つまりは女子高生が最強

amama

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第3章

強さとは余裕

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最初に見たのは彼女がうちの騎士団の中堅を軽くいなして殺しかけたところ。

ジェインは頭は悪いが腕っ節だけで騎士団で名をあげるほどの実力者だったはず。

あの時の奴をみたときは頭の悪さが腕に侵食して弱くなったのかと疑った程だ。

こんな、弱そうな女に首を取られるなんて。



「お前の言いたいことはわかってるさ。

ただ...情けねぇ話、全力でやってもあの動きについていけるかわからねぇ。
油断してたとは言え、見えなかったんだ。

笑えねぇぜ、全くよぉ」


ジェイン本人をからかってやると真面目な顔をして本当に情けないことを言うので少し興味が湧いた。
ただそれだけ。

それからしばらくして、迷い人の報告を受けて小さい町へ出向いてみたら

彼女がフライパンで人を空へ吹き飛ばしていた。


...あぁ、なんでこの変な迷い人に興味が湧いたのか、今わかった。


強いくせにすぐに殺せそうだからだ。
一度会っただけの、異世界の人間を簡単に信用してはいはい言うことを聞くのは頭が悪いからだろうか。
容姿はどこぞの王族のように整っているのに、頭が足りないのは致命的だ。



「....、か...」


森の奥から声が聞こえた。
こんな場所に人がいるとしたら、迷い人か...それか迷い人狙いの売人か。

まず慎重に様子をみる。

少し近くまでくると声は2つ、何かを引きずる音がする。
声に余裕があることから迷い人の可能性は消えた。
あとここに出入りする奴はやましいことがある奴くらいしかいない。
一体何を運んでいるのやら...。

想像するのは嫌だが迷い人をさらって売る売人であれば俺の仕事になる。

声を頼りに森の奥へと行くと姿が見えた。

...騎士団、ではないな。あんな軽装の奴はいない。

男の1人が引きずっていたのは人間。

それも服装からしておそらく迷い人。成人した女性だろうか、顔はみえないので詳しくはわからないが秋月さんが探している人物ではなさそうだ。
嫌な想像が当たったな、迷い人を狙った売人。

全くどうしてこうも面倒なことが立て続けに起こるのか。


「希美っ!」


反対側の茂みから、彼女が飛び出してきたときは売人の存在をちゃんと教えておけばよかったと、後悔した。
だから頭の足りない奴は.....


「あ?なんだまた迷い人か?」

「おいおいおい!こりゃあすげぇのが当たったな!」

「...あ、あの、私妹を探してて....」


バカで容姿が良くて騙しやすそう。売人からしたら最高の条件だな。
彼女は理解できてないのか、しどろもどろになっていた。確認してから姿を出せばいいものを...


「あぁ~妹なら俺たちが保護してやってるから一緒にきな。こいつも保護してやる途中だったんだぜ」

「えっ...」

「いいからきな、妹に会わせてやるからよ」


知性のなさそうな笑い方をしながら男が彼女の腕を引っ張る。その反対の手にはナイフが握られている。
ここまできて危険だと理解できなければとんでもないバカだ
いい加減仕事をするか


「いい加減にしろよ出っ歯」

「うぐぁぁ!!!」

「その人離してとっとと失せろ。」

「はぁ!?おいモロ、何やってんだ気絶させちまえ!」

「こんの女~!!」

「正当防衛」

「ぎゃああああ!!!!!!死ぬぅ死ぬ死ぬ!!!ぐぎゃああああ!!!」




....助けに入ろうかと、思って踏み出した瞬間に彼女は腕を掴んでいた男の腕を捻り上げて逆方向へ曲げた。
逆上してナイフを振り回してむかってくる男に対して手を取ってナイフを奪い今度は肩を曲がらない方向へ曲げている。ボキ、と鈍い音と悲鳴。
男の情けない叫び声が森へ響く。


「もう片方も折った方が悪いことしないんじゃねーの」

「てめぇ...よくもやりやがったな!!傷物でも高く売れるだろからちょっと教育してやるよ!!」


彼女に(面白半分で)剣を渡しておいて良かった。
相手は剣士崩れだろうか、二刀流で構えて彼女へ距離を詰めて行く。


「...お前それ本気でやってんの?超ダサいカニみたいになってるけど。」

「こんの...顔は斬らないでおいてやるよ!!」


彼女は俺が渡した道具は一切使おうとしない。斬りかかってきていても長刀を握ろうともしない。
まずい、と思った時にはもう遅かった。


「ぐぅぶっ!!!」

「二刀流なめんな下手くそ」


刀が二本振り下ろされた瞬間、早くてあまりみえなかったが彼女は一刀目を最小限の動きで避けると間合いに入り込み二刀目を相手の手首を曲げて軌道を変えて顔面に平手打ちをかました。どう考えても平手打ちでは出ないようなバァンッと凄い破裂音がした。

男がそのまま木へぶつかり動かなくなる。
あんな平手打ちをまともに受けたらもう立ち上がれないだろう。


ようやく謎が解けた。

彼女はバカなんじゃない。
罠だろうが不意打ちだろうがなんだろうが自分が勝てると自信があるから行動にしているだけだ。
敵だと判断するのは自分で見て確かめて確信をしてからで遅くないんだ、彼女の場合は。
もちろん勝てる自信があるから。


こんな人間があちらの世界にいるなんて。
彼女は戦場の出なのだろうか。


「アジアンビューティー...じゃなかった、アイルさーん!なんか女性が拉致られそうだったので救助しました。そっちは希美の手がかりありました?」


...気配を消すのは上手いはず、だった。

売人が拉致した女性を抱えながらこちらへ声を張り上げてくる。
彼女の元へと歩きながら彼女の敵になるようなことだけはやらないことを誓った。
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