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第9章〜To Love You More(もっとあなたを好きになる)〜⑥
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放送室から駆け出した天竹葵は、生徒昇降口から校舎外に飛び出し、左手奥にそびえ立つ四階建ての音楽棟を目指す。
途中、中庭に組まれた特設ステージの前には、午後一時の開演を前にすでに人だかりができ始めている。
息を切らしながら、音楽棟にたどり着き、マーチング・バンドのリハーサル会場になっている一階の練習室の扉を開けると、室内はすでに無人となっていた。
「えっ!?」
と、絶句する葵の胸元で、スマホの着信ランプが点滅した。
慌てて端末を手にした彼女は、通話アプリの受話ボタンをタップすると、先ほどまで放送室で会話を交わしていた同級生男子の声がする。
「ゴメン、天竹さん! 竜司や吹奏楽部のメンバーは、もうB棟校舎裏の倉庫の中に移動していると思う」
壮馬によると、竜司やコーラス部の面々が搭乗する人力のフロートとマーチング・バンドに参加するメンバーは、メイン・ストリートなる校門から中庭に続く通路の死角となる校舎裏の大型倉庫で待機しているとのことだった。
一年生の教室が入っているB棟の校舎は、葵の居る音楽棟から見ると、中庭に続く通路を挟んで反対側にある。
「わかりました!」
通話相手に返答した天竹葵は、再び校舎裏の大型倉庫を目掛けて駆け出した。
そして、彼女が校舎と校舎に挟まれた中庭に続く通路を横切ろうした時、
「わたしの歌を聞け~~~~~!!!!!!」
という絶叫が、校内のスピーカーから流れてきた。
オンライン会議用のサービス画面には、中庭に設置された特設ステージが映し出され、軍服風の衣装をまとった白草四葉が、中央でパフォーマンスを披露している。
土曜日ということもあり、彼女の《ミンスタライブ》へのアクセス数は順調に伸びており、すでに二十万を越える視聴数を記録していて、次々とコメントが流れていく。
放送室のPCのモニターからステージのようすを確認していた壮馬は、無事に映像配信が行われいてることに安堵しつつも、移動中の天竹葵と本番を控えた紅野アザミのことが気に掛かっていた。
そして――――――
「まったく、なんてことをしてくれたんだよ!? 二人とも!!」
自分にすら企画の真の意図を告げずに、計画を変更した竜司と四葉に対して、憤りを覚え、だれもいない室内で、一人つぶやく。
壮馬にすれば、数週間前、自分たち広報部の人材確保のための『救いの女神』に思えた白草四葉が、今日は、自分たち周囲の人間関係を毀損して回る『暗黒の破壊神』にしか見えなかった。
それでも、現状の彼女は、広報部の部外者であり、善意の協力者という立ち位置であるため、彼が強く問い詰めることのできる立場とは言えなかった。
ただし、広報部に所属している黒田竜司は別である。
「竜司の独断専行については、あとで、部長からも、キッチリとお灸をすえてもらわないと――――――」
壮馬が、また独り言のようにつぶやくと、《ミンスタグラム》をモニターしていたスマホに、通話アプリの着信が表示された。
受話ボタンをタップすると、
「黄瀬君! 倉庫はシャッターが降りていて、ノアや吹奏楽部の人たちとコンタクトを取ることが出来ません!」
絶望感をともなった天竹葵の言葉が耳に飛び込んできた。
人力のフロートや吹奏楽部のメンバーは、死角になる校舎裏に留まるだけでなく、事前に姿を見せないよう、倉庫内での待機を行っているようだ。
「――――――ッ! 間に合わなかったか……」
唇を噛み締めながら、思案した壮馬は、頭をひねり善後策を講じる。
「ゴメンね、天竹さん……もう残るチャンスは、竜司たちがパレードで舞台に近づいたあと、演奏が終わって、告白に入るまでのタイミングしかない……申し訳ないけれど、ステージ前に移動して、なんとか吹奏楽部の演奏が終わった直後に、紅野さんと接触できないかな?」
「わかりました! やってみます!」
自宅から学校への移動、さらにしばらくの間をおいて校内を駆け回り、激しく体力を消耗しているはずの葵は、気丈に応えて、すぐに移動を始めたのか、通話が途切れた。
葵との通話を終えたことで、壮馬は、再びモニターの監視に戻る。
他の場所のようすも伺っておこうと、四葉の立つステージと同様、盛り上がるステージ前の観衆を映し出すカメラに切り替えた彼の目に、特徴的な人物の姿が映った。
五月初旬であるにも関わらず、朝からの快晴のため、真夏を思わせるような陽射しが降り注ぐ中、大きなマスクと目深に帽子を被った女子生徒が、ステージ前のフロートが接岸する場所付近に立っている。
しかし、気になるのは、その彼女が、ステージに目を向けるわけでもなく、周囲をキョロキョロと見渡していることだ。
(どうしたんだろう? ステージ前に居るのに、白草さんの歌には興味が無いのかな?)
(それに、あの背格好、どこかで見たことがあるような……)
違和感を覚えた壮馬は、ステージ付近のカメラを担当する先輩部員に、スマホから連絡を入れる。
「どうした黄瀬? なにか気になることでもあったか?」
「すいません、荒木先輩。いま、ステージの前で、キョロキョロしながら周りを見ている女子生徒がわかりますか?」
「え~と、あぁ、大きなマスクをしているアノ子か?」
「はい! ちょっと、ようすが気になるので、注意して見ていてもらえませんか? 五月とは言え、この気温でマスクもしているので、倒れたりしないか、という心配もありますし……」
「わかった! 不審な動きがないか、ということも含めて注視しておく」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
三年生部員の荒木との簡単な連絡を終えた壮馬は、残りの映像の確認を終え、再度ステージに設置されたカメラの映像に切り替えた。
途中、中庭に組まれた特設ステージの前には、午後一時の開演を前にすでに人だかりができ始めている。
息を切らしながら、音楽棟にたどり着き、マーチング・バンドのリハーサル会場になっている一階の練習室の扉を開けると、室内はすでに無人となっていた。
「えっ!?」
と、絶句する葵の胸元で、スマホの着信ランプが点滅した。
慌てて端末を手にした彼女は、通話アプリの受話ボタンをタップすると、先ほどまで放送室で会話を交わしていた同級生男子の声がする。
「ゴメン、天竹さん! 竜司や吹奏楽部のメンバーは、もうB棟校舎裏の倉庫の中に移動していると思う」
壮馬によると、竜司やコーラス部の面々が搭乗する人力のフロートとマーチング・バンドに参加するメンバーは、メイン・ストリートなる校門から中庭に続く通路の死角となる校舎裏の大型倉庫で待機しているとのことだった。
一年生の教室が入っているB棟の校舎は、葵の居る音楽棟から見ると、中庭に続く通路を挟んで反対側にある。
「わかりました!」
通話相手に返答した天竹葵は、再び校舎裏の大型倉庫を目掛けて駆け出した。
そして、彼女が校舎と校舎に挟まれた中庭に続く通路を横切ろうした時、
「わたしの歌を聞け~~~~~!!!!!!」
という絶叫が、校内のスピーカーから流れてきた。
オンライン会議用のサービス画面には、中庭に設置された特設ステージが映し出され、軍服風の衣装をまとった白草四葉が、中央でパフォーマンスを披露している。
土曜日ということもあり、彼女の《ミンスタライブ》へのアクセス数は順調に伸びており、すでに二十万を越える視聴数を記録していて、次々とコメントが流れていく。
放送室のPCのモニターからステージのようすを確認していた壮馬は、無事に映像配信が行われいてることに安堵しつつも、移動中の天竹葵と本番を控えた紅野アザミのことが気に掛かっていた。
そして――――――
「まったく、なんてことをしてくれたんだよ!? 二人とも!!」
自分にすら企画の真の意図を告げずに、計画を変更した竜司と四葉に対して、憤りを覚え、だれもいない室内で、一人つぶやく。
壮馬にすれば、数週間前、自分たち広報部の人材確保のための『救いの女神』に思えた白草四葉が、今日は、自分たち周囲の人間関係を毀損して回る『暗黒の破壊神』にしか見えなかった。
それでも、現状の彼女は、広報部の部外者であり、善意の協力者という立ち位置であるため、彼が強く問い詰めることのできる立場とは言えなかった。
ただし、広報部に所属している黒田竜司は別である。
「竜司の独断専行については、あとで、部長からも、キッチリとお灸をすえてもらわないと――――――」
壮馬が、また独り言のようにつぶやくと、《ミンスタグラム》をモニターしていたスマホに、通話アプリの着信が表示された。
受話ボタンをタップすると、
「黄瀬君! 倉庫はシャッターが降りていて、ノアや吹奏楽部の人たちとコンタクトを取ることが出来ません!」
絶望感をともなった天竹葵の言葉が耳に飛び込んできた。
人力のフロートや吹奏楽部のメンバーは、死角になる校舎裏に留まるだけでなく、事前に姿を見せないよう、倉庫内での待機を行っているようだ。
「――――――ッ! 間に合わなかったか……」
唇を噛み締めながら、思案した壮馬は、頭をひねり善後策を講じる。
「ゴメンね、天竹さん……もう残るチャンスは、竜司たちがパレードで舞台に近づいたあと、演奏が終わって、告白に入るまでのタイミングしかない……申し訳ないけれど、ステージ前に移動して、なんとか吹奏楽部の演奏が終わった直後に、紅野さんと接触できないかな?」
「わかりました! やってみます!」
自宅から学校への移動、さらにしばらくの間をおいて校内を駆け回り、激しく体力を消耗しているはずの葵は、気丈に応えて、すぐに移動を始めたのか、通話が途切れた。
葵との通話を終えたことで、壮馬は、再びモニターの監視に戻る。
他の場所のようすも伺っておこうと、四葉の立つステージと同様、盛り上がるステージ前の観衆を映し出すカメラに切り替えた彼の目に、特徴的な人物の姿が映った。
五月初旬であるにも関わらず、朝からの快晴のため、真夏を思わせるような陽射しが降り注ぐ中、大きなマスクと目深に帽子を被った女子生徒が、ステージ前のフロートが接岸する場所付近に立っている。
しかし、気になるのは、その彼女が、ステージに目を向けるわけでもなく、周囲をキョロキョロと見渡していることだ。
(どうしたんだろう? ステージ前に居るのに、白草さんの歌には興味が無いのかな?)
(それに、あの背格好、どこかで見たことがあるような……)
違和感を覚えた壮馬は、ステージ付近のカメラを担当する先輩部員に、スマホから連絡を入れる。
「どうした黄瀬? なにか気になることでもあったか?」
「すいません、荒木先輩。いま、ステージの前で、キョロキョロしながら周りを見ている女子生徒がわかりますか?」
「え~と、あぁ、大きなマスクをしているアノ子か?」
「はい! ちょっと、ようすが気になるので、注意して見ていてもらえませんか? 五月とは言え、この気温でマスクもしているので、倒れたりしないか、という心配もありますし……」
「わかった! 不審な動きがないか、ということも含めて注視しておく」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
三年生部員の荒木との簡単な連絡を終えた壮馬は、残りの映像の確認を終え、再度ステージに設置されたカメラの映像に切り替えた。
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