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第5章〜白草四葉センセイの超恋愛学演習・応用〜②
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「………………」
「………………」
編集スタジオ室内のあまりの温度差に耐えきれず、オレは、壮馬にたずねる。
「なあ、もう説明は終わった、ってことでイイのか?」
(ボクに聞かれても……)
肩をすくめる壮馬の反応にうなずき返し、スマホの録画停止ボタンをタップして、今度は、白草に向かって、ゆっくりと語りかけた。
「あのさ、白草……ショート・コントか一人漫談を始める時は、あらかじめ、そう言ってくれないか? こっちもキチンと、白草が提供する『笑い』を受け入れるために、ココロの準備を整えるからさ……」
「あっ! ゴメンね……今度から、ちゃんと、始める前に右手を挙げて『ショート・コント!』って、宣言してから始めるから……」
彼女は、そう謝ったあと、
「――――――って、違う違う!!」
教え子の冷静な提案に、自称・マドンナ講師は、軽快なノリツッコミを披露する。
「いまの実演のドコをどう見たら、ショート・コントに見えるのよ!?」
「「ん~~~全部?」」
オレと壮馬は、声を揃えて返答する。
そして、さらに続けてオレたちは、お互いの見解を披露し合った。
「いや、今のはどう見ても、オンナ芸人が演じる一人漫談って、シチュエーションだっただろ? 一瞬、Rー1グランプリのリハーサルが始まったんだと本気で思ったぞ、オレは……」
「いやいや! ボクは、何年か前まで年末に放送してた、『芸能人のシュールな芸に笑ったら、覆面のシバキ隊にシバかれるバラエティー番組』が始まったのかと思ったよ……」
「あぁ、たしかに、笑ってイイのか迷う以上に、笑いをこらえるのに苦労したモノな……」
白草には申し訳ないが、感心するように講義に耳を傾けていた先ほどまでと異なり、オレたちは、講師役を前にして忌憚のない意見を交換する。
「ちょっと! ヒトが真剣にレクチャーしてるのに、何なのその言い方は!?」
「いや……『何なの?』と言われても……」
烈しい剣幕で問い詰める白草に対して、恐縮しながらも、オレは頭をかきながら返答する。
その言動が、癇に障ったのか、カリスマが剥がれかけたマドンナ講師は、左手を腰にあて、
「聞・く・態・度!!」
二人の聞き手を交互に指さしながら、説教モードに入ることを示唆してくる。
決して大柄ではない彼女から発せられる、大いなる怒りの感情を察したオレたちは、
「「はい!!」」
と、素直に応じて、正座スタイルでクッションに座り直し、居住まいを正した。
そんな男子二名のようすを目視したのち、
「この際だから言っておくけど……」
そう前置きしたのち、超恋愛学の講師は、威厳を取り戻そうとしたのか、滔々と語り出した。
「だいたい、二人とも、女子の求める『かわいいッ!!』って言葉に鈍感過ぎだと思う!」
彼女の言葉は、このように始まり、
「誤解を恐れずに言えば、この言葉を言われて嬉しくならない女子なんていないんじゃないかな? 女の子はね……好きなヒトにとって、一番カワイイ存在になりたいものなの……」
と、言いながら、自らを納得させるようにうなずいた。
「そりゃ、世の中、女優やトップモデル、そして、わたしのように、生まれつき可愛さに恵まれているヒトたちは居るかも知れない」
自らの演説に酔う選挙立候補者のように、ここでチカラを込めた彼女は、さらに、持論の展開を続ける。
「でもね……『オレにとっては、キミがいちばんカワイイよ……』そう言われるだけで、人生がハッピーになる! 好意を寄せる相手に『カワイイ!』って、言ってもらえるだけで、もっと可愛くなれる気がする。好きなヒトからもらえる『カワイイ』の一言からでしか摂取できない特殊な栄養素が、女子にはあるの」
そして、一拍、間を置いて、さらに声に力を込めたカリスマ講師は、
「そう……《可愛い》って言葉は、女子にとって《哲学》なの。ナニが可愛いって、見た目じゃない! 存在が可愛いってこと。なんて言うか、全体から滲み出てくるもの……それが、《恋》とか《愛》っていうモノの本質じゃない?」
と、一気に自身の見解を語り終えたのだった。
いつものように、白草四葉特有の自己肯定感高めの発言が含まれているが、いつまで続くかわからない彼女の独壇場に、もはやオレの心には、ツッコミを入れる気力が残っていなかった。
立ち上がって、大きくはない室内を左右に歩きながら一人語りを続ける彼女に気取られないよう、壮馬は小声で問い掛ける。
「竜司……! 白草さんの言ってること理解できる?」
「いや! 三割も理解できてない自信だけはある! とりあえず、女子に『リンゴが三個あって、二個買ってきたら幾つになるか?』と聞かれたら、『三個のリンゴをドコで買ったか聞いて、二個のリンゴを一緒に買いに行けばイイ』ということだけはわかった……」
「ボクに劣らず、古い例えをありがとう! 白草さんの話の中身はサッパリだけど……あらためて、人気ユア・チューバーになるには、可愛らしさよりも、ヒトを楽しませるお笑いのセンスが必要なことと、竜司のマンガの好みの二つだけは理解できたよ……」
ささやくように語り合う二人に気付いたようすはなく、講師役は、自説を披露し終えると、
「どう? わかった?」
と、特にオレに対して念を押すようにたずねてきた。
「すべて理解できた……とは言い切れないが、理解できるように、努力する」
そう応じた返答に、白草は、
「そう……いい心掛けね」
と、満足したようすだ。
さらに、続けて、カリスマ講師は、
「いま挙げたシチュエーションの実例だと、黒田クンには、一つ目の例を実践するのは難しいかもね……でも、二つ目か三つ目の例なら、自然なカタチで出来るんじゃない? ちょっと、やって見せて?」
実践演習を求めてきた。
「なっ! いまココでかよ!?」
拒絶反応を示すオレに対し、白草はゆっくりとうなずき、挑発的な笑みを浮かべて、語りかけてくる。
「紅野サン相手に、ぶっつけ本番でヤリきる自信があるなら、実践練習ナシでも構わないけど?」
「わ、わかったよ……」
そう言って渋々、了承すると、
「じゃ、どれだけデキるか、やってみよう? まずは、シチュエーションその2の方からね!」
と、言ってから白草四葉は、急に上目遣いになり、目の前にいるこちらを潤んだ瞳で見つめだした。その表情の変化に、思わず心拍数が上がるのを感じ、オレはうつむき加減になってしまう。
そんなこちらのようすを相変わらずの上目遣いで、覗き込みながら、講師役は、右の手のひらを上に向け、「ほら、はやく!!」といった感じでクイクイと手招きをした。
「………………」
編集スタジオ室内のあまりの温度差に耐えきれず、オレは、壮馬にたずねる。
「なあ、もう説明は終わった、ってことでイイのか?」
(ボクに聞かれても……)
肩をすくめる壮馬の反応にうなずき返し、スマホの録画停止ボタンをタップして、今度は、白草に向かって、ゆっくりと語りかけた。
「あのさ、白草……ショート・コントか一人漫談を始める時は、あらかじめ、そう言ってくれないか? こっちもキチンと、白草が提供する『笑い』を受け入れるために、ココロの準備を整えるからさ……」
「あっ! ゴメンね……今度から、ちゃんと、始める前に右手を挙げて『ショート・コント!』って、宣言してから始めるから……」
彼女は、そう謝ったあと、
「――――――って、違う違う!!」
教え子の冷静な提案に、自称・マドンナ講師は、軽快なノリツッコミを披露する。
「いまの実演のドコをどう見たら、ショート・コントに見えるのよ!?」
「「ん~~~全部?」」
オレと壮馬は、声を揃えて返答する。
そして、さらに続けてオレたちは、お互いの見解を披露し合った。
「いや、今のはどう見ても、オンナ芸人が演じる一人漫談って、シチュエーションだっただろ? 一瞬、Rー1グランプリのリハーサルが始まったんだと本気で思ったぞ、オレは……」
「いやいや! ボクは、何年か前まで年末に放送してた、『芸能人のシュールな芸に笑ったら、覆面のシバキ隊にシバかれるバラエティー番組』が始まったのかと思ったよ……」
「あぁ、たしかに、笑ってイイのか迷う以上に、笑いをこらえるのに苦労したモノな……」
白草には申し訳ないが、感心するように講義に耳を傾けていた先ほどまでと異なり、オレたちは、講師役を前にして忌憚のない意見を交換する。
「ちょっと! ヒトが真剣にレクチャーしてるのに、何なのその言い方は!?」
「いや……『何なの?』と言われても……」
烈しい剣幕で問い詰める白草に対して、恐縮しながらも、オレは頭をかきながら返答する。
その言動が、癇に障ったのか、カリスマが剥がれかけたマドンナ講師は、左手を腰にあて、
「聞・く・態・度!!」
二人の聞き手を交互に指さしながら、説教モードに入ることを示唆してくる。
決して大柄ではない彼女から発せられる、大いなる怒りの感情を察したオレたちは、
「「はい!!」」
と、素直に応じて、正座スタイルでクッションに座り直し、居住まいを正した。
そんな男子二名のようすを目視したのち、
「この際だから言っておくけど……」
そう前置きしたのち、超恋愛学の講師は、威厳を取り戻そうとしたのか、滔々と語り出した。
「だいたい、二人とも、女子の求める『かわいいッ!!』って言葉に鈍感過ぎだと思う!」
彼女の言葉は、このように始まり、
「誤解を恐れずに言えば、この言葉を言われて嬉しくならない女子なんていないんじゃないかな? 女の子はね……好きなヒトにとって、一番カワイイ存在になりたいものなの……」
と、言いながら、自らを納得させるようにうなずいた。
「そりゃ、世の中、女優やトップモデル、そして、わたしのように、生まれつき可愛さに恵まれているヒトたちは居るかも知れない」
自らの演説に酔う選挙立候補者のように、ここでチカラを込めた彼女は、さらに、持論の展開を続ける。
「でもね……『オレにとっては、キミがいちばんカワイイよ……』そう言われるだけで、人生がハッピーになる! 好意を寄せる相手に『カワイイ!』って、言ってもらえるだけで、もっと可愛くなれる気がする。好きなヒトからもらえる『カワイイ』の一言からでしか摂取できない特殊な栄養素が、女子にはあるの」
そして、一拍、間を置いて、さらに声に力を込めたカリスマ講師は、
「そう……《可愛い》って言葉は、女子にとって《哲学》なの。ナニが可愛いって、見た目じゃない! 存在が可愛いってこと。なんて言うか、全体から滲み出てくるもの……それが、《恋》とか《愛》っていうモノの本質じゃない?」
と、一気に自身の見解を語り終えたのだった。
いつものように、白草四葉特有の自己肯定感高めの発言が含まれているが、いつまで続くかわからない彼女の独壇場に、もはやオレの心には、ツッコミを入れる気力が残っていなかった。
立ち上がって、大きくはない室内を左右に歩きながら一人語りを続ける彼女に気取られないよう、壮馬は小声で問い掛ける。
「竜司……! 白草さんの言ってること理解できる?」
「いや! 三割も理解できてない自信だけはある! とりあえず、女子に『リンゴが三個あって、二個買ってきたら幾つになるか?』と聞かれたら、『三個のリンゴをドコで買ったか聞いて、二個のリンゴを一緒に買いに行けばイイ』ということだけはわかった……」
「ボクに劣らず、古い例えをありがとう! 白草さんの話の中身はサッパリだけど……あらためて、人気ユア・チューバーになるには、可愛らしさよりも、ヒトを楽しませるお笑いのセンスが必要なことと、竜司のマンガの好みの二つだけは理解できたよ……」
ささやくように語り合う二人に気付いたようすはなく、講師役は、自説を披露し終えると、
「どう? わかった?」
と、特にオレに対して念を押すようにたずねてきた。
「すべて理解できた……とは言い切れないが、理解できるように、努力する」
そう応じた返答に、白草は、
「そう……いい心掛けね」
と、満足したようすだ。
さらに、続けて、カリスマ講師は、
「いま挙げたシチュエーションの実例だと、黒田クンには、一つ目の例を実践するのは難しいかもね……でも、二つ目か三つ目の例なら、自然なカタチで出来るんじゃない? ちょっと、やって見せて?」
実践演習を求めてきた。
「なっ! いまココでかよ!?」
拒絶反応を示すオレに対し、白草はゆっくりとうなずき、挑発的な笑みを浮かべて、語りかけてくる。
「紅野サン相手に、ぶっつけ本番でヤリきる自信があるなら、実践練習ナシでも構わないけど?」
「わ、わかったよ……」
そう言って渋々、了承すると、
「じゃ、どれだけデキるか、やってみよう? まずは、シチュエーションその2の方からね!」
と、言ってから白草四葉は、急に上目遣いになり、目の前にいるこちらを潤んだ瞳で見つめだした。その表情の変化に、思わず心拍数が上がるのを感じ、オレはうつむき加減になってしまう。
そんなこちらのようすを相変わらずの上目遣いで、覗き込みながら、講師役は、右の手のひらを上に向け、「ほら、はやく!!」といった感じでクイクイと手招きをした。
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