってもらいたい場所があるんでしょ?」

「あっ、そうでした! すみません、立花先輩! もらえませんか!?」

 ふたたび、前のめりになりながら話す下級生の圧に押されて、オレは、ぎこちなく首をタテに振る。

「浦風さん、オレに付き合ってもらいたい場所があるってこと? 遠くでなければ、別に構わないけど……」

 そう返答すると、浦風さんは、嬉しそうにオレに告げてきた。

「ありがとうございます! それじゃあ、明日の夕方、午後6時に阪神浜崎はんしんはまがさき駅に来てもらえませんか?」

(また、阪浜はんはまの駅か……)

 そう思いつつも、場所は市内あることから、自宅からもそれほど離れておらず、特に断る理由もないので、

「うん、わかった」
 
と、ふたつ返事で了承する。すると、

「ありがとうございます!」

 再度、お礼の言葉を述べた下級生は、

「それでは、明日は、よろしくお願いします」

と、丁寧にお辞儀をして生徒会室を出て行った。
 クーラーの効かない廊下で、オレたちの話しが終わるまで待ってもらっていたのか、と考えると、浦風さんに申し訳ない気持ちが湧いてくる。そんなことを考えていると、生徒会室に残った長洲先輩が、意味深な表情で微笑みながら、語りかけてきた。

「ありがとう、タッチー。私から頼むのもおかしいんだけど……もう少しだけ、あのコに付き合ってあげてくれないかな? キミのことは、できる限り、私たちでフォローするからさ」
 
(オレのことをフォローって、どういうことだ?)

 先輩の言葉が気になりつつも、クラスメートではない上級生と下級生の二人と話すことで、少し気分が楽になったオレは、浦風さんとの約束を忘れないよう、スマホのカレンダーに予定を記入してから、家に帰ることにした。

 ◆

 翌日の火曜日――――――。

 先週末と同じように、阪神浜崎はんしんはまがさき駅前の公園近くの駐輪場に自転車を置いて、駅の北口に向かうと、

「立花先輩!」

と、オレを呼ぶ声がした。声のした方に視線を向けると、土曜日とは打って変わって、スニーカーに、スラックス、Tシャツに、日除けのやや目深まぶかなキャップというラフな格好の下級生がいた。

「ごめんね、浦風さん。待たせちゃった?」

 オレが声を掛けると、彼女は首をヨコに振り、

「全然です! まだ、約束の時間の前ですから」

と、微かな笑顔で、スマホのディスプレイの時計表示を指差す。彼女の言うように、約束した午後6時には、まだ5分ほど余裕があった。時間までに彼女と会うことができたことに安堵しつつ、オレは、気になっていたことをたずねる。

「今日は、駅前でなにかイベントでもあるの?」

 この駅前公園では、ときおり、街が主催する催しが行われていて、音楽の演奏があったり、屋台が立ち並んだりする。ただ、見渡した限り、今日はそうした催しが開催されているわけではないようだ。

「イベント……ではないんですけど……今日は、立花先輩に一緒に聞いてもらいたい曲があって」

(聞いてもらいたい曲? ライブハウスにでも行くのかな?)

 浦風さんの言葉から、そんな想像をしたのだが、彼女が「こっちです」と案内したのは、商店街の角地かどちにあるライブハウスではなく、駅前からエスカレーターを上がった場所にある、シティホテルや総合文化センターに連なる空中回廊ペデストリアンデッキだった。

「日曜日、偶然この上で、歌っているヒトを見かけて……次の演奏日を聞いたら、『また火曜日の夕方に来る予定だ』って言ってたので……」

 屋外のエスカレーターを上りながら、浦風さんは、そんな風に説明する。彼女の説明を聞きつつ、それが、オレと一緒に曲を聞く理由になるモノなのか……と、考えてながら、デッキに上がると、すぐに、お目当てのは見つかったようだ。

「ハルさん!」

 浦風さんが声を上げると、ハルさんと呼ばれたピンクのデニムチェック柄のミニスカ・ワンピース姿の女性が、

「あっ、来てくれたんだ! ありがとう~」

と言って、前に突き出した両手を振る。それは、ミュージシャンと言うより、アイドルという方がシックリと来る立ち居振る舞いだった。

 の元に駆け寄った浦風さんが、フリフリのアイドル衣装に近寄ると、お相手も笑顔で応対し、

「ホントに来てくれて、嬉しい~」
 
と、下級生と両手でタッチを交わす。女性同士の和気あいあいとした雰囲気に、やや困惑気味のオレが、彼女たちの様子をうかがっていると、

「今日は、学校の先輩にも来てもらいました!」

と、浦風さんが、ハルさんにオレを紹介した。

「浦風さんの1つ上の立花って言います」

 アイドル衣装の女性に、ペコリと頭を下げると、彼女は満面の笑顔で

「立花さん、来てくれてありがとう!」

と、オレの右手を両手で握ったあと、オレの顔に視線を向けて、一瞬だけ「ん?」と怪訝な表情を見せる。

 ただ、さすがは、アイドルの衣装をまとっているためだろうか、すぐに、笑顔に戻って、

「今日は、いつも以上に一生懸命うたうから、楽しんで行ってね!」

と、声を掛けてくる。2・5次元や3次元の方々の握手会などには参加したことがなく、こうした出来事に慣れていないオレは、

「は、はい……」

と、身を固くしながら返答することしかできなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」 「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」 「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」 県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。 頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。 その名も『古羊姉妹』 本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。 ――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。 そして『その日』は突然やってきた。 ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。 助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。 何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった! ――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。 そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ! 意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。 士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。 こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。 が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。 彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。 ※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。 イラスト担当:さんさん

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...