空が青ければそれでいい

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「……」
渋々、梶原さんの隣に座ると、梶原さんは煙草を銜え火を点けた。
ここでも副流炎。副流煙の方が、身体に悪いねんで。いや、別に健康どうこうケチつけへんけど、成長期の俺への悪行よな、これ。
身長の事を気にして吸わんでおっても、ここまで周りでスパスパされたら俺の努力なんて塵となって消える。
「俺…送っていきましたよね?」
俺の考えを他所に、梶原さんがチラリと俺を見る。
あ、怒ってる?ってか、俺、怒られなあかんの?どこで何をしようと、俺の自由やないん?って言えるほど、俺の肝も据わってない。
「うん、送ってもろた」
「龍大さんには言うてるんですか」
「なんで?」
「威乃さんっ!考えてください!威乃さんが夜にブラブラ出掛けて、こない治安悪いとこにおるなんて龍大さんが知ったら!」
額に手置いて、些か苦悩してる。苦悩の原因は俺か。ってか、俺の苦悩の原因は駄犬、龍大や。そこも察してくれ。
「呼び出されたから。心配してるから顔出さな…それに…」
「……」
「俺、あいつの連絡先知らん」
そう言った後の梶原さんの顔。唖然としとった。せやろな…。まぁ、知ってても連絡なんかせんけどな。
今時、どこのバカップルやねん。どこで何をしてようが、俺の勝手やんけ。
「あんたら…何やのん…。今時、小学生でも連絡先の交換が一番先やないの」
失礼な。ガキと一緒にせんでくれるか。いや、ガキか。
「知らんやん、俺のこと知りたない言うんやし…」
せや、俺のせいやない。訳の分からん”意地”で、俺の事を知りたない言うてるアイツが悪い。俺じゃない、あいつが全部悪い。
「龍大は?」
「オヤジのとこです…」
ああ、仁流会風間組組長さんね。死んでも逢いたないわ。
「一緒におらんでいいん?」
「あの親子、何や言うたら喧嘩するんで敵わんから、席外しましてん…」
親子で迷惑かけてんか…。
まぁ、龍大がああやからオヤジもあれに拍車かけた感じ?どっちにしても手強いなぁ。
「あ、ちょっと待ってください」
梶原さんはそう言うと、胸元から携帯を取り出した。着信らしく、ブルブルと早よ出ろとばかりに携帯が忙しなく振動しよる。
「お疲れ様です…どないしました?…え?…はぁ……え?…あ、威乃さんも?」
何?聞こえん会話に俺を出すな。俺の名前を出すあたりで、通話の相手は察しはついたけど。
「わかりました」
梶原さんは通話を終えると、やはり溜め息をついた。
何やねん……。
「威乃さん、行きましょう」
「…は?」
どこに?
「関東です」
「はあ!?」
「おい、ママ!」
梶原さんは俺をフル無視して、貴子ママを呼びつけた。
俺が最近学習したこと。ヤクザは人を普通にフル無視しよる。てか、存在無視。
「はいはい、どないしはったん?」
ママさんは飛び切りの営業スマイルで、テーブルにやってきた。
上客やもんなぁ。そりゃ、笑顔になるわな。
「この子、もう居ぬ言うてるから送っていくわ。俺ももう帰るから。若い奴らのん全部、俺につけといて。好きなだけ飲ましたって」
梶原さんも、何食わぬ顔でママに話しかける。
いや、待ってーな。俺、一言も居ぬなんて言うてへんけど?
「あらあら、おおきに。威乃まで送っていってくれるやなんて助かるわ。この辺物騒やから」
安堵した表情見せてるけど、あかんて。ってか、勝手に話進めんといて。俺、今から拉致られるんやて。物騒なんは、こん人や!
ちゅうか、ヤクザや!!
「威乃、失礼ないようにな!」
おかんみたいな事言うけど、ヤクザに送迎頼むてどんだけやねん!ほんまに俺の人権無視か!
「ちゃう…ママ…」
ママに縋り付こうとした手を、ガッチリした手が掴み身体がビクリと震えた。
「行こうか、威乃ちゃん」
にこやかに微笑む梶原さんは、会うてから一番の胡散臭い顔やった。

俺は引き摺られるように店を出て、店の前のドデカい黒塗りフルスモのベンツの後部座席に放り込まれた。
同時に、隣に梶原さんが乗ってくる。
前を見れば、いかにもって感じの兄ちゃんがハンドル握ってて、ゆっくり車は動き出した。ああ、今すぐ降りたい…。
「ほんま…龍大さんに言わんといてくださいよ。店に居たこと」
「関東て何なん!」
龍大の事はええ、関東って何やねん!まさか、夢の国に遊びにやあるまい。
「お母さんに関わってる酒井組は、関東に城を構えとります。いくらうちの組と言えど余所の土地に入るんですし、話はつけないけません」
「え?話して何なん…俺には分からん」
極道のしきたりとかルールとか、まるっきし分からん。梶原さんの言うてる意味も分からん。
おかんが見つかったとか、そないな話やないみたいやし。大体、その極道ルールに俺は関係ないんやないか?確かに、おかんは俺のおかんやけど……。
「聞いとるでしょう。鬼塚組に挨拶行くんですわ」
この世界に、この現実に神が居るなら、俺は神に暴言吐く。

俺をどこまでヤクザに関わらすねーん!!!!

梶原さんは慌ただしくあちこちに電話し始めて、俺は高級車に揺られながら外を見た。
信号待ちで、明らかに隣におんのに前を見据えたまま、こっちを向かん隣の車のおっさん。チラリと後ろを見れば、そないにいらんやろと突っ込みたくなるくらい車間距離取る車。
その行動、全部正解。ヤクザなんか、誰しも関わりたない。
でも俺はここ数日で、普通のチンピラやったらお目にかかれん次期組長であろう男と知り合い、その力に縋っておかんを探してる。
同じ穴の狢って言うたら聞こえ悪いけど、悪い奴のことは悪い奴に聞けってか。
「俺、赤ちゃんやったら夜泣きしてるわ」
ボソっと言うた声は、梶原さんに聞かれることなく消えていった。

車が入ったんは、風間組の例のビルの駐車場。
昼間はグラドル並みの姉ちゃん受付に座らしといて、夜は夜で有り得んくらいヤバい雰囲気漂わしとる。
もし龍大と知り合いやなかったら絶対に近寄らん。そんな物騒極まりないビル。
車が止まると同時にドアが開けられ、大いにビビった。
ベンツってタクみたいに自動!?とか思ったけど、何のこっちゃない。外側から誰ぞが開けよっただけやった。
これは降りろと?隣の梶原さんはさっさと降りてるし、しゃーないから俺も降りたらドン引き。車囲むみたいに、いかにも!の出で立ちの黒服来た奴らが、合わせたみたいに並んで頭下げてた。
綺麗に45度の角度。いやいや、絶対ヤバい!いや、風間組やねんからヤバいっちゃぁヤバいけど、人生で何人かが経験する、究極の極道絡みの窮地ってやつ!?
頭下げろ言われることはあるけど、頭下げられることなんかあらへんし、頭下げて欲しない人相の人ばっかりや。
さすがの光景に、俺は近くに来た梶原さんの腕にしがみついた。
「そないビビらんでも…ええ連中ですよ」
いやいやいやいや、ビビるやろ。俺、ただのヤンキーやもん。

梶原さんは俺にしがみつかれたまま、花道を歩く。でも俺は身体中から吹き出る汗が止まらんで、吐きそうやった。
おかん、人は見かけで判断したらあかんけど見た目でビビるんは…ええよな…。
俺を腕にぶら下げたまま、梶原さんは開けられたドアを潜った。その奥は知らん通路があって、通路の先には見慣れたエレベーター。
ああ、ここに通じてるんや…なんて呑気に思う辺り、人間、馴れって怖い。すると、エレベーターが開いて見慣れた男が姿を現した。
「威乃!」
はい、辛うじて生きとる…。龍大は俺らに駆け寄るや否や、片眉をピクリと上げた。
何やねん、お前……。
「梶原」
低い声で梶原さんを呼ぶ龍大は、すこぶる機嫌が悪くなった。
「花道にビビりはって…自分からですよ」
「威乃」
梶原さんの言葉にも機嫌の悪いままの龍大は、梶原さんの腕にしがみつく俺を引き離して、俺を窒息死させんばかりに抱き締めた。
俺、絶対に大型犬は飼わん…。
「威乃、一緒に来て。心のとこ」
大型犬龍大は、俺を抱きしめながら囁く様に言った。甘い声で囁かれても、内容は全然甘くない。
やっぱりそこか…名前覚えたわ、鬼塚 心。極道の中でも一番最悪最強男…。
俺の中には般若の顔しか思い浮かばん。
「心にも情報貰えるかもしらん」
そうやんな、極道ルール。俺のおかんが元凶やねんから、俺が頭下げに行くんは当たり前か。
「俺のおかんの事やから…行くわ」
おかん…俺、鬼塚 心に食われるかも…。頭からパクッと…。

結局、そのまま大阪を車で出発。フルスモベンツが五台も六台も連なって走ってたら、普通に道は開いていく。
俺は免許ないけど、もし、フルスモベンツが後ろから来たら何があっても道を譲る。誰しも、いざこざはごめんや…。ヤクザなら尚更。
俺らは、梶原さんの運転する車で向かうことなった。隣におる龍大がシートに足を延ばして横向きに座り、足の間に俺を抱き締めて髪にキスをする。
「お、おい!」
いくらなんでも男同士のこないなとこ誰も見たない。俺なら確実に見たない。
「まだまだ着かんから」
コイツ、どんだけ阿呆やねん。そこちゃうわ!
「ちゃうわ!家ちゃうぞ!離れぇ!」
「…なんで?」
唖然とする。アホや…。アホやアホや思ってたけ…こないにアホとは。
「威乃、こうせな寝られんから」
は?俺が?何?俺も知らん事実みたいなん。
いやいや、寝れるって。最近ナーバスやったから、寝れんかっただけやし。
「威乃さん、まだまだ着かんし、起きててもしんどいから寝といてください」
梶原さんもミラー越しにニッコリ笑う。
いやいや、あんたもおかしいって。あんたこそ見たないやろ。必死こいて運転してんのに後部座席で、どう見ても男の二人が抱き合って寝てるのなんか。
まぁ、見た目は拘束されてるって感じやけど。

結局、俺は諦めて、龍大にされるがままにした。
もう、何か面倒なって…。やて、何言うても無駄やねんもん。あれ、暖簾に腕押し…多分、こういう事なんやないん?知らんけど。

俺の初めての旅行は、ヤクザ御一行との長旅やった。何時間走ったんか、さっぱり分からん。
それもそのはず。俺は龍大に抱き枕よろしく抱き締められ、迂闊にも爆睡こいてたからや。
こいつ絶対、俺にクロロホルムとか怪しげなもん嗅がしてんねやわ。せやないと、あり得ん。フルスモベンツで優雅に爆睡。
高級車に揺られたいうのもあるけど、梶原さんも居てるのに…。人おったら寝られへん俺はどこに行ったんや…。
モソモソ動けば、龍大の逞しい腕がガッチリ俺をホールドして、邪魔…。
チラリと窓に目を向ければ、青空どころか星一つあらへん暗闇やった。ようはまだ夜中やゆうこっちゃ。
法廷速度を守ってるとは微塵も思わんけど、休憩なしによー走るわ。
「喉乾きました?トイレですか?」
モソモソ動く俺に、梶原さんが聞いてくる。
あんた、おかん以上に気の利く男やなぁ…。まぁ、俺のおかんは最高に気の利かん女やったけど…。
「大丈夫…」
「もう着きますから」
「…うん」
逞しい腕に凭れて、目を閉じる。
何やかんやいうても、やっぱりコイツとおると眠なる。ギューってされたら、すぐウトウトしてまう。
一歩一歩…俺の世界が大きく移り変わる…。そんな思いを想いながら、また深い眠りに堕ちて行った。
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