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「怖いか?」
聞かれ、ふるふる頭を振った。
「こわない」
事実。怖ない。怖いわけがない。どうあっても龍大は龍大やからや。
俺の好きな龍大やから。
「でも、なんで?」
理由があるはず。龍大は何の理由もなくそんなんする人間やない。
事実を聞くと、詳細を聞きたくなるんは人間の性やと思う。中途半端で消化不良なんは気持ち悪い。
「俺が心と一緒におった話したよな?」
「あ!」
アホな俺の頭が合点一致!今更ながら、自分のアホさかげんにうんざりするけど!!
「お前っ!寮って話したよな?俺に!!!」
俺もアホかもしれんけど、オマエの言い方も悪いよ!!ほんまに!!!
噛み付く勢いの俺とは対照的に、龍大はゆっくり首を傾げた。
「寮?…やっけ?」
「とぼけんなー!!寮って言うたー!!言いましたー!!俺、覚えてるもん!ちゃうやんかー!!寮ちゃうやんか!犬小屋やんけっ!」
寮なんて上品なもんやないやないか!リアル極道養成所、戦国時代バージョンやろ!!狂犬ばっかり集めた、犬小屋やろうがー!!
「犬小屋って名前まで言うたっけ?」
聞いたんじゃ!どあほう!ってことは、小沢さんの言うてた龍大の兄貴分のハンパない奴ってのが、鬼塚心か!ってか、俺、気付くん遅すぎー!!俺、アホ過ぎー!!
「まあ、ええわ。その犬小屋で…俺と心は、なんや言うても最強やった。あそこでは、食うか食われるかの弱肉強食。潰すか潰されるか。一瞬たりとも気を抜けんような…俺と心には、何てことない。やけど、その犬小屋に加納いう奴がおってん。これがまた極道になるなんて無理やろみたいな優男。優男やけど、俺らよりも先に入ってたから形式的には兄貴分やった」
「…加納」
「下の名前までは知らんわ。何かに長けてる訳でもない、堅気でサラリーマンやったほうがええみたいな人間」
「い、色んな人がおるんやな」
どうしようもない、荒くれ者ばっかりの集まりかと思ってた。
まぁ、うちの学校でも、何でオマエここの学校なん?っていう場違いな真面目くんおるもんな。
あいつらこそ、あの学校で生きて行くん必死やろう。
「で、裏世界の賭博の一つにファイトクラブっていうんがあった」
あ、小沢さんが言うてたやつや。ブラピの…。
「ルールは簡単や。でも、掛け金も倍率もでかい。言うたら、一攫千金も夢やない。出る奴はちょっとの金を払えばええだけ。勝てばそれが何百、何千倍になって返ってくる」
チラリ、俺は龍大を見た。龍大は俺の頭を撫でて笑った。
「そう。出るんは裏の人間だけやない。腕に覚えある奴なら、誰でも。言うたら、TVで活躍してる総合格闘技の奴でも何でも。そのファイトクラブに、犬小屋の奴がコマを送り込んでたんや」
「…コマ」
「賭けは簡単。コマを赤と黒に分けて、どっちが先に死ぬか賭けるだけ。相手は絶対に対戦相手を殺す…」
ごくり、息を飲んだ。ようは、拳勝負で勝利の報酬は金と命。
「龍大…」
口を開いた俺の前に、龍大が人差し指を立てた。それに俺は開いた口を閉じた。
「俺も心もそれに出るなんてせんかった。言われても、心は上に楯突く人間やし…やのに、ある時に心をよお思ってない奴が、加納をコマに出した」
「えっ」
「加納には絶対無理なんは、誰もが分かった。兄貴分に殴られる時も、ガードすら一切出来ひん。抵抗らしい抵抗も出来んくらいにトロい。そんな加納やけど、人は良かったんやろ思う。だって心が投げ出した雑用をこっそり片付けたりしてたんやし。バレたら、自分もただじゃおかれへんのにな」
龍大はククッと笑った。
「わ、若かった?」
「いや、俺らより全然上。30くらいかな。で、翌日、加納は海に浮いた」
「海っ…?」
「ファイトクラブで負けた奴の死体は大抵、綺麗に跡形なく消されんのに、加納は見せしめみたいに海に浮いた。無茶なことさせられたんや。顔も何もかんも、判別出来んくらいの有様でな。何でファイトクラブで負けた加納の死体が海に浮いたか。犬小屋の、俺らの上におった奴らの仕業や」
「そ、そんなん…み、身元とか、犬小屋のこともバレるやん」
龍大は口元を少し上げて笑って、煙草を銜えた。
「犬小屋もファイトクラブも、闇の話や。そもそもファイトクラブなんか、プレイヤーの多くは政治家や。バレるか」
「そ、そうか」
まるで映画。というか、この治安大国日本に、そんな非合法なもんが開催されてるなんて絶対に誰も想像出来ひん。思いもせん。
俄に信じ難い話に混乱する俺を横目に、龍大は煙草の煙を燻らした。
「そっから数日後のある日、心が俺に言うた。死ぬ気はあるか?って」
「え?し、…死ぬ気?」
「負けたあらへんかった、心だけには。でも、死ぬ気はない言うた」
「へ?」
「心は死ぬ気がある人間は求めてへん。変わってるからな。死ぬ気ある言うたら、じゃあ今死ね言う様な男や。死よりも生に縋る人間の方が貪欲らしいで」
あんたら、何時代の人間?昔のー昭和とかやないよね。それ。
戦国時代とかの話やないの?ってか、あいつはやっぱり時代錯誤の大馬鹿野郎やな!おい!!
「心と俺が向かったんはファイトクラブ。心はファイトクラブのマネージャーに言うた。祭りをしようやって」
「祭り」
「今日来てるコマを倒していく。条件は、2対2。俺と心が赤で黒を倒して行くサドンデス。もちろんファイトクラブ側は大ノリや。掛け金も跳ね上がるし、入る金も大きなる。何せ客が盛り上がる」
「そんな、サ、…サドンデス」
「わかった?」
ファイトクラブは相手が死んだらゲーム終了。なら、なら…。
「りゅ、龍大がここにおるってことは」
「殺した人間の数は覚えてへん」
ひゅっと喉が鳴った。さすがに、身体が小さく震えた。
それに龍大は少し寂しそうに笑って、煙草を揉み消した。
「俺も心も、加納になんや特別な何かを持ってたわけやあらへん。ただ、心は仁義を通しただけや」
「…仁義」
「加納は別に、心に諂っとたわけやあらへん。ただ、我が儘な弟分の面倒をみるんが嬉しかっただけやと思う」
「その、ファイト…クラブは?」
「ある日ファイトクラブの事実上の経営者が来るとかで、おっきい祭りするって聞いた。でも、それは執り行われることもなく終わった」
「へ…?」
「壊滅。マネージャー、コマ、バンカー、プレイヤー…クラブにおった奴みんな皆殺し」
「…まさか」
俺と龍大に、まさに鬼の姿で刀を振り上げた男の姿を思い出した。
時代錯誤の変人、鬼塚心。俺の考えを読んだんか、龍大は笑った。
「それは、心が犬小屋を出て関東に帰る前の日の話。心は、ああいうのを一番嫌う。誰に対しても無頓着で無関心やのに、あの世界間違えた男、加納に仁義通した。その加納を海のほかした犬小屋の奴らまで殺りよって。あれはさすがに、うちが困った。まぁ、これが全部」
龍大は片眉を上げて、当時を思い出したんかちょっと困った顔をした。
「何で、そんな裏の話が漏れたん?」
「風間組やからって、一人一人に箝口令をひいたわけやない。心は風間の人間やないけど、俺はこっちの人間や。ファイトクラブに出入りしてた奴も、おるってこと」
ああ、そこから漏れたんか。そら、しゃーないか。
「やから、人殺したんは、事実や」
徐に、きゅっと手を握られる。俺はそれを力一杯握り返した。
「その、仁流会鬼塚組の鬼塚心は怖いし、正直嫌いや。嫌いっていうよりも、二度と逢いたくない。確かにその話聞いて、ビビった。さすがに…。でも、風間組のぼっちゃんは、怖ないし嫌いやない」
龍大の顔を見れば、ふっと笑われキュッと鼻を摘ままれた。
「ぼっちゃんは余計」
そういうとこがガキなんやいうんを、龍大は気が付いてへんのか。
「可愛いな、お前」
フフッと笑って言うと、龍大の片眉が跳ね上がった。ほら、可愛い。
「ほんまは、極道なんかならへんいうんが、威乃には一番なんやろうな」
「はぁ?なに言うてんねん。俺、おとんも極道の人間やで」
まだ予定のおとん。おかんを、あんな普通やないおかんを、幸せにしてくれる言うた渋澤さん。その渋澤さんは極道で、あんたの部下ですよー。
まぁ、多分、きっと一番やり難いんは渋澤さん。
「まあ、俺は生まれたときから環境が極道やから。今さら、普通になれ言われても困る…」
「お前みたいな存在凶器、普通におっても困る」
世の中が…。
「…威乃」
また、キュッと手を握られ、キスが降ってくる。あー、俺、捨てられたら絶対に死ねるわ。
どこまで甘やかして、どこまでベタベタのドロドロにしてくれてんの。
「威乃、愛してる」
囁くように言われ、やっぱり捨てられたら死ねると改めて確信した。
「渋澤さんがー!?」
翌日、気持ちのエエ陽気の学校の屋上で、ハルが大声をあげた。
いや、驚くよね。俺も驚いたよ。
「渋澤威乃とか、めっちゃ年取ったやんけ!」
ぎゃはははと高笑い。そこか!いや、失礼か!失礼かオマエ!!
年取ったって、意味不明。渋澤威乃、どんなイメージ。全国の渋澤さんに謝れ。
「でも、あれやな。…良かったわ」
心底、ホッとした様な顔をして、フフッと笑うハル。
何やかんやハルはええ。俺とおかんを本気で心配してくれる。が、俺は煙草やなく、チュッパチャップスを銜えたハルをじとりと睨む。
「女か」
「あ?なにが?」
いやいや、とぼけんなコラ。ヘビースモーカーのハルの頬を、突き刺す勢いで刺した。
「あだっ!!」
「殺すぞ、こら。煙草、どないした」
「あー、あれやん。ほれ、いや、ガキが吸うな言うから」
「は!?ガキがってなによ!!ちょっと!!うわっ!年上!!年上のお姉様か!!」
いつの間に!?いつの間に、ハルが春見付けてきてんの!?って、オッサンみたいな駄洒落言うてまうくらいに驚くやん!!!
「どこでー!!どこでー!」
「うっさいわ。ええやんけ、お前のん年下やねんから」
「は!?なにが!?俺と張り合うの!?え?ミニスカOL?ホットパンツ大学生!?」
「AVか。付き合うてへんわ。なんやねん、くそっ」
おや、百戦錬磨。モテ男にも振り向きませんか。ニヤリと笑う。
と、乱暴に屋上のドアが開けられ二人で振り返る。
「名取ぃぃぃいい!秋山ぁぁあ!今日こそ殺す!!!!」
ぞろぞろ知った顔が雁首揃えて、威勢がええ。ってか、こいつらの顔見たら何か平和やなーとか思う。今なら仲良くなれそう。
にしても、その元気、他で発散して世の中の役に立てろよ。ほんまに。
「ハルー、俺ら、モテ期みたいやで?」
「威乃、お前やめとけば?怪我したら、あいつら命あらへんやろ。俺に文句言われても困るし」
「龍大はそんなつまらんことせんよ」
俺のプライド潰す真似はせん。俺のケツ拭きのための龍大やない。そんなん俺が望んでないんを、龍大は知っとる。
初めのあれは等価交換やったしな。今はそないなもん必要あらへんしな。
うーん、と伸びをして見上げた空は青空。携帯を取り出しパシャリ。
「龍大と初めて逢った空と似てる」
「ノロケはいらん。俺は冬空じゃ」
あ、虫の居所悪いハルは質が悪いよ。笑いながら、一気に殴りかかってくる奴等に二人で飛び込んだ。
青空、雲なき快晴の空。もし、雨や嵐で青空が見えんくなっても、一人やないから全然平気。
一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に立ち上がる仲間と家族がおるから全然平気。
俺の全部を支えてくれる、龍大がおるから全然平気。
「俺って、めっちゃ幸せもんー!!」
喚く俺に、ハルの”くたばれー!!”の罵声が空に響いた。
many thanx!!!!
ここまでお付き合いありがとうございました!
聞かれ、ふるふる頭を振った。
「こわない」
事実。怖ない。怖いわけがない。どうあっても龍大は龍大やからや。
俺の好きな龍大やから。
「でも、なんで?」
理由があるはず。龍大は何の理由もなくそんなんする人間やない。
事実を聞くと、詳細を聞きたくなるんは人間の性やと思う。中途半端で消化不良なんは気持ち悪い。
「俺が心と一緒におった話したよな?」
「あ!」
アホな俺の頭が合点一致!今更ながら、自分のアホさかげんにうんざりするけど!!
「お前っ!寮って話したよな?俺に!!!」
俺もアホかもしれんけど、オマエの言い方も悪いよ!!ほんまに!!!
噛み付く勢いの俺とは対照的に、龍大はゆっくり首を傾げた。
「寮?…やっけ?」
「とぼけんなー!!寮って言うたー!!言いましたー!!俺、覚えてるもん!ちゃうやんかー!!寮ちゃうやんか!犬小屋やんけっ!」
寮なんて上品なもんやないやないか!リアル極道養成所、戦国時代バージョンやろ!!狂犬ばっかり集めた、犬小屋やろうがー!!
「犬小屋って名前まで言うたっけ?」
聞いたんじゃ!どあほう!ってことは、小沢さんの言うてた龍大の兄貴分のハンパない奴ってのが、鬼塚心か!ってか、俺、気付くん遅すぎー!!俺、アホ過ぎー!!
「まあ、ええわ。その犬小屋で…俺と心は、なんや言うても最強やった。あそこでは、食うか食われるかの弱肉強食。潰すか潰されるか。一瞬たりとも気を抜けんような…俺と心には、何てことない。やけど、その犬小屋に加納いう奴がおってん。これがまた極道になるなんて無理やろみたいな優男。優男やけど、俺らよりも先に入ってたから形式的には兄貴分やった」
「…加納」
「下の名前までは知らんわ。何かに長けてる訳でもない、堅気でサラリーマンやったほうがええみたいな人間」
「い、色んな人がおるんやな」
どうしようもない、荒くれ者ばっかりの集まりかと思ってた。
まぁ、うちの学校でも、何でオマエここの学校なん?っていう場違いな真面目くんおるもんな。
あいつらこそ、あの学校で生きて行くん必死やろう。
「で、裏世界の賭博の一つにファイトクラブっていうんがあった」
あ、小沢さんが言うてたやつや。ブラピの…。
「ルールは簡単や。でも、掛け金も倍率もでかい。言うたら、一攫千金も夢やない。出る奴はちょっとの金を払えばええだけ。勝てばそれが何百、何千倍になって返ってくる」
チラリ、俺は龍大を見た。龍大は俺の頭を撫でて笑った。
「そう。出るんは裏の人間だけやない。腕に覚えある奴なら、誰でも。言うたら、TVで活躍してる総合格闘技の奴でも何でも。そのファイトクラブに、犬小屋の奴がコマを送り込んでたんや」
「…コマ」
「賭けは簡単。コマを赤と黒に分けて、どっちが先に死ぬか賭けるだけ。相手は絶対に対戦相手を殺す…」
ごくり、息を飲んだ。ようは、拳勝負で勝利の報酬は金と命。
「龍大…」
口を開いた俺の前に、龍大が人差し指を立てた。それに俺は開いた口を閉じた。
「俺も心もそれに出るなんてせんかった。言われても、心は上に楯突く人間やし…やのに、ある時に心をよお思ってない奴が、加納をコマに出した」
「えっ」
「加納には絶対無理なんは、誰もが分かった。兄貴分に殴られる時も、ガードすら一切出来ひん。抵抗らしい抵抗も出来んくらいにトロい。そんな加納やけど、人は良かったんやろ思う。だって心が投げ出した雑用をこっそり片付けたりしてたんやし。バレたら、自分もただじゃおかれへんのにな」
龍大はククッと笑った。
「わ、若かった?」
「いや、俺らより全然上。30くらいかな。で、翌日、加納は海に浮いた」
「海っ…?」
「ファイトクラブで負けた奴の死体は大抵、綺麗に跡形なく消されんのに、加納は見せしめみたいに海に浮いた。無茶なことさせられたんや。顔も何もかんも、判別出来んくらいの有様でな。何でファイトクラブで負けた加納の死体が海に浮いたか。犬小屋の、俺らの上におった奴らの仕業や」
「そ、そんなん…み、身元とか、犬小屋のこともバレるやん」
龍大は口元を少し上げて笑って、煙草を銜えた。
「犬小屋もファイトクラブも、闇の話や。そもそもファイトクラブなんか、プレイヤーの多くは政治家や。バレるか」
「そ、そうか」
まるで映画。というか、この治安大国日本に、そんな非合法なもんが開催されてるなんて絶対に誰も想像出来ひん。思いもせん。
俄に信じ難い話に混乱する俺を横目に、龍大は煙草の煙を燻らした。
「そっから数日後のある日、心が俺に言うた。死ぬ気はあるか?って」
「え?し、…死ぬ気?」
「負けたあらへんかった、心だけには。でも、死ぬ気はない言うた」
「へ?」
「心は死ぬ気がある人間は求めてへん。変わってるからな。死ぬ気ある言うたら、じゃあ今死ね言う様な男や。死よりも生に縋る人間の方が貪欲らしいで」
あんたら、何時代の人間?昔のー昭和とかやないよね。それ。
戦国時代とかの話やないの?ってか、あいつはやっぱり時代錯誤の大馬鹿野郎やな!おい!!
「心と俺が向かったんはファイトクラブ。心はファイトクラブのマネージャーに言うた。祭りをしようやって」
「祭り」
「今日来てるコマを倒していく。条件は、2対2。俺と心が赤で黒を倒して行くサドンデス。もちろんファイトクラブ側は大ノリや。掛け金も跳ね上がるし、入る金も大きなる。何せ客が盛り上がる」
「そんな、サ、…サドンデス」
「わかった?」
ファイトクラブは相手が死んだらゲーム終了。なら、なら…。
「りゅ、龍大がここにおるってことは」
「殺した人間の数は覚えてへん」
ひゅっと喉が鳴った。さすがに、身体が小さく震えた。
それに龍大は少し寂しそうに笑って、煙草を揉み消した。
「俺も心も、加納になんや特別な何かを持ってたわけやあらへん。ただ、心は仁義を通しただけや」
「…仁義」
「加納は別に、心に諂っとたわけやあらへん。ただ、我が儘な弟分の面倒をみるんが嬉しかっただけやと思う」
「その、ファイト…クラブは?」
「ある日ファイトクラブの事実上の経営者が来るとかで、おっきい祭りするって聞いた。でも、それは執り行われることもなく終わった」
「へ…?」
「壊滅。マネージャー、コマ、バンカー、プレイヤー…クラブにおった奴みんな皆殺し」
「…まさか」
俺と龍大に、まさに鬼の姿で刀を振り上げた男の姿を思い出した。
時代錯誤の変人、鬼塚心。俺の考えを読んだんか、龍大は笑った。
「それは、心が犬小屋を出て関東に帰る前の日の話。心は、ああいうのを一番嫌う。誰に対しても無頓着で無関心やのに、あの世界間違えた男、加納に仁義通した。その加納を海のほかした犬小屋の奴らまで殺りよって。あれはさすがに、うちが困った。まぁ、これが全部」
龍大は片眉を上げて、当時を思い出したんかちょっと困った顔をした。
「何で、そんな裏の話が漏れたん?」
「風間組やからって、一人一人に箝口令をひいたわけやない。心は風間の人間やないけど、俺はこっちの人間や。ファイトクラブに出入りしてた奴も、おるってこと」
ああ、そこから漏れたんか。そら、しゃーないか。
「やから、人殺したんは、事実や」
徐に、きゅっと手を握られる。俺はそれを力一杯握り返した。
「その、仁流会鬼塚組の鬼塚心は怖いし、正直嫌いや。嫌いっていうよりも、二度と逢いたくない。確かにその話聞いて、ビビった。さすがに…。でも、風間組のぼっちゃんは、怖ないし嫌いやない」
龍大の顔を見れば、ふっと笑われキュッと鼻を摘ままれた。
「ぼっちゃんは余計」
そういうとこがガキなんやいうんを、龍大は気が付いてへんのか。
「可愛いな、お前」
フフッと笑って言うと、龍大の片眉が跳ね上がった。ほら、可愛い。
「ほんまは、極道なんかならへんいうんが、威乃には一番なんやろうな」
「はぁ?なに言うてんねん。俺、おとんも極道の人間やで」
まだ予定のおとん。おかんを、あんな普通やないおかんを、幸せにしてくれる言うた渋澤さん。その渋澤さんは極道で、あんたの部下ですよー。
まぁ、多分、きっと一番やり難いんは渋澤さん。
「まあ、俺は生まれたときから環境が極道やから。今さら、普通になれ言われても困る…」
「お前みたいな存在凶器、普通におっても困る」
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「…威乃」
また、キュッと手を握られ、キスが降ってくる。あー、俺、捨てられたら絶対に死ねるわ。
どこまで甘やかして、どこまでベタベタのドロドロにしてくれてんの。
「威乃、愛してる」
囁くように言われ、やっぱり捨てられたら死ねると改めて確信した。
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翌日、気持ちのエエ陽気の学校の屋上で、ハルが大声をあげた。
いや、驚くよね。俺も驚いたよ。
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「あ?なにが?」
いやいや、とぼけんなコラ。ヘビースモーカーのハルの頬を、突き刺す勢いで刺した。
「あだっ!!」
「殺すぞ、こら。煙草、どないした」
「あー、あれやん。ほれ、いや、ガキが吸うな言うから」
「は!?ガキがってなによ!!ちょっと!!うわっ!年上!!年上のお姉様か!!」
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「どこでー!!どこでー!」
「うっさいわ。ええやんけ、お前のん年下やねんから」
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おや、百戦錬磨。モテ男にも振り向きませんか。ニヤリと笑う。
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「威乃、お前やめとけば?怪我したら、あいつら命あらへんやろ。俺に文句言われても困るし」
「龍大はそんなつまらんことせんよ」
俺のプライド潰す真似はせん。俺のケツ拭きのための龍大やない。そんなん俺が望んでないんを、龍大は知っとる。
初めのあれは等価交換やったしな。今はそないなもん必要あらへんしな。
うーん、と伸びをして見上げた空は青空。携帯を取り出しパシャリ。
「龍大と初めて逢った空と似てる」
「ノロケはいらん。俺は冬空じゃ」
あ、虫の居所悪いハルは質が悪いよ。笑いながら、一気に殴りかかってくる奴等に二人で飛び込んだ。
青空、雲なき快晴の空。もし、雨や嵐で青空が見えんくなっても、一人やないから全然平気。
一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に立ち上がる仲間と家族がおるから全然平気。
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