397 / 454
第六部
第1楽章~アレグロ~➀
しおりを挟む
8月10日(木)
~黒田竜司の見解~
朝から夏らしい快晴に恵まれたことに、喜びと軽い絶望を感じながら、オレはJR石宮駅の改札前に立っていた。
JR線では高校からの最寄り駅となるこの駅は、幸いなことに、改札口が地上より一段下にあって、地下改札のようになっているため、直射日光を避けられる構造になっている。
何年も前から、灼熱のような夏の暑さには、あきれるより他ないと感じていたが、連日のように、午前7時前から摂氏30℃の気温を記録する気候の中では、まだ早朝と言って良い時間でも、直射日光を避けたほうが良いことは間違いなかった。
時刻は、午前6時45分――――――。
これから、オレたちは、午前7時すぎに石宮駅を出発する快速列車に乗って、ターミナル駅に向かい、そこで特急くろしお乗り換え、一路、吹奏楽部の合宿所から近い和歌山県の御房駅に向かう。
今回、吹奏楽部の合宿に帯同して密着取材を行う活動は、表向き、先週までのホラー動画の撮影で、各方面に迷惑を掛けてしまったことに対するペナルティーという側面があるのだろうが……。
リゾート地に近い場所で行われる合宿に同行できるということで、オレの気分は、妙に高まっていた。
(合宿所の白咲海岸青少年の家の近くには、有名な絶景スポットがあるんだよな)
鳳華先輩から、今回の合宿帯同について打診(と言う名の部長命令に近いのだが……)された直後に、合宿所周辺のスポットを検索したオレは、我が部の部長に対する感謝の気持ちを抑えられないでいた。
鳳華部長の今回の決定については、ホラー動画の制作活動で色々とやらかしてしまった壮馬とオレに対する訓告ということになるのだろうが、部長の無二の親友と言っても良い寿生徒会長の所属する吹奏楽部に、その身を預けてくれるということは、
「しっかりと広報部としての仕事をこなしつつ、楽しめる時間は楽しんで来なさい」
という、部長なりのメッセージだろう、とオレは感じている。
そう感じ取っていたのは、オレだけでなく、先日まで、熱中症による体調不良で入院と自宅療養を余儀なくされていた親友にしても同じだったようで、今朝、顔を合わせたときに、
「鳳華部長の気持ちに報いるためにも、がんばらないとね」
と、あいつにしては珍しく、柄にもないことを言ってきたことからも明らかだ。
直接的に口に出すことは無いものの、おそらく、先日のことで誰よりも責任を感じているだろう壮馬は、オレ以上に、鳳華部長の決定に対する感謝の想いは強いはずだ。
そんなことを感じながら、久々に気力が充実した状態で広報部の活動に入れることを喜びつつ、今回の取材対象である吹奏楽部の面々に目を向ける。
すると、副部長を務める寿先輩が先頭に立ち、一列になって後方に付き従った10人ほどの部員が、先頭の女子のフィンガー・スナップ(別名:指パッチン)のリズムに合わせて、直立不動の姿勢を取る。
オレが、呆然と見守る中、すぐそばに居た壮馬は、律儀にビデオカメラを構え、録画を始める
♪ ファンファン ウィーヒッザ ステーステー
♪ 同じ風の中 ウィノウウィラブ オー!
なにが始まるのかと思えば、日本が誇るダンス&ボーカルユニットがカヴァーしたスタンダード・ナンバーを寿先輩が口ずさむと……
♪ ヒートヒート ビーツアライク スキップスキップ
縦一列に並んだ後方の部員たちが、やや時間をずらしつつ上半身を回して螺旋状にうねりだす。
あきれながら、その姿を眺めるオレ、カメラを構え続ける壮馬、オレたちのそばで、苦笑する良識派の吹奏楽部メンバー、そして、少しずつ増えてきた通勤客の冷たい視線を浴びながら、合計10名のダンスユニットは、
♪ ときめきを運ぶよ
♪ Choo Choo TRAIN!(合唱)
と、気持ちよさそうに歌唱した。
トンネル状になっている改札口付近に響き渡る声に、自転車を押しながらそばを通りかかったおばあさんが、
「お姉ちゃんたち、朝から元気やねぇ」
と、微笑ましそうに声をかけて過ぎ去っていく。
そんななか、ダンスを見守っていた男子部員の一人が、相変わらずグルグルと回転を続けるダンスユニットに近づき、身体をグルグルに巻き込むようにしながら、
「ぐぇ~死んだンゴ……」
と、言葉を残して絶命する。その姿に頭を抱えたオレは、グルグルの先頭の寿先輩に近づき、こう告げた。
「友だちが、あのユニットのタイミングずらして回るやつに巻き込まれて死んだ。決してできたトモではなかったけど、そんな簡単に死んでいいようなヤツじゃなかった。あんたらだけは絶対に許さない」
オレの言葉に、吹奏楽部の副部長は、我が意を得た、とばかりに満面の笑みを作ったあと、すぐにダンスを止めて、バンバンと肩を叩いてくる。
「さっすが、黒田くんだ! 私が見込んだ男子だけはある!」
「いや、こう言わないと、先輩たちダンスを止めないでしょう? 他の駅の利用客の人たちに迷惑ですから、大人しく待っていてください」
「なんだよ~! ツレナイじゃないか~?」
ぷ~っと頬を膨らませて、すがりつこうとしてくる副部長を前に、吹奏楽部の良識派筆頭である早見先輩が、下級生たちに向かって告げる。
「さて、10人くらいの部員が見当たらないけれど、先に改札に入っちゃおうか? ここに居ないメンバーのことは、先生に報告しておくから、あとで、しっかり注意してもらいましょう」
「ちょっと、さおりん! それは無いって……」
涙目になりながら、抗議する副部長以下10名の部員たちを尻目に、集合を終えた吹奏楽部のメンバーたちは、次々に改札口から駅の構内へと入っていく。
そんななか、一人の女子部員がオレのそばに寄って来て、小声で語りかけてきた。
「黒田くん、ありがとうね。おかげで、すぐに場が収まったよ。広報部の取材、楽しみにしてるね」
さわやかな笑顔で語る彼女は、紅野アザミ。クラスでともに学級委員を務める、吹奏楽部でオレがもっとも親しい女子生徒だ。
「あぁ、がんばって吹奏楽部の魅力を取材させてもらうよ」
そう答えたオレの気分は、また一段と高まった。
さあ、Choo Choo Trainに、ときめきを運んでCarry ONしてもらおう。
おっと、気持ちが高まったあまり、寿先輩たち以下10名の部員たちのテンションがオレにも感染ってしまったようだ。
~黒田竜司の見解~
朝から夏らしい快晴に恵まれたことに、喜びと軽い絶望を感じながら、オレはJR石宮駅の改札前に立っていた。
JR線では高校からの最寄り駅となるこの駅は、幸いなことに、改札口が地上より一段下にあって、地下改札のようになっているため、直射日光を避けられる構造になっている。
何年も前から、灼熱のような夏の暑さには、あきれるより他ないと感じていたが、連日のように、午前7時前から摂氏30℃の気温を記録する気候の中では、まだ早朝と言って良い時間でも、直射日光を避けたほうが良いことは間違いなかった。
時刻は、午前6時45分――――――。
これから、オレたちは、午前7時すぎに石宮駅を出発する快速列車に乗って、ターミナル駅に向かい、そこで特急くろしお乗り換え、一路、吹奏楽部の合宿所から近い和歌山県の御房駅に向かう。
今回、吹奏楽部の合宿に帯同して密着取材を行う活動は、表向き、先週までのホラー動画の撮影で、各方面に迷惑を掛けてしまったことに対するペナルティーという側面があるのだろうが……。
リゾート地に近い場所で行われる合宿に同行できるということで、オレの気分は、妙に高まっていた。
(合宿所の白咲海岸青少年の家の近くには、有名な絶景スポットがあるんだよな)
鳳華先輩から、今回の合宿帯同について打診(と言う名の部長命令に近いのだが……)された直後に、合宿所周辺のスポットを検索したオレは、我が部の部長に対する感謝の気持ちを抑えられないでいた。
鳳華部長の今回の決定については、ホラー動画の制作活動で色々とやらかしてしまった壮馬とオレに対する訓告ということになるのだろうが、部長の無二の親友と言っても良い寿生徒会長の所属する吹奏楽部に、その身を預けてくれるということは、
「しっかりと広報部としての仕事をこなしつつ、楽しめる時間は楽しんで来なさい」
という、部長なりのメッセージだろう、とオレは感じている。
そう感じ取っていたのは、オレだけでなく、先日まで、熱中症による体調不良で入院と自宅療養を余儀なくされていた親友にしても同じだったようで、今朝、顔を合わせたときに、
「鳳華部長の気持ちに報いるためにも、がんばらないとね」
と、あいつにしては珍しく、柄にもないことを言ってきたことからも明らかだ。
直接的に口に出すことは無いものの、おそらく、先日のことで誰よりも責任を感じているだろう壮馬は、オレ以上に、鳳華部長の決定に対する感謝の想いは強いはずだ。
そんなことを感じながら、久々に気力が充実した状態で広報部の活動に入れることを喜びつつ、今回の取材対象である吹奏楽部の面々に目を向ける。
すると、副部長を務める寿先輩が先頭に立ち、一列になって後方に付き従った10人ほどの部員が、先頭の女子のフィンガー・スナップ(別名:指パッチン)のリズムに合わせて、直立不動の姿勢を取る。
オレが、呆然と見守る中、すぐそばに居た壮馬は、律儀にビデオカメラを構え、録画を始める
♪ ファンファン ウィーヒッザ ステーステー
♪ 同じ風の中 ウィノウウィラブ オー!
なにが始まるのかと思えば、日本が誇るダンス&ボーカルユニットがカヴァーしたスタンダード・ナンバーを寿先輩が口ずさむと……
♪ ヒートヒート ビーツアライク スキップスキップ
縦一列に並んだ後方の部員たちが、やや時間をずらしつつ上半身を回して螺旋状にうねりだす。
あきれながら、その姿を眺めるオレ、カメラを構え続ける壮馬、オレたちのそばで、苦笑する良識派の吹奏楽部メンバー、そして、少しずつ増えてきた通勤客の冷たい視線を浴びながら、合計10名のダンスユニットは、
♪ ときめきを運ぶよ
♪ Choo Choo TRAIN!(合唱)
と、気持ちよさそうに歌唱した。
トンネル状になっている改札口付近に響き渡る声に、自転車を押しながらそばを通りかかったおばあさんが、
「お姉ちゃんたち、朝から元気やねぇ」
と、微笑ましそうに声をかけて過ぎ去っていく。
そんななか、ダンスを見守っていた男子部員の一人が、相変わらずグルグルと回転を続けるダンスユニットに近づき、身体をグルグルに巻き込むようにしながら、
「ぐぇ~死んだンゴ……」
と、言葉を残して絶命する。その姿に頭を抱えたオレは、グルグルの先頭の寿先輩に近づき、こう告げた。
「友だちが、あのユニットのタイミングずらして回るやつに巻き込まれて死んだ。決してできたトモではなかったけど、そんな簡単に死んでいいようなヤツじゃなかった。あんたらだけは絶対に許さない」
オレの言葉に、吹奏楽部の副部長は、我が意を得た、とばかりに満面の笑みを作ったあと、すぐにダンスを止めて、バンバンと肩を叩いてくる。
「さっすが、黒田くんだ! 私が見込んだ男子だけはある!」
「いや、こう言わないと、先輩たちダンスを止めないでしょう? 他の駅の利用客の人たちに迷惑ですから、大人しく待っていてください」
「なんだよ~! ツレナイじゃないか~?」
ぷ~っと頬を膨らませて、すがりつこうとしてくる副部長を前に、吹奏楽部の良識派筆頭である早見先輩が、下級生たちに向かって告げる。
「さて、10人くらいの部員が見当たらないけれど、先に改札に入っちゃおうか? ここに居ないメンバーのことは、先生に報告しておくから、あとで、しっかり注意してもらいましょう」
「ちょっと、さおりん! それは無いって……」
涙目になりながら、抗議する副部長以下10名の部員たちを尻目に、集合を終えた吹奏楽部のメンバーたちは、次々に改札口から駅の構内へと入っていく。
そんななか、一人の女子部員がオレのそばに寄って来て、小声で語りかけてきた。
「黒田くん、ありがとうね。おかげで、すぐに場が収まったよ。広報部の取材、楽しみにしてるね」
さわやかな笑顔で語る彼女は、紅野アザミ。クラスでともに学級委員を務める、吹奏楽部でオレがもっとも親しい女子生徒だ。
「あぁ、がんばって吹奏楽部の魅力を取材させてもらうよ」
そう答えたオレの気分は、また一段と高まった。
さあ、Choo Choo Trainに、ときめきを運んでCarry ONしてもらおう。
おっと、気持ちが高まったあまり、寿先輩たち以下10名の部員たちのテンションがオレにも感染ってしまったようだ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~
root-M
青春
高校一年生の三ツ瀬豪は、入学早々ぼっちになってしまい、昼休みは空き教室で一人寂しく弁当を食べる日々を過ごしていた。
そんなある日、豪の前に目を見張るほどの美人生徒が現れる。彼女は、生徒会長の巴あきら。豪のぼっちを察したあきらは、「一緒に昼食を食べよう」と豪を生徒会室へ誘う。
すると、あきらは豪の手作り弁当に強い興味を示し、卵焼きを食べたことで豪の料理にハマってしまう。一方の豪も、自分の料理を絶賛してもらえたことが嬉しくて仕方ない。
それから二人は、毎日生徒会室でお昼ご飯を食べながら、互いのことを語り合い、ゆっくり親交を深めていく。家庭の味に飢えているあきらは、豪の作るおかずを実に幸せそうに食べてくれるのだった。
やがて、あきらの要求はどんどん過激(?)になっていく。「わたしにもお弁当を作って欲しい」「お弁当以外の料理も食べてみたい」「ゴウくんのおうちに行ってもいい?」
美人生徒会長の頼み、断れるわけがない!
でも、この生徒会、なにかちょっとおかしいような……。
※時代設定は2018年頃。お米も卵も今よりずっと安価です。
※他のサイトにも投稿しています。
イラスト:siroma様
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる