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第5章~耳をすませば~②
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亜莉寿に感想を急かされた秀明は、テーブルに置かれているグラスの水で、喉を少し潤すと、
「まず、率直な感想として、とても良いお話しでした。薦めてくれて、ありがとう」
と、口にする。
「どういたしまして。有間クンなら、気に入ってもらえると思ったから!」
この日は、顔を合わせた時から上機嫌の亜莉寿が嬉しそうに答える。
「『夏への扉』『ある日どこかで』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。やっぱり、タイムトラベル作品は、面白いモノが多いな~。あと、『たんぽぽ娘』は、クリストファー・リーヴの『ある日どこかで』に、ちょっと近い雰囲気が近いかな、って思った」
と秀明が雑感を述べると、
「確かに、そうね。タイムトラベルを行うのが、男女の違いはあるけど、古典的なタイムトラベル作品ということとロマンチックな雰囲気は、似ているかも」
亜莉寿が応じると、このタイミングで、注文したアイスコーヒーが運ばれてきた。
ガムシロップをアイスコーヒーのグラスに注ぎながら、亜莉寿は続けてたずねる。
「ねぇ、やっぱり男性は、ジュリーみたいな出会い方をした女の子のことは気になるものなの?」
「う~ん、まあ、最初の出会いで、『おとといは兎を見たわ。きのうは鹿、今日はあなた』やったっけ?ああいう可愛いことを言われたら、気になるんじゃない?」
亜莉寿は薄い笑みを浮かべながら、
「自分には愛する奥さんがいるとしても?」
とたずねる。
「いや、それは結婚してないオレには、答え様がないけど……」
苦笑して答える秀明に、
「まあ、恋人もいなさそうな有間クンに聞いてもムダだったかな?」
と悪戯っぽく笑う。
この数週間で亜莉寿との会話に慣れてきた秀明は、
「悪かったね。お役に立てなくて」
と軽くいなした。
「他には気になることとか無かった?」
と亜莉寿は、秀明の様子をうかがいながらたずねる。
「そうやね~。スゴくロマンチックで良いお話しに野暮なツッコミを入れるのアレやけど……」
秀明の言葉に
「アレやけど?」
と口調を真似て返す亜莉寿。
「うん、普通ジュリーを最初に見た時に誰か気付かへん?マークさん、ちょっと鈍いんとちゃう?」
秀明が答えるや満面の笑みを称えた亜莉寿は、彼がアイスコーヒーのストローに口を付けた瞬間を見計らい、勝ち誇った様に口にする。
「へ~、《ビデオ・アーカイブス》のお姉さんがクラスにいることに、ひと月以上も気付かなかった有間クンが、それを言うんだ~」
ブホッッッッッッッッッッッッッッ!!
一際、大きな音を立て、『コーヒー吹いた』を後世のネットスラングとは異なる意味でリアルに体験させられる有間秀明。
「な、な、な……」
強烈なストレートパンチに、一発でリングに崩れ落ちた秀明に対し、亜莉寿は、さらに死体蹴りとも言える言葉を続ける。
標準語を話す人間特有のエセ関西弁のイントネーションで、
「普通、最初に見た時に気付かへん?有間サン、ちょっと鈍いんとちゃう?」
その言動が、関西人を最もイラつかせる行為であることを彼女が認識しているのか、秀明は知るよしもなかった。
……が、唖然としながらも、亜莉寿の様子をうかがうと、自分が発したセリフに受けているのか、それとも、彼女の目論みが上手くいったことに喜んでいるのか、目尻を人差し指で拭いながら、腹を抱えんばかりに笑っている。
今日は、いたくご機嫌やと思っていたら、こんな仕掛けを考えていたのか───。
(せ、性格ワルっ!!)
彼女の姿を見ながら、秀明は心の中で悪態をつくのが精一杯だった。
「あ~、面白かった。やっぱり、有間クンに『たんぽぽ娘』を読んでもらって正解だったな~」
クククッと、まだ笑いの余韻を引きずりながら亜莉寿は言う。
秀明は、やや憮然としながら、
「もしかして、いや、もしかしなくても、オレが『たんぽぽ娘』を読んで、どんな感想を言うか、最初から予想してたとか?」
と彼女に問う。
映画や小説の出来不出来に関わらず、秀明がストーリーなどに余計な茶々を入れる性格であることを、吉野亜莉寿なら想定していたハズだ。
「さぁ~、どうかな~?」
ニヤニヤと笑いながらはぐらかす亜莉寿の表情を見ながら、秀明は自分の問いが限りなく正解に近いであろうことと、その壮大な仕掛けに、ものの見事にハメられてしまったことを悟る。
「最初にお店で声を掛ける時に、《おとといは『ロジャーラビット』を借りる人を見たわ、きのうは『ディア・ハンター』、今日はあなた》って言っておけば、覚えててもらえたのかな?」
亜莉寿は無理筋な例えを出すが、
「いや、去年の夏には、まだ、この物語を知る前やから、そんなこと言われても意味がわからんと思うし……」
素で返答する秀明には、ユーモアを交える余裕はなかった。
「まず、率直な感想として、とても良いお話しでした。薦めてくれて、ありがとう」
と、口にする。
「どういたしまして。有間クンなら、気に入ってもらえると思ったから!」
この日は、顔を合わせた時から上機嫌の亜莉寿が嬉しそうに答える。
「『夏への扉』『ある日どこかで』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。やっぱり、タイムトラベル作品は、面白いモノが多いな~。あと、『たんぽぽ娘』は、クリストファー・リーヴの『ある日どこかで』に、ちょっと近い雰囲気が近いかな、って思った」
と秀明が雑感を述べると、
「確かに、そうね。タイムトラベルを行うのが、男女の違いはあるけど、古典的なタイムトラベル作品ということとロマンチックな雰囲気は、似ているかも」
亜莉寿が応じると、このタイミングで、注文したアイスコーヒーが運ばれてきた。
ガムシロップをアイスコーヒーのグラスに注ぎながら、亜莉寿は続けてたずねる。
「ねぇ、やっぱり男性は、ジュリーみたいな出会い方をした女の子のことは気になるものなの?」
「う~ん、まあ、最初の出会いで、『おとといは兎を見たわ。きのうは鹿、今日はあなた』やったっけ?ああいう可愛いことを言われたら、気になるんじゃない?」
亜莉寿は薄い笑みを浮かべながら、
「自分には愛する奥さんがいるとしても?」
とたずねる。
「いや、それは結婚してないオレには、答え様がないけど……」
苦笑して答える秀明に、
「まあ、恋人もいなさそうな有間クンに聞いてもムダだったかな?」
と悪戯っぽく笑う。
この数週間で亜莉寿との会話に慣れてきた秀明は、
「悪かったね。お役に立てなくて」
と軽くいなした。
「他には気になることとか無かった?」
と亜莉寿は、秀明の様子をうかがいながらたずねる。
「そうやね~。スゴくロマンチックで良いお話しに野暮なツッコミを入れるのアレやけど……」
秀明の言葉に
「アレやけど?」
と口調を真似て返す亜莉寿。
「うん、普通ジュリーを最初に見た時に誰か気付かへん?マークさん、ちょっと鈍いんとちゃう?」
秀明が答えるや満面の笑みを称えた亜莉寿は、彼がアイスコーヒーのストローに口を付けた瞬間を見計らい、勝ち誇った様に口にする。
「へ~、《ビデオ・アーカイブス》のお姉さんがクラスにいることに、ひと月以上も気付かなかった有間クンが、それを言うんだ~」
ブホッッッッッッッッッッッッッッ!!
一際、大きな音を立て、『コーヒー吹いた』を後世のネットスラングとは異なる意味でリアルに体験させられる有間秀明。
「な、な、な……」
強烈なストレートパンチに、一発でリングに崩れ落ちた秀明に対し、亜莉寿は、さらに死体蹴りとも言える言葉を続ける。
標準語を話す人間特有のエセ関西弁のイントネーションで、
「普通、最初に見た時に気付かへん?有間サン、ちょっと鈍いんとちゃう?」
その言動が、関西人を最もイラつかせる行為であることを彼女が認識しているのか、秀明は知るよしもなかった。
……が、唖然としながらも、亜莉寿の様子をうかがうと、自分が発したセリフに受けているのか、それとも、彼女の目論みが上手くいったことに喜んでいるのか、目尻を人差し指で拭いながら、腹を抱えんばかりに笑っている。
今日は、いたくご機嫌やと思っていたら、こんな仕掛けを考えていたのか───。
(せ、性格ワルっ!!)
彼女の姿を見ながら、秀明は心の中で悪態をつくのが精一杯だった。
「あ~、面白かった。やっぱり、有間クンに『たんぽぽ娘』を読んでもらって正解だったな~」
クククッと、まだ笑いの余韻を引きずりながら亜莉寿は言う。
秀明は、やや憮然としながら、
「もしかして、いや、もしかしなくても、オレが『たんぽぽ娘』を読んで、どんな感想を言うか、最初から予想してたとか?」
と彼女に問う。
映画や小説の出来不出来に関わらず、秀明がストーリーなどに余計な茶々を入れる性格であることを、吉野亜莉寿なら想定していたハズだ。
「さぁ~、どうかな~?」
ニヤニヤと笑いながらはぐらかす亜莉寿の表情を見ながら、秀明は自分の問いが限りなく正解に近いであろうことと、その壮大な仕掛けに、ものの見事にハメられてしまったことを悟る。
「最初にお店で声を掛ける時に、《おとといは『ロジャーラビット』を借りる人を見たわ、きのうは『ディア・ハンター』、今日はあなた》って言っておけば、覚えててもらえたのかな?」
亜莉寿は無理筋な例えを出すが、
「いや、去年の夏には、まだ、この物語を知る前やから、そんなこと言われても意味がわからんと思うし……」
素で返答する秀明には、ユーモアを交える余裕はなかった。
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