シネマハウスへようこそ

遊馬友仁

文字の大きさ
上 下
12 / 114

第1章~Real Wild Child~⑦

しおりを挟む
「……という訳で、私からの話しはココまで!あとは、自分自身で気付くか、吉野さんに確認しに行くこと!しっかりしいや、ボンクラーズ!」
と秀明の二の腕を叩きながら、吉野亜莉寿との約束を違えずに話すべき内容を伝えた正田舞に、

「ここまで来て、まさかの説明なし!?」

と声を挙げる秀明。
「秀明、あらためて聞くけど、おまえ、ホンマに吉野さんと面識ないの?」
「う~ん、吉野さんの出身の甲稜中って、ブンちゃんと同じ西宮市内やろ?西宮の女の子と接点があるかと言われると……」
頭をひねる秀明に、
「まあ、それは置いといても、吉野さん、意外に策士かも知れんな」
と話題を変える昭聞。
「ん?どういうことなん?」
と秀明が疑問を呈すると、
「吉野さんは、『自分の知ってもらいたい情報を正田さん経由で秀明に伝えてもらう。さらに、正田さんを味方に取り込みつつ、秀明自身が解明すべき謎は、秀明に委ねたまま』。まとめると、こういうことやろう?自己紹介の時の笑顔は、男子を虜にするスマイルかと思ってたけど、これは評価をあらためないとイカンな」
昭聞は答え、舞に質問する。
「正田さん、この話し男子だけじゃなく、他の女子にも話すつもりはないやろ?」
「もちろん!吉野さんは、これ以上この話しが拡がることを望んでないと思うし」
さらに舞が続ける。
「興味本位で吉野さんに近付いた私が言うのもアレやけど、冷静に見たら、結果的に吉野さんに利用された部分はあるかな、って。でも、不思議とイヤな気持ちにはなってないわ。むしろ、吉野さんを応援したい気分」
と言って笑う。
「なるほど!吉野さんが、何か色々と考えてるということには、同意するわ。まさか、自分が当事者になるとは思ってなかったけど」
と、のんきに話す秀明の表情を眺めた二人は、

「「ハァ、ホンマにボンクラやなぁ」」

と、ため息をつき、昭聞は、
「これは、男のオレでも、吉野さんに同情するわ」
そう呟いた。



正田舞と坂野昭聞によって、《秀明自身の解決すべき問題》とされた一件の解明が進展しないことをよそに、ボンクラーズと称された秀明たちのグループの人員数は、拡大の一途をたどっていた。
秀明と昭聞が舞から話しを聞かされた日の翌々日の昼休みには、一年B組の隣のA組から、上野、蝦名の二名がクラスを越境して秀明たちの元にやってきた。
どうやら、伊藤、梅原の二人が数学や英語の授業時に、これまで秀明たちが語ったネタを吹聴しているらしい。

「『ここで面白い話が聞ける』と聞いたけど」

そう話す蝦名に、
「わざわざ、A組から来てもらえるほどのお構いが出来るのかわかりませんが……。とりあえず、アニメ化された『スレイヤーズ』について、どう思う?」
翌週の半ばには、さらにA組から川端と委員長である井原が加わった。
この様子を眺めていた正田舞は、

《有間が、問題の解明に近づくことは、当分なさそう》

と吉野亜莉寿に同情した。
その日の放課後、
「まさか、A組にボンクラーズの支部が出来る様になるとは」
秀明が苦笑いしながら昭聞に話すと、昭聞は思うところがあるのか
「やっぱり、ネタはともかく、話しの転がし方には一定の需要があるな」
とつぶやく。
さらに続けて、
「明日から、昼休みと放課後は、放送部に顔を出すことになったから!オレは、しばらくボンクラーズから離れるわ」
と秀明に断りを入れる。
「了解!コッチに戻ってこれる様になったら、また教えて」
「ああ、その時は色々と協力を頼むことになると思うわ」
と返す昭聞。

《協力?いつものメンバーに戻るのに、何か協力する必要ある?》

秀明が抱いた新たな疑問が解かれるのは、ゴールデンウィークが明けてからのことだった。
しおりを挟む

処理中です...