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第4章〜推しが、燃えるとき〜④
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「先輩たち、お疲れ様さまです! 取材の感触はどうでした?」
放送室に戻るなり、僕たちに問いかけてきたミコちゃんに、ケイコ先輩は、Vサインを送る。
「先方は気付いていないと思うけど、バッチリと言質は取れたよ! みんな、覚悟してね。今日は、朝まで掛かっても記事を仕上げるからね!」
先輩の一言に、緊張感が高まったのか、ミコちゃんとトシオは、固い表情のまま、うなずく。
ただ、フェザーン社への取材に出たときからケイコ先輩と一緒だった僕は、下級生と親友の緊張を解きほぐすために、大事な言葉を付け足す。
「そこで、僕たちの尊敬する先輩から大切なアイテムをいただきました!」
そう言って、僕はガラス瓶が四つ入った紙箱を放送室のテーブルに置き、フタを開ける。
性格が清廉潔白だから……というよりも、相手から弱みに付け込まれないようにするための自衛策を取った結果、フィナンシェを始めとした焼き菓子という戦利品は得られなかったものの、県内で、もっとも有名なプリンという手土産は、放送・新聞部のメンバーの士気を大いに掻き立てた。
「ケイコ先輩ありがとうございます! モ◯ゾフのプリンがあれば、徹夜も恐くないです!」
嬉しそうに声をあげる下級生に対して、ケイコ先輩は釘を刺す。
「たしかに美味しいプリンだけど、お菓子で買収されるようになっちゃダメよ、ミコちゃん」
「は~い、わかりました~」
先輩の言葉に、あきらかに軽く受け流しながら、四種類あるプリンのフレーバーを選び始めるミコちゃんをよそに、ケイコ先輩は、トシオにたずねる。
「古河くん、うちの学校の生徒会選挙条例と比良野社長のブログを見比べて、問題点は洗い出せた?」
「はい! ミコちゃんと共同で、出来る限りのことはやってみました。問題と思われるブログの箇所と生徒会選挙条例の条文をGoogleドキュメントのファイルにまとめているので、チェックをお願いします」
頼りになる親友は、留守番中にもキッチリと仕事をこなしてくれていたようだ。
「でも、私たちでも気付くような違反をしているのに、ブログの社長さんは、よく取材を受けてくれましたね? 言質を取ってきた、ってことですけど……この会社、ちょっと、脇が甘すぎませんか?」
早くも期間限定のフレーバーである和栗プリンを選んで、プラスティックのフタを開けたミコちゃんは、同じくプラスティック製のスプーンを片手に僕らに語りかける。
「たしかに、ここまで準備万端にSNS戦略を練り上げた会社にしては、警戒心が薄いよね。会社も、アットホームな感じで、社長さんも社員さんも悪い人たちには見えなかったんだけど……ケイコ先輩が、取材に行く前からプロパガンダなんて言葉を何度も使うから、ドイツのゲッベルスみたいな気難しくて、おっかなそうな雰囲気の人が出てきたら、どうしようかと思ってたんだけどね」
僕が、苦笑しながら答えると、ケイコ先輩が少し驚いたような表情で語る。
「佐々木くんをそんなに緊張させるつもりはなかったんだけど……まあ、実際に会った感触で言えば比良野社長は、『令和のゲッベルス』というより、『令和のレニ・リーフェンシュタール』って感じだったけどさ~」
僕が、同意して「あ~、なるほど……」と、うなずくと、ミコちゃんとトシオは、
「誰ですか、リーフェンシュタールって?」
と、声を揃える。
「レニ・リーフェンシュタールは、ドイツの女性映画監督だよ。ヒトラーや、さっき言ったゲッベルスと同じ時代の人で、ナチス・ドイツが開催した党大会やベルリン・オリンピックの映像は、そのほとんどが彼女が撮影したものなんだ」
「ベルリン五輪の映像は、何度か見たことがあるけど、それも、その女性監督が撮影したのか?」
トシオがたずねると、ケイコ先輩が質問に回答する。
「おそらく、古河くんが目にした映像の大半は、彼女の手によるものでしょうね。あと、当時のドイツを象徴する親衛隊が行進する映像もそうよ。プロパガンダの手腕に長けていることもそうだけど、なんというか、その無邪気というか、自分がしたことに対する責任感や自覚の無さが、リーフェンシュタールとそっくりなんだよね……」
先輩の答えにプリンを口に運びながら、ミコちゃんが感想を口にする。
「昔のことも、レニさんのことも良くわかりませんけど、たしかに、比良野社長からは、キラキラした写真をSNSに投稿する女子大生みたいな雰囲気を感じますよね~。ブログに掲載されてる石塚会長にプレゼンをしている時の写真も、自分はキレイに写ってるけど、石塚さんは、ちょっとだけ間の抜けたような表情になってますし……これ、女子が二人以上で自撮りした写真を《ミンスタ》にアップした時、揉めるパターンですよ」
そう言われて、ミコちゃんが開いていたノートPCに表示されていたブログの画像を確認すると、たしかに、彼女が言うことも一理ある、と感じるほど、石塚雲照は、呆けたような表情で社長の説明に聞き入っているようにも感じられた。
下級生女子の鋭い視点に、僕はふたたび苦笑いしつつ、同意するしかない。
「そうね、ミコちゃんに言われてあらためて感じたけど、比良野社長は、裏方に向いていないタイプかも……」
スマホで、SNSを見ながらケイコ先輩も同調する。
「これも、市石高校の花金さんの語っていたことなんだけど、あちらの広報部では、有名インフルエンサーの白草四葉さんの入部希望を断ったそうなの。『彼女に裏方は似合わないし、目立ちすぎるヒトには、表舞台に立っていてもらわないと』って花金さんは言ってたわ」
そう言葉を付け加える彼女に、僕は、心のなかで深く賛同した。
そして、上級生が発した最期の言葉には、メンバー全員が大きくうなずく。
「さあ、ここからが、私たちのターンよ! みんなには、共有設定をしたドキュメントファイルを送るから、各自、自宅に戻ったら、どんどん記事を書き上げて連絡をちょうだい! オワコン・メディアの意地、見せてやりましょう!」
放送室に戻るなり、僕たちに問いかけてきたミコちゃんに、ケイコ先輩は、Vサインを送る。
「先方は気付いていないと思うけど、バッチリと言質は取れたよ! みんな、覚悟してね。今日は、朝まで掛かっても記事を仕上げるからね!」
先輩の一言に、緊張感が高まったのか、ミコちゃんとトシオは、固い表情のまま、うなずく。
ただ、フェザーン社への取材に出たときからケイコ先輩と一緒だった僕は、下級生と親友の緊張を解きほぐすために、大事な言葉を付け足す。
「そこで、僕たちの尊敬する先輩から大切なアイテムをいただきました!」
そう言って、僕はガラス瓶が四つ入った紙箱を放送室のテーブルに置き、フタを開ける。
性格が清廉潔白だから……というよりも、相手から弱みに付け込まれないようにするための自衛策を取った結果、フィナンシェを始めとした焼き菓子という戦利品は得られなかったものの、県内で、もっとも有名なプリンという手土産は、放送・新聞部のメンバーの士気を大いに掻き立てた。
「ケイコ先輩ありがとうございます! モ◯ゾフのプリンがあれば、徹夜も恐くないです!」
嬉しそうに声をあげる下級生に対して、ケイコ先輩は釘を刺す。
「たしかに美味しいプリンだけど、お菓子で買収されるようになっちゃダメよ、ミコちゃん」
「は~い、わかりました~」
先輩の言葉に、あきらかに軽く受け流しながら、四種類あるプリンのフレーバーを選び始めるミコちゃんをよそに、ケイコ先輩は、トシオにたずねる。
「古河くん、うちの学校の生徒会選挙条例と比良野社長のブログを見比べて、問題点は洗い出せた?」
「はい! ミコちゃんと共同で、出来る限りのことはやってみました。問題と思われるブログの箇所と生徒会選挙条例の条文をGoogleドキュメントのファイルにまとめているので、チェックをお願いします」
頼りになる親友は、留守番中にもキッチリと仕事をこなしてくれていたようだ。
「でも、私たちでも気付くような違反をしているのに、ブログの社長さんは、よく取材を受けてくれましたね? 言質を取ってきた、ってことですけど……この会社、ちょっと、脇が甘すぎませんか?」
早くも期間限定のフレーバーである和栗プリンを選んで、プラスティックのフタを開けたミコちゃんは、同じくプラスティック製のスプーンを片手に僕らに語りかける。
「たしかに、ここまで準備万端にSNS戦略を練り上げた会社にしては、警戒心が薄いよね。会社も、アットホームな感じで、社長さんも社員さんも悪い人たちには見えなかったんだけど……ケイコ先輩が、取材に行く前からプロパガンダなんて言葉を何度も使うから、ドイツのゲッベルスみたいな気難しくて、おっかなそうな雰囲気の人が出てきたら、どうしようかと思ってたんだけどね」
僕が、苦笑しながら答えると、ケイコ先輩が少し驚いたような表情で語る。
「佐々木くんをそんなに緊張させるつもりはなかったんだけど……まあ、実際に会った感触で言えば比良野社長は、『令和のゲッベルス』というより、『令和のレニ・リーフェンシュタール』って感じだったけどさ~」
僕が、同意して「あ~、なるほど……」と、うなずくと、ミコちゃんとトシオは、
「誰ですか、リーフェンシュタールって?」
と、声を揃える。
「レニ・リーフェンシュタールは、ドイツの女性映画監督だよ。ヒトラーや、さっき言ったゲッベルスと同じ時代の人で、ナチス・ドイツが開催した党大会やベルリン・オリンピックの映像は、そのほとんどが彼女が撮影したものなんだ」
「ベルリン五輪の映像は、何度か見たことがあるけど、それも、その女性監督が撮影したのか?」
トシオがたずねると、ケイコ先輩が質問に回答する。
「おそらく、古河くんが目にした映像の大半は、彼女の手によるものでしょうね。あと、当時のドイツを象徴する親衛隊が行進する映像もそうよ。プロパガンダの手腕に長けていることもそうだけど、なんというか、その無邪気というか、自分がしたことに対する責任感や自覚の無さが、リーフェンシュタールとそっくりなんだよね……」
先輩の答えにプリンを口に運びながら、ミコちゃんが感想を口にする。
「昔のことも、レニさんのことも良くわかりませんけど、たしかに、比良野社長からは、キラキラした写真をSNSに投稿する女子大生みたいな雰囲気を感じますよね~。ブログに掲載されてる石塚会長にプレゼンをしている時の写真も、自分はキレイに写ってるけど、石塚さんは、ちょっとだけ間の抜けたような表情になってますし……これ、女子が二人以上で自撮りした写真を《ミンスタ》にアップした時、揉めるパターンですよ」
そう言われて、ミコちゃんが開いていたノートPCに表示されていたブログの画像を確認すると、たしかに、彼女が言うことも一理ある、と感じるほど、石塚雲照は、呆けたような表情で社長の説明に聞き入っているようにも感じられた。
下級生女子の鋭い視点に、僕はふたたび苦笑いしつつ、同意するしかない。
「そうね、ミコちゃんに言われてあらためて感じたけど、比良野社長は、裏方に向いていないタイプかも……」
スマホで、SNSを見ながらケイコ先輩も同調する。
「これも、市石高校の花金さんの語っていたことなんだけど、あちらの広報部では、有名インフルエンサーの白草四葉さんの入部希望を断ったそうなの。『彼女に裏方は似合わないし、目立ちすぎるヒトには、表舞台に立っていてもらわないと』って花金さんは言ってたわ」
そう言葉を付け加える彼女に、僕は、心のなかで深く賛同した。
そして、上級生が発した最期の言葉には、メンバー全員が大きくうなずく。
「さあ、ここからが、私たちのターンよ! みんなには、共有設定をしたドキュメントファイルを送るから、各自、自宅に戻ったら、どんどん記事を書き上げて連絡をちょうだい! オワコン・メディアの意地、見せてやりましょう!」
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