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第二部
第2章〜黒と黄の詩〜⑦
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「黒田、やっと戻ってきたか? どこ行ってたんだよ?」
加藤の問いかけに対して、申し訳なさそうな声で、彼は、
「ゴメンな……ちょっと、和田先生に呼ばれててさ……」
と、担任教師の名前を出し、呼び出しを受けていたことを告げる。さらに続けて、
「で、どこまで進んだんだ? オレの仕事は残ってるか?」
と、質問する。すると、小野と幸田が、その問いに応じた。
「私たちのぶんも、黄瀬くんがやってくれるんだって!」
「そうそう! 黄瀬くん、メッチャやる気みたいだし!」
彼女たちの返答を受けて、「そうなのか?」という目線をボクに送ってきた黒田竜司は、一瞬チラリと目を合わせたあと、
「そっか~、でも、オレは、ちょっと作業をやらせてもらうわ……この宿題が出てから、ずっと休んでて、ナニも協力できてないからな~」
そう言って、共同制作課題用の模造紙とマジック類を取りに行き、あっと言う間に戻ってきた。
しかし、彼が班に戻ったときには、
「はい、今日はここまで~! 制作の進みが遅い班は、学校に残って進めてもイイぞ~」
という担任の和田先生の声がかかった。
「オレたち二人で進めるから、三人は、帰って良いぜ!」
サッパリとした表情の黒田竜司が、小野・加藤・幸田の三名に声をかけると、彼らは、
「えっ……」
と、意外そうな表情で、三者三様に、ボクと、もうひとりのメンバーの顔を交互に見る。
さらに、「大丈夫だって!」と、笑顔でつけ加える彼の一言に押されたのか、三人は、
「そっか……」
「それじゃ……」
「うん……」
と、言いながら、終わりの会(ボクらの小学校では、下校前の学級活動をこう呼んでいた)の帰宅準備に入り、あいさつが終わると、こちらの方をチラチラと気にしながら帰って行った。
※
全部で七つに別れている班は、どのグループも初回から順調な進捗状況が見込めているのか、ボクたち以外は、どのグループも残っていなかった。
「どうするんだよ、黒田!? 先週は、ずっと休んでてたのに、なにか、調べてきてることとかあるの?」
無責任にも、他のメンバーを帰宅させてしまった彼に、ボクは問いつめる。
実際、飛び石連休となっていたゴールデン・ウィークに入った時期から、黒田竜司は、カレンダーの日にちの色付けに関係なく、学校を欠席していた。
「あ~、勝手に決めて、ゴメンな! けど、今日は、オレと黄瀬の二人で作業を進める方が、良いと思ったんだよ。お詫びをするからさ、ちょっと待っててくんね?」
ボクの言葉に返答した彼は、なぜか、ランドセルを机に置いたまま、手提げカバンだけを持って、教室を出ていってしまう。
「なんなんだよ……意味のわからないヤツだな……」
と、独り言を言いながら、ひとり残された教室で、真っ白な模造紙に向き合う。
一人きりになってしまったとは言え、ボクは少し、ホッとしていた。
五十音順に席が決められていた一学期の席順では、黒田竜司が、ボクの後ろに座っていたが、この学年で、初めて同じクラスになったボクたち二人が親しく話すことはあまりなく、彼は、もっぱらボクの頭越しに、前の席の男子の加藤と話すことが多かった(教室内で陰キャ側に居たヒトならわかると思うけど、これをされると結構ストレスが溜まる)。
それだけに、大して親しくないクラスメートと二人きりで作業するより、一人で教室にいる方が、まだしも気が楽だ。
(二人になっても、ナニを話してイイか、わからないしな……)
小学生の頃から、友だちをつくるのがあまり得意ではなかった自分は、親しくないクラスメートと過ごす時間の方が、苦痛に感じるタイプの子どもだった。
――――――とは、言うものの。
やはり、放課後の教室で、真っ白な模造紙を目の前にし、一人でたたずんでいると、言いようのない孤独感が襲ってくる。
(勝手に他のメンバーを帰らせて、なんなんだよ、アイツは……)
黒田竜司が出て行ったことに安心していた、つい先程までとは一転して、今度は、自分だけが教室に残っていることに、急に怒りが込み上げてきた。
加藤の問いかけに対して、申し訳なさそうな声で、彼は、
「ゴメンな……ちょっと、和田先生に呼ばれててさ……」
と、担任教師の名前を出し、呼び出しを受けていたことを告げる。さらに続けて、
「で、どこまで進んだんだ? オレの仕事は残ってるか?」
と、質問する。すると、小野と幸田が、その問いに応じた。
「私たちのぶんも、黄瀬くんがやってくれるんだって!」
「そうそう! 黄瀬くん、メッチャやる気みたいだし!」
彼女たちの返答を受けて、「そうなのか?」という目線をボクに送ってきた黒田竜司は、一瞬チラリと目を合わせたあと、
「そっか~、でも、オレは、ちょっと作業をやらせてもらうわ……この宿題が出てから、ずっと休んでて、ナニも協力できてないからな~」
そう言って、共同制作課題用の模造紙とマジック類を取りに行き、あっと言う間に戻ってきた。
しかし、彼が班に戻ったときには、
「はい、今日はここまで~! 制作の進みが遅い班は、学校に残って進めてもイイぞ~」
という担任の和田先生の声がかかった。
「オレたち二人で進めるから、三人は、帰って良いぜ!」
サッパリとした表情の黒田竜司が、小野・加藤・幸田の三名に声をかけると、彼らは、
「えっ……」
と、意外そうな表情で、三者三様に、ボクと、もうひとりのメンバーの顔を交互に見る。
さらに、「大丈夫だって!」と、笑顔でつけ加える彼の一言に押されたのか、三人は、
「そっか……」
「それじゃ……」
「うん……」
と、言いながら、終わりの会(ボクらの小学校では、下校前の学級活動をこう呼んでいた)の帰宅準備に入り、あいさつが終わると、こちらの方をチラチラと気にしながら帰って行った。
※
全部で七つに別れている班は、どのグループも初回から順調な進捗状況が見込めているのか、ボクたち以外は、どのグループも残っていなかった。
「どうするんだよ、黒田!? 先週は、ずっと休んでてたのに、なにか、調べてきてることとかあるの?」
無責任にも、他のメンバーを帰宅させてしまった彼に、ボクは問いつめる。
実際、飛び石連休となっていたゴールデン・ウィークに入った時期から、黒田竜司は、カレンダーの日にちの色付けに関係なく、学校を欠席していた。
「あ~、勝手に決めて、ゴメンな! けど、今日は、オレと黄瀬の二人で作業を進める方が、良いと思ったんだよ。お詫びをするからさ、ちょっと待っててくんね?」
ボクの言葉に返答した彼は、なぜか、ランドセルを机に置いたまま、手提げカバンだけを持って、教室を出ていってしまう。
「なんなんだよ……意味のわからないヤツだな……」
と、独り言を言いながら、ひとり残された教室で、真っ白な模造紙に向き合う。
一人きりになってしまったとは言え、ボクは少し、ホッとしていた。
五十音順に席が決められていた一学期の席順では、黒田竜司が、ボクの後ろに座っていたが、この学年で、初めて同じクラスになったボクたち二人が親しく話すことはあまりなく、彼は、もっぱらボクの頭越しに、前の席の男子の加藤と話すことが多かった(教室内で陰キャ側に居たヒトならわかると思うけど、これをされると結構ストレスが溜まる)。
それだけに、大して親しくないクラスメートと二人きりで作業するより、一人で教室にいる方が、まだしも気が楽だ。
(二人になっても、ナニを話してイイか、わからないしな……)
小学生の頃から、友だちをつくるのがあまり得意ではなかった自分は、親しくないクラスメートと過ごす時間の方が、苦痛に感じるタイプの子どもだった。
――――――とは、言うものの。
やはり、放課後の教室で、真っ白な模造紙を目の前にし、一人でたたずんでいると、言いようのない孤独感が襲ってくる。
(勝手に他のメンバーを帰らせて、なんなんだよ、アイツは……)
黒田竜司が出て行ったことに安心していた、つい先程までとは一転して、今度は、自分だけが教室に残っていることに、急に怒りが込み上げてきた。
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