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第五部
第4章〜都市に伝わるあるウワサについて〜②
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目的地に向かう山道とクラスメートの自宅のそばを通っている北祝川通りが交わる交差点でしばらく待っていると、数分と経たずに緑川が自転車を漕いでやって来た。
「悪い、待たせてしまったか黒田?」
「いや、オレもいま、ここに着いたばかりだ。それより、こっちこそ悪かったな、こんな時間に呼び出してしまって」
そう言いながら、スマホで時間を確認すると、時刻はとっくに午後11時を回っていた。
「黒田には、一学期に世話になったからな。これくらいで恩を返せるとは思ってないけど、僕に出来ることなら、なんでもさせてくれよ」
そう言いながら、さわやかな笑顔を見せる男子生徒に、
「それは、ありがたいが……親に小言とか言われなかったか?」
と、彼の両親の反応を心配したのだが……。
「いや、黒田の名前を出したら、あっさり外出を許可してくれたよ。ウチの母親も黒田に感謝してるみたいだから……」
少し照れたような緑川の表情を見ると、こちらの方も、なんだか面映ゆい気持ちになる。
ただ、いまは、そうした気分に浸っている場合ではなかった。
「そうか……帰ったら、ご両親にもお礼を言っておいてくれ。これから、夜のヒルクライムになるけど、付き合ってくれ」
お辞儀をして頼み込むと、「大げさだな……」と、緑川は苦笑しながら、ペダルを踏み込んだ。
そうして、オレたちは、もう三度目となる自転車での夫婦岩到達を目指す。
オレは、親友の居所について、この場所の他にはないだろう、と当たりをつけていた。
夕方に確認したとおり、これまで訪問した他のスポットについて、壮馬はすでにアップロードするための動画の編集を終わらせている。
オレにも、その映像を確認をするようにメッセージを送ってきたように、普段から自分の編集した動画の完成度には自身を持っている親友が、いまさら、武甲川の踏み切りや、市民プールの公衆トイレ、墓地の少女像などの場所に関心を示すとは思えなかった。
唯一、夫婦岩でライブ配信を行っていた映像は、編集なしで異形の存在が映り込んでいるものの、それは壮馬にとって満足のいく内容ではなかったのではないか――――――?
親友の母親である奈々美さんから連絡をもらった瞬間、オレの頭には、そのことが真っ先に思い浮かんだ。
動画の編集作業にこだわりを持っている壮馬は、自分の考案したストーリーに沿って、映像を作ってゆく傾向がある。オレたちの目の前に、突如として出現した牛女の姿をした怪物が、映り込んでいるだけでは十分ではなかったのではないか?
牛女(もどき)との遭遇という前夜のショッキングな出来事に加えて、古美術堂での店主との会話や、図書館での天竹との会合で思考回路が停止状態だったと言う個人的事情もあったが、その際に
(せっかく、牛女が映り込んでいるんだし、壮馬も編集の手間が省けたと満足しているんだろう)
と思い込んでしまったのは、決定的な失敗だった。
夕方の段階で、壮馬本人に夫婦岩の映像がフォルダに入っていないことと、今後の動画作成のプランについてたずねていれば、また、違った展開があったかも知れないが……。
だが、いまさら、そのことを後悔しても遅い。
いまは、想像がハズレること無く壮馬がオレたちの目指すスポットに居て、その親友を無事に連れ帰ることだけを考えなければならない。そんなことを考えながら、深夜帯ということもあり、街灯が少なく、自動車が速度を上げる県道のルートを避け、やや傾斜はきつくなるものの、交通量の少ないルートを選び、夫婦岩を目指す。
延々と続く登り坂を登り終え、平坦な道に出たときにクラスメートが声をかけてきた。
「黄瀬は、本当にこんな道を一人で登ったのか? いったい、どんな目的があるんだ?」
一般的に考えれば、緑川の抱く疑問は正しい。
たしかに、常識的に考えて、深夜にこんな道のりを経てまで、新たな映像をカメラに残そうなどと考えるのは、正気の沙汰ではないのだが――――――。
自分の制作する映像に並々ならぬ情熱を注ぐ普段の性格に加えて、今回の企画が始まった頃から、異様な熱情を持って動画の配信に集中する壮馬の姿を見るにつけ、世間一般が考える常識など通用しないだろう、とオレは考えていた。
(こんなことに付き合わせてしまって、本当に申し訳ない)
汗だくになりながら、オレとともに自転車を漕ぎ続ける緑川に心のなかで謝りながら、予想していた以上に付き合いの良いクラスメートに感謝する。
(他の奴らに壮馬の言動が理解できないように、緑川にも本人なりの考えがあって、ここまでん付き合ってくれるんだろうか?)
口には出さずにそんなことを考えていると、ようやく、山の中の住宅街を抜けて、巨石が鎮座する県道と交わるT字路が見えてきた。
「緑川、目の前の交差点を左折すれば、夫婦岩だ!」
オレが声をかけると、クラスメートは、
「いよいよか……黄瀬が無事だと良いが……」
と、つぶやいた。
その言葉に、黙ってうなずいて、少し緩やかな下り坂になっているT字路を緊張しながら左折する。
すると、「ブリンカーライト」と呼ばれる縦型の黄色い点滅ライトの光のそばにうごめく、人影らしきものが目に飛び込んできた。
「悪い、待たせてしまったか黒田?」
「いや、オレもいま、ここに着いたばかりだ。それより、こっちこそ悪かったな、こんな時間に呼び出してしまって」
そう言いながら、スマホで時間を確認すると、時刻はとっくに午後11時を回っていた。
「黒田には、一学期に世話になったからな。これくらいで恩を返せるとは思ってないけど、僕に出来ることなら、なんでもさせてくれよ」
そう言いながら、さわやかな笑顔を見せる男子生徒に、
「それは、ありがたいが……親に小言とか言われなかったか?」
と、彼の両親の反応を心配したのだが……。
「いや、黒田の名前を出したら、あっさり外出を許可してくれたよ。ウチの母親も黒田に感謝してるみたいだから……」
少し照れたような緑川の表情を見ると、こちらの方も、なんだか面映ゆい気持ちになる。
ただ、いまは、そうした気分に浸っている場合ではなかった。
「そうか……帰ったら、ご両親にもお礼を言っておいてくれ。これから、夜のヒルクライムになるけど、付き合ってくれ」
お辞儀をして頼み込むと、「大げさだな……」と、緑川は苦笑しながら、ペダルを踏み込んだ。
そうして、オレたちは、もう三度目となる自転車での夫婦岩到達を目指す。
オレは、親友の居所について、この場所の他にはないだろう、と当たりをつけていた。
夕方に確認したとおり、これまで訪問した他のスポットについて、壮馬はすでにアップロードするための動画の編集を終わらせている。
オレにも、その映像を確認をするようにメッセージを送ってきたように、普段から自分の編集した動画の完成度には自身を持っている親友が、いまさら、武甲川の踏み切りや、市民プールの公衆トイレ、墓地の少女像などの場所に関心を示すとは思えなかった。
唯一、夫婦岩でライブ配信を行っていた映像は、編集なしで異形の存在が映り込んでいるものの、それは壮馬にとって満足のいく内容ではなかったのではないか――――――?
親友の母親である奈々美さんから連絡をもらった瞬間、オレの頭には、そのことが真っ先に思い浮かんだ。
動画の編集作業にこだわりを持っている壮馬は、自分の考案したストーリーに沿って、映像を作ってゆく傾向がある。オレたちの目の前に、突如として出現した牛女の姿をした怪物が、映り込んでいるだけでは十分ではなかったのではないか?
牛女(もどき)との遭遇という前夜のショッキングな出来事に加えて、古美術堂での店主との会話や、図書館での天竹との会合で思考回路が停止状態だったと言う個人的事情もあったが、その際に
(せっかく、牛女が映り込んでいるんだし、壮馬も編集の手間が省けたと満足しているんだろう)
と思い込んでしまったのは、決定的な失敗だった。
夕方の段階で、壮馬本人に夫婦岩の映像がフォルダに入っていないことと、今後の動画作成のプランについてたずねていれば、また、違った展開があったかも知れないが……。
だが、いまさら、そのことを後悔しても遅い。
いまは、想像がハズレること無く壮馬がオレたちの目指すスポットに居て、その親友を無事に連れ帰ることだけを考えなければならない。そんなことを考えながら、深夜帯ということもあり、街灯が少なく、自動車が速度を上げる県道のルートを避け、やや傾斜はきつくなるものの、交通量の少ないルートを選び、夫婦岩を目指す。
延々と続く登り坂を登り終え、平坦な道に出たときにクラスメートが声をかけてきた。
「黄瀬は、本当にこんな道を一人で登ったのか? いったい、どんな目的があるんだ?」
一般的に考えれば、緑川の抱く疑問は正しい。
たしかに、常識的に考えて、深夜にこんな道のりを経てまで、新たな映像をカメラに残そうなどと考えるのは、正気の沙汰ではないのだが――――――。
自分の制作する映像に並々ならぬ情熱を注ぐ普段の性格に加えて、今回の企画が始まった頃から、異様な熱情を持って動画の配信に集中する壮馬の姿を見るにつけ、世間一般が考える常識など通用しないだろう、とオレは考えていた。
(こんなことに付き合わせてしまって、本当に申し訳ない)
汗だくになりながら、オレとともに自転車を漕ぎ続ける緑川に心のなかで謝りながら、予想していた以上に付き合いの良いクラスメートに感謝する。
(他の奴らに壮馬の言動が理解できないように、緑川にも本人なりの考えがあって、ここまでん付き合ってくれるんだろうか?)
口には出さずにそんなことを考えていると、ようやく、山の中の住宅街を抜けて、巨石が鎮座する県道と交わるT字路が見えてきた。
「緑川、目の前の交差点を左折すれば、夫婦岩だ!」
オレが声をかけると、クラスメートは、
「いよいよか……黄瀬が無事だと良いが……」
と、つぶやいた。
その言葉に、黙ってうなずいて、少し緩やかな下り坂になっているT字路を緊張しながら左折する。
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