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第2章〜宣伝的人間の研究〜②
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「先輩、小山さんの第一声は、お気に召さなかったんですか?」
僕が声をかけると、ケイコ先輩は、意外そうな表情で応じる。
「私が、いまのパフォーマンスを気に入らなかったって? それは、二宮高校の生徒が……の間違いでしょ?」
小声で僕の問いかけに答えた先輩の言葉で周囲を見渡すと、彼女の言ったとおり、生徒会選挙の第一声を発した小山候補に対して熱い声援を送っているのは、青と黄色のツートンカラーのお揃いの衣装を着ている生徒ばかりだった。
一方で、赤色のスタッフジャンパーのようなモノを羽織っていた四~五名の生徒らしき人たちは、いつのまにか、その上着を脱いで、他の生徒たちと区別がつかなくなっていた。
「彼女を盛り上げているのは、ダンス部の部員たちみたいね」
ケイコ先輩が続けて言った一言に、あわててスマホで二宮高校の生徒会選挙特設ホームページを確認すると、小山真美候補の人物紹介欄には、
《ダンス部 所属》
と記載されていた。
「そっか……同じクラブの部員さん達が総出で盛り上げている、と……」
そうつぶやくと、ミコちゃんが僕の声に反応して、興奮気味に語る。
「それって、心強くないですか? あんな風に盛り上げてくれたら、注目する生徒も増えると思いますし! あとは、校内の有名人に応援してもらったり……ウチの学校で言えば、michiさんとか、他の学校で言えば、市石の白草四葉ちゃんとか!」
前にも説明したかも知れないけど、michiは、僕と同じクラスに所属している女子生徒で『歌い手』として、ネット上で注目を集めている。
また、白草四葉というのは、今年、市内の高校に転入してきた高校生で、《ミンスタグラム》のフォロワー数が一五◯万人を超える同世代のインフルエンサーだ。
そんな例をあげて熱弁する下級生に対して、ケイコ先輩は、「う~ん、それはどうかな~」と苦笑しながら答える。
「あのテイラー・スウィフトが応援したって、大統領選挙に勝てないんだし……いまは、セレブリティな存在が、誰かを応援して選挙結果が変わるような時代じゃないかも」
そう語る先輩に、カメラの録画を停めたトシオが問いかけた。
「じゃあ、ケイコ先輩は、いまはナニが選挙の勝敗を決めると考えてるんですか?」
僕の親友の問いに、上級生女子は、思案顔から何かを待ち望むような顔色に表情を変えて答える。
「それは、いまから、第一声を聞かせてくれる候補者さんが教えてくれるんじゃない?」
先輩の言葉につられて、さっきまで、小山候補とダンス部の皆さんがいた場所に目を向けると、そこには、一人の男子生徒が立っていた。
今回の二宮高校の生徒会長選挙の立候補者は3人で、うち2人は女子生徒だ。ということは、いま、校門前で辻立ちを行い、選挙戦の第一声の準備をしようとしている生徒は、1年生の関智和候補ということになる。
(ケイコ先輩は、この男子生徒のどこに注目しているんだ……?)
そんなことを考えながら、マイクを握った生徒に目を向ける。
ハンディカメラの録画を停止していたトシオが、再び、録画ボタンを押して撮影を開始した。
「入学した当初、こうして生徒会選挙の候補者として、この場所に立てるとは、思っていませんでした。こんなことってあるものなんですね」
関候補の第一声は、こんな風に始まった。
「そして、いま、ここにお集まりの皆さん、ボクのことを知っていてくれていた皆さんも、ボクのことを認識してくれたのは最近のことだと思います。この数カ月間、ネットのチカラを使って、大きな人の輪が広がっています。もうすでに、二宮高校においても、新しい時代が始まっていると思います。関智和は、高校1年。二宮高校の生徒としても、まだ半年足らずです。しかし、世界に目を向ければ、各国で若いリーダーが誕生しています」
さっきの小山候補とは違って、制服姿の帰宅部生と思われる生徒たちも、足を止めて、1年生男子の声に耳を傾け始めた。
「さらに、さかのぼれば、みなさんが知っているフランスのナポレオン。彼が皇帝になったのは、30代という若さでした。そのことを考えると、16歳という年齢が決して若すぎるということはありません。みんなで時代を動かせるチャンスが来ています。より良い生徒会、より良い二宮高校のために、まずは、私たちが動いて行きましょう! これからの19日間、どうぞ、関智和をよろしくお願いします!」
関候補が第一声を語り終えると、制服姿の生徒からも、パラパラと拍手が起こった。
続けて、いつの間にかあらわれた、彼の周りにいた数名が、大きな幕を掲げた。
そこには、関候補のSNSアカウントのモノと思われるQRコードとともに、こんな文字が並んでいた。
#関智和
#二宮高校を動かそう
#ナイス投票
#二宮高校生徒会選挙
演説終了後の盛り上がり自体は、小山候補の方が上回っているように感じられたが、足を止め、スマホでQRコードの情報を取得している生徒の数は、演説を終えたばかりの関候補の方が、はるかに多い。
また、関候補の手伝いをしている生徒と思われる人たちは、小さな紙切れを配っている。
そのうちの一人から、ミコちゃんがもらってきた紙切れを確認すると、横断幕と同じ模様のQRコードが印刷されていた。バーコードリーダーのアプリでコードを読み取ると、予想したとおり関候補の《ミンスタグラム》のアカウントが表示される。
「関くんでしたっけ? いま演説をしていた候補者の人って、『ネットのチカラを使って、大きな人の輪が広がっています』って言ってましたよね? SNSのこのアカウントとナニか関係あるんでしょうか?」
ミコちゃんが、ケイコ先輩に問いかけると、他校の事情にも詳しい上級生は即答する。
「二宮高校の生徒から聞いたんだけどね……彼は、部活で揉め事を起こして、夏休み前に退部しちゃったらしいんだけど……その境遇を夏休み中に自分のアカウントで訴えて、校内では、ちょっとした有名人になっているそうなの。個人で行う情報発信が、どんな風に生徒会選挙に影響するのか、私は、そのことに注目してるの」
小山候補のパフォーマンスを目にしたとき、ケイコ先輩は、彼女の広報活動の仕方を取材しようとしたのだろう、と予想していたんだけど……。
どうやら、僕の最初の予想は、大きくハズレてしまったようだ。
僕が声をかけると、ケイコ先輩は、意外そうな表情で応じる。
「私が、いまのパフォーマンスを気に入らなかったって? それは、二宮高校の生徒が……の間違いでしょ?」
小声で僕の問いかけに答えた先輩の言葉で周囲を見渡すと、彼女の言ったとおり、生徒会選挙の第一声を発した小山候補に対して熱い声援を送っているのは、青と黄色のツートンカラーのお揃いの衣装を着ている生徒ばかりだった。
一方で、赤色のスタッフジャンパーのようなモノを羽織っていた四~五名の生徒らしき人たちは、いつのまにか、その上着を脱いで、他の生徒たちと区別がつかなくなっていた。
「彼女を盛り上げているのは、ダンス部の部員たちみたいね」
ケイコ先輩が続けて言った一言に、あわててスマホで二宮高校の生徒会選挙特設ホームページを確認すると、小山真美候補の人物紹介欄には、
《ダンス部 所属》
と記載されていた。
「そっか……同じクラブの部員さん達が総出で盛り上げている、と……」
そうつぶやくと、ミコちゃんが僕の声に反応して、興奮気味に語る。
「それって、心強くないですか? あんな風に盛り上げてくれたら、注目する生徒も増えると思いますし! あとは、校内の有名人に応援してもらったり……ウチの学校で言えば、michiさんとか、他の学校で言えば、市石の白草四葉ちゃんとか!」
前にも説明したかも知れないけど、michiは、僕と同じクラスに所属している女子生徒で『歌い手』として、ネット上で注目を集めている。
また、白草四葉というのは、今年、市内の高校に転入してきた高校生で、《ミンスタグラム》のフォロワー数が一五◯万人を超える同世代のインフルエンサーだ。
そんな例をあげて熱弁する下級生に対して、ケイコ先輩は、「う~ん、それはどうかな~」と苦笑しながら答える。
「あのテイラー・スウィフトが応援したって、大統領選挙に勝てないんだし……いまは、セレブリティな存在が、誰かを応援して選挙結果が変わるような時代じゃないかも」
そう語る先輩に、カメラの録画を停めたトシオが問いかけた。
「じゃあ、ケイコ先輩は、いまはナニが選挙の勝敗を決めると考えてるんですか?」
僕の親友の問いに、上級生女子は、思案顔から何かを待ち望むような顔色に表情を変えて答える。
「それは、いまから、第一声を聞かせてくれる候補者さんが教えてくれるんじゃない?」
先輩の言葉につられて、さっきまで、小山候補とダンス部の皆さんがいた場所に目を向けると、そこには、一人の男子生徒が立っていた。
今回の二宮高校の生徒会長選挙の立候補者は3人で、うち2人は女子生徒だ。ということは、いま、校門前で辻立ちを行い、選挙戦の第一声の準備をしようとしている生徒は、1年生の関智和候補ということになる。
(ケイコ先輩は、この男子生徒のどこに注目しているんだ……?)
そんなことを考えながら、マイクを握った生徒に目を向ける。
ハンディカメラの録画を停止していたトシオが、再び、録画ボタンを押して撮影を開始した。
「入学した当初、こうして生徒会選挙の候補者として、この場所に立てるとは、思っていませんでした。こんなことってあるものなんですね」
関候補の第一声は、こんな風に始まった。
「そして、いま、ここにお集まりの皆さん、ボクのことを知っていてくれていた皆さんも、ボクのことを認識してくれたのは最近のことだと思います。この数カ月間、ネットのチカラを使って、大きな人の輪が広がっています。もうすでに、二宮高校においても、新しい時代が始まっていると思います。関智和は、高校1年。二宮高校の生徒としても、まだ半年足らずです。しかし、世界に目を向ければ、各国で若いリーダーが誕生しています」
さっきの小山候補とは違って、制服姿の帰宅部生と思われる生徒たちも、足を止めて、1年生男子の声に耳を傾け始めた。
「さらに、さかのぼれば、みなさんが知っているフランスのナポレオン。彼が皇帝になったのは、30代という若さでした。そのことを考えると、16歳という年齢が決して若すぎるということはありません。みんなで時代を動かせるチャンスが来ています。より良い生徒会、より良い二宮高校のために、まずは、私たちが動いて行きましょう! これからの19日間、どうぞ、関智和をよろしくお願いします!」
関候補が第一声を語り終えると、制服姿の生徒からも、パラパラと拍手が起こった。
続けて、いつの間にかあらわれた、彼の周りにいた数名が、大きな幕を掲げた。
そこには、関候補のSNSアカウントのモノと思われるQRコードとともに、こんな文字が並んでいた。
#関智和
#二宮高校を動かそう
#ナイス投票
#二宮高校生徒会選挙
演説終了後の盛り上がり自体は、小山候補の方が上回っているように感じられたが、足を止め、スマホでQRコードの情報を取得している生徒の数は、演説を終えたばかりの関候補の方が、はるかに多い。
また、関候補の手伝いをしている生徒と思われる人たちは、小さな紙切れを配っている。
そのうちの一人から、ミコちゃんがもらってきた紙切れを確認すると、横断幕と同じ模様のQRコードが印刷されていた。バーコードリーダーのアプリでコードを読み取ると、予想したとおり関候補の《ミンスタグラム》のアカウントが表示される。
「関くんでしたっけ? いま演説をしていた候補者の人って、『ネットのチカラを使って、大きな人の輪が広がっています』って言ってましたよね? SNSのこのアカウントとナニか関係あるんでしょうか?」
ミコちゃんが、ケイコ先輩に問いかけると、他校の事情にも詳しい上級生は即答する。
「二宮高校の生徒から聞いたんだけどね……彼は、部活で揉め事を起こして、夏休み前に退部しちゃったらしいんだけど……その境遇を夏休み中に自分のアカウントで訴えて、校内では、ちょっとした有名人になっているそうなの。個人で行う情報発信が、どんな風に生徒会選挙に影響するのか、私は、そのことに注目してるの」
小山候補のパフォーマンスを目にしたとき、ケイコ先輩は、彼女の広報活動の仕方を取材しようとしたのだろう、と予想していたんだけど……。
どうやら、僕の最初の予想は、大きくハズレてしまったようだ。
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