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遊馬友仁

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第13章~今夜はトークハード~⑧

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♢「この曲を聞いて感化されたリスナーであるお嬢様が、ドライヤーを放り込んで自宅の電子レンジを爆発させたり、お調子者の生徒が教師を出し抜いて放送室を占拠したり、規模が大きいのか小さいのか良くわからない暴動が起きたりして……(笑)」
♤「まあ、日本人である自分たちには、この曲の歌詞がダイレクトに響くかというと微妙なところなので、尾崎豊の曲がラジオから流れてきて、影響を受けた学生が、夜の教室のガラスを割って回ったり、盗んだバイクで走り出したりする姿がコミカルに描かれることを想像してもらえると、少しは雰囲気が伝わるかな?いや、尾崎の歌をコミカルに描いたら、問題かも知らんけど(笑)」
♢「でも、この程度のことで、騒ぎが大きくなってしまって、当のハンフリー高校だけでなく、マスメディアや警察を巻きこんで、《ハリー》を追いかける展開に……。追い詰められた《ハリー》は、ノーラの運転するジープに放送用の機材を積み込んで同乗し、逃走しながら、ラジオの実況放送を続けるの」
♤「こういうところが、アメリカ文化とハリウッド映画のカッコいいところというか───。日本じゃ女子高生がクルマを運転して逃走の手助けをするなんて、実写映画では、現実的に描ききれないもんね(苦笑)」
♢「そうだね(笑)そして、ついに生徒たちがラジオを聞くために集まっている広場にたどり着いた《ハリー》は、みんなの前で正体を明かして、大演説!」
♤「ここの熱い熱いセリフも、『ビデオをレンタルして、確認!』ですか(笑)?」
♢「うん!私が話すよりも、きっと実際に観てもらう方が、映画のメッセージが、伝わると思うから……。海賊放送を行った罪で警察に逮捕されるハリーは《トーク・ハード!(懸命に語れ)》と絶叫して、それを見守る生徒たちも涙ぐみながら、『お前のことは忘れないぞ!!』と言って見送るの」
♤「そして、ラストは《ハッピー・ハリー》に共感した全米の十代たちが、一斉に海賊放送を始めて、革命が起きる予感を匂わせて、画面が暗転。この曲が掛かりながら、エンディングに突入する、と───」

BGM:スライ&ザ・ファミリー・ストーン『STAND』

♢「この『スタンド』という曲にも、この映画ならではのメッセージが込められていると思うから、ちょっと歌詞を紹介させてもらいます」
♤「では、アリス店長が和訳してくれた歌詞を代読させていただきます。

立ち上がれ
最後には結局、君は君なんだ
君がなろうとしてきた君なんだ
立ち上がれ
背負わければいけないものがある
どこかに向かっているときは
乗り越えなければいけないものがある

立ち上がれ
君にとって正しいことのために
本当の真実は世の中を揺るがす
立ち上がれ
君が求めるものはすべて本物
実現させるのは自分次第

立ち上がれ!

立ち上がれ
いつまで座っているんだ?
永遠のしわが正解と不正解の間にある
立ち上がれ
立派に立っている小人の横で
巨人は今にも倒れそうだ

立ち上がれ!

立ち上がれ
筋が通ったことをしていたって
這いつくばらなきゃいけないときもある
立ち上がれ
君は自由なんだ
少なくとも自分がそうだと信じていれば
君の精神は自由になる
みんな立ち上がれ!

──────いや、今回のアリス店長の熱い語りと歌詞の意味がリンクして、思わず、涙ぐみそうになりながら読んでしまいました」
♢「有間クン、ご協力ありがとう。学校の校内放送で、この映画を取り上げることに、迷いもあったんだけど、やっぱり紹介できて良かったな、と思います」
♤「今回は、珍しくストーリーのネタバレ全開!関西ラジオ界の大御所・浜村淳御大の方式で語ってくれましたね(笑)」
♢「ストーリーを全部話してしまってゴメンナサイ。でも、この映画が伝えようとするメッセージは、ぜひ、実際に作品を観て、受け取ってもらえたら嬉しいです。今年の初めに、アリマ館長が『(ハル)』を紹介した時に、パソコン通信やメールでのコミュニケーションが、利用するヒトを変えていく可能性がある、って言ってたじゃない?」
♤「あ~、そんな話をさせてもらったね」
♢「私は、メールの様な一対一のコミュニケーションだけじゃなくて、今よりもっとインターネットが一般的になったら、この映画の《ハッピー・ハリー》みたいに、音声や映像を使って、自分自身の意見や考え方を発信できる時代が来ると思うんだ」
♤「うん、確かに、パソコンのスペックアップと小型化が進んで、ネットワーク技術が進歩すれば、あと十年もたたずに音声や動画の発信もできる様になるかも!」
♢「そういう時代が来た時に、この映画のハリーの様に、誰かに流されるんじゃなくて、みんなが自分自身の意見を発信できる様になればイイな、って思うの。そして、いま、この放送を聞いてくれているヒトの中に、学校や部活動、それだけじゃなくて、将来の進路や家族との関係、その他のことで不満に思ったり、不安に感じていることがあるヒトがいたら、この映画を観て何か感じ取ったり、勇気をもらえたりするんじゃないかと思います」
♤「うん、ホントにそうやね……」
♢「私は、映画を観たり、小説を読んだりするのが、好きなんですが───。その理由の一つに、映画や小説のストーリーと色々な登場人物の言葉や行動を通じて、あり得るかも知れない人生のシュミレーションを行えるから、ということがあるんです。この放送を聞いてくれている皆さんが、何か人生で迷ったときや悩んだときに、これまで私たちが紹介した映画を思い出して、心の支えになることがあれば、本当に嬉しいな、と思います。そういう想いで、この十ヶ月間、『シネマハウスにようこそ!』に出演させていただきました。自分の想いばかりが先行して、拙い紹介になった部分もあると思いますが、今まで聞いていただいて、本当にありがとうございました」
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