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第三部
第1章〜クラス内カーストでアウトサイダーのボクたちが動画投稿で人気配信者を目指す件〜⑫
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5月26日(木)
~黄瀬壮馬の見解~
広報部と生徒会公認の『芦宮高校PR動画コンテスト』連絡会が終わった翌日の放課後、ボクは、クラスメートの天竹さんとともに、今週から恒例となっている図書室訪問を行う。
教室から図書室に向かう間、天竹さんに聞いていみた。
「そういえば……竜司から、ボクらが連絡会をしている間に、佐倉さんが図書室に行ったみたいだ、って聞いたけど、彼女は、どんな話しをしに来たの?」
「はい……ノアや私に迷惑を掛けてしまって申し訳ない、最下位にならないようにがんばってください、と謝罪および激励に来てくれたみたいです」
下級生が話したという言葉に、ボクは、少しだけガッカリする。
(いや、そんなことは言われなくても、わかってるんだよ)
「わざわざ、相手のチームを応援しに来るなんて佐倉さんたちは、余裕だね……竜司も、なんだか自信ありげなかんじだったしなぁ」
ボヤくように、ボクが口にすると、天竹さんは、(こう言うと失礼だけど)意外にも前向きな表情で、声をかけてくる。
「佐倉さんにも励ましてもらいましたし、私たちは私たちで、がんばりましょう! 月曜日までに、自分たちの企画のたたき台を提出しないといけないんですよね?」
(そのアイデアのキッカケすら見つかっていない状態なんだけど、どうすりゃ良いのさ……)
思わず口に出しそうになった言葉を、かろうじて飲み込んだものの、不安が拭えないままの気持ちで、図書室に到着する。
ボクたちの活動拠点である図書室の閲覧スペースには、すでに文芸部の他の部員さんたちが集まっていた。
「あっ! 部長、黄瀬先輩! 今日もがんばりましょう!」
一年生の井戸川さんが、ボクたちに明るく声をかけてくれる。
元気の良い下級生に代表されるように、部長の天竹さんをはじめ、文芸部のみんなが、今回の企画に前向きに協力してくれていることは、ボクにとって、唯一の救いと言っても良いポジティブな要素だ。
「ボクたち広報部の勝手な企画に協力してくれて、本当にありがとう」
自分の不甲斐なさを取りつくろうように、文芸部のみんなにお礼を言うと、
「なに言ってるんですか、黄瀬くん! 芦宮 高校に関わることなら、自分たちにも関係することだよ!」
と、同じ学年の石沢さんが返答する。
さらに、天竹さんが
「それに、私たち文芸部だけじゃなくて、吹奏楽部からも協力してもらえうように、ノアと生徒会長が伝えてくれているみたいですよ」
と、付け加えた。
文芸部に加えて、寿生徒会長の後ろ盾があり、校内でも最大規模の部員数を誇る吹奏楽部の協力を取り付けられるのは、心強いけど……。
まずは、自分たちが、しっかりと企画を立てないと、お話しにならない。
「月曜日の提出期限には、もう時間もなくなってきたから、そろそろ、制作する動画のテーマや方向性を決めないといけないんだけど……」
閲覧スペースに着席し、ミーティングの準備を整えたボクが、慎重に議題を切り出すと、天竹さんが即答するように応じた。
「その点については、私たち文芸部から提案があるんですけど、良いですか?」
教室から図書室に移動する間の会話でも想っていたことだけど、ボクと違って、彼女からは今回の企画について、前向きに取り組んでいる姿勢を感じる。
そんな、天竹さんだからこそ、良いアイデアを持っているのかも知れない、と希望をたくして、短く返答した。
「うん! ぜひ聞かせて」
「はい、これは、ある下級生の女子からもアドバイスをもらったんですけど……私たちのチームは、やっぱり、黄瀬くんが作るクラブ紹介の映像をメインに立てるべきだと思うんです」
「いや、でもそれは……最初に素材となる映像がないと、ナニも出来ないよ? 新入部員勧誘のPVみたいに、その映像のテーマやコンセプトになる軸がないと……」
彼女の申し出に、ボクが、意見を述べると、天竹さんだけなく、文芸部のメンバー全員の表情に、少しだけ緊張が走るのがわかった。
「そのことなんですけど……私たち文芸部の部員たちで手分けして、各クラブに今年の目標や、いまの活動にかける想いなどをインタビューさせてもらおうかと考えているんです」
天竹さんが、ボクの言葉に答えると、続けて他の部員さんたちも加勢する。
「色々な人に取材をして、内容をまとめるノンフィクションは、文学のジャンルのひとつだし……」
「こういうの、一回やってみたいと思ってたんだ!」
ボクらと同学年の石沢さんと今村さんが、明るい表情で熱っぽく語る。
さらに、一年生の高瀬さんと井戸川さんは、
「私たち一年は、先輩たちの『ビブリオバトル』のプロモーション・ビデオを見て文芸部の入部を決めたんです!」
「あれって、黄瀬先輩が、作った動画なんですよね!? 先輩の作る動画に協力できるなんて、とっても嬉しいです!」
と、ボクの全身がこそばゆくなるようなことを言ってきた。
校内のプロモーション・ビデオの請負制作だけなく、(同じクラスに、同世代のカリスマ的存在がいるので、大きな声では自慢できないけど)ゲームの攻略動画をサイトにアップロードして、そこそこの再生数を稼いでるボクは、動画編集の腕について、それなりの自負はあったつもりだけど……。
こうして、面と向かって制作した映像を評価してもらえるということは、悪い気はしない。
天竹さん達ほどではないにしても、ボクの中で、前向きな気持ちが少しずつ湧いてきた。
「ありがとう……でも、そんなに誉めてもらえるようなことじゃないよ……」
面映ゆい気持ちで、感謝と謙遜の言葉を述べつつ、ボクは、
「それじゃ、文芸部のみんなに各クラブの取材をしてもらうにあたって、聞き出したいテーマを決めておこうか?」
と、天竹さん達に提案した。
~黄瀬壮馬の見解~
広報部と生徒会公認の『芦宮高校PR動画コンテスト』連絡会が終わった翌日の放課後、ボクは、クラスメートの天竹さんとともに、今週から恒例となっている図書室訪問を行う。
教室から図書室に向かう間、天竹さんに聞いていみた。
「そういえば……竜司から、ボクらが連絡会をしている間に、佐倉さんが図書室に行ったみたいだ、って聞いたけど、彼女は、どんな話しをしに来たの?」
「はい……ノアや私に迷惑を掛けてしまって申し訳ない、最下位にならないようにがんばってください、と謝罪および激励に来てくれたみたいです」
下級生が話したという言葉に、ボクは、少しだけガッカリする。
(いや、そんなことは言われなくても、わかってるんだよ)
「わざわざ、相手のチームを応援しに来るなんて佐倉さんたちは、余裕だね……竜司も、なんだか自信ありげなかんじだったしなぁ」
ボヤくように、ボクが口にすると、天竹さんは、(こう言うと失礼だけど)意外にも前向きな表情で、声をかけてくる。
「佐倉さんにも励ましてもらいましたし、私たちは私たちで、がんばりましょう! 月曜日までに、自分たちの企画のたたき台を提出しないといけないんですよね?」
(そのアイデアのキッカケすら見つかっていない状態なんだけど、どうすりゃ良いのさ……)
思わず口に出しそうになった言葉を、かろうじて飲み込んだものの、不安が拭えないままの気持ちで、図書室に到着する。
ボクたちの活動拠点である図書室の閲覧スペースには、すでに文芸部の他の部員さんたちが集まっていた。
「あっ! 部長、黄瀬先輩! 今日もがんばりましょう!」
一年生の井戸川さんが、ボクたちに明るく声をかけてくれる。
元気の良い下級生に代表されるように、部長の天竹さんをはじめ、文芸部のみんなが、今回の企画に前向きに協力してくれていることは、ボクにとって、唯一の救いと言っても良いポジティブな要素だ。
「ボクたち広報部の勝手な企画に協力してくれて、本当にありがとう」
自分の不甲斐なさを取りつくろうように、文芸部のみんなにお礼を言うと、
「なに言ってるんですか、黄瀬くん! 芦宮 高校に関わることなら、自分たちにも関係することだよ!」
と、同じ学年の石沢さんが返答する。
さらに、天竹さんが
「それに、私たち文芸部だけじゃなくて、吹奏楽部からも協力してもらえうように、ノアと生徒会長が伝えてくれているみたいですよ」
と、付け加えた。
文芸部に加えて、寿生徒会長の後ろ盾があり、校内でも最大規模の部員数を誇る吹奏楽部の協力を取り付けられるのは、心強いけど……。
まずは、自分たちが、しっかりと企画を立てないと、お話しにならない。
「月曜日の提出期限には、もう時間もなくなってきたから、そろそろ、制作する動画のテーマや方向性を決めないといけないんだけど……」
閲覧スペースに着席し、ミーティングの準備を整えたボクが、慎重に議題を切り出すと、天竹さんが即答するように応じた。
「その点については、私たち文芸部から提案があるんですけど、良いですか?」
教室から図書室に移動する間の会話でも想っていたことだけど、ボクと違って、彼女からは今回の企画について、前向きに取り組んでいる姿勢を感じる。
そんな、天竹さんだからこそ、良いアイデアを持っているのかも知れない、と希望をたくして、短く返答した。
「うん! ぜひ聞かせて」
「はい、これは、ある下級生の女子からもアドバイスをもらったんですけど……私たちのチームは、やっぱり、黄瀬くんが作るクラブ紹介の映像をメインに立てるべきだと思うんです」
「いや、でもそれは……最初に素材となる映像がないと、ナニも出来ないよ? 新入部員勧誘のPVみたいに、その映像のテーマやコンセプトになる軸がないと……」
彼女の申し出に、ボクが、意見を述べると、天竹さんだけなく、文芸部のメンバー全員の表情に、少しだけ緊張が走るのがわかった。
「そのことなんですけど……私たち文芸部の部員たちで手分けして、各クラブに今年の目標や、いまの活動にかける想いなどをインタビューさせてもらおうかと考えているんです」
天竹さんが、ボクの言葉に答えると、続けて他の部員さんたちも加勢する。
「色々な人に取材をして、内容をまとめるノンフィクションは、文学のジャンルのひとつだし……」
「こういうの、一回やってみたいと思ってたんだ!」
ボクらと同学年の石沢さんと今村さんが、明るい表情で熱っぽく語る。
さらに、一年生の高瀬さんと井戸川さんは、
「私たち一年は、先輩たちの『ビブリオバトル』のプロモーション・ビデオを見て文芸部の入部を決めたんです!」
「あれって、黄瀬先輩が、作った動画なんですよね!? 先輩の作る動画に協力できるなんて、とっても嬉しいです!」
と、ボクの全身がこそばゆくなるようなことを言ってきた。
校内のプロモーション・ビデオの請負制作だけなく、(同じクラスに、同世代のカリスマ的存在がいるので、大きな声では自慢できないけど)ゲームの攻略動画をサイトにアップロードして、そこそこの再生数を稼いでるボクは、動画編集の腕について、それなりの自負はあったつもりだけど……。
こうして、面と向かって制作した映像を評価してもらえるということは、悪い気はしない。
天竹さん達ほどではないにしても、ボクの中で、前向きな気持ちが少しずつ湧いてきた。
「ありがとう……でも、そんなに誉めてもらえるようなことじゃないよ……」
面映ゆい気持ちで、感謝と謙遜の言葉を述べつつ、ボクは、
「それじゃ、文芸部のみんなに各クラブの取材をしてもらうにあたって、聞き出したいテーマを決めておこうか?」
と、天竹さん達に提案した。
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