愛と選挙とビターチョコ

遊馬友仁

文字の大きさ
52 / 63

第4章〜推しが、燃えるとき〜⑥

しおりを挟む
 11月14日(金)

「一宮高校十条委員会は、前生徒会時の議題を引き継ぐとともに、今後開催される委員会において、今回の生徒会選挙で問題視されている、自治生徒会選挙条例、生徒会運営資金規制条例および生徒会条例についても、関係者の聞き取りを行うことを決定しました」

 一宮新聞でフェザーン社と石塚会長の関係を報じた日の放課後、前生徒会時に引き続き、十条委員会の委員長を務める3年生の屋良優作やらゆうさく先輩が会見で発したこの言葉は、一宮いちのみや高校に新たな波紋と分断をも生むことになった。

「石塚会長の不正選挙を追及しろ!」

 という声が上がる一方で、

「生徒会選挙の結果は変えられない! 十条委員会は石塚おろしをやめろ!」
 
と、新生徒会長を擁護する声もあがっている。

 そして、フェザーン社と石塚会長の関係を大々的に報道した僕たち放送・新聞部は、アンチ石塚の急先鋒というイメージになりつつあるようだ。なお、ブログの内容などを書き換える必要があったためか、一宮新聞の紙面を公開して一日以上が経過しても、比良野ひらの社長とフェザーン社から、一宮高校もしくは放送・新聞部に抗議の連絡は来ていない。

 そんな中、証拠の隠滅や口裏合わせを行う時間を与えないためか、十条委員会は、会見の翌日に生徒会選挙の候補者の一人である降谷通ふるやとおりの証人尋問を行う、と通告していたんだけど……。

 なかば予想どおりと言うか、自らの当選を目指すことなく、石塚候補にかけられた疑惑について、潔白を主張していた降谷は、選挙後、雲隠れするように登校しなくなっていたため、この日の委員会の喚問にも姿をあらわさなかった。

 このことは、想定どおりだったのか、十条委員会は、次回の開催日を週明けの月曜日に行うことを告げるとともに、《ティックタック》に光石候補の選挙公約とは明確に異なる内容の動画をアップロードした、として女子バスケットボール部の松島いのりと、フェザーン社との関係を問うということで石塚会長本人の証人尋問を行うことを発表した。
 また、本人の証言もしくは申し開きがなかったということで、選挙期間中に屋良委員長の自宅前で無用な選挙運動を行ったことで、屋良委員長自身が、降谷通ふるやとおりを教職員会に告発することを告げた。

 僕らがフェザーン社の取材を行った日を境にして、開票当日から、生徒の間でくすぶっていた今回の生徒会選挙に関する不満や疑惑が一気に噴出したように感じる。

 僕と一緒に、この日の十条委員会の発表の取材を行い、放送室に戻って来ると、ミコちゃんがつぶやいた。

「女子バスケ部の松島さんの動画が問題視されてるってことは、選挙管理委員会も十条委員会に出席するんでしょうか? michiさんは、新しい生徒会の選挙管理委員とインターネット・SNSイジメ対策委員を務めていますし……」

「今回の件は、SNSイジメとは言い切れないと思うけど、明確な選挙妨害でもあるからね~。生徒会選挙は、選管委員として、はざまさんが就任する前の出来事だし、どうなんだろう?」

「松島さんを追及するなら、あの動画は自分の考えでアップロードしたのか、それとも、誰かの指示があったのかは知りたいところですね。SNSでの情報発信について、先輩たちが取材した社長さんは、どこまで関わっているんでしょうか?」

「その辺りも、気になるよね……石塚会長の応援アカウントもそうだけど、光石候補のアカウントが凍結されたことも不可解だし……」

 生徒会のコメントを取りに行っているトシオと進路指導室に寄ると行っていたケイコ先輩を待ちながら、そんなことを話し合っていると、トシオからスマホに着信が入った。

 スマホの画面に表示される親友の名前を目にすると同時に、イヤな予感がしたけど、そんな感情は脇において、すぐに応答する。

「どうしたの、トシオ? 生徒会でなにかあった?」

「なにか、なんてモノじゃない! 石塚会長が、これから会見をするらしい。すぐに生徒会室に来てくれ!」

「わかった、すぐ行くよ」
 
 そう答えて、通話を終えると、スピーカー機能をオンにしていなかったにもかかわらず、親友の大声が耳に届いたのか、ミコちゃんがあきれたように言葉を吐き出す。

「また、なにか発表するんですか、石塚会長は……もう、いい加減、会長さんに振り回されるのにも飽きてきたんですけど……」

 ため息をつきながら語る下級生を、「まあまあ、そう言わずに……」と、なだめながら、僕らは生徒会室に向かう。

 生徒会室に入室すると、本当に僕たちの到着を待ちわびていたように、石塚会長が口を開いた。

「放送・新聞部の現役部員のみなさんが揃われたので、これから会見を開きたい。録画・録音の準備はよろしいか?」

 ずいぶんと芝居がかった尊大な口のきき方をするな……と、感じつつ、ICレコーダーと写真撮影用のデジタルカメラ、動画撮影用のビデオカメラの準備が整ったことをトシオとミコちゃんに目線だけで確認して、短く返答する。

「えぇ、準備できてますよ」

 僕の言葉に「フン……」と、鼻を鳴らしてから小さくうなずいた石塚会長は、口を開いた。

「先日の生徒会選挙において、自分に対する疑惑の目が向けられていることは、把握しています。週明けの月曜日には、継続審議中の十条委員会への出席を要請されていることも踏まえ、この度、第105代生徒会長の石塚雲照いしづかうんしょうは、一宮高校全校生徒の民意を問うため、自治生徒会選挙条例第259条の2項に則り、一度、生徒会長の職を辞して、出直し選挙を行うこととします」

 写真撮影用のデジタルカメラを構えたトシオと、音声記録用のICレコーダーを構えていたミコちゃんが、驚きの声を上げそうになっている中、この事態を予想していた僕は、

(やっぱり、そう来たか……)

と、冷静に生徒会長の言葉を受け止めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

処理中です...