攻略対象の筆頭魔術師が「運命の相手は君だ」と婚姻届片手にモブの私を追いかけてくる〜エンドロール後なので放っておいてもらっていいですか?〜

前澤のーん

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プロローグ

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「ルチア、俺の運命の相手は君だ」

(――――は?)

 お昼営業を終えた誰もいない静かな食堂に響いた声に、私の世界はカチンと停止した。
 カウンター越しに座るのは、誰もが振り返るほどのイケメン。そんなイケメンの前で固まるのは薄汚れたエプロンをつける平凡な私。私の片方の手には肉じゃがが盛られた皿、もう一方には――――婚約誓約書が握られていた。

「あ、あの……カシアン様。言ってる意味がよく分からないんですけど」
「だから俺の運命の相手は、君」
「……いや、まったく言葉が変わってませんが?」

 目の前のイケメンの紫紺色の髪が窓から吹き込んだ風に揺れる。黒を基調とする金の装飾が施された豪華なローブを羽織って、少しだけ切れ長の藤色の目が弧を描いた。
 傍から見れば、日常のパターンでプロポーズされた一場面に見える。豪華なサプライズより日常派という方々は、さぞ嬉しいものだろう。

(いや違う……待て? 待って、待って)

 だけど、おかしい。私とこの男性は付き合ってもないし、男女の関係でもないのだ。
 ふぅ~と自分を落ち着かせるためにも息を吐いてから、カウンター越しに座る彼の前に肉じゃがの皿を置く。すると、彼の雰囲気がぱぁっと明るいものになった。

「わぁ、すごく美味しそう。これはなんていう食べ物?」
「……あぁ、肉じゃが、と言います。初めてお出しするものですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫。ルチアのご飯大好きだから、なんでも食べたい」
「ありがとうございます。心配してたんですけど、それならよかった」

 男性が器用に箸を持って、「いただきます」と目を閉じて丁寧に手を合わせた。美味しそうに肉じゃがを食べ始めたのに安心する。

(この世界の味覚に合ってそうでよかった……って、よくなぁい!!)

 しまった。この男の我が道を行く雰囲気に、肝心の話を忘れてしまいそうになった。

「シュミエットと結婚するんじゃないんですか!?」

 私の問いに箸を持ったまま、男性が無表情でくい~っと首を傾げる。どうして彼が不思議そうなのか理解ができない。

(だって彼女とくっついたはずでしょう!?)

 そのために好きでもない家庭料理をずっと作り続けて必死に食べさせて、相談も乗って、互いの好感度も上げさせて、悪者を倒して。
 言うなれば、いまは私の知っているエンドロール後のはずだ。だからもう付き合っていて、結婚の約束をしている。そう新聞にも書かれていた。

「しないよ。流れ的にそういう雰囲気を出さないと、周りが面倒くさそうだっただけ。だから互いに否定しなかった」
「互いに?」
「あぁ、彼女は故郷に好きな男がいるらしいよ。その彼と結婚するんだって」
「は? 故郷? 好きな男?」
「うん。だから心配しなくても俺は彼女とは結婚しない」

 放心状態の私を気にすることなく、また箸で器用に肉じゃがを食べ始める。
 いやいや、心配なんてしていない。この自由な男にどれだけ時間を費やしたと思っているのだ。ヒロインに対しての好感度をマックスまで上げて、必死に体力も回復させた。

(だからいまは悪役を倒したあとの平和な世界なはずで……)

「さて、ここに名前を書こうか。ルチア」

 ――――トンッ。

 食べ終えた彼が緩やかな笑みを浮かべて、婚約誓約書の名前欄の上に指を置く。あまりの綺麗な顔立ちに息を飲んだが、すぐに固まった。いつの間にか、私の手に万年筆が握らされている。

「いやっ、あのっ! 運命の相手だなんて知りませんが!?」
「大丈夫。俺はずっと前から知ってた」
「そういうことではなくて!」

 おかしい。

 いまの私は晴れてお役御免な立場のはずだ。強制的にヒーラー的な役割を与えられて、城下街にある古びた食堂で家庭料理を作り続けた。
 それもこれも、このエンドロール後の新たな世界で自由に生きて暮らしていくため。それなのに……。

「なんで乙女ゲーム攻略後に、ヒロインと破局してるのよーーーー!?」

 という悲痛な私の声が食堂の中に響き渡った。
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