空が青ければそれでいい

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「いやぁぁぁぁぁあああ!!!」
若気の至りにしても酷すぎる!覚えてへんのが更に最悪!記憶の片隅にもないよ!
ん?ちょっと待て。話の流れからいくと…。
「…マゾ?」
溢れ出た言葉に、龍大の片眉がピクンとあがった。いやいやいやいや。マゾやん。
殴られて奴隷なれ言われたんやろ?やのに俺を好きとか。マゾじゃなけりゃ、なんですか。
「犯され足りひんのか」
「いや!違う!だって!!!」
今にも襲いかかってきそうな龍大から、慌てて逃げる。
低い声で凄まれても、そうなるよ!?
「奴隷や言われて、俺が”はい”言うか」
「ちゃうん?」
「そっから大喧嘩や。毎日」
毎日…。いや…覚えがない。そんなんばっかりして、今まで生きてきたからか?
毎日が喧嘩。毎日が殴り合い。毎日が生きるか死ぬか。オーバーに言えばやけど。
あれ?頭殴られすぎた?アホすぎる俺が悪いんか?
「女やと思ってた」
「はい?」
「女」
「…あー」
今こそはないものの、昔はあった。女の子に間違われて痴漢に遭うたり、連れ去られそうなったり…。
あったあった。苦い思い出。
「しかも、威乃、や」
「…あー」
そうそう”威乃”ってな。案外、読んでもらわれへん上に、”いの”や。
これも混乱の原因。女と間違う要素、満載。確かにな…。
「で、ある日消えた」
消えたと言われて、考える。消えたっていうんは、どういうことや?
「あ、おかんが退院したんやわ」
退院して、夜中に迎えに来て帰った。逢いたかった連呼して、ほぼ寝てる俺を担いでお持ち帰り。
別に虐待されてた訳でもなんでもない、保護者が入院なだけやからおかんがおれば施設におる必要もない。
施設では、一生そこにおらなあかん子もおるから、こっそり消える方がええっちゃーええはず。
懐かしいなーと思ってたら、龍大に頬を撫でられた。
「おらんくなって、気ぃ付いた。大事やって」
いやいや、あんたそん時何歳よ?どんだけマセてんの。
俺はその年に大事やったんは、おかんが買ってくれた仮面ライダーの人形やったで。
「で、高校で見付けた」
「ああ、屋上のフルボッコ」
惨めな出逢いですよね。だって、屋上の地面とチュウしてたんですもの。
出来ればもっと劇的な、ロマンチックな出逢いがよくね?
「その前。入学式」
「え?あ?は?入学式?ああ、出てたけど」
今年の一年偵察やって、ハルに無理矢理連れてかれた。で、新入生の奴とハルが喧嘩始めて…。
「新入生に飛び蹴りしてたな」
「は、ははは…」
紛う方無く、秋山威乃。俺、本人です。入学式をぶち壊して、さすがに五日間の停学処分をくらいましたよ。
どっかのエラい人とかも来てたもんね、あんな学校やのに。
「え?すぐわかったん?」
「変わってへんもん」
フッと柔らかく笑われる。確かにな。まんまですよ、まんま。
初対面は本人に飛び蹴りして、二回目は人様に飛び蹴り。
俺の前世って、ウサギか?ぴょんぴょん、よぉ飛ぶ。
「ずっと逢いたかった」
「いや、男やん」
「だから?」
いや、そこ大事やろ。女や思うてたんやろ。ってか、何でも先に性別でしょう。
喧嘩するにも、何でも。街で目が行くんは女やもん。やっぱり性別でしょう。
「関係ない」
言い切られると、あ、ほんまや、関係あらへんわーとか思ってまいそうになるんが恐ろしい。
そうそう、そんなん問題やないよね!みたいな。
いや、問題でしょう。俺なら…無理。ってか、お前くらいやろ。
ようは初恋の君が野郎やったと。間違いなく逆恨み対象やろ。
「なんか…」
「運命やろ」
フーッと紫煙を吐き出し、きっぱり。
あー、男らしい。ほんま…。
「敵わんなぁ」
呆れる。でも、そこがいい。
自分の意思通すためなら、俺が男やいうんもフル無視。そこを少しでも龍大が躊躇してたら、俺は龍大の隣にはおらんかった。
龍大の何事にも動じん、自分がそうやって思ったら貫く信念。そこがいい。
「せや、渋澤さんのん、龍大知ってるん?」
今日は色々とビックリニュースばっかりや。どんぐりにもビックリしたけど、渋澤さんの発言にもビックリさせられた。
「ああ、何や組出たいって梶原に言うたらしいな」
おいおい、あの人、もう言っちゃっての?
「おかんと籍入れたい言うたんは?」
「聞いた。ええんちゃうか…。何や、威乃、反対なんか?エエ人やで、見た目あんなんやけど」
「エエ人なんわかってるよ。反対もない、賛成や」
龍大は、吸い終わった煙草を灰皿に押し付けた。
それをじーっと見ながら、龍大の腹に顔を載せた。
「威乃」
髪の毛撫でられて呼ばれる。何もかもお見通し。って訳か。
「足は洗っていらん。俺は龍大達の世界のことを完璧に知ってるわけやない…。でも裏におる人間が、そんな簡単に表に出られへんことくらい俺にでも分かる」
「せやな。渋澤は長いからな」
「おかんは幸せなりたがってた」
いつも、いつまでも夢物語語る少女。じわっと込み上げてきたものを、龍大に分からんように拭う。
あかんたれや。あかんたれ過ぎて自分に腹立つ。龍大は俺の腕を引いて、身体を引き上げるとぎゅっと抱き締めた。
「威乃」
「欠伸やもん」
「ふーん」
見んでも分かる。ピクンて片眉が跳ね上がってるんや。
「渋澤威乃って変やろ」
「え…?」
いきなり、人の親父になる人間の名前批判ですか?ちょっと、箔が付くやろ。
書くん、邪魔臭そうやけどな。”さわ”が難しい方の”澤”やしな。
「風間威乃のがええやろ?」
「あ゛?」
ちょっと、いい感じに浸ってたのをぶち壊す発言。
何を言い出してんの?コイツ?
身体を離して顔を見てみても、真剣そのものの顔。
え?やっぱりアホなん?こいつ。俺やのうて、やっぱり龍大がアホ?
「風間威乃」
「いやいや、アホ?アホやろ?」
「なんで?」
「いや…なんで?」
「今すぐは無理やけど、親父を説得してみせる」
「ええ!?」
「法律は変えれんから、養子縁組」
「ええ!?」
あんた、俺をどうするつもり?
「か、風間組」
崩壊するよ?ってか、内紛起こるよ。
「継ぐ。まだまだ力不足やから無理やけど、いずれは」
真剣なんや。ほんまに、先まできちんと考えて、真剣。
龍大は、こうと決めたら進む人間や。常識とか、道徳とか関係ない。自分がこうと決めたら、何の迷いもなくそこへただ進む。
ほな、俺も、腹くくらなあかんのか。
「じゃ、じゃあ、全部教えてくれる?」
頭に過る、真っ黒なもん。俺の知らん、龍大。
「なに?」
「ハルが言うててん」
「何を?」
「りゅ、龍大が…人殺したて」
口にしてぎゅっと唇を噛んだ。でも、龍大は顔色一つ変えずに俺を見据えた。
「りゅ、龍大?」
「事実や」
龍大は言うて、俺の頬を撫でた。
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