89 / 454
回想③〜白草四葉の場合その2〜拾壱
しおりを挟む
「照れなくてもイイのに……カワイイ……」
クスリと笑うわたしに、クロは、
「う、うるせ~」
と、反論するのだった。
そして、彼は、両手のひらで、パチンと自身の頬を叩き、
「うん! 母ちゃんが来なくても、オレの歌を聞いてくれる人はいるんだしな……」
そう言って、自分に言い聞かせるようにつぶやく。
「そうだよ! クロの歌う姿を楽しみにしてるヒトもいるんだから!」
気持ちを立て直そうとするクロに、わたしも賛同する。
けれど――――――
「あぁ、そうだな! 付き添いで来てくれるマナミさんも、楽しみにしてるって言ってくれてたしな」
彼は、わたしが掛けた言葉を明後日の方向に解釈したのか、まったく見当違いのセリフを発した。
「はぁ!?」
クロの発言に、思わず声が漏れてしまう。
(どうして、ここで、他の女のヒトの話しが出てくるわけ!?)
しかし、彼は、気分を害したわたしには気づかないようすで、
「ありがとう、シロ! じゃ、そろそろ出掛けようぜ!」
と、何事もなかったように声を掛けてくる。
さらに、タイミングよく、カラオケ・ルームのドアがノックされ、
「竜司くん、シロちゃん。そろそろ出発する時間なんだけど……」
と、廊下から真奈美サンの声がした。
この日、付き添い役を引き受けてくれた彼女は、クルマを運転して、わたしたちをテレビ局まで送ってくれるということだったのだけど……。
デリカシーに欠ける男子の発言のせいで、わたし自身の機嫌は、テレビ局に着くまで直ることはなかった。
※
真奈美サンの運転するクルマでテレビ局に着いたわたしたちは、受付を終えると、大きな控え室に通された。
司サンは来ることが出来なかったが、仕事関係の知り合いだというテレビ局の関係者には事前に連絡が入っていたようで、大学生一人と小学生二人という、親子には見えない自分たち三人の組み合わせでも、すんなりと手続きをしてもらうことができた。
案内された控え室には、すでに五~六組の親子が待機しており、番組収録前の独特な緊張感が漂っている。
着物姿の男子中学生、ディズニー・アニメ風のドレスのような衣装を着た女子小学生、なかには、まだ小学校に上がっていなさそうな年齢の女の子もいる。
「なんか、みんな……スゴい、独特な感じがするな……」
小声で語りかけて来るクロのようすから、控え室の雰囲気に呑まれそうになっていることがわかる。
「テレビに出ようとするヒトたちだもん。まぁ、こんな感じだよ」
クロの気持ちをリラックスさせようと考え、そう返答すると、
「シロ、こういう大会に出たことあんの? なんか、スゲ~落ち着いてる感じだけど……」
と、彼は少し不安げな表情でたずねてきた。
何度か母に連れられて、テレビ局に出入りしたことのあるわたしにとって、子役タレントや、今回のようなちびっこカラオケ大会に出場する小・中学生が放つ独特のオーラは見慣れたモノだったが、普通の小学生として日々を過ごしているであろうクロは、一般の世界とは異なる空気に、気圧されてしまうのも無理はない。
せっかく、歌う気を取り戻してくれたのに、ここで、クロが萎縮してしまったら、これまでの練習が、すべて無駄になってしまう。
なんとか、彼に平静な気持ちを取り戻してもらおうと、
「大丈夫! 周りのヒトは、気にしないで、クロの歌の良さを出すことだけを考えて!」
そう声を掛けたけど、クロは、
「あ、あぁ……わかった」
と、返答するのみで、心ここにあらずという感じだ。
黒田家を出発する直前に、クロに対して感じていたイライラする気持ちは、いつの間にか、消えていたけれど……。
本番を前に、わたしは、自分のことよりも、この十日あまりをともに過ごして来た同い年の男の子のようすが気掛かりでならなかった。
クスリと笑うわたしに、クロは、
「う、うるせ~」
と、反論するのだった。
そして、彼は、両手のひらで、パチンと自身の頬を叩き、
「うん! 母ちゃんが来なくても、オレの歌を聞いてくれる人はいるんだしな……」
そう言って、自分に言い聞かせるようにつぶやく。
「そうだよ! クロの歌う姿を楽しみにしてるヒトもいるんだから!」
気持ちを立て直そうとするクロに、わたしも賛同する。
けれど――――――
「あぁ、そうだな! 付き添いで来てくれるマナミさんも、楽しみにしてるって言ってくれてたしな」
彼は、わたしが掛けた言葉を明後日の方向に解釈したのか、まったく見当違いのセリフを発した。
「はぁ!?」
クロの発言に、思わず声が漏れてしまう。
(どうして、ここで、他の女のヒトの話しが出てくるわけ!?)
しかし、彼は、気分を害したわたしには気づかないようすで、
「ありがとう、シロ! じゃ、そろそろ出掛けようぜ!」
と、何事もなかったように声を掛けてくる。
さらに、タイミングよく、カラオケ・ルームのドアがノックされ、
「竜司くん、シロちゃん。そろそろ出発する時間なんだけど……」
と、廊下から真奈美サンの声がした。
この日、付き添い役を引き受けてくれた彼女は、クルマを運転して、わたしたちをテレビ局まで送ってくれるということだったのだけど……。
デリカシーに欠ける男子の発言のせいで、わたし自身の機嫌は、テレビ局に着くまで直ることはなかった。
※
真奈美サンの運転するクルマでテレビ局に着いたわたしたちは、受付を終えると、大きな控え室に通された。
司サンは来ることが出来なかったが、仕事関係の知り合いだというテレビ局の関係者には事前に連絡が入っていたようで、大学生一人と小学生二人という、親子には見えない自分たち三人の組み合わせでも、すんなりと手続きをしてもらうことができた。
案内された控え室には、すでに五~六組の親子が待機しており、番組収録前の独特な緊張感が漂っている。
着物姿の男子中学生、ディズニー・アニメ風のドレスのような衣装を着た女子小学生、なかには、まだ小学校に上がっていなさそうな年齢の女の子もいる。
「なんか、みんな……スゴい、独特な感じがするな……」
小声で語りかけて来るクロのようすから、控え室の雰囲気に呑まれそうになっていることがわかる。
「テレビに出ようとするヒトたちだもん。まぁ、こんな感じだよ」
クロの気持ちをリラックスさせようと考え、そう返答すると、
「シロ、こういう大会に出たことあんの? なんか、スゲ~落ち着いてる感じだけど……」
と、彼は少し不安げな表情でたずねてきた。
何度か母に連れられて、テレビ局に出入りしたことのあるわたしにとって、子役タレントや、今回のようなちびっこカラオケ大会に出場する小・中学生が放つ独特のオーラは見慣れたモノだったが、普通の小学生として日々を過ごしているであろうクロは、一般の世界とは異なる空気に、気圧されてしまうのも無理はない。
せっかく、歌う気を取り戻してくれたのに、ここで、クロが萎縮してしまったら、これまでの練習が、すべて無駄になってしまう。
なんとか、彼に平静な気持ちを取り戻してもらおうと、
「大丈夫! 周りのヒトは、気にしないで、クロの歌の良さを出すことだけを考えて!」
そう声を掛けたけど、クロは、
「あ、あぁ……わかった」
と、返答するのみで、心ここにあらずという感じだ。
黒田家を出発する直前に、クロに対して感じていたイライラする気持ちは、いつの間にか、消えていたけれど……。
本番を前に、わたしは、自分のことよりも、この十日あまりをともに過ごして来た同い年の男の子のようすが気掛かりでならなかった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる