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第二部
第2章〜黒と黄の詩〜⑥
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(先月に続いて、ひと月の間に、二回も女子がこの部屋に来るなんて――――――。一年のときには、想像もできなかったな)
そんなことを考えながら、小型冷蔵庫から、買い置きの烏龍茶を取り出し、コップに注ぐ。
予定外のメンバーも含めて、クラスメートを我らがホームグラウンドに案内し、先月ひとつ追加され、合計三つになったレストクッションを三人に提供したボクは、慣れない状況で落ち着かない気持ちを落ち着かせるため、冷たいドリンクで喉をうるおす。
隣の竜司の部屋と違い、普段は、ほとんど使用することのないキッチンから、リビングに目を向けると、女子三名が談笑(話し合っているのは、主に白草さんと紅野さんだけだが)しているのが確認できた。
コップの中の液体を一気に胃に流し込んだボクは、もう一度、2リットル入りのペットボトルからお茶を注いで、
「お待たせしました」
と、リビングに戻る。
普段は、作業台や動画撮影時のカメラ台として使用しているローテーブルを囲んで、窓を背にした位置に白草さん、その左手側に天竹さん、さらにその隣に紅野さんという位置で、三人はクッションに軽く背中を預けている。
図書室に続いて、天竹さんの対面の位置に腰を下ろしたボクは、
「さて――――――それじゃ、今日は、どんな話しをさせてもらったら良いのかな?」
と、会話を切り出す。
こちらからたずねると、これまで、ほとんど話さずに座ったままだった、向かいに座る本日の会合の提案者が、口を開いた。
「あの――――――私は、黄瀬くんと黒田くんが、出会った頃、そして、仲良くなったキッカケがあれば、その時のお話しを聞かせてもらいたいです」
ボクの目を見据えて、ハッキリとリクエストをしてきた天竹さんの気迫に、
(お、おう……)
と、一瞬たじろいでいると、
「それな! わたしも、聞いてみたい!」
ボクよりも先に、向かって左側に座っている女子が、パチンと手を叩いて反応している。
「そうだね……私も黄瀬くんと黒田くんが、どんな風に仲良くなったのか、気になるな」
穏やかな表情で、向かって右側に座る女子からも要望の声があがった。
オーディエンスから、あらためて全会一致の申し入れがあったとなれば断るわけにはいかない。軽く、ため息をつきつつ、
「わかったよ……あくまでボクの視点からの思い出話しだから、三人のご期待にそえるか、わからないけど……」
一言そえたボクは、
(そう言えば、竜司と親しく話すようになったのは、今くらいの時期だったっけ……?)
と、小学生の頃のことを思い返しはじめた。
※
5月9日(月)
それは、小学四年生になって、ひと月ばかり経った頃のこと――――――。
ボクたち小学生にとって、待望だったゴールデン・ウィークが終わった週明けの午後、ボクは、クラスメート数名と口論になっていた。
「はっ!? どういうこと!? なんで、誰もグループ発表の内容を調べてきてないんだよ!」
声を上げて問いつめるボクに、同じ班の小野・加藤・幸田の三人は、ヘラヘラと笑いながら、
「え~、だってねぇ?」
「オレたち、ゴールデン・ウィークは、旅行とかで忙しかったし……」
「仕方ないじゃ~ん」
などと、まるで責任や反省する態度を感じられない答えを返してくる。
一学期の始業式から、ひと月ほどが経過し、この日の午後の授業は、小学四年生になって初めての共同制作課題が行われることになっていたが、ボクたちの所属する2班は、初回から、早くも集団活動が崩壊の危機に瀕していた。
四月の終わりに、『わたしたちの県』という題材で、一枚の模造紙に、自分たちの住む県内の特色や名産品を書き込んで発表するという課題が与えられ、各班で、ゴールデン・ウィーク明けの今週末までの完成を目指し、制作実行に取り掛かろうとしていた矢先のできごとだ。
ゴールデン・ウィークの休みに入る直前、欠席していた一人を除いて、班のメンバーには、各自で、割り当てた県の特色および名産品について、最低ひとつ調べて来るように担任からの指示があったのだが、自分たち2班のメンバーは、ボク以外の誰も、明文化されていない、その宿題を片付けてこなかったことが判明した。
「じゃあ、今から、図書室で調べてきてよ」
せめて、自分たちの責任を果たしてもらおうと、三人に要求すると、
「え~」
「今からかよ~」
「面倒くさい~」
と、彼らは口々に不満の声を上げる。
(なんて、無責任なんだ……なんで、こんなヤツらと一緒の班にならなきゃならないんだよ!? これだから、グループ活動なんて……)
そんな想いを抱えながらも、口には出さず、
「だって、グループ活動だろう? みんなでやらなきゃ……」
そう反論すると、男子の加藤が口を開いた。
「そんなにやりたきゃ、黄瀬ひとりでやってくれよ」
その一言に、女子の小野と幸田も同調する。
「そうそう! 黄瀬くん、一人でやりなよ」
「私たちより、優秀なんだから……」
キャハハと笑いながら答える二人に、ボクは、キッと睨むように視線を送る。
「「うわ~、コワ~い」」
からかうような口調で反応する女子二名に、思わず
「なんだよ!」
と、詰め寄ろうとしたところに、
「おいおい……なにやってんだよ……!?」
そう言って、ボクたちの間に割って入ってきたのは、昼休みから、なぜか担任と職員室に移動していた、この班のもうひとりのメンバーだった。
そんなことを考えながら、小型冷蔵庫から、買い置きの烏龍茶を取り出し、コップに注ぐ。
予定外のメンバーも含めて、クラスメートを我らがホームグラウンドに案内し、先月ひとつ追加され、合計三つになったレストクッションを三人に提供したボクは、慣れない状況で落ち着かない気持ちを落ち着かせるため、冷たいドリンクで喉をうるおす。
隣の竜司の部屋と違い、普段は、ほとんど使用することのないキッチンから、リビングに目を向けると、女子三名が談笑(話し合っているのは、主に白草さんと紅野さんだけだが)しているのが確認できた。
コップの中の液体を一気に胃に流し込んだボクは、もう一度、2リットル入りのペットボトルからお茶を注いで、
「お待たせしました」
と、リビングに戻る。
普段は、作業台や動画撮影時のカメラ台として使用しているローテーブルを囲んで、窓を背にした位置に白草さん、その左手側に天竹さん、さらにその隣に紅野さんという位置で、三人はクッションに軽く背中を預けている。
図書室に続いて、天竹さんの対面の位置に腰を下ろしたボクは、
「さて――――――それじゃ、今日は、どんな話しをさせてもらったら良いのかな?」
と、会話を切り出す。
こちらからたずねると、これまで、ほとんど話さずに座ったままだった、向かいに座る本日の会合の提案者が、口を開いた。
「あの――――――私は、黄瀬くんと黒田くんが、出会った頃、そして、仲良くなったキッカケがあれば、その時のお話しを聞かせてもらいたいです」
ボクの目を見据えて、ハッキリとリクエストをしてきた天竹さんの気迫に、
(お、おう……)
と、一瞬たじろいでいると、
「それな! わたしも、聞いてみたい!」
ボクよりも先に、向かって左側に座っている女子が、パチンと手を叩いて反応している。
「そうだね……私も黄瀬くんと黒田くんが、どんな風に仲良くなったのか、気になるな」
穏やかな表情で、向かって右側に座る女子からも要望の声があがった。
オーディエンスから、あらためて全会一致の申し入れがあったとなれば断るわけにはいかない。軽く、ため息をつきつつ、
「わかったよ……あくまでボクの視点からの思い出話しだから、三人のご期待にそえるか、わからないけど……」
一言そえたボクは、
(そう言えば、竜司と親しく話すようになったのは、今くらいの時期だったっけ……?)
と、小学生の頃のことを思い返しはじめた。
※
5月9日(月)
それは、小学四年生になって、ひと月ばかり経った頃のこと――――――。
ボクたち小学生にとって、待望だったゴールデン・ウィークが終わった週明けの午後、ボクは、クラスメート数名と口論になっていた。
「はっ!? どういうこと!? なんで、誰もグループ発表の内容を調べてきてないんだよ!」
声を上げて問いつめるボクに、同じ班の小野・加藤・幸田の三人は、ヘラヘラと笑いながら、
「え~、だってねぇ?」
「オレたち、ゴールデン・ウィークは、旅行とかで忙しかったし……」
「仕方ないじゃ~ん」
などと、まるで責任や反省する態度を感じられない答えを返してくる。
一学期の始業式から、ひと月ほどが経過し、この日の午後の授業は、小学四年生になって初めての共同制作課題が行われることになっていたが、ボクたちの所属する2班は、初回から、早くも集団活動が崩壊の危機に瀕していた。
四月の終わりに、『わたしたちの県』という題材で、一枚の模造紙に、自分たちの住む県内の特色や名産品を書き込んで発表するという課題が与えられ、各班で、ゴールデン・ウィーク明けの今週末までの完成を目指し、制作実行に取り掛かろうとしていた矢先のできごとだ。
ゴールデン・ウィークの休みに入る直前、欠席していた一人を除いて、班のメンバーには、各自で、割り当てた県の特色および名産品について、最低ひとつ調べて来るように担任からの指示があったのだが、自分たち2班のメンバーは、ボク以外の誰も、明文化されていない、その宿題を片付けてこなかったことが判明した。
「じゃあ、今から、図書室で調べてきてよ」
せめて、自分たちの責任を果たしてもらおうと、三人に要求すると、
「え~」
「今からかよ~」
「面倒くさい~」
と、彼らは口々に不満の声を上げる。
(なんて、無責任なんだ……なんで、こんなヤツらと一緒の班にならなきゃならないんだよ!? これだから、グループ活動なんて……)
そんな想いを抱えながらも、口には出さず、
「だって、グループ活動だろう? みんなでやらなきゃ……」
そう反論すると、男子の加藤が口を開いた。
「そんなにやりたきゃ、黄瀬ひとりでやってくれよ」
その一言に、女子の小野と幸田も同調する。
「そうそう! 黄瀬くん、一人でやりなよ」
「私たちより、優秀なんだから……」
キャハハと笑いながら答える二人に、ボクは、キッと睨むように視線を送る。
「「うわ~、コワ~い」」
からかうような口調で反応する女子二名に、思わず
「なんだよ!」
と、詰め寄ろうとしたところに、
「おいおい……なにやってんだよ……!?」
そう言って、ボクたちの間に割って入ってきたのは、昼休みから、なぜか担任と職員室に移動していた、この班のもうひとりのメンバーだった。
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