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遊馬友仁

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第2章~Get along~①

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昼食時に集うメンバーの数が肥大化する一方、昭聞の不在という変化があった五月も半ばとなった頃……。
入学式からこの時期までに、好きな話しの出来る仲間が増えたことには満足していたものの、メンバー的に昭聞以外と映画の話しが出来ないことに、秀明は少し不満も感じていた。

(春休みが終わってから、ゴールデンウィークも映画館には行けてないし、そろそろ観る本数を増やしたいな)
(と、なると、やっぱり二本立ての劇場を探すか)

そう考えながら、帰宅の途上で立ち寄った自宅近くのコンビニで、雑誌『ぴあ関西版』の近畿地方の映画館上映スケジュールのページを開く。
インターネットサービスが一般社会に普及する以前のこの時代、映画館の上映スケジュールは、情報誌か新聞の片隅に掲載されるスケジュール一覧を確認するのが一般的だった。

(震災に遭った神戸方面の映画館も、春から再開しているところが出てきてるのね~)
(『パルシネマしんこうえん』は……。おお!タランティーノの二本立て!!めっちゃテンション上がる!)
(ヨシ!今回の観賞は、この二本にしよう!!)

そう決意した秀明は、五月下旬の日曜日に、神戸・新開地にある名画座を目指すことにした。



次の日は週末の金曜日だった。
昼休みも終盤に迫り、一年B組・出席番号一番~三番の面々で

「最近、坂野だけ昼休みに居なくなるなぁ」
「何か、今年の放送部は活動を増やすらしくて、それで昼休みも準備にかかりきりになってるらしいわ」
「坂野クンが、放送で話したりするんやろか?」
「ブンちゃんは、自分メインで喋ろうとするタイプではない気もするけど(笑)趣味から考えて、音楽関係の放送なのかな~、と予想してみたり」
「やっぱり、そうかな」
「せっかくやし、ここは、クラスメートとして、アニメ版『スレイヤーズ』の主題歌をリクエストしてあげよう!」
「あ~、中学校の時も、昼休みの時間中にアニソン流すヤツおったなぁ(笑)」

こんな話しをしていると噂の渦中の人物が教室に戻って来た。

「小規模な悪巧みで、ナニを盛り上がってるねん(笑)」
「悪巧みとは失礼な!オレたちには、『スレイヤーズ』のOP『Get along』の魅力をあまねく校内に広めようという崇高な目的があるのに!!」

笑いながら反論する秀明に、昭聞は「ハイハイ」と適当にあしらい、直後、少し真面目な顔で

「秀明、おまえに頼みたいことがあるんやけど、今日の放課後、ちょっと時間作ってくれへんか?」

と聞いてきた。

「OK!あんまり遅い時間にならないならイイよ!」

と秀明は答え、

(そう言えば、ちょっと前に協力してほしいことがあるとか言ってたな)

と数週間前の昭聞の言葉を思い出した。



その日の放課後、「じゃあ、ちょっと放送室まで来てくれるか?」と、昭聞に誘われた秀明は、彼とともに教室を後にした。
放送室へ向かう道すがら、秀明は、いつもの調子で、

「今日は、何か真面目な話しなん?告白したいことがあるとかなら、放送室より、『伝説の樹の下』で聞くけど(笑)」

そんな風に冗談めかして言うと、

「誰が恋愛シュミレーションゲームの話しをする言うてんねん?悪いけど、今日は、おまえのしょーもないネタに付き合ってるヒマはないから」

と取りつくしまがない。

(ひゃ~、ピリピリしてるな~。まあ、ちゃんとツッコミを入れてくれる辺りは、ブンちゃんらしいけど。けど、そんなに重大な話しって何やろ?)

などと考えながら、クラスメートの後を追った。

放送室に着くと、

「今日は、オレら以外は誰も来ないハズやから。まあ、リラックスしてくれ」

と、昭聞は、機材が並ぶ放送室に雑然と置かれたパイプ椅子に着席を促す。

「……で、坂野氏。真面目な話しって、何なのよ?」

と、パイプ椅子に腰かけ、秀明がたずねる。

「前にも、放送部が活動に力を入れていく、ってことは話したよな」
「うん、聞かせてもらった」
「その活動目標の一つが、昼休みの放送内容の充実やねん」
「ふんふん」
「まだ、アイデア段階やけど、曜日別に、音楽・映画・スポーツ・グルメ・ファッションの情報などを発信するラジオ番組みたいなモノを放送したいな、と考えてる」
「そうなんや。頑張ってるな~」
「それで、今のところ音楽と映画の情報番組を優先的に作ろう、というところまで話しはまとまってるやけど……」
「そっか!音楽とか映画なら、男女問わず受け入れられる情報やもんな。スポーツなら男子、ファッション&グルメなら女子向けに偏りそうやし(笑)」
「まあな」
「ちゃんと考えてるやん、放送部の皆さん。で、それがオレと何の関係があるの?」
「うん。それでな……」
ここで、坂野昭聞は、たっぷり間を取り、こう切り出した。
「秀明、おまえ、この企画の映画の番組に出演せえへんか?」

「はぁ!?」

秀明には、一瞬、放送室の空気が止まった様に感じられた。
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