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一致団結
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最初は何が起こったのかわからなかった。
ビリー役の皆川さんも同様に、ぽかんと口を開けて周りの反応を見ている。
「すごいすごいすごーい!」
呆然としている私にひめめちゃんが抱き着いてくる。
「えっと、あの……」
「なんかねー、ソフィアが話してるって感じだったよ! いや、なんていうのかな、ちゃんとソフィアがそこにいるっていうか、生きてるって感じ」
ひめめちゃんに頬をスリスリとされながら、なんとなくさっきのことを思い出す。
台本の流れは頭の中にちゃんとあった。
で、ソフィアならどういうかを考えてただけだ。
そして、そのイメージになりきる。
ただ、それを必死でやった。
「あはは……。まいったなぁ。なんで急に、そんなにうまくなったの?」
高尾さんが苦笑いしながら聞いてきた。
だけど、その横から皆川さんが勢いよく迫ってくる。
「ありがとう! なんか、久々に演技が楽しいって思えたよ」
「いや、その……。ただ、私は夢中で……」
「夢中かぁ。でもなんかビビったよ。いきなり、アドリブ入れてくんだもん。それなら俺も全力出さなきゃって思ってさ」
この前の練習では正直に言って、苦笑いされるほどの酷い演技をして場の雰囲気を崩してしまった。
それが悔しくて、必死になって練習してみた。
だけど全然上手くいかなくて。
でも、沙也加に言われたことがきっかけで、ソフィアをとことん知ろうとした。
演じるというよりソフィアを理解する。
ソフィアならどうするかをひたすら考えてみた。
それが今日の練習で咄嗟に出た。
「赤井さんは出来る人だと思ってたよ!」
いきなり後ろからハグをされて、今までのドキドキとは違う、心臓が跳ね上がる感覚がした。
ハグをしてきたのは圭吾だった。
最近は望亜くんにはしょっちゅう抱き着かれてて免疫が出来てきたかと思ったけど、推しである圭吾に抱き着かれるのは、やっぱり物凄いインパクトがある。
……頑張れ私。
絶対に鼻血を吹き出すんじゃない!
なんとか深呼吸をすることで、鼻血を吹き出す大惨事は回避する。
「あー、圭吾くん、ズルい~。私もー」
「ひめめちゃんはさっき抱き着いたでしょ。今度は俺の番だよ」
変なところで喧嘩を始めるひめめちゃんと圭吾。
「ねえ、赤井さん。どんな練習をしたの? 教えてくれない?」
今まで話したこともなかった他の出演者たちからも、質問攻めにあった。
「いえ。私はただ、レッセプをメチャクチャプレイしただけで……」
私の言葉に何人かが、「あっ!」と声を上げた。
それに対して、役者が本業である皆川さんが顔を引きつらせながら笑う。
「やっぱりか。みんな、レッセプで自分のキャラ見てないでしょー」
ところどころで「うっ!」という声が聞こえてくる。
「演技はそのキャラを知ることからがスタートだよ。今回はせっかく原作のゲームがあるんだから、せめて自分のキャラのエピソードは見る様にしようよ」
皆川さんがそう言ったことで、今までゲームをやって来なかった人たちが俯き、その場の雰囲気が暗くなっていく。
「面白いですよ! レッセプ! 私も今週始めたばっかりですけど、すごいハマっちゃって!」
私だって沙也加に言われて、初めてゲームのキャラを見るっていう基本的なことに気づいた。
確かに知らなかったこと、考えが至らなかったことは恥ずかしいことかもしれない。
でも、気づいたし、知れた。
知らないことは知っていけばいいし、できないことは練習してできるようになればいいだけだ。
私だってできたんだから、みんなだってできるよ。
「……あのさ、私、あんまりゲームやらないからやりかたわからないんだよね。教えてくれないかな? やり方」
その女の人の言葉が切っ掛けとなって、その場にいるほとんどの人が携帯を出して、私の方に集まってきた。
「あ、俺も俺も」
「なんか、今更、聞く雰囲気じゃなかったからさ」
「ゲーム自体は入れたんだけど、どうやってプレイしていいかわからなくて」
私も形態を出して、画面を見せながらインストールのやり方と、スタート時のゲームの進め方を説明する。
それを見ながら、ゲームをインストールしてなかった人やゲーム自体は入れてあったけど放置していた人がゲームを開始していく。
結局、その後の練習はみんなのゲームプレイの時間になってしまった。
その場にいた人たちとゲーム上でのフレンドになり、ゲーム内でメンバーだけのギルドを作った。
それから数日して、ギルドメンバーの情報を見てみると、みんなメキメキとレベルが上がっている。
どうやらほとんどの人が私よりもレッセプにハマったようだ。
前まで稽古場で、稽古の休憩中はそれぞれグループが出来ていて、バラバラで話をしていたが、今ではみんな集まって、レッセプの話をするようになった。
なんか、一致団結したって感じする。
まさしく、一つのギルドだ。
そのこともあってか、練習ではみんな自分が思い描く、自分のキャラを演じるようになった。
台本に書かれている台詞と動きだけじゃない。
よりそのキャラに近づける、そのキャラになりきってしゃべり、動く。
以前の稽古場は和気あいあいと言う感じで楽しい雰囲気だったが、今では「もっとこうした方が良い」「この方がキャラっぽい」など、真剣に演技のことを話すようになった。
現場は真剣さでピリッとした緊張感が生まれるが、これはこれで楽しい。
みんなが真剣になって一つのことを目指して頑張ると言うのが、こんなにも心が躍ることだなんて。
よく考えてみれば、私は学校祭の準備の時、沙也加や美希とサボってたけど、真剣にやってたらまた違った学校祭になっていたのかもしれない。
……来年はちゃんとやろう。
そう思った。
そして、舞台の公開日が着々と迫ってくる。
そんな中で、舞台のメンバーたちはある不安を抱えたまま、解決できないでいたのだった。
ビリー役の皆川さんも同様に、ぽかんと口を開けて周りの反応を見ている。
「すごいすごいすごーい!」
呆然としている私にひめめちゃんが抱き着いてくる。
「えっと、あの……」
「なんかねー、ソフィアが話してるって感じだったよ! いや、なんていうのかな、ちゃんとソフィアがそこにいるっていうか、生きてるって感じ」
ひめめちゃんに頬をスリスリとされながら、なんとなくさっきのことを思い出す。
台本の流れは頭の中にちゃんとあった。
で、ソフィアならどういうかを考えてただけだ。
そして、そのイメージになりきる。
ただ、それを必死でやった。
「あはは……。まいったなぁ。なんで急に、そんなにうまくなったの?」
高尾さんが苦笑いしながら聞いてきた。
だけど、その横から皆川さんが勢いよく迫ってくる。
「ありがとう! なんか、久々に演技が楽しいって思えたよ」
「いや、その……。ただ、私は夢中で……」
「夢中かぁ。でもなんかビビったよ。いきなり、アドリブ入れてくんだもん。それなら俺も全力出さなきゃって思ってさ」
この前の練習では正直に言って、苦笑いされるほどの酷い演技をして場の雰囲気を崩してしまった。
それが悔しくて、必死になって練習してみた。
だけど全然上手くいかなくて。
でも、沙也加に言われたことがきっかけで、ソフィアをとことん知ろうとした。
演じるというよりソフィアを理解する。
ソフィアならどうするかをひたすら考えてみた。
それが今日の練習で咄嗟に出た。
「赤井さんは出来る人だと思ってたよ!」
いきなり後ろからハグをされて、今までのドキドキとは違う、心臓が跳ね上がる感覚がした。
ハグをしてきたのは圭吾だった。
最近は望亜くんにはしょっちゅう抱き着かれてて免疫が出来てきたかと思ったけど、推しである圭吾に抱き着かれるのは、やっぱり物凄いインパクトがある。
……頑張れ私。
絶対に鼻血を吹き出すんじゃない!
なんとか深呼吸をすることで、鼻血を吹き出す大惨事は回避する。
「あー、圭吾くん、ズルい~。私もー」
「ひめめちゃんはさっき抱き着いたでしょ。今度は俺の番だよ」
変なところで喧嘩を始めるひめめちゃんと圭吾。
「ねえ、赤井さん。どんな練習をしたの? 教えてくれない?」
今まで話したこともなかった他の出演者たちからも、質問攻めにあった。
「いえ。私はただ、レッセプをメチャクチャプレイしただけで……」
私の言葉に何人かが、「あっ!」と声を上げた。
それに対して、役者が本業である皆川さんが顔を引きつらせながら笑う。
「やっぱりか。みんな、レッセプで自分のキャラ見てないでしょー」
ところどころで「うっ!」という声が聞こえてくる。
「演技はそのキャラを知ることからがスタートだよ。今回はせっかく原作のゲームがあるんだから、せめて自分のキャラのエピソードは見る様にしようよ」
皆川さんがそう言ったことで、今までゲームをやって来なかった人たちが俯き、その場の雰囲気が暗くなっていく。
「面白いですよ! レッセプ! 私も今週始めたばっかりですけど、すごいハマっちゃって!」
私だって沙也加に言われて、初めてゲームのキャラを見るっていう基本的なことに気づいた。
確かに知らなかったこと、考えが至らなかったことは恥ずかしいことかもしれない。
でも、気づいたし、知れた。
知らないことは知っていけばいいし、できないことは練習してできるようになればいいだけだ。
私だってできたんだから、みんなだってできるよ。
「……あのさ、私、あんまりゲームやらないからやりかたわからないんだよね。教えてくれないかな? やり方」
その女の人の言葉が切っ掛けとなって、その場にいるほとんどの人が携帯を出して、私の方に集まってきた。
「あ、俺も俺も」
「なんか、今更、聞く雰囲気じゃなかったからさ」
「ゲーム自体は入れたんだけど、どうやってプレイしていいかわからなくて」
私も形態を出して、画面を見せながらインストールのやり方と、スタート時のゲームの進め方を説明する。
それを見ながら、ゲームをインストールしてなかった人やゲーム自体は入れてあったけど放置していた人がゲームを開始していく。
結局、その後の練習はみんなのゲームプレイの時間になってしまった。
その場にいた人たちとゲーム上でのフレンドになり、ゲーム内でメンバーだけのギルドを作った。
それから数日して、ギルドメンバーの情報を見てみると、みんなメキメキとレベルが上がっている。
どうやらほとんどの人が私よりもレッセプにハマったようだ。
前まで稽古場で、稽古の休憩中はそれぞれグループが出来ていて、バラバラで話をしていたが、今ではみんな集まって、レッセプの話をするようになった。
なんか、一致団結したって感じする。
まさしく、一つのギルドだ。
そのこともあってか、練習ではみんな自分が思い描く、自分のキャラを演じるようになった。
台本に書かれている台詞と動きだけじゃない。
よりそのキャラに近づける、そのキャラになりきってしゃべり、動く。
以前の稽古場は和気あいあいと言う感じで楽しい雰囲気だったが、今では「もっとこうした方が良い」「この方がキャラっぽい」など、真剣に演技のことを話すようになった。
現場は真剣さでピリッとした緊張感が生まれるが、これはこれで楽しい。
みんなが真剣になって一つのことを目指して頑張ると言うのが、こんなにも心が躍ることだなんて。
よく考えてみれば、私は学校祭の準備の時、沙也加や美希とサボってたけど、真剣にやってたらまた違った学校祭になっていたのかもしれない。
……来年はちゃんとやろう。
そう思った。
そして、舞台の公開日が着々と迫ってくる。
そんな中で、舞台のメンバーたちはある不安を抱えたまま、解決できないでいたのだった。
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