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第六部
プロローグ〜ヒロインレースはもうお終いにしませんか?〜
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8月9日(水)
~黄瀬壮馬の見解~
モキュメンタリー映像の制作騒動から、一週間弱が経過したこの日、ボクは広報部の部長である花金鳳華先輩に呼ばれ、夏休み中であるにもかかわらず、放送室を訪問することになった。
自覚は無かったけれど、体力が低下しているのに、撮影や編集作業で無理をしたためか、軽い熱中症に罹ってしまったものの、体調はすっかり良くなっていた。親友が言うには、
「牛女のことを考えなくなったからだよ」
とのことだが、そうしたオカルトめいた考え方は自分には合わない……と、あらためて感じる。
ただ、受け入れがたいこではあるけど、ボク自身が、架空の怪異的存在にとり憑かれてしまっていたことは、事実として認めなければいけないだろう。もちろん、オカルトチックなことではなく、動画をバズらせることばかりに気を取られて視野が狭くなり、大事なことが見えなくなってしまった、ということなんだけど……。
(認めたくないものだな、自分自身の、若さ故の過ちというものを……)
伝説のアニメの第一話で少佐が語ったセリフを思い出しながら、校舎に到着したボクは、人気のない廊下を進み、放送室のドアをノックする。
防音対策が施された室内から声は返ってこなかったけど、
「失礼します」
と声をかけて放送室に入室すると、そこには、鳳華部長以外に、意外な部外者の姿があった。
「あっ、黄瀬くん! 夏休み中なのに、お疲れさま。体調はもう大丈夫なの?」
ボクの姿を見るなり、そう声をかけてきたのは、生徒会長にして、吹奏楽部の副部長を務める寿美奈子先輩だった。
てっきり、放送室には鳳華先輩が一人で待っているものだと思いこんでいたボクは、不意を突かれた感じになってしまい、
「えっ、あっ、はい! ご迷惑を掛けてしまって申し訳ありません!」
と、ぴょこんと頭を下げながら、ちょっと見当違いの返事をしてしまう。
そんな返答に、上級生の女子生徒は、ハッハッハと豪快に笑いながら、言い切った。
「別に私たちは迷惑は掛けられてないけどね! 黄瀬くんのことを心配していたのは事実だから、元気になったみたいで良かったよ」
「あっ、ご心配をお掛けして、本当にすみませんでした」
今度は、最敬礼でお詫びの言葉を述べると、寿先輩は、
「相変わらず、生真面目だな~。黄瀬くんは……」
と、またも、ハハッと笑顔を見せる。そんな友人の姿を見ながら、一方の鳳華先輩は、穏やかな笑みを浮かべながら、そっと、頬に手をあてた。
「それが、彼の長所だからね。たまに、それが原因で周りが見えなくなっちゃうこともあるけど……」
そんな上級生の仕草と言葉が、本当にボクのことを気に掛けてくれていたように感じられ、ボクは、あらためて我が広報部の部長である先輩に言葉を返す。
「鳳華先輩には、大きなご迷惑とご心配を掛けて、本当に申し訳ありませんでした」
「イイのよ。貴方は、そんなことを気にしなくても」
鳳華先輩は、優しく声をかけてくれるけど―――。
「その分、明日から、しっかりと働いてもらおうと思っているから……」
フフフ……と、微笑みながら、彼女はボクの今後の行動に、きっちりと釘を刺すことを忘れなかった。
そんな先輩の想いを感じながら、竜司と同じく、彼女には絶対に逆らえないボクは、即答する。
「はい! これまで以上に馬車馬のように働きます」
「おやおや……病み上がりの下級生をこき使うなんて……広報部の部長兼生徒会副会長は、本当に悪いヒトだね~」
寿先輩は、冗談めかした口調でそんなことを言うけど、指摘を受けた当の鳳華先輩本人は、表情を変えないままで友人の言葉をスルーして、彼女に返答する。
「そんなことより、さっきまで話していたことについて、黄瀬くんにも聞いてみれば? その方面のことは、私じゃチカラになってあげられないから、色んな生徒に助言を求めるのもありだと思うの」
こんな風に鳳華部長の言葉を受けた寿先輩は、なにやら意味深長な笑みを浮かべながら、なんだかよくわからないことについて、一人で納得している。
「む~! また話を反らした! でも、そうだね、可愛い後輩ちゃんのためだ。ここは、当事者の一人と仲の良い黄瀬くんにも聞いてみよう」
「なんですか? ボクに聞きたいことって」
「ん~、そうだな~。当事者に近しい人にストレートにたずねるのは、色々と問題がありそうだから、例え話で勘弁してね。いま、私が推してる後輩の女子が、とあるレースに出場してるんだけど……他の女の子に比べて、出遅れちゃってる感じなんだよね~。私としては、秋の季節くらいまでに、ここから巻き返しを図って欲しいと考えているんだけど―――。黄瀬くんは、どうすれば良いと思う?」
突然の質問に面食らいながら、しばらく、考えたボクは、額に指を当てながら、「う~ん」とうなって返答する。
「その、とあるレースというのは、ラブコメ漫画やライトノベルで言うところのヒロインレース的なものと解釈して良いんでしょうか?」
「ん? ヒロインレースって、そんな言葉があるんだ? マンガのことは良くわからないけど……でも、多分、その考え方で合ってるよ」
そんな寿先輩の返答を受けて、ボクはまたも、「う~ん」と言葉を発してから、スマホを取り出した。
「レース的なことで言えば、この動画を見てもらえませんか? ここに、ヒントがあるかも知れません」
そう告げたあと、ボクはYourTubeのアプリをタップして、中央競馬で行われた過去の日本ダービーのレース映像を再生させた。
~黄瀬壮馬の見解~
モキュメンタリー映像の制作騒動から、一週間弱が経過したこの日、ボクは広報部の部長である花金鳳華先輩に呼ばれ、夏休み中であるにもかかわらず、放送室を訪問することになった。
自覚は無かったけれど、体力が低下しているのに、撮影や編集作業で無理をしたためか、軽い熱中症に罹ってしまったものの、体調はすっかり良くなっていた。親友が言うには、
「牛女のことを考えなくなったからだよ」
とのことだが、そうしたオカルトめいた考え方は自分には合わない……と、あらためて感じる。
ただ、受け入れがたいこではあるけど、ボク自身が、架空の怪異的存在にとり憑かれてしまっていたことは、事実として認めなければいけないだろう。もちろん、オカルトチックなことではなく、動画をバズらせることばかりに気を取られて視野が狭くなり、大事なことが見えなくなってしまった、ということなんだけど……。
(認めたくないものだな、自分自身の、若さ故の過ちというものを……)
伝説のアニメの第一話で少佐が語ったセリフを思い出しながら、校舎に到着したボクは、人気のない廊下を進み、放送室のドアをノックする。
防音対策が施された室内から声は返ってこなかったけど、
「失礼します」
と声をかけて放送室に入室すると、そこには、鳳華部長以外に、意外な部外者の姿があった。
「あっ、黄瀬くん! 夏休み中なのに、お疲れさま。体調はもう大丈夫なの?」
ボクの姿を見るなり、そう声をかけてきたのは、生徒会長にして、吹奏楽部の副部長を務める寿美奈子先輩だった。
てっきり、放送室には鳳華先輩が一人で待っているものだと思いこんでいたボクは、不意を突かれた感じになってしまい、
「えっ、あっ、はい! ご迷惑を掛けてしまって申し訳ありません!」
と、ぴょこんと頭を下げながら、ちょっと見当違いの返事をしてしまう。
そんな返答に、上級生の女子生徒は、ハッハッハと豪快に笑いながら、言い切った。
「別に私たちは迷惑は掛けられてないけどね! 黄瀬くんのことを心配していたのは事実だから、元気になったみたいで良かったよ」
「あっ、ご心配をお掛けして、本当にすみませんでした」
今度は、最敬礼でお詫びの言葉を述べると、寿先輩は、
「相変わらず、生真面目だな~。黄瀬くんは……」
と、またも、ハハッと笑顔を見せる。そんな友人の姿を見ながら、一方の鳳華先輩は、穏やかな笑みを浮かべながら、そっと、頬に手をあてた。
「それが、彼の長所だからね。たまに、それが原因で周りが見えなくなっちゃうこともあるけど……」
そんな上級生の仕草と言葉が、本当にボクのことを気に掛けてくれていたように感じられ、ボクは、あらためて我が広報部の部長である先輩に言葉を返す。
「鳳華先輩には、大きなご迷惑とご心配を掛けて、本当に申し訳ありませんでした」
「イイのよ。貴方は、そんなことを気にしなくても」
鳳華先輩は、優しく声をかけてくれるけど―――。
「その分、明日から、しっかりと働いてもらおうと思っているから……」
フフフ……と、微笑みながら、彼女はボクの今後の行動に、きっちりと釘を刺すことを忘れなかった。
そんな先輩の想いを感じながら、竜司と同じく、彼女には絶対に逆らえないボクは、即答する。
「はい! これまで以上に馬車馬のように働きます」
「おやおや……病み上がりの下級生をこき使うなんて……広報部の部長兼生徒会副会長は、本当に悪いヒトだね~」
寿先輩は、冗談めかした口調でそんなことを言うけど、指摘を受けた当の鳳華先輩本人は、表情を変えないままで友人の言葉をスルーして、彼女に返答する。
「そんなことより、さっきまで話していたことについて、黄瀬くんにも聞いてみれば? その方面のことは、私じゃチカラになってあげられないから、色んな生徒に助言を求めるのもありだと思うの」
こんな風に鳳華部長の言葉を受けた寿先輩は、なにやら意味深長な笑みを浮かべながら、なんだかよくわからないことについて、一人で納得している。
「む~! また話を反らした! でも、そうだね、可愛い後輩ちゃんのためだ。ここは、当事者の一人と仲の良い黄瀬くんにも聞いてみよう」
「なんですか? ボクに聞きたいことって」
「ん~、そうだな~。当事者に近しい人にストレートにたずねるのは、色々と問題がありそうだから、例え話で勘弁してね。いま、私が推してる後輩の女子が、とあるレースに出場してるんだけど……他の女の子に比べて、出遅れちゃってる感じなんだよね~。私としては、秋の季節くらいまでに、ここから巻き返しを図って欲しいと考えているんだけど―――。黄瀬くんは、どうすれば良いと思う?」
突然の質問に面食らいながら、しばらく、考えたボクは、額に指を当てながら、「う~ん」とうなって返答する。
「その、とあるレースというのは、ラブコメ漫画やライトノベルで言うところのヒロインレース的なものと解釈して良いんでしょうか?」
「ん? ヒロインレースって、そんな言葉があるんだ? マンガのことは良くわからないけど……でも、多分、その考え方で合ってるよ」
そんな寿先輩の返答を受けて、ボクはまたも、「う~ん」と言葉を発してから、スマホを取り出した。
「レース的なことで言えば、この動画を見てもらえませんか? ここに、ヒントがあるかも知れません」
そう告げたあと、ボクはYourTubeのアプリをタップして、中央競馬で行われた過去の日本ダービーのレース映像を再生させた。
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