初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁

文字の大きさ
373 / 454
第五部

第3章〜汚れた聖地巡礼について〜⑨

しおりを挟む
 着信画面には、「白草四葉」という名前が表示されている。応答ボタンをタップすると、聞き慣れた声が耳に入ってきた。

「ちょっと、クロ! いまの配信どうなってるの!? あの怪物みたいな生き物はなんなの?」

「いや、それがオレたちにも、サッパリわからないんだ。夫婦岩の周りで配信をしていて、あの裂け目をのぞこうとしたら、急にアイツがあらわれたんだ! それより、シロ! いま、ライブ配信はどうなってる!?」

「どうなってるもナニも、クロが黄瀬クンに『すぐにこの場から離れるんだ!』って言ったあと、しばらくしてから、暗い画面の中で牛みたいな顔の怪物が、一瞬だけ大写しになって、そのあと、動画は止まっちゃたよ?」

 シロの言う言葉を証明するように、隣りにいた緑川が再生させた動画には、壮馬が撮影していた巨石の上に立つ牛女らしき姿の異形の怪物が映し出され、しばらくして、スマホを落とした場面では真っ暗な空が映り、そこに牛面の姿が写ったかと思うと、そこで配信は停止されていた。

 この異形の怪物がスマホを破壊してしまったのか、それとも、律儀に配信停止のボタンを押したのかはわからないが、自動的にアーカイブ化された動画には、配信終了後であるにもかかわらず、ライブ配信中よりも多くのコメントが集まってきている。

 こんな予測不可能な事態になるなんて、当然、少しも想定していなかったので、いまでも頭の中は混乱したままなのだが、それでも、こうしてタイミング良く、無事にバスに乗れただけでも、幸運だったと言える。
 
「とにかく、オレと壮馬はこれから編集室に戻るから、そこで、今後の対策を相談しよう。マンションに着いたら連絡するよ。あぁ、9時頃には戻れるはずだ」

 シロにそう返答したあと、隣りに座るクラスメートに、「緑川はどうする?」とたずねる。

「まだ、この時間だし、僕も一緒に黒田たちのところに行くよ。なにより、このまま一人で自宅には戻る気にはなれない……」

 オレたちの編集室やオレが住むマンションは、海沿いである地域の南部にあり、山の手に近い緑川の自宅からは離れている。いや、なんなら、今回の心霊スポット訪問の場所となった兜山かぶとやまとは近い距離にあるのだが、オレとしても、この状況で、同行していたクラスメートに、

「今日は、このまま帰ってくれ」

という気にはなれなかった。

「あぁ、そうした方が良いだろうな。一応、自宅には帰りが遅くなるように伝えておいてくれ」

 オレの言葉にうなずいた緑川の反応を確認し、シロに告げる。

「緑川も、編集室に来てくれることになった。詳しくは、そっちに戻ってから話すから、シロはネットの動向を確認しておいてくれないか? あぁ、『クローバー・フィールド』の情報発信もオレたちが戻るまで控えておいてくれ」

 そこまで告げると、オレは通話を切って、バスの座席に深く腰掛ける。

「動画では暗がりで良く見えなかったけど、は本当に人間以外のナニかなのか?」

 深刻な表情で問いかけてくる緑川の言葉に、オレは「さっきも言ったが、サッパリわからん」と首を振り、

「だけど、あんな時間にあの場所に潜んで夫婦岩に近づくヤツを脅かそうとする人間がいたとしたら、そっちの方が怪物よりも怖くないか?」

と答える。

「まあ、それはそうかも知れないが……」

 緑川は、そうつぶやいたあと、何事かを考えるように黙り込んだ。
 一方、バスに乗ってから……いや、夫婦岩を去ろうとした時から、ほとんど言葉を発していない親友は、アーカイブ化された動画の同じシーンを何度も何度も再生している。

「最後は、光源が無くて、わかりにくいけど……これは、凄い映像だ!」

 壮馬は、興奮してそんなことをつぶやきながら、スマホのディスプレイを食い入るように見つめていた。

「そうだ! アーカイブの動画だけじゃなくて、スマホの実機に他の映像が残っていないかも確認しないと! すぐに取りに戻ろう!!」

 そう口にした壮馬は、バスが走行中にもかかわらず、立ち上がって移動しようとする。
 偶然なのだろうが、その瞬間、
 
「安全のため走行中の席の移動はご遠慮ください」

という車内アナウンスが流れる。

 オレは、立ち上がりかけた親友を席に戻るように腕を引きながら諭す。
 
「落ち着け、壮馬! 撮影用のスマホが気になるのはわかるが、夫婦岩にいたあの牛女の正体がわからない以上、取りに戻るのは危険だ。なにより、この暗がりじゃ見つかるかどうかもわからん。スマホの捜索は、明日にしよう」

「その朝までの間に、スマホがどこかに行ったらどうするんだよ?」

「あんな辺鄙なところに、この時間から出かける物好きなヤツなんていねぇよ! だから、スマホのことは心配するな。それより、この事態をどうやって収拾するのか考えるぞ」
 
 この企画が始まった当初からこれまでも、壮馬の言動にはヒヤヒヤすることが多かったが、目の前に、正体不明の異形の存在があらわれたことで、その傾向が、より顕著になるのではないか――――――?

 自分の目前に怪物じみた存在が姿を見せたこと以上に、オレは友人の今後の動向の方が、はるかに気になっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

カオルとカオリ

廣瀬純七
青春
一つの体に男女の双子の魂が混在する高校生の中田薫と中田香織の意外と壮大な話です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

処理中です...