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落ちこぼれ魔術師ルチア①
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ピチピチと小鳥のさえずりが響くお昼営業終わりの古びた食堂。金髪碧眼美女が真向かいのカウンター越しの椅子に座って、不安げに俯いていた。彼女の特徴的な先端の尖った耳もしゅんと項垂れている。
「ルチア……私に解決できるかしら」
「大丈夫! シュミエットだったら文句を言う人は誰もいないよ!」
「でもカシアン様は、私のことをいつも冷たい目で見てくるわ」
「それは緊張してるだけだって~!」
俯く彼女の頭を撫でてあげれば、その頭上に浮かぶ電子的なパラメータが私の視界に入った。
(このパラメータが証拠だって言ってあげたいんだけど。私しか見えないだろうし、言ったところで信じてくれないよね?)
それは好感度と凡例がついており、マックス値に達している。私が懸命に選択肢を正解で進めさせた成果であり、パラメータが表す通り、ハッピーエンドに向かわないはずはないのだ。
自信を持って頷いた私に、彼女の表情が明るいものへと変わっていく。
「ありがとう、ルチア。元気が出たわ、もう一度彼と話し合ってみる」
「うん。また迷うことがあったら気軽に聞いてね!」
励まし続けて元気になった美女を送り出し、食堂の扉を閉める。その扉の横にあった本棚には『エルフのシュミエット様と筆頭魔術師カシアン様、ご婚約間近!?』と見出しが載った新聞が入れられていた。
「ふぅ~、あとは悪を排除して終わりって感じね」
晴れ晴れしい話題の載った新聞を手に取り、片方の空いた手で宙に光の線を描く。するとカウンターに置かれていたポットが浮いた。
――――バシャ!!
浮くまではうまくいったのだが、カップの真横にポットの珈琲が軽快な音を立てて流れ落ちていく。うん、さすがポンコツ。自分で淹れたほうが早かった。
(おかげでワンピースの裾に綺麗な茶色のプリントがされた。ありがとう)
謎の感謝をしつつ、雑巾を手に取りテーブルと床を拭く。ポンコツこと私、ルチア・ルーセントはこのアマリス帝国の帝都にある食堂で働く魔術師だ。
本来であれば魔力を扱う魔術師は貴重で王宮で働くのがセオリーだが、私はあまりにポンコツすぎてクビにされたという設定らしい。
「まさか乙女ゲームに転生してまでもポンコツだなんて」
そう、私が『設定らしい』というのは理由がある――――ここはいわゆる乙女ゲームの世界なのだ。
「うぅん、やっぱりヒロインもできがよくて可愛くないと選ばれないのがセオリーなのね」
床にこぼれた珈琲に映るのは橙色の髪、朱色の瞳の平凡な見た目で平凡な服。見た目通り私はヒロインではなかった。もちろんヒロインは先ほどの金髪の爆イケ美女だ。
せめてあんな爆イケ美女にしてくれたらよかったのになんて思うが、慣れてはいる。この平凡な感じは長年付き合ってきていた。乙女ゲームの世界に入る前もそうだったからだ。
「どうしてこうなったのやら。あー、でも私がポンコツだからか」
苦笑してしまう。転生前の私の最後の記憶を思い返してみれば、それは新卒で働き始め五年が経っていた頃だった――……。
――……。
『あ~! 疲れた~!!』
――――バンッ。
日付が変わった真夜中、狭い一口コンロとシンクがあるだけのキッチンに置かれた丸椅子に座る。飲みかけのグラスやお酒の缶が真横のシンクの中に散らばっていた。
手に持っていたコンビニの袋から会社帰りに買ったさきいかを取り出した。コンロの火をつけて軽く炙ってからマヨネーズと七味をかけて食べる。口の中に磯の風味が広がってから、プシッとビールのプルタブを開けて勢いよく喉に流し込んだ。
『ぷはぁ~! やっぱりこれだよね~』
(激務のあとにはこれが効く!)
毎日毎日、社会の歯車という社畜な生活をしていたために、いつの間にか『キラキラ女子』というものから遠く離れたものに成り果てていた。まぁ、元からこんな性格だったのは否めない。
『あー、辞めたい……けど辞めたら路頭に迷って死ぬ』
軽くなった缶を揺らしながらため息をつく。そんな大袈裟な、と思われるかもしれないけれど、私にはセーフティネット的なものはなかった。幼い頃に両親が亡くなり頼れる親族もいなかったために、ずっと児童養護施設暮らしだった。
(どこかの王子様のところに永久就職したい)
本音を言えば、それが一番。
『でもなぁ、料理も家庭料理くらいしか作れないし、掃除も好きじゃないし……』
王子様にも選ぶ権利はあるだろう。以前、合コンできゅるんとした上目遣いで『得意料理は肉じゃがです』とお決まりのご挨拶をしたら、隣の女子に『私はアボカドとトマトのサラダニソワーズをよく作ってますぅ』と被せられた。
あまりに単語の羅列が難しすぎて、とうとう日本語が分からなくなったのかと思った。上には上がいる、ということだ。平凡な見た目に平凡な頭脳、平凡な器量。それでは永久就職できるほどの男性と釣り合うには程遠いということなのだ。
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