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第1幕・Aim(エイム)の章〜③〜
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4月11日(火)
春休みが終わって新学期が始まり、僕の職場である学校でも、本格的に新年度の業務が始まった。
僕の仕事は、ICTサポーター(この名称は僕の住む自治体独自の呼び方らしい。国の定めた名称はICT支援員)と言って、学校におけるICT関連業務を実現するための専門スタッフだ。 学校現場で、パソコンやタブレット端末、インターネット・動画・電子黒板などのICT機器を利用した学習をスムーズに行えるようにサポートして、子どもたちの情報を活用する能力を伸ばすための役割を担っている。
春休みの後半は、入学してくる新入生へのタブレット端末の配布準備や管理台帳の作成、転任してきた先生たちのパソコンの新規設定補助などで、慌ただしく過ぎていった。
僕は、大学卒業後、すぐにこの仕事に就いて、地元の小学校三校と中学校一校の担当校を日替わりで訪問しているが、今年は二年目ということもあり、作業にも慣れたうえに、担当校の先生方との気心も知れてきたことで、どの学校でも、居心地よく働かせてもらっている。
それに、僕にとって、この職場で働くことの最大のメリットは、午後5時に仕事を終えて、(どの担当校からでも)自転車で30分と掛からない自宅に戻れば、テレビ観戦はもちろん、甲子園への参戦……もとい、試合観戦のときも、午後6時のプレーボールに間に合うということだ。
(会社に勤めると、いままでのようにナイター観戦はできないんじゃないか……?)
学生時代の後半は、そんな不安から、就職活動に身が入らなかった自分としては、この仕事に就けたことを神に感謝したいくらいなのだ。
そんな、社会人失格寸前である人間のこの日の訪問校は、中学校だった(ちなみに、十年近く前に卒業した僕自身の母校でもある)。
「中野くん! 今年は幸先の良いスタートで、ホッとしたなぁ~」
始業時間に、笑顔で声を掛けてくれたのは、英語担当の山脇先生。
職員室で用意してもらっている座席が近いこともあり、前の年の夏頃から、野球の話しで盛り上がっている。
先生の言うとおり、我らがタイガースは、先週末まで8試合を終えて、5勝2敗1分けと、まずまずの開幕スタートを切っていた。
「ホントですね~。去年の開幕9連敗のことを思うと……今年も、京セラに三連戦を観に行ったんですけど、去年と違って、今年は観に行った甲斐がありました」
「三試合とも観に行ってたんか~? 羨ましいな~。ところで、今日からの巨人戦は、どうなると思う?」
「今日の相手の先発は、戸郷ですよね? いまや、巨人のエース格なんで、難敵ですねぇ。こっちの西勇輝が抑えてくれたら良いんですけど……」
こんな感じで、山脇先生とは、先生の授業のない時間や、昼休みなどに前日の試合の感想や当日の試合の展望などを語り合っている。
そこに、
「お話し中、すいません……」
と、僕たちICTサポーターと学内の窓口になってくれている情報担当の早田先生が、会話に割って入ってきた。
「今週の土曜日に、新年度の懇親会をする予定なんですけど、ご都合が良ければ、中野さんもご一緒に、どうですか?」
早田先生は、僕より年上で、年齢は三十代前半だそうだが、年下の自分にも丁寧に接してくれていて、とても話しやすい。
僕が、この学校の職員室の雰囲気に、時間を置かずなじめたのは、この先生のおかげと言える。また、野球部の顧問ということもあり、僕たちの野球談義にも加わってくれることもあるが、贔屓の球団は、広島カープだ(その影響か、中学校野球部の部員勧誘ポスターのモデルは、カープの菊池涼介内野手だった)。
「お誘いいただいて、ありがたいんですけど……学校の先生の懇親会に、僕も参加させてもらって良いんですか?」
そうたずねると、早田先生は、「えぇ、是非!」と、僕の参加の意志を快諾してくれたあと、こんな風に質問を返してきた。
「中野さんの前任の御子柴さんからも、参加のお返事をもらっていますから! 御子柴さんに、なにか聞いてませんか?」
「すいません……実は、御子柴さんとは、面識がなくて……自分の職場の会合ではないので、ちょっと、おかしな話しですけど、僕も御子柴さんに会ってみたいと思ってたんです!」
早田先生の話したとおり、御子柴さんは、僕の前任のICTサポーターとして、四つの小・中学校を担当してくれていた人で、所属会社からは、僕より少し年上で二十代後半の女性だったと聞いている。
前任者の彼女と、これまで接触する機会を持てなかったのは、僕の社内研修の時期と彼女の退社時期が合わなかったからだ。
新卒の社会人として働き始めるにあたって、前担当者からの直接的な引き継ぎがなかったことは、大いに不安だったのだが――――――。
彼女が、社内のクラウド上に残してくれていた公式の引き継ぎ資料は、年度更新時に必要な作業がスクリーンショット付きで、わかりやすくまとめられていた。さらに、担当者だけが閲覧することのできるフォルダには、非公式資料として、各学校のICT業務のキーマンとなる先生の特徴や各校の特色が細かくまとめられたマル秘ファイルが保管されていて、学校の雰囲気や先生たちのことを事前に知るのに大いに役立ち、おかげで、予想していたよりも、はるかにスムーズに、仕事に取り掛かることができた。
一度も面識がないものの、御子柴さんには、機会があればお礼を言いたいと感じていたので、早田先生のお誘いはありがたいものだった。
我がチームの土曜日の試合は、午後2時開始のデイ・ゲームであることを確認していた僕は、学校の先生たちとの懇親会とともに、御子柴さんと会えることに期待しながら、週末を楽しみにしていた。
【本日の試合結果】
読売 対 阪神 1回戦 読売 7ー1 阪神
事前の予想どおり、ジャイアンツの若きエース戸郷の前に阪神打線は沈黙。
3点をリードされて終盤を迎え、8回に1点を返すも、その裏に2本の2ランホームランを食らって、シーズン初の伝統の一戦は、完敗と言って良い内容だった。
◎4月11日終了時点の阪神タイガースの成績
勝敗:5勝3敗1分け 貯金2
順位:2位 (首位と2ゲーム差)
春休みが終わって新学期が始まり、僕の職場である学校でも、本格的に新年度の業務が始まった。
僕の仕事は、ICTサポーター(この名称は僕の住む自治体独自の呼び方らしい。国の定めた名称はICT支援員)と言って、学校におけるICT関連業務を実現するための専門スタッフだ。 学校現場で、パソコンやタブレット端末、インターネット・動画・電子黒板などのICT機器を利用した学習をスムーズに行えるようにサポートして、子どもたちの情報を活用する能力を伸ばすための役割を担っている。
春休みの後半は、入学してくる新入生へのタブレット端末の配布準備や管理台帳の作成、転任してきた先生たちのパソコンの新規設定補助などで、慌ただしく過ぎていった。
僕は、大学卒業後、すぐにこの仕事に就いて、地元の小学校三校と中学校一校の担当校を日替わりで訪問しているが、今年は二年目ということもあり、作業にも慣れたうえに、担当校の先生方との気心も知れてきたことで、どの学校でも、居心地よく働かせてもらっている。
それに、僕にとって、この職場で働くことの最大のメリットは、午後5時に仕事を終えて、(どの担当校からでも)自転車で30分と掛からない自宅に戻れば、テレビ観戦はもちろん、甲子園への参戦……もとい、試合観戦のときも、午後6時のプレーボールに間に合うということだ。
(会社に勤めると、いままでのようにナイター観戦はできないんじゃないか……?)
学生時代の後半は、そんな不安から、就職活動に身が入らなかった自分としては、この仕事に就けたことを神に感謝したいくらいなのだ。
そんな、社会人失格寸前である人間のこの日の訪問校は、中学校だった(ちなみに、十年近く前に卒業した僕自身の母校でもある)。
「中野くん! 今年は幸先の良いスタートで、ホッとしたなぁ~」
始業時間に、笑顔で声を掛けてくれたのは、英語担当の山脇先生。
職員室で用意してもらっている座席が近いこともあり、前の年の夏頃から、野球の話しで盛り上がっている。
先生の言うとおり、我らがタイガースは、先週末まで8試合を終えて、5勝2敗1分けと、まずまずの開幕スタートを切っていた。
「ホントですね~。去年の開幕9連敗のことを思うと……今年も、京セラに三連戦を観に行ったんですけど、去年と違って、今年は観に行った甲斐がありました」
「三試合とも観に行ってたんか~? 羨ましいな~。ところで、今日からの巨人戦は、どうなると思う?」
「今日の相手の先発は、戸郷ですよね? いまや、巨人のエース格なんで、難敵ですねぇ。こっちの西勇輝が抑えてくれたら良いんですけど……」
こんな感じで、山脇先生とは、先生の授業のない時間や、昼休みなどに前日の試合の感想や当日の試合の展望などを語り合っている。
そこに、
「お話し中、すいません……」
と、僕たちICTサポーターと学内の窓口になってくれている情報担当の早田先生が、会話に割って入ってきた。
「今週の土曜日に、新年度の懇親会をする予定なんですけど、ご都合が良ければ、中野さんもご一緒に、どうですか?」
早田先生は、僕より年上で、年齢は三十代前半だそうだが、年下の自分にも丁寧に接してくれていて、とても話しやすい。
僕が、この学校の職員室の雰囲気に、時間を置かずなじめたのは、この先生のおかげと言える。また、野球部の顧問ということもあり、僕たちの野球談義にも加わってくれることもあるが、贔屓の球団は、広島カープだ(その影響か、中学校野球部の部員勧誘ポスターのモデルは、カープの菊池涼介内野手だった)。
「お誘いいただいて、ありがたいんですけど……学校の先生の懇親会に、僕も参加させてもらって良いんですか?」
そうたずねると、早田先生は、「えぇ、是非!」と、僕の参加の意志を快諾してくれたあと、こんな風に質問を返してきた。
「中野さんの前任の御子柴さんからも、参加のお返事をもらっていますから! 御子柴さんに、なにか聞いてませんか?」
「すいません……実は、御子柴さんとは、面識がなくて……自分の職場の会合ではないので、ちょっと、おかしな話しですけど、僕も御子柴さんに会ってみたいと思ってたんです!」
早田先生の話したとおり、御子柴さんは、僕の前任のICTサポーターとして、四つの小・中学校を担当してくれていた人で、所属会社からは、僕より少し年上で二十代後半の女性だったと聞いている。
前任者の彼女と、これまで接触する機会を持てなかったのは、僕の社内研修の時期と彼女の退社時期が合わなかったからだ。
新卒の社会人として働き始めるにあたって、前担当者からの直接的な引き継ぎがなかったことは、大いに不安だったのだが――――――。
彼女が、社内のクラウド上に残してくれていた公式の引き継ぎ資料は、年度更新時に必要な作業がスクリーンショット付きで、わかりやすくまとめられていた。さらに、担当者だけが閲覧することのできるフォルダには、非公式資料として、各学校のICT業務のキーマンとなる先生の特徴や各校の特色が細かくまとめられたマル秘ファイルが保管されていて、学校の雰囲気や先生たちのことを事前に知るのに大いに役立ち、おかげで、予想していたよりも、はるかにスムーズに、仕事に取り掛かることができた。
一度も面識がないものの、御子柴さんには、機会があればお礼を言いたいと感じていたので、早田先生のお誘いはありがたいものだった。
我がチームの土曜日の試合は、午後2時開始のデイ・ゲームであることを確認していた僕は、学校の先生たちとの懇親会とともに、御子柴さんと会えることに期待しながら、週末を楽しみにしていた。
【本日の試合結果】
読売 対 阪神 1回戦 読売 7ー1 阪神
事前の予想どおり、ジャイアンツの若きエース戸郷の前に阪神打線は沈黙。
3点をリードされて終盤を迎え、8回に1点を返すも、その裏に2本の2ランホームランを食らって、シーズン初の伝統の一戦は、完敗と言って良い内容だった。
◎4月11日終了時点の阪神タイガースの成績
勝敗:5勝3敗1分け 貯金2
順位:2位 (首位と2ゲーム差)
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