愛と選挙とビターチョコ

遊馬友仁

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第3章〜動物農場〜⑨

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 スマホの画面上部の通知バーをタップして、メッセージを確認すると、予想していた以上に長文の文面が目に入った。

 ◆  ◆  ◆
 俺、昨日の生徒会選挙では、石塚会長に投票してきた。

 YourTubeの動画で色々見かけて、調べたんだけどそれに対するきちんとした反論がなかったから……

 めっさ迷って、石塚会長に一票いれた感じ。

 なぁ、俺ってバカなのか?
 自分なりに必死に考えたうえで投票したんだよ。部活に所属している奴らは、すぐに帰宅部ををバカにするけど、YourTubeのコメント欄を見てみろよ!
 もうこの世の中で笑われるのは、光石みついしを応援していた方なんだよ。

 SNSを使った戦術がーとか言われてるけど、本当に佐々木たちの言っていることが正しいなら、新聞部もYourTubeなりteXなりで行動してくれよ!
 全部反論してくれよ!
 自分の頭で考えられない馬鹿だと言われるかもしれないけど、もう何もわからないんだよ!
 ◆  ◆  ◆

 クラスメートの塩谷しおやが送ってきた文章は、悲壮感に満ちたモノだった。さらに、混乱のためだろうか、僕たち放送・新聞部の報道姿勢を責めるような内容も含まれている。

 それでも、僕は塩谷が書いた内容に反論したり、自分たちの立場を理解してもらおうと言い繕ったりしようという気持ちにはならなかった。
 それは、前日に取材をした下級生の言葉が、ずっと、胸に刺さっていたからだ。

「これからの紙面で、今回の生徒会選挙の光と影、良かった部分とそうでなかった部分を取り上げてくれませんか? 私は、を真剣に考えたいんです」

 天野さんは、放送室で行った取材インタビューの最後にそう言っていた。
 たしかに、彼女の言うように、次の選挙のことを僕たちは、真剣に考えるべきだ。

 組織票に頼った光石陣営が、SNSでの情報発信を十分に行わなかったこと、デマや誹謗中傷に対する対策を怠っていたことは、事実だ。

 それでも、次の選挙に備えて、自身の当選を目指さない立候補者の存在や、正確性を十分に検証されない情報が瞬く間に拡散したこと、そして、選挙期間中における自分たち放送・新聞部による情報の扱い方……だけでなく、校内メディアの存在意義そのものなど、考えなくてはいけないことは、たくさんある。

 それになにより優先すべきは、有権者である生徒一人一人の声だ。
 そう考えた僕は、すぐに、メッセージアプリの塩谷のアイコンをタップして、無料通話の発信を行った。
 
 おなじみの呼び出し音が数回鳴ると、発信先のクラスメートは、すぐに応答する。

「佐々木、悪かったな……急に長文を送ちまって……」

 意外にも殊勝な言葉で応じたクラスメートに対して、僕は彼の言葉に耳を傾けるために会話を切り出す。

「いや、ありがとう塩谷。昨日、生徒会選挙が終わったあとの光石さんの陣営を取材していて、僕なりに色々と感じていることがあるんだ。その想いを整理して、記事にするために、色んな立場の生徒の意見を聞きたいと思っているんだけど、良ければ、塩谷がいま感じていることを聞かせてくれないか?」

 僕が、そう告げると、塩谷は、「ありがとう、ってナンだよ……」と言いながらも、「まあ、オレの話しで良いなら……」と前置きしてから、自分の想いを語り始めた。

「昨日、投票結果が出たときは、本当に驚いたし、心の底から嬉しかったんだけどな……自分たち帰宅部の人間が推した候補者が、クラブ連盟が組織的に支援していた候補者に大逆転で勝ったんだから。それで、家に帰ってから、この勝利の喜びをSNSで分かち合おうと思ったら、『今回の選挙は不正選挙だ』って主張してるアカウントが、いくつもあったんだよ」

「そうなの?」

 昨日は、天野さんへの取材と、彼女の言葉を考えるのに精一杯で、SNSの反応を確認する余裕が無かった。ただ、そのことはさておき、いまは、クラスメートの声に耳を傾ける。

「あぁ……最初は、負け惜しみで言ってるだけだろうって、相手にする必要もないと思ってたんだけどな……降谷通ふるやとおりが言っていた十条委員会の屋良さんの話しとか全部デマだって……あと、光石さんが、クラブ棟の建て替えを推進しているって言うのも……」

「まあ、たしかに、光石候補がクラブ棟の建て替えに前のめりになっているって言うのは、完全にデマだね。これは、彼女の選挙公約を確認してもらえば、すぐにわかる。このデマを《ティックタック》で拡散した石塚候補を応援している女子のバスケットボール部員が居るけど、もしかしたら、光石陣営から選挙管理委員会に訴えられるかも知れない。それと、塩谷にすれば、今さら言うなって話だろうけど……降谷候補が屋良委員をターゲットにしたのは、去年、僕らの学年の生徒と金銭トラブルを起こして停学措置を食らった時の因縁だろうと言うのが、僕が周辺を取材して得た感触だ」

 僕の返答を聞いた塩谷は、しばし絶句したあと、「そうだったんだ……」と、チカラなく言葉を吐き出した。

「じゃあ、オレが石塚に投票したのは―――」

「いや、選挙で誰に投票しようと、そのことに罪悪感を覚える必要は無いし、今回の選挙戦がどんな風に行われたとしても、その結果を簡単に覆して良い訳じゃない。だけど、次の生徒会選挙に向けて、どんな選挙運動を行えば良いのか、生徒会選挙でSNSをどう活用するべきなのかは、一宮高校の生徒全員で考えるべきだと、僕は思う。だから、放送・新聞部では、週明けから今回の生徒会選挙の良かった点と反省すべき点を紙面で訴えていこうと思うんだ。もう、遅いと思われるかも知れないけど……塩谷、そのために一般生徒代表として協力してくれないか?」

 僕が、自身の想いを告げると、クラスメートは、一瞬、思案するように息を潜めたあと、こう答えた。

「わかった……オレが答えられることなら、何でも聞いてくれ」
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