シネマハウスへようこそ

遊馬友仁

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第12章~(ハル)~④

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♤「IBC!」
♢「『シネマハウスへようこそ!』」

BGM:ロバート・パーマー『Addicted to Love』

♤「新年あけましておめでとうございます!『シネマハウスへようこそ』館長のアリマヒデアキです」
♢「ビデオショップ『レンタル・アーカイブス』店長のヨシノアリスです」
♤「三学期も無事に放送を迎えることが出来ました!年末年始に掛けて、劇場映画から、レンタルビデオ、テレビ放送の映画作品、と普段より映画を観てもらう機会も多かったのではないかと思うのですが……」
♢「みんな、どんな映画を観ていたんでしょうね?」
♤「十二月に、この番組で紹介した映画が少しでも参考になってると嬉しいんですけどね(笑)」
♢「去年の年末公開の映画は、シリーズものの大作から、ミニ・シアター系の作品まで、面白い映画が、たくさんあったから───」
♤「はい!そして、一九九六年も去年に負けないくらい年明けから、興味深い作品が、目白押しなんです!」
♢「個人的には、ディカプリオの『バスケットボール・ダイアリーズ』とブラッド・ピットの『セブン』は、絶対に外せないと思うので!!」
♤「あ~、アリス店長『バスケットボール・ダイアリーズ』とか好きそうやもんね(苦笑)」
♢「え !?何か問題でも(微笑)?」
♤「いえいえ、とんでもございません!あと、今回は番組の後半にアリス店長から重要なお知らせがあるので、今日も最後まで、お楽しみ下さい!」

BGM:デヴィッド・デクスターD『Oh la la Tequila』

♢「IBC『シネマハウスへようこそ』は、映画の最新情報を放送室から、お送りしています!」



♢「ウィークリー・ニュー・シネマ!」

BGM:エリック・セラ『Let Them Try』

♤「新年一回目の作品は、去年の秋に宣言した『もう恋愛映画は、この番組では取り上げない!』という公約を破って、恋愛をテーマにした映画を紹介させていただきます」

BGM:映画『(ハル)』サウンドトラック『Overture』

♤「寒い冬に、心が暖まる様な音楽が流れて来ました。今回、取り上げたいのは、日本映画の『(ハル)』という作品です。またまた『地味な映画やね~』と、各方面から言われそうなんですが……(苦笑)」
♢「一月は、興味深い映画がたくさんあるって言ってたのに(笑)」
♤「しかも、三月公開予定と、かなり前倒しでの紹介になっちゃいます───。ただ、この映画は、新しい時代を予言して、ある意味で、これからの時代の象徴的な映画になるかも知れない!と思ったので、強引に新年第一弾の作品にさせてもらいました」
♢「今回も、思い入れが強そうね(笑)」
♤「そうですね(笑)去年は年末に、パソコンのOS・Windows95が発売されたり、その直前に公開された『攻殻機動隊』や近日公開予定の邦題もズバリの『ザ・インターネット』など、これまで一般的でなかったパソコン通信やインターネットの世界が、グッと身近になって来た感じがするんですけど―――。たまたま偶然かも知れませんが、この映画は本当にタイムリーな内容だな、と……」
♢「じゃあ、ストーリーを紹介しましょうか?」
♤「はい!内野聖陽さん演じる物語の主人公・速見昇は、学生時代にアメフトの選手として活躍していたんですが、腰の持病が悪化してからは、社会人選手としての選手生活を断念して、東京で平凡なサラリーマンとして夢を見失った様な生活を送っています」
♢「美人の彼女もいて、仕事も順調そうなのに、男のヒトって、それだけじゃ物足りないのかな?」
♤「あれは、スポーツで挫折した体育会系のヒトならではの悩みかも。自分は、体育会系の人間ではないから断言はできないけど(笑)ストーリーに話しを戻すと、主人公の速見は、ある日、パソコン通信の映画好きが集まる《映画フォーラム》にアクセスして、本名『ハヤミノボル』の最初と最後の文字を取って『(ハル)』というハンドルネームでフォーラムに参加します」
♢「あの映画フォーラムの集まりって、何だか面白いね!遠くにいるヒトとも、文字で映画の感想を伝えあったりできるし!」
♤「短文にはなってしまうけど、この番組で三人でワチャワチャ話してるのと、あまり変わらないノリって気もするんやけどね(笑)映画フォーラムで、(ほし)というハンドルネームのユーザーと意気投合した速見は、他のユーザーが加わるフォーラムでの会話を離れて、(ほし)と二人でのメールの交流を始めます」
♢「あのお互いに、一日一通だけ相手から送られてくるメールを楽しみにする感覚って、何かイイよね~」
♤「ちょっと古い例えやけど、交換日記をするのって、あんな感覚なんですかね?交換日記をしたことないから、わからないけど(笑)素顔を明かさないまま交流を続ける二人は、お互いに相手の誠実なメールの文面にひかれて、自分たちの悩みごとなども相談し合うようになります。しかし、(ハル)の相手をする(ほし)の正体は───」
♢「それまで自称していた男性じゃなくて、深津絵里さんが演じる藤間美津江という岩手の盛岡に住んでいる女性なんです!勿体ぶったアリマ館長のストーリー解説と違って、映画を観ているヒトには、(ほし)の正体は、すぐにわかるようになっているんですけどね(笑)」
♤「『勿体ぶった』って!ストーリーに興味を持ってもらおうと盛り上げてるのに(笑)映画に話しを戻しますよ。(ハル)だけでなく、(ほし)もまた、過去の体験から、心に傷を抱えて仕事を転々と変える日々を送っていたりします。(ほし)が男性と偽っていたと打ち明けたあとも、二人の信頼関係は崩れることなく、交流は続くのですが───。というのが、前半のストーリーの流れです」
♢「田舎暮らしの(ほし)が、『パソコン通信でのコミュニケーションの中に、居場所を見つけている』ってところが、また胸を打つ感じで……」
♤「公開時期まで期間があるので、もう少し内容にふみこむと、(ほし)は、過去に恋人と悲しい別れがあって、心に傷を負っているんですが、その後に彼女に近寄って来るオトコが、まあ、ロクでもない(笑)!竹下宏太郎さん演じる(ほし)に付きまとう戸部って男は、完全に、いま流行りの《ストーカー》ってヤツやからね!」
♢「《ストーカー》が流行ってたら、困るんだけど(苦笑)でも、偶然なのか、最近の映画やドラマでストーカー的なキャラクターが話題を集め出した、今の時期にタイムリーな役だなっていうのはあるかな。森田監督は脚本を執筆した段階から、こういう人間の異常性を描きたかったのかも知れないね」
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