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第五部
第3章〜汚れた聖地巡礼について〜⑨
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着信画面には、「白草四葉」という名前が表示されている。応答ボタンをタップすると、聞き慣れた声が耳に入ってきた。
「ちょっと、クロ! いまの配信どうなってるの!? あの怪物みたいな生き物はなんなの?」
「いや、それがオレたちにも、サッパリわからないんだ。夫婦岩の周りで配信をしていて、あの裂け目をのぞこうとしたら、急にアイツがあらわれたんだ! それより、シロ! いま、ライブ配信はどうなってる!?」
「どうなってるもナニも、クロが黄瀬クンに『すぐにこの場から離れるんだ!』って言ったあと、しばらくしてから、暗い画面の中で牛みたいな顔の怪物が、一瞬だけ大写しになって、そのあと、動画は止まっちゃたよ?」
シロの言う言葉を証明するように、隣りにいた緑川が再生させた動画には、壮馬が撮影していた巨石の上に立つ牛女らしき姿の異形の怪物が映し出され、しばらくして、スマホを落とした場面では真っ暗な空が映り、そこに牛面の姿が写ったかと思うと、そこで配信は停止されていた。
この異形の怪物がスマホを破壊してしまったのか、それとも、律儀に配信停止のボタンを押したのかはわからないが、自動的にアーカイブ化された動画には、配信終了後であるにもかかわらず、ライブ配信中よりも多くのコメントが集まってきている。
こんな予測不可能な事態になるなんて、当然、少しも想定していなかったので、いまでも頭の中は混乱したままなのだが、それでも、こうしてタイミング良く、無事にバスに乗れただけでも、幸運だったと言える。
「とにかく、オレと壮馬はこれから編集室に戻るから、そこで、今後の対策を相談しよう。マンションに着いたら連絡するよ。あぁ、9時頃には戻れるはずだ」
シロにそう返答したあと、隣りに座るクラスメートに、「緑川はどうする?」とたずねる。
「まだ、この時間だし、僕も一緒に黒田たちのところに行くよ。なにより、このまま一人で自宅には戻る気にはなれない……」
オレたちの編集室やオレが住むマンションは、海沿いである地域の南部にあり、山の手に近い緑川の自宅からは離れている。いや、なんなら、今回の心霊スポット訪問の場所となった兜山とは近い距離にあるのだが、オレとしても、この状況で、同行していたクラスメートに、
「今日は、このまま帰ってくれ」
という気にはなれなかった。
「あぁ、そうした方が良いだろうな。一応、自宅には帰りが遅くなるように伝えておいてくれ」
オレの言葉にうなずいた緑川の反応を確認し、シロに告げる。
「緑川も、編集室に来てくれることになった。詳しくは、そっちに戻ってから話すから、シロはネットの動向を確認しておいてくれないか? あぁ、『クローバー・フィールド』の情報発信もオレたちが戻るまで控えておいてくれ」
そこまで告げると、オレは通話を切って、バスの座席に深く腰掛ける。
「動画では暗がりで良く見えなかったけど、アレは本当に人間以外のナニかなのか?」
深刻な表情で問いかけてくる緑川の言葉に、オレは「さっきも言ったが、サッパリわからん」と首を振り、
「だけど、あんな時間にあの場所に潜んで夫婦岩に近づくヤツを脅かそうとする人間がいたとしたら、そっちの方が怪物よりも怖くないか?」
と答える。
「まあ、それはそうかも知れないが……」
緑川は、そうつぶやいたあと、何事かを考えるように黙り込んだ。
一方、バスに乗ってから……いや、夫婦岩を去ろうとした時から、ほとんど言葉を発していない親友は、アーカイブ化された動画の同じシーンを何度も何度も再生している。
「最後は、光源が無くて、わかりにくいけど……これは、凄い映像だ!」
壮馬は、興奮してそんなことをつぶやきながら、スマホのディスプレイを食い入るように見つめていた。
「そうだ! アーカイブの動画だけじゃなくて、スマホの実機に他の映像が残っていないかも確認しないと! すぐに取りに戻ろう!!」
そう口にした壮馬は、バスが走行中にもかかわらず、立ち上がって移動しようとする。
偶然なのだろうが、その瞬間、
「安全のため走行中の席の移動はご遠慮ください」
という車内アナウンスが流れる。
オレは、立ち上がりかけた親友を席に戻るように腕を引きながら諭す。
「落ち着け、壮馬! 撮影用のスマホが気になるのはわかるが、夫婦岩にいたあの牛女の正体がわからない以上、取りに戻るのは危険だ。なにより、この暗がりじゃ見つかるかどうかもわからん。スマホの捜索は、明日にしよう」
「その朝までの間に、スマホがどこかに行ったらどうするんだよ?」
「あんな辺鄙なところに、この時間から出かける物好きなヤツなんていねぇよ! だから、スマホのことは心配するな。それより、この事態をどうやって収拾するのか考えるぞ」
この企画が始まった当初からこれまでも、壮馬の言動にはヒヤヒヤすることが多かったが、目の前に、正体不明の異形の存在があらわれたことで、その傾向が、より顕著になるのではないか――――――?
自分の目前に怪物じみた存在が姿を見せたこと以上に、オレは友人の今後の動向の方が、はるかに気になっていた。
「ちょっと、クロ! いまの配信どうなってるの!? あの怪物みたいな生き物はなんなの?」
「いや、それがオレたちにも、サッパリわからないんだ。夫婦岩の周りで配信をしていて、あの裂け目をのぞこうとしたら、急にアイツがあらわれたんだ! それより、シロ! いま、ライブ配信はどうなってる!?」
「どうなってるもナニも、クロが黄瀬クンに『すぐにこの場から離れるんだ!』って言ったあと、しばらくしてから、暗い画面の中で牛みたいな顔の怪物が、一瞬だけ大写しになって、そのあと、動画は止まっちゃたよ?」
シロの言う言葉を証明するように、隣りにいた緑川が再生させた動画には、壮馬が撮影していた巨石の上に立つ牛女らしき姿の異形の怪物が映し出され、しばらくして、スマホを落とした場面では真っ暗な空が映り、そこに牛面の姿が写ったかと思うと、そこで配信は停止されていた。
この異形の怪物がスマホを破壊してしまったのか、それとも、律儀に配信停止のボタンを押したのかはわからないが、自動的にアーカイブ化された動画には、配信終了後であるにもかかわらず、ライブ配信中よりも多くのコメントが集まってきている。
こんな予測不可能な事態になるなんて、当然、少しも想定していなかったので、いまでも頭の中は混乱したままなのだが、それでも、こうしてタイミング良く、無事にバスに乗れただけでも、幸運だったと言える。
「とにかく、オレと壮馬はこれから編集室に戻るから、そこで、今後の対策を相談しよう。マンションに着いたら連絡するよ。あぁ、9時頃には戻れるはずだ」
シロにそう返答したあと、隣りに座るクラスメートに、「緑川はどうする?」とたずねる。
「まだ、この時間だし、僕も一緒に黒田たちのところに行くよ。なにより、このまま一人で自宅には戻る気にはなれない……」
オレたちの編集室やオレが住むマンションは、海沿いである地域の南部にあり、山の手に近い緑川の自宅からは離れている。いや、なんなら、今回の心霊スポット訪問の場所となった兜山とは近い距離にあるのだが、オレとしても、この状況で、同行していたクラスメートに、
「今日は、このまま帰ってくれ」
という気にはなれなかった。
「あぁ、そうした方が良いだろうな。一応、自宅には帰りが遅くなるように伝えておいてくれ」
オレの言葉にうなずいた緑川の反応を確認し、シロに告げる。
「緑川も、編集室に来てくれることになった。詳しくは、そっちに戻ってから話すから、シロはネットの動向を確認しておいてくれないか? あぁ、『クローバー・フィールド』の情報発信もオレたちが戻るまで控えておいてくれ」
そこまで告げると、オレは通話を切って、バスの座席に深く腰掛ける。
「動画では暗がりで良く見えなかったけど、アレは本当に人間以外のナニかなのか?」
深刻な表情で問いかけてくる緑川の言葉に、オレは「さっきも言ったが、サッパリわからん」と首を振り、
「だけど、あんな時間にあの場所に潜んで夫婦岩に近づくヤツを脅かそうとする人間がいたとしたら、そっちの方が怪物よりも怖くないか?」
と答える。
「まあ、それはそうかも知れないが……」
緑川は、そうつぶやいたあと、何事かを考えるように黙り込んだ。
一方、バスに乗ってから……いや、夫婦岩を去ろうとした時から、ほとんど言葉を発していない親友は、アーカイブ化された動画の同じシーンを何度も何度も再生している。
「最後は、光源が無くて、わかりにくいけど……これは、凄い映像だ!」
壮馬は、興奮してそんなことをつぶやきながら、スマホのディスプレイを食い入るように見つめていた。
「そうだ! アーカイブの動画だけじゃなくて、スマホの実機に他の映像が残っていないかも確認しないと! すぐに取りに戻ろう!!」
そう口にした壮馬は、バスが走行中にもかかわらず、立ち上がって移動しようとする。
偶然なのだろうが、その瞬間、
「安全のため走行中の席の移動はご遠慮ください」
という車内アナウンスが流れる。
オレは、立ち上がりかけた親友を席に戻るように腕を引きながら諭す。
「落ち着け、壮馬! 撮影用のスマホが気になるのはわかるが、夫婦岩にいたあの牛女の正体がわからない以上、取りに戻るのは危険だ。なにより、この暗がりじゃ見つかるかどうかもわからん。スマホの捜索は、明日にしよう」
「その朝までの間に、スマホがどこかに行ったらどうするんだよ?」
「あんな辺鄙なところに、この時間から出かける物好きなヤツなんていねぇよ! だから、スマホのことは心配するな。それより、この事態をどうやって収拾するのか考えるぞ」
この企画が始まった当初からこれまでも、壮馬の言動にはヒヤヒヤすることが多かったが、目の前に、正体不明の異形の存在があらわれたことで、その傾向が、より顕著になるのではないか――――――?
自分の目前に怪物じみた存在が姿を見せたこと以上に、オレは友人の今後の動向の方が、はるかに気になっていた。
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