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第三部
第1章〜クラス内カーストでアウトサイダーのボクたちが動画投稿で人気配信者を目指す件〜⑨
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~佐倉桃華の見解~
鳳花部長が、『PRコンテスト(仮)』の説明をしてくれた翌日の放課後、ワタシは、広報部の活動が行われる放送室で、同じチームとして活動することになったくろセンパイを待っていた。
目的は、もちろん、『PRコンテスト(仮)』における動画制作の打ち合わせだ。
今回の企画が行われる約一ヶ月のあいだ、ワタシたちのチームは、打ち合わせ場所として、放送室を優先的に使わせてもらえることになった。
広報部のホームグラウンドである放送室を使わせてもらうことになったことも含めて、ワタシは、今回の企画の進み具合に大いに満足していた。
鳳花部長と寿生徒会長が、ワタシの提案した最下位チームへのペナルティを採用してくれたこともそうだし、なにより、他の女子でなく、ワタシ自身が、くろセンパイと同じチームになれたことが大きい。
特に、くろセンパイの告白を大勢の生徒(だけでなくライブ配信までされていた)の前で断ったにもかかわらず、なにかと彼に干渉し、気をもたせるような態度を取り続けている、最悪な性格の上級生に、一発ぶちかましてやる機会ができたことは、大きな収穫だ。
なにより、クジ引きの結果が出たときの、あのオンナの反応と言ったら――――――。
悔しさを感じながらも、それを表には出さないように、なんとか取りつくろおうとする表情は、これ以上ないくらい滑稽なモノだった。
ただ、もちろん、アレだけで終わるわけじゃない――――――。
今回の企画で、最下位チームにペナルティを課すということを提案したのは、言うまでもなく、白草四葉に強烈なパンチをお見舞いしてやるためだ。
彼女のチームが最下位になり、「鼻うがい」を実演する動画をさらすことになれば、まだ、あのオンナに未練が残っていそうな、くろセンパイも、さすがに幻滅して、その心は、彼女から離れるだろう。
その時のことを想像するだけで、ほおが緩んでしまうことを止められない――――――。
……と、ここまで考えて、ふと我に返る。
自分は、なんて性格の悪い人間になってしまったんだ、と――――――。
ワタシ自身、もともと、性格が穏やかな方ではなかったし、口の悪さについても自覚があった訳だけど……。
ただ、誰かを貶めたり、ヒトが苦しんだりするようすを見て、喜びを覚えるようなタイプの人間ではなかった。
それが、くろセンパイを悩ませている、あのオンナが、絡むときだけは、感情の歯止めが効かなくなる。
それもこれも、ワタシが大事に想う彼の心を傷つけた、あのオンナのせいだ。
彼に心的外傷級のショックを与えたツケは、キチンと払わせる。
同じ学年で、広報部に入部を希望してくれている宮野さんには、申し訳ないけれど、あの傲慢な上級生には、きっちりと償いをしてもらおう……。
そのためには、きぃセンパイや天竹さん、紅野さんのチームにもがんばってもらわなければならないので、可能なら、天竹さんに協力を申し出てみようと思う。
そして、この企画が終わったあと、くろセンパイの心を癒やしてあげるのは――――――。
……と、そこまで考えて、再び思い返す。
ワタシに、彼の気持ちを慰めてあげることは、できるのだろうか?
あらためて冷静に考えてみれば、今回の企画で、くろセンパイと同じチームとして活動し、行動をともにする機会が増えるということは、それだけ、多くの時間を一緒に過ごすということもでもある。
これは、今まで秘めていた自分の想いを彼に伝える絶好の機会だと言える。
中学卒業後に、感染症にかかってしまい、高校入学直後に広報部に入部するというタイミングを逃してしまい、それどころか、くろセンパイのサプライズ企画(最初は、紅野センパイに告白するつもりだったらしい)を止めることが出来なかった、という春先の苦い経験があったけれど、今回のクジ引きで、ようやく、自分にも運が向いてきたように感じる。
ただ――――――。
告白される経験は多くても(断っておくけど、これは別に自慢ではなく、むしろ迷惑に感じていた)、自分から相手に気持ちを伝えた経験が無いワタシには、そのための準備として、どんなアプローチをすれば良いのか、検討もつかなかった。
こういうことは、ネット上のインフルエンサーと呼ばれるヒトたちのネタの材料で、白草四葉とかいう上級生も、そんな「恋愛指南(笑)」の動画を何本もアップロードしていることは、もちろん、知っているけれど……。
彼女の動画は当然として、そういったモノに頼るのは、自分の性格からして、なんとなく、気が進まない――――――。
そんなことをツラツラと考えていると、
「待たせたな、モモカ! 遅れて済まない」
と、くろセンパイが、やって来た。
「大丈夫ですよ、くろセンパイ! ワタシも、ちょっと、考えゴトをしてましたから……」
ワタシが返答すると、彼は、
「そっか……それなら、良かった」
と、笑顔を見せたあと、予想もしていなかったことを言ってきた。
「モモカ……高校に入学してから、性格が柔らかくなったな! 前なら、オレが遅れて来ようもんなら、どれだけの罵詈雑言が飛んで来たことか……」
「ちょっと! くろセンパイの中で、ワタシは、どんなイメージになってるんですか!? それとも、また中学のときみたいに、下級生女子にイジられるのをお望みですか? そんな性癖を『神聖な学び舎』で披露しないでください!」
あぁ……また、やってしまった……。
これじゃ、中学生の頃となんにも変わってないじゃん……。
そんな風に落ち込んでいると、彼は、また、二カッと笑い、嬉しそうに言ってくる。
「そうそう! やっと調子が出てきたじゃないか! モモカは、やっぱり、そうじゃないとな!」
まさか、本当にワタシの言葉で喜ぶような資質を持っているわけじゃないだろうけど……。
いまは、くろセンパイと変わらずに話せていることに満足しながら、彼が誉めてくれたワタシの取り柄を活かした、今回の企画向けの提案をさせてもらおうと、ワタシは考えた。
鳳花部長が、『PRコンテスト(仮)』の説明をしてくれた翌日の放課後、ワタシは、広報部の活動が行われる放送室で、同じチームとして活動することになったくろセンパイを待っていた。
目的は、もちろん、『PRコンテスト(仮)』における動画制作の打ち合わせだ。
今回の企画が行われる約一ヶ月のあいだ、ワタシたちのチームは、打ち合わせ場所として、放送室を優先的に使わせてもらえることになった。
広報部のホームグラウンドである放送室を使わせてもらうことになったことも含めて、ワタシは、今回の企画の進み具合に大いに満足していた。
鳳花部長と寿生徒会長が、ワタシの提案した最下位チームへのペナルティを採用してくれたこともそうだし、なにより、他の女子でなく、ワタシ自身が、くろセンパイと同じチームになれたことが大きい。
特に、くろセンパイの告白を大勢の生徒(だけでなくライブ配信までされていた)の前で断ったにもかかわらず、なにかと彼に干渉し、気をもたせるような態度を取り続けている、最悪な性格の上級生に、一発ぶちかましてやる機会ができたことは、大きな収穫だ。
なにより、クジ引きの結果が出たときの、あのオンナの反応と言ったら――――――。
悔しさを感じながらも、それを表には出さないように、なんとか取りつくろおうとする表情は、これ以上ないくらい滑稽なモノだった。
ただ、もちろん、アレだけで終わるわけじゃない――――――。
今回の企画で、最下位チームにペナルティを課すということを提案したのは、言うまでもなく、白草四葉に強烈なパンチをお見舞いしてやるためだ。
彼女のチームが最下位になり、「鼻うがい」を実演する動画をさらすことになれば、まだ、あのオンナに未練が残っていそうな、くろセンパイも、さすがに幻滅して、その心は、彼女から離れるだろう。
その時のことを想像するだけで、ほおが緩んでしまうことを止められない――――――。
……と、ここまで考えて、ふと我に返る。
自分は、なんて性格の悪い人間になってしまったんだ、と――――――。
ワタシ自身、もともと、性格が穏やかな方ではなかったし、口の悪さについても自覚があった訳だけど……。
ただ、誰かを貶めたり、ヒトが苦しんだりするようすを見て、喜びを覚えるようなタイプの人間ではなかった。
それが、くろセンパイを悩ませている、あのオンナが、絡むときだけは、感情の歯止めが効かなくなる。
それもこれも、ワタシが大事に想う彼の心を傷つけた、あのオンナのせいだ。
彼に心的外傷級のショックを与えたツケは、キチンと払わせる。
同じ学年で、広報部に入部を希望してくれている宮野さんには、申し訳ないけれど、あの傲慢な上級生には、きっちりと償いをしてもらおう……。
そのためには、きぃセンパイや天竹さん、紅野さんのチームにもがんばってもらわなければならないので、可能なら、天竹さんに協力を申し出てみようと思う。
そして、この企画が終わったあと、くろセンパイの心を癒やしてあげるのは――――――。
……と、そこまで考えて、再び思い返す。
ワタシに、彼の気持ちを慰めてあげることは、できるのだろうか?
あらためて冷静に考えてみれば、今回の企画で、くろセンパイと同じチームとして活動し、行動をともにする機会が増えるということは、それだけ、多くの時間を一緒に過ごすということもでもある。
これは、今まで秘めていた自分の想いを彼に伝える絶好の機会だと言える。
中学卒業後に、感染症にかかってしまい、高校入学直後に広報部に入部するというタイミングを逃してしまい、それどころか、くろセンパイのサプライズ企画(最初は、紅野センパイに告白するつもりだったらしい)を止めることが出来なかった、という春先の苦い経験があったけれど、今回のクジ引きで、ようやく、自分にも運が向いてきたように感じる。
ただ――――――。
告白される経験は多くても(断っておくけど、これは別に自慢ではなく、むしろ迷惑に感じていた)、自分から相手に気持ちを伝えた経験が無いワタシには、そのための準備として、どんなアプローチをすれば良いのか、検討もつかなかった。
こういうことは、ネット上のインフルエンサーと呼ばれるヒトたちのネタの材料で、白草四葉とかいう上級生も、そんな「恋愛指南(笑)」の動画を何本もアップロードしていることは、もちろん、知っているけれど……。
彼女の動画は当然として、そういったモノに頼るのは、自分の性格からして、なんとなく、気が進まない――――――。
そんなことをツラツラと考えていると、
「待たせたな、モモカ! 遅れて済まない」
と、くろセンパイが、やって来た。
「大丈夫ですよ、くろセンパイ! ワタシも、ちょっと、考えゴトをしてましたから……」
ワタシが返答すると、彼は、
「そっか……それなら、良かった」
と、笑顔を見せたあと、予想もしていなかったことを言ってきた。
「モモカ……高校に入学してから、性格が柔らかくなったな! 前なら、オレが遅れて来ようもんなら、どれだけの罵詈雑言が飛んで来たことか……」
「ちょっと! くろセンパイの中で、ワタシは、どんなイメージになってるんですか!? それとも、また中学のときみたいに、下級生女子にイジられるのをお望みですか? そんな性癖を『神聖な学び舎』で披露しないでください!」
あぁ……また、やってしまった……。
これじゃ、中学生の頃となんにも変わってないじゃん……。
そんな風に落ち込んでいると、彼は、また、二カッと笑い、嬉しそうに言ってくる。
「そうそう! やっと調子が出てきたじゃないか! モモカは、やっぱり、そうじゃないとな!」
まさか、本当にワタシの言葉で喜ぶような資質を持っているわけじゃないだろうけど……。
いまは、くろセンパイと変わらずに話せていることに満足しながら、彼が誉めてくれたワタシの取り柄を活かした、今回の企画向けの提案をさせてもらおうと、ワタシは考えた。
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