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第4章〜推しが、燃えるとき〜⑮
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生徒会室のドアをノックして中に入ると、約束どおり、光石琴は、一人で待っていてくれていた。
「一人で、集中して事務作業をしたいから……って言って、他の役員の人達には、帰ってもらっちゃった……」
いたずらっぽく微笑むその表情は、普段の彼女が他人には見せないものだと感じて、思わずドキリとしてしまう。
「待たせてしまってゴメンね」
今日一日のことだけでなく、一週間前に「もし、私が生徒会長選挙に当選したら……っていう約束は、いまも有効かな?」という問いの返答を先伸ばししてしまったことも含めて謝罪しながら、僕は、息を整えるのに必死だった。
新しく生徒会長に選ばれた光石琴は、副会長や書紀、会計などの執行部役員をはじめ、各委員会の委員長をすぐに指名し、今日の所信表明の会見を行ったんだけど、一つだけ「人員調整中」ということで、任命されていない役職があった。
それが、生徒会執行部の「広報」の役職だ。
もっとも、当選発表からの日程の関係上、生徒会長就任直後に行われる所信表明の会見のときまでに、すべての役職が決まっている必要はなく、石塚会長の所信表明のときにも、副会長の人選が間に合わなかったという例も少なくないので、この時点で、執行部の役員ポストが不在であること自体は、大きな問題ではない。
それでも―――。
いくら僕が、異性の考えていることに敏感では無いと言っても、彼女が、広報の役職を空席にしている理由と意味がわからないわけじゃない。
「今日の所信表明の会見は、佐々木くんが取材に来てくれると思ってたから、広報の役職は発表しなかったんだ」
かすかに頬をかきながら、照れ隠しをするような表情で語る彼女の言葉からは、言外にその役職に関する話しをしようとしていることが伝わってくる。
「いまの広報の役職は、学内新聞や動画だけじゃなくて、SNSでの情報発信もしなくちゃいけないし、大変だもんね。これは、人選も同じくらい大変そうだ」
あえて、少しおどけた口調で返答すると、光石琴は、「うん……」と、小さくうなずいたあと、意を決したように僕の目を真っ直ぐに見つめて、語りかけてきた。
「そんな大変な役職だからこそ、私は自分が一番信頼しているヒトに任せたいなって思っているの。佐々木くん、新しい生徒会の広報の担当を引き受けてくれないかな?」
彼女の意志と芯の強さをあらわすような視線を受け止めながら、光石琴の誠意に応えるように、僕は目をそらすことのないまま、口を開く。
「ありがとう。僕を信頼して、広報の役職を任せてくれるという気持ちは、これ以上なく嬉しいんだけど……僕は、放送・新聞部として、やらなければいけないことがあるんだ。だから、生徒会の役職を引き受けることはできない」
僕の返答を確認した光石は、肩を落として、「そっか……」と、言葉を漏らし、
「クラブのことなら仕方ないよね。放送・新聞部は、いつも、忙しそうだし……」
そう言ったあと、力なく微笑んだ。
彼女に対する申し訳ない気持ちと、なによりも、少しでも光石琴という女子生徒と少しでも一緒にいる時間を長く過ごしたいと自分自身の想いを振りはらうように、僕は、ふたたび口を開いた。
「君が一番大変なときに、そばでチカラになれないことは、本当に申し訳ないと思う。僕が思っている自分の気持ちを書いているから、時間ができたときに読んでくれないかな?」
僕は、そう告げて、横書きの便箋を入れた封筒を彼女に手渡した。
「生徒会役員以外の人間が、あまり長く居座るのも悪いから、もう行かせてもらうね?」
一言だけ告げて、僕は生徒会室を立ち去る。
気丈に振る舞っていた彼女の瞳に光るモノが見えたように感じたのが、気のせいであることを願うばかりだ。
彼女に手渡した便箋には、僕がずっと抱いていた気持ちを書かせてもらった。
◇ ◇ ◇
光石琴 さま
直接、伝えたことと重なるかも知れないけど、君が生徒会長として仕事をするときに、そばでチカラになれないことを本当に申し訳なく思っている。
生徒会選挙の投票日に演題から全校生徒に向かって語りかけた言葉を聞いて、僕のその想いは、より強くなった。
ただ、君が、その生徒会選挙の最期の演説で、
「さまざまなことがあった今年の生徒会選挙を通じて学んだことを活かして、よりよい学校にしていくチカラがあると、私は信じています」
と言ったように、僕は、放送・新聞部の一員として、この一宮高校がより良くなるよう、活動を続けたいと思っている。
そのために、生徒会執行部や選挙管理委員会、SNSイジメ対策委員会からの協力要請には、惜しみなく支援をさせてもらうつもりだ。
そして、なによりも、君に伝えたいことは―――。
僕が、君を想う気持ちは、最初に僕の想いを告げたときも、いまも、そして、これからもずっと変わらないことを約束したい。
もしも、僕が放送・新聞部の活動を引退して、君が生徒会長の大役から解放される日になっても、君の想いが変わらないなら……僕を生徒会室に呼び出してほしいと思う。
「一人で、集中して事務作業をしたいから……って言って、他の役員の人達には、帰ってもらっちゃった……」
いたずらっぽく微笑むその表情は、普段の彼女が他人には見せないものだと感じて、思わずドキリとしてしまう。
「待たせてしまってゴメンね」
今日一日のことだけでなく、一週間前に「もし、私が生徒会長選挙に当選したら……っていう約束は、いまも有効かな?」という問いの返答を先伸ばししてしまったことも含めて謝罪しながら、僕は、息を整えるのに必死だった。
新しく生徒会長に選ばれた光石琴は、副会長や書紀、会計などの執行部役員をはじめ、各委員会の委員長をすぐに指名し、今日の所信表明の会見を行ったんだけど、一つだけ「人員調整中」ということで、任命されていない役職があった。
それが、生徒会執行部の「広報」の役職だ。
もっとも、当選発表からの日程の関係上、生徒会長就任直後に行われる所信表明の会見のときまでに、すべての役職が決まっている必要はなく、石塚会長の所信表明のときにも、副会長の人選が間に合わなかったという例も少なくないので、この時点で、執行部の役員ポストが不在であること自体は、大きな問題ではない。
それでも―――。
いくら僕が、異性の考えていることに敏感では無いと言っても、彼女が、広報の役職を空席にしている理由と意味がわからないわけじゃない。
「今日の所信表明の会見は、佐々木くんが取材に来てくれると思ってたから、広報の役職は発表しなかったんだ」
かすかに頬をかきながら、照れ隠しをするような表情で語る彼女の言葉からは、言外にその役職に関する話しをしようとしていることが伝わってくる。
「いまの広報の役職は、学内新聞や動画だけじゃなくて、SNSでの情報発信もしなくちゃいけないし、大変だもんね。これは、人選も同じくらい大変そうだ」
あえて、少しおどけた口調で返答すると、光石琴は、「うん……」と、小さくうなずいたあと、意を決したように僕の目を真っ直ぐに見つめて、語りかけてきた。
「そんな大変な役職だからこそ、私は自分が一番信頼しているヒトに任せたいなって思っているの。佐々木くん、新しい生徒会の広報の担当を引き受けてくれないかな?」
彼女の意志と芯の強さをあらわすような視線を受け止めながら、光石琴の誠意に応えるように、僕は目をそらすことのないまま、口を開く。
「ありがとう。僕を信頼して、広報の役職を任せてくれるという気持ちは、これ以上なく嬉しいんだけど……僕は、放送・新聞部として、やらなければいけないことがあるんだ。だから、生徒会の役職を引き受けることはできない」
僕の返答を確認した光石は、肩を落として、「そっか……」と、言葉を漏らし、
「クラブのことなら仕方ないよね。放送・新聞部は、いつも、忙しそうだし……」
そう言ったあと、力なく微笑んだ。
彼女に対する申し訳ない気持ちと、なによりも、少しでも光石琴という女子生徒と少しでも一緒にいる時間を長く過ごしたいと自分自身の想いを振りはらうように、僕は、ふたたび口を開いた。
「君が一番大変なときに、そばでチカラになれないことは、本当に申し訳ないと思う。僕が思っている自分の気持ちを書いているから、時間ができたときに読んでくれないかな?」
僕は、そう告げて、横書きの便箋を入れた封筒を彼女に手渡した。
「生徒会役員以外の人間が、あまり長く居座るのも悪いから、もう行かせてもらうね?」
一言だけ告げて、僕は生徒会室を立ち去る。
気丈に振る舞っていた彼女の瞳に光るモノが見えたように感じたのが、気のせいであることを願うばかりだ。
彼女に手渡した便箋には、僕がずっと抱いていた気持ちを書かせてもらった。
◇ ◇ ◇
光石琴 さま
直接、伝えたことと重なるかも知れないけど、君が生徒会長として仕事をするときに、そばでチカラになれないことを本当に申し訳なく思っている。
生徒会選挙の投票日に演題から全校生徒に向かって語りかけた言葉を聞いて、僕のその想いは、より強くなった。
ただ、君が、その生徒会選挙の最期の演説で、
「さまざまなことがあった今年の生徒会選挙を通じて学んだことを活かして、よりよい学校にしていくチカラがあると、私は信じています」
と言ったように、僕は、放送・新聞部の一員として、この一宮高校がより良くなるよう、活動を続けたいと思っている。
そのために、生徒会執行部や選挙管理委員会、SNSイジメ対策委員会からの協力要請には、惜しみなく支援をさせてもらうつもりだ。
そして、なによりも、君に伝えたいことは―――。
僕が、君を想う気持ちは、最初に僕の想いを告げたときも、いまも、そして、これからもずっと変わらないことを約束したい。
もしも、僕が放送・新聞部の活動を引退して、君が生徒会長の大役から解放される日になっても、君の想いが変わらないなら……僕を生徒会室に呼び出してほしいと思う。
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