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第3章~第8話 スタンフォード監獄実験⑧~
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7月28日~実験5日目~
スタンフォード大学の監獄実験では、この5日目に本物の刑務所と同じく囚人と家族との面会が行われたという。
ただ、そこでは、実験の責任者であるジンバルドー教授と看守によって、面会者は一人の囚人に2人しか認められず、その面会者も囚人と会うのに長時間待たされたり、看守が見守る中、わずか10分間しか会えないという状況だったそうだ。実験参加者(ほとんどが男子学生だった)の親たちは、息子たちの健康状態や十分な食事がとれているかどうかを心配し始め、中には、弁護士に連絡して子供たちの早期釈放を求める計画を立てて、刑務所を去った者もいたそうだ。
スタンフォード大学には、この事件開始から5日目の日に、ジンバルドー教授の交際相手(のちに結婚したらしい)にして心理学者でもあるクリスティーナ・マスラックが訪ねてきて、実験現場を目撃し、看守が囚人を虐待し、頭から袋をかぶせているのを見て心を痛めた、という。彼女は、ジンバルドーに対し、思いやりのある観察の欠如と研究の不道徳さを問いただした。そしてついに、彼女はジンバルドーが監督官という役割によって、好意を抱けない人物に変貌していることを明らかにした。彼女の直接的な問いかけと、他の人々からの意見の共有により、ジンバルドーは、その翌日、監獄実験を中止することになった――――――。
一方の國際高校の合宿所監獄では、スタンフォード大の心理学棟であるジョーダンホールの地下の環境で生まれた過酷な状況とは異なり、看守と囚人の厳格な立場の差が生じなかったことによる秩序の緩みが頂点に達していた。
監視カメラの映像には、シフトが変わっても、引き続き囚人と談笑する看守の姿と、おすそ分けされたおかずの残骸が床に散らばる食堂のあり様が映し出されている。
このような状況を見かねたのが、この実験に補充メンバーとして加わった囚人番号13番の日辻羊一先輩だった。
「いくらなんでも、食堂が汚れ過ぎじゃない? 美味しく食事をするためにも、みんなで掃除しよう? それくらいは許してくれますか? 看守さん?」
補充メンバーとして、監獄エリアに入った直後、朝の食事が始まる前にそう提案した彼は、あっという間に囚人だけでなく、看守の心を掴んでしまったようだ。
「看守さんたちのおかげで、かなり待遇が良くなったとは聞いてるけど……集団生活では、ある程度の秩序が必要だよね? 厳しくしすぎないレベルで、ボクたちも規律を作って守っていこう」
そう言って、被験者たちの気持ちをまとめた日辻先輩がメンバーに加わって以降、フワフワしていた囚人グループの雰囲気が引き締まり、たった2日間で汚れが目立ち始めていた合宿所も、囚人と看守の共同作業による清掃活動によって、目に見えてキレイになっていった。
「日辻……いや、13番が入ってきてから、なんか雰囲気が目に見えて変わったよな? 看守よりもずっと頼りになるしさ! このまま、この監獄のリーダーになってくれないかな?」
囚人番号3番の猿野先輩が、囚人番号4番の鳥居先輩に語りかける。
「そうだな! オレたち囚人チームのリーダーとして、看守との交渉をしてくれよ」
同調した鳥居先輩に声をかけられた日辻先輩は、困ったように苦笑しながら答えた。
「交渉すべき相手は、看守の人たちじゃない、とボクは思うんだ」
「ん? なんでだ? オレたち囚人が話せる相手なんて看守たちしかいないじゃないか?」
「いや、最終的に囚人チームと看守チームの待遇を決めているのは、この実験を主催している生物心理学研究会のメンバーだからね。カメラ越しでも、看守経由でも良いから、その監察官を相手に待遇の改善を要望してみるべきだ。そして、囚人と看守が合同で待遇の改善を要求しても、ボクたちの監獄内での生活が向上しないなら―――」
「向上しないなら……?」
「看守の人たちと協力して、監察官を打ち倒すべきだろう。そのために、少し秩序が乱れても、彼らと良好な関係を築いたんだから……そうじゃないかな?」
「おおっ、たしかに、そのとおりだ! せっかく、看守の奴らと語り合ってるんだ。その方が良さそうだな」
「それじゃあ、看守チームとの交渉はボクに任せてくれるかい?」
「あぁ、モチロンだ! しっかり、頼んだぞ、リーダー!」
朝一番で監獄に合流した日辻先輩……いや、囚人番号13番は、こうして、あっという間に囚人チームのリーダーとなり、看守チームとの交渉をまとめて、私たち観察側の生徒に、
・食料事情の改善
・監獄内レクリエーションの開催
・看守のシフト制の見直し
などの要求を突きつけてきた。
予測もしなかったこの自体に、私はとても驚いたのだけど、ネコ先輩は、
「フフフ……さすが、ヨウイチ……私が思った以上の成果を上げてくれる」
と、なぜか嬉しそうな表情を見せいていた。そして、彼女は、館内放送を通じて、宣言する。
「みんな、今日までご苦労さま。各位の協力に感謝する。これにて、一回目の実験は終了とする」
スタンフォード大学の監獄実験では、この5日目に本物の刑務所と同じく囚人と家族との面会が行われたという。
ただ、そこでは、実験の責任者であるジンバルドー教授と看守によって、面会者は一人の囚人に2人しか認められず、その面会者も囚人と会うのに長時間待たされたり、看守が見守る中、わずか10分間しか会えないという状況だったそうだ。実験参加者(ほとんどが男子学生だった)の親たちは、息子たちの健康状態や十分な食事がとれているかどうかを心配し始め、中には、弁護士に連絡して子供たちの早期釈放を求める計画を立てて、刑務所を去った者もいたそうだ。
スタンフォード大学には、この事件開始から5日目の日に、ジンバルドー教授の交際相手(のちに結婚したらしい)にして心理学者でもあるクリスティーナ・マスラックが訪ねてきて、実験現場を目撃し、看守が囚人を虐待し、頭から袋をかぶせているのを見て心を痛めた、という。彼女は、ジンバルドーに対し、思いやりのある観察の欠如と研究の不道徳さを問いただした。そしてついに、彼女はジンバルドーが監督官という役割によって、好意を抱けない人物に変貌していることを明らかにした。彼女の直接的な問いかけと、他の人々からの意見の共有により、ジンバルドーは、その翌日、監獄実験を中止することになった――――――。
一方の國際高校の合宿所監獄では、スタンフォード大の心理学棟であるジョーダンホールの地下の環境で生まれた過酷な状況とは異なり、看守と囚人の厳格な立場の差が生じなかったことによる秩序の緩みが頂点に達していた。
監視カメラの映像には、シフトが変わっても、引き続き囚人と談笑する看守の姿と、おすそ分けされたおかずの残骸が床に散らばる食堂のあり様が映し出されている。
このような状況を見かねたのが、この実験に補充メンバーとして加わった囚人番号13番の日辻羊一先輩だった。
「いくらなんでも、食堂が汚れ過ぎじゃない? 美味しく食事をするためにも、みんなで掃除しよう? それくらいは許してくれますか? 看守さん?」
補充メンバーとして、監獄エリアに入った直後、朝の食事が始まる前にそう提案した彼は、あっという間に囚人だけでなく、看守の心を掴んでしまったようだ。
「看守さんたちのおかげで、かなり待遇が良くなったとは聞いてるけど……集団生活では、ある程度の秩序が必要だよね? 厳しくしすぎないレベルで、ボクたちも規律を作って守っていこう」
そう言って、被験者たちの気持ちをまとめた日辻先輩がメンバーに加わって以降、フワフワしていた囚人グループの雰囲気が引き締まり、たった2日間で汚れが目立ち始めていた合宿所も、囚人と看守の共同作業による清掃活動によって、目に見えてキレイになっていった。
「日辻……いや、13番が入ってきてから、なんか雰囲気が目に見えて変わったよな? 看守よりもずっと頼りになるしさ! このまま、この監獄のリーダーになってくれないかな?」
囚人番号3番の猿野先輩が、囚人番号4番の鳥居先輩に語りかける。
「そうだな! オレたち囚人チームのリーダーとして、看守との交渉をしてくれよ」
同調した鳥居先輩に声をかけられた日辻先輩は、困ったように苦笑しながら答えた。
「交渉すべき相手は、看守の人たちじゃない、とボクは思うんだ」
「ん? なんでだ? オレたち囚人が話せる相手なんて看守たちしかいないじゃないか?」
「いや、最終的に囚人チームと看守チームの待遇を決めているのは、この実験を主催している生物心理学研究会のメンバーだからね。カメラ越しでも、看守経由でも良いから、その監察官を相手に待遇の改善を要望してみるべきだ。そして、囚人と看守が合同で待遇の改善を要求しても、ボクたちの監獄内での生活が向上しないなら―――」
「向上しないなら……?」
「看守の人たちと協力して、監察官を打ち倒すべきだろう。そのために、少し秩序が乱れても、彼らと良好な関係を築いたんだから……そうじゃないかな?」
「おおっ、たしかに、そのとおりだ! せっかく、看守の奴らと語り合ってるんだ。その方が良さそうだな」
「それじゃあ、看守チームとの交渉はボクに任せてくれるかい?」
「あぁ、モチロンだ! しっかり、頼んだぞ、リーダー!」
朝一番で監獄に合流した日辻先輩……いや、囚人番号13番は、こうして、あっという間に囚人チームのリーダーとなり、看守チームとの交渉をまとめて、私たち観察側の生徒に、
・食料事情の改善
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などの要求を突きつけてきた。
予測もしなかったこの自体に、私はとても驚いたのだけど、ネコ先輩は、
「フフフ……さすが、ヨウイチ……私が思った以上の成果を上げてくれる」
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