愛と選挙とビターチョコ

遊馬友仁

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第3章〜動物農場〜⑫

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「いや~、なかなか手厳しい意見が多いわね~」

 頭をかいたあと、上級生女子は肩をすくめて微笑を浮かべる。

「体感として、僕らへの苦言を呈する生徒は三割程度って感じでしたね。あとは、選挙結果に納得がいっていない印象の生徒が三割、残りの四割弱は、最初にインタビューに答えてくれた女子のように、いろいろな情報が飛び交いすぎて、困惑している印象でした」

「なるほど……今日からの一宮高校の紙面は、そのあたりの比率に配慮しながら作って行くべきね」

 放送・新聞部を引退したはずなのに、相変わらず、紙面づくりの方針に対して私見を述べるケイコ先輩に苦笑しつつ、面倒見の良さに感謝しながら、僕はたずねる。

「地球塾でしたっけ? 先輩たちが取材した例の進学塾では、なにかわかりましたか?」

「残念だけど、まだまだ、時間が足りない感じね。週末の取材でわかったのは、生徒会選挙が始まる直前から、塾生でもないのに、降谷通ふるやとおりが地球塾に出入りしていたってことと、この塾の創始者である銀河万乗ぎんがばんじょうこと本名:田中正たなかただしって人物が、ネット求人の依頼主らしいってことくらいね」

「時間が足りない、っていう割りに、そんなことまで取材でわかったんですか!?」

 驚いた僕が声を上げると、自らの手柄を誇るようにトシオが会話に割って入ってくる。

「先輩とは、弟の入塾資料を取り寄せるため、っていう体裁で地球塾に行ったんだよ。自分たちが、一宮高校の生徒だって話しをしたら、塾の受付担当のヒトが、色んなことを聞かせてくれてな。秋になってから、一宮高校の制服を着た見慣れない生徒が塾に出入りしていたって言うから、スマホに保存していた降谷通ふるやとおりの写真を見せたら、『そうそう、この男の子だった!』って言うんだ」

 ミコちゃんと僕が、その話しにうなずきながら反応すると、ケイコ先輩がトシオのあとを引き継ぐ。

「それで、『この写真の男の子は、地球塾にナニをしに来ていたんですか?』って聞いたら、『詳しくはわからないけど、前の社長がネット求人に《生徒会選挙の応援動画の作成》という案件を出しているから、そのことと関係あるんだと思う』って言うの。疑惑の渦中の銀河さんは、名目上は地球塾の代表を退いて、いまは投資家のような職業を語っているけど、『事実上は、この塾と関係が切れているわけじゃない。ネット求人も、私が依頼を出したから間違いない』って言ってたわ」

「スゴいです! 良くそこまで話しを引き出せましたね!」

 ミコちゃんが感心したように言うと、僕の親友は、

「取材するときのケイコ先輩は、聞き上手だからな~。相手を良い気分にさせて、色んなことを聞き出すプロだよ!」

と、なぜか我がコトのように自慢気に語る親友に苦笑しつつ、僕は感じていた疑問を率直にたずねた。

「なんだか、大きな話になってきましたね。これって、記事に出来るんでしょうか?」

「さっきも時間が足りないって言ったけど、いまの情報だけじゃ記事にはできない。もっと、有力な情報を集めてウラが取れるまで、このネタはまだ寝かせておくべきね」

 ケイコ先輩の返答に対して、ミコちゃんが「私たちにできるかな……」と、不安を口にする。

「大丈夫! 記事にできる素材はたくさんあるから。さっき見せてもらった、放送・新聞部に対する不信感に向き合うことも大事だし、佐々木くんが自粛期間中に集めてくれた情報があるでしょ?」

 急に話しを振られたものの、ここは、放送・新聞部としての活動を休まなければならなくなった失態を取り返すチャンスだと考えて、自粛期間中、自分なりにまとめていた内容を頭に浮かべながら提案する。

「ケイコ先輩の言うように、今回の生徒会選挙については、十分な情報を提供できなかった放送・新聞部に対する不信感と、情報を際限なく拡散できるSNSでの情報発信が結果を左右したと思います。ただ、取り上げるべき情報が多すぎて、とても、一度の特集記事で、すべてを伝えきることは出来ません。今年の選挙戦を振り返る内容を三回~四回に分けて連載の形式を取りませんか? 特集の第一弾の内容は、『メディア不信とデジタル・ボランティア』です」

 僕が、これまで考えていたことを語ると、ケイコ先輩は、ニヤリと口元を崩してから問いかけてきた。

「やっぱり、ただ、自宅で謹慎していたってワケじゃなさそうね。佐々木くん、十分なデータは揃っているの?」

「はい! メディア不信の生徒の声は、さっき見てもらった映像から意見を抽出しようと思います。そして、デジタル・ボランティアに関しては、LANEを使って行われていた、石塚候補を応援するオープン・チャットをテキスト・メッセージで盛り上げていたアカウントを取り上げようと考えています。このオープン・チャットのログを確認すると、自主的に活動を始めたというアカウントの持ち主が何人もいることがわかったので、その動きに注目した記事を書こうと思います」

 僕の返答に、上級生女子だけなく、親友も、下級生も賛同を示すように、大きくうなずいてくれた。
 こうして、翌日の一宮新聞の特集記事の内容が決まった。
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