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遊馬友仁

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第9章~ロッキー・ホラー・ショー~⑤

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亜莉寿の言葉を聞いた秀明は、

「あっ、気分を害したならゴメン」

と謝ったあと、

「それと、聞きたいことがあるやけど……。今回の特別上映を含めて、『ロッキー・ホラー・ショー』をどんな風に観てたのかな?アリス店長の見解を聞かせてくれると嬉しいんやけど……」

と続けて言う。

「う~ん、そうね。この作品には、二つの大きなテーマがあるんじゃないかなって、私は考えてるの。一つは、メジャーよりマイナー、マジョリティよりマイノリティという感じの《制作者を含めた少数派の人たちへの讃歌》。もう一つは、さっきも言った《抑圧からの解放》かな」

いつもの様に、理路整然と話す亜莉寿に感心しながら、秀明は問い掛ける。

「《少数派の人たちを讃える》っていうのは、冒頭の『サイエンスフィクション/二本立て』のこと?アレって、B級映画へのオマージュやんな?」
「そう!モノクロ映画時代からの怪物映画やSF映画なんかのB級映画に対する想いと自分たちの境遇を重ね合わせた歌なんじゃないかな?映画でもリフ・ラフ役を演じているリチャード・オブライエンが、ミュージカルの作詞・作曲も担当しているんだけど、彼は作品の執筆当時、売れない俳優だったし、なおかつ同性愛者みたいだから……」

秀明の問いに答える亜莉寿。

「なるほど、それは何となくわかる気がする。あのオープニングって、映画が始まる期待感と同時に、何か物悲しさみたいなモノも感じるもんね。昔とは意味が違うと思うけど、二本立て映画を良く観に行くから、あの歌は、泣けてくるモノがあるから……。《抑圧からの解放》を象徴する楽曲は、やっぱり『タイムワープ』?」

続けざまの秀明の問い掛けに、亜莉寿は答える。

「そう!なんだけど……。その前に、個人的に気に入っているのが、『Over at The Frankenstein Plase』に、There's a light, light In the darkness of everybody’s lifeっていう歌詞があって、《誰の人生にもある闇の中に、光りを見つけた》という意味なのかな、って考えてるんだ。だから、あのシーンで、今日の特別上映のときにペンライトが光り出したのを見て、涙が出そうになっちゃって……」
「それって、『フランケンシュタイン屋敷に』の歌詞だっけ?あのシーンは、幻想的で良かったよね」

秀明が同意すると、我が意を得たという感じで亜莉寿は、再び語り始めた。

「うん!あの暴風雨の中で洋館を見つけるシーンは、『退屈だったり、ツラい日常を過ごしているジャネットやブラッドの様な多数派の人たちが見つける希望の光りは、洋館の人たちが象徴する少数派の価値観の中にこそある』ということを表していると思うんだ」

彼女の答えに、秀明は感心した様に「そっか~!」と声を挙げる。

「それが、洋館での『タイムワープ』の解放感に繋がるのか!」

亜莉寿の見解を聞き、荒唐無稽に思えた『ロッキー・ホラー・ショー』のストーリーが巧みに構成されている様に、秀明には感じられる。
良くわからないと感じていた疑問がキレイに氷解したことで、彼は感動に似た想いを覚えていた。

(やっぱり、亜莉寿と話すのは、刺激的でメチャクチャ面白い!)

あらためてそう感じた秀明が、

「まあ、嵐の中で見つけた希望が、フルター博士の館というのは、何とも皮肉という気もするけど……」

と苦笑い交じりに言うと、亜莉寿も

「あのシーンは、本場のアメリカではライターで灯りを点しているらしいよ。映画館で、ちょっと危険すぎない?」

と海外での盛り上がりぶりを語って笑う。
いつもの二人の様に、いや、この日は、それ以上に会話が弾む。

「今日の一番の思い出は、やっぱり『タイムワープ』のダンスかな?もし、どこかで、この曲のイントロが流れるのを聞いたら、それだけで踊り出したくなるくらいにハマったわ」

と、秀明。

「大げさ!でも、本当に楽しかったね!他のお客さんも、すっごくノリが良かったし!」

亜莉寿が言うと、秀明は

「特に、リフ・ラフとマジェンタの人たちは、スゴかったな~。今日は、あんな感じだったけど、あの人たちも、普段はサラリーマンとかOLサンとして、真面目に働いてるんやろうか?」

と感じていた疑問を口にした。

「案外、そうかも……」

亜莉寿は、つぶやく様に言って笑う。

「だとしたら、まさに《抑圧からの解放》を体現してくれてるな」

そう言って、つられる様に秀明も笑った。

「でも、やっぱり一番目立ってたのは、フランクン・フルター博士じゃない?」

と亜莉寿。

「アレは、反則ちゃう!?ボンテージに網タイツって、自分を解放し過ぎやわ!ビッグステップの前で、フルター博士を見掛けた時は、亜莉寿と一緒じゃなかったら帰ろうかと思ったもん」

大仰に話す秀明に、亜莉寿は、「もう、また大げさに話して」と笑いながら言い、

「でも、あのフランクン・フルター博士の仮装をしてたヒト、それなりの年齢だった感じなんだよね。もしかしたら、会社勤めで、何人も部下をかかえている部長さんとかかも……」

と付け加えた。
秀明も、亜莉寿の言葉に乗り掛かる。

「う~ん、もしそうだとしたら、その部長さんの部下になるのは良いことなのか、どうなのか……。仕事でミスしたら、エディみたいに斧で殴られたりするんかな?」
「フランクン・フルター博士の元で働くのは大変そうね。あっ!だから、リフ・ラフとマジェンタは嫌気がさして、故郷に帰っちゃうのか……」

亜莉寿は、一人言の様につぶやいて、納得していた。
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