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第11章~いつかのメリークリスマス~④
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ビデオショップから、亜莉寿の住むマンションに徒歩で向かう中、緊張のためか二人の言葉数は少ない。
その緊張感を破ろうと、秀明は気になっていたことをたずねた。
「さっき、電話を掛けてきてくれたのは、自宅からじゃなかったと思うけど……。ウチの電話番号覚えてたん?」
「う~ん……。何かあったら、有間クンに連絡しようと思っていたから───。お家の電話番号をメモしておいたんだ。ゴメンね。迷惑を掛けて」
亜莉寿は、申し訳なさそうに答えた。
彼女の言葉に、
「いや、迷惑とかじゃないから!亜莉寿に頼ってもらえるなら、嬉しいと思うよ」
秀明は、慌てて返答する。
亜莉寿に頼ってもらえるなら───。
それは、確かに彼の本心だった。
(そこまで思ってもらえているなら……)
亜莉寿の両親との対面を前にして、緊張感とともに、どこからかチカラが湧いて来るのを感じた。
それでも、気合いが空回りしないために、あえて、こんなことを口にする。
「でもさ、自分の進路のことで、両親と対峙するって……。この状況って、ちょっとジョン・ヒューズの映画っぽくない?いや、こんなこと考えてしまうのは、亜莉寿に失礼だったかな?」
秀明の言葉に、亜莉寿は少し沈黙したあと、
「……うん。確かに、客観的に見たら、そんな風に言えるかも。一人で悩んでた時は気づかなかったな」
固い表情を崩して答えた。
「少しは、緊張がほぐれた?」
秀明が聞くと、
「どうだろう?でも、少し気が楽になったかな?」
亜莉寿は、そう答えて微笑んだ。
そんな会話を交わしながら歩き、二人は亜莉寿の住むマンションに到着する。
(夏休みにここに来て、帰宅した時と大して時刻は変わらないのに、あの時とは雰囲気が全然違うな……)
秀明が感じた様に、西日は、とうに山の稜線の向こうに沈み、あたりは暗くなっていた。
先ほどの会話で少し気がまぎれたのか、二人は、程よい緊張感でマンションの敷地に入り、エントランスを抜け吉野家のドアの前に立つ。
亜莉寿は、ドアホンを一度鳴らしてから、玄関のドアを開けた。
「ただいま」
帰宅を告げる亜莉寿と秀明が玄関に入ると、ドアホンの音を聞いたのか、リビングに続く廊下の向こうから亜莉寿の父・明博が歩いてきた。
亜莉寿の叔父である裕之よりも少し背が高く、体型もいくぶんスリムに見えるが、顔立ちや雰囲気などは、弟と似ている部分もあった。
秀明は、その姿を見て、すぐに
「はじめまして!亜莉寿さんと同じクラスの有間です」
と、直立不動で、あいさつをする。
その様子を見た明博は、
「あぁ、玄関先で、そんなにかしこまらないで。寒かっただろう?さあ、中に入って」
と笑顔で出迎えてくれた。
亜莉寿の父の柔和な表情に、秀明は緊張がほぐれるのを感じた。
廊下の途中にある洗面所で手を洗わせてもらい、博明と亜莉寿に続いて秀明もリビング・ルームに移動する。
二十畳近くはあろうかという広いリビングは、暖房が効いていて、室外との気温差で汗ばむほどの温かさに感じられた。
広い室内のキッチンのそばには、ダイニングテーブル、その奥のテラス側にはソファーとセットのテーブルが配置されている。
亜莉寿と秀明は、長いソファーに隣り合って座り、母親の真莉は亜莉寿の向かいの一人掛け用ソファーに、父親の博明は亜莉寿と真理に挟まれた斜めの位置のソファーに腰掛ける。
テーブルの上には、温かい紅茶が用意されていた。
「あの……。ご家族の大切なお話しにお邪魔して、すいません」
秀明が、あらためて博明に向かって謝罪の言葉を口にすると、
「いやいや!どうやら、お友達が居てくれた方が亜莉寿も話しやすいみたいだからね。こちらこそ、わざわざ休日に付き合ってもらって申し訳ない」
と、亜莉寿の父は、気さくな感じで応対してくれる。
博明の言葉に緊張を解きかけたが───。
一方の母親・真莉をうかがうと、表情は固く、無言を貫いたままだ。彼女の様子を見て、秀明は、あらためて背筋を伸ばした。
室内が緊張感に包まれそうになるタイミングを見計らったのか、博明は穏やかな口調で切り出した。
「それで、落ち着いて話しは出来る様になったかい?亜莉寿」
父の言葉に、「うん……」と、うなずくと、亜莉寿は静かに語りだした。
その緊張感を破ろうと、秀明は気になっていたことをたずねた。
「さっき、電話を掛けてきてくれたのは、自宅からじゃなかったと思うけど……。ウチの電話番号覚えてたん?」
「う~ん……。何かあったら、有間クンに連絡しようと思っていたから───。お家の電話番号をメモしておいたんだ。ゴメンね。迷惑を掛けて」
亜莉寿は、申し訳なさそうに答えた。
彼女の言葉に、
「いや、迷惑とかじゃないから!亜莉寿に頼ってもらえるなら、嬉しいと思うよ」
秀明は、慌てて返答する。
亜莉寿に頼ってもらえるなら───。
それは、確かに彼の本心だった。
(そこまで思ってもらえているなら……)
亜莉寿の両親との対面を前にして、緊張感とともに、どこからかチカラが湧いて来るのを感じた。
それでも、気合いが空回りしないために、あえて、こんなことを口にする。
「でもさ、自分の進路のことで、両親と対峙するって……。この状況って、ちょっとジョン・ヒューズの映画っぽくない?いや、こんなこと考えてしまうのは、亜莉寿に失礼だったかな?」
秀明の言葉に、亜莉寿は少し沈黙したあと、
「……うん。確かに、客観的に見たら、そんな風に言えるかも。一人で悩んでた時は気づかなかったな」
固い表情を崩して答えた。
「少しは、緊張がほぐれた?」
秀明が聞くと、
「どうだろう?でも、少し気が楽になったかな?」
亜莉寿は、そう答えて微笑んだ。
そんな会話を交わしながら歩き、二人は亜莉寿の住むマンションに到着する。
(夏休みにここに来て、帰宅した時と大して時刻は変わらないのに、あの時とは雰囲気が全然違うな……)
秀明が感じた様に、西日は、とうに山の稜線の向こうに沈み、あたりは暗くなっていた。
先ほどの会話で少し気がまぎれたのか、二人は、程よい緊張感でマンションの敷地に入り、エントランスを抜け吉野家のドアの前に立つ。
亜莉寿は、ドアホンを一度鳴らしてから、玄関のドアを開けた。
「ただいま」
帰宅を告げる亜莉寿と秀明が玄関に入ると、ドアホンの音を聞いたのか、リビングに続く廊下の向こうから亜莉寿の父・明博が歩いてきた。
亜莉寿の叔父である裕之よりも少し背が高く、体型もいくぶんスリムに見えるが、顔立ちや雰囲気などは、弟と似ている部分もあった。
秀明は、その姿を見て、すぐに
「はじめまして!亜莉寿さんと同じクラスの有間です」
と、直立不動で、あいさつをする。
その様子を見た明博は、
「あぁ、玄関先で、そんなにかしこまらないで。寒かっただろう?さあ、中に入って」
と笑顔で出迎えてくれた。
亜莉寿の父の柔和な表情に、秀明は緊張がほぐれるのを感じた。
廊下の途中にある洗面所で手を洗わせてもらい、博明と亜莉寿に続いて秀明もリビング・ルームに移動する。
二十畳近くはあろうかという広いリビングは、暖房が効いていて、室外との気温差で汗ばむほどの温かさに感じられた。
広い室内のキッチンのそばには、ダイニングテーブル、その奥のテラス側にはソファーとセットのテーブルが配置されている。
亜莉寿と秀明は、長いソファーに隣り合って座り、母親の真莉は亜莉寿の向かいの一人掛け用ソファーに、父親の博明は亜莉寿と真理に挟まれた斜めの位置のソファーに腰掛ける。
テーブルの上には、温かい紅茶が用意されていた。
「あの……。ご家族の大切なお話しにお邪魔して、すいません」
秀明が、あらためて博明に向かって謝罪の言葉を口にすると、
「いやいや!どうやら、お友達が居てくれた方が亜莉寿も話しやすいみたいだからね。こちらこそ、わざわざ休日に付き合ってもらって申し訳ない」
と、亜莉寿の父は、気さくな感じで応対してくれる。
博明の言葉に緊張を解きかけたが───。
一方の母親・真莉をうかがうと、表情は固く、無言を貫いたままだ。彼女の様子を見て、秀明は、あらためて背筋を伸ばした。
室内が緊張感に包まれそうになるタイミングを見計らったのか、博明は穏やかな口調で切り出した。
「それで、落ち着いて話しは出来る様になったかい?亜莉寿」
父の言葉に、「うん……」と、うなずくと、亜莉寿は静かに語りだした。
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