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落ちこぼれ魔術師ルチア②
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「はっ! いいの、いいの。こーなったらもうひとりで生きてやるんだから!」
いい感じに酔いが回ってきたとき、さきいかを咥えながら丸椅子から立ち上がって徒歩一歩の部屋に移動する。
(よし。今日は少しだけゲームでもして寝ようかな)
ベッドとテーブルだけが置かれた部屋の床に積み重なった乙女ゲームをしゃがんで手に取る。
『アマリスの七不思議~君と解く謎と深愛~』
耳の尖った女の子を囲む多種多様なイケメンが描かれた乙女ゲームのパッケージ。
このゲームの内容はエルフである主人公が、多種多様な種族が暮らすアマリス帝国で起きる七不思議を攻略対象と共に解きながら恋愛し、諸悪の根源の悪役を倒すというものだ。
「乙女ゲームなのにバトルシステム入ってるのが珍しいんだよね」
七不思議を解き明かす途中で魔物を倒すバトル仕様のために、ヒロインや攻略対象を鍛錬、回復させるのも必要だった。設定が凝っており、なかなかに面白く何度も攻略した。
(また最初から攻略しようかな~)
起き上がってベッドに移動しようとしたとき……。
「っわ!?」
酔っ払っていたこともあるのか、ぐらりと視界が揺れた。そのまま足の力が抜けて手から離れたパッケージが宙に浮かぶ。
(―――――あ)
実際は一秒くらいの短い時間なはずなのに、ゆっくりと身体が傾いて倒れ込んでいく光景が見える。浮かぶパッケージの先、尖ったテーブルの角が視界に入った。
大きくなっていく尖った角。これは危ないと直感的に思った直後、ゴンッという衝撃が頭に走ると同時に世界が真っ暗になった――……。
――……。
「そうして無様な亡くなり方をしましたとさ……ってなると思ったのに」
頭の中にある最期の記憶の回想が終わったあと、珈琲のポットをしっかりと手に持ち注ぎ直す。カウンター内にある椅子に腰掛けて、カップに口をつけた。
食堂の窓の外には頭から耳が生えた獣人や小さな可愛らしい魔獣が飛ぶ光景が広がっている。記憶の中にある社会の歯車時代ではあり得ない光景だ。
(特徴的な種族が多くて、なおかつ攻略後だったから、この世界が『アマリス』のだってすぐに気づけたのよね)
なんと脳内の記憶とマッチした世界は、何度も私が繰り返し攻略したゲームの世界だった――――どんな変異が起こったのか、気がつけば私は『アマリスの七不思議~君と解く謎と深愛~』の世界に入っていたのだ。
転生前の記憶が蘇ったとき、私はこの食堂でいまと同じように珈琲をすすっていた。
(記憶があったのは幸いだわ)
ヒロインではないキャラクター、帝都にある食堂で働く田舎町の男爵家出身のルチア。それが私の中にあった記憶だ。けれど記憶があってもなくても大丈夫だったのかもしれない。なぜなら……。
――――カラン。
そのとき扉が開かれる音が静かな食堂に響く。
「ルチア、営業時間外だけど大丈夫?」
はっと顔を上げれば、扉を開いていたのは長いローブを羽織った背の高い男性。彼が頭からローブを下ろすと綺麗な紫紺色の髪が現れて、耳についた水色のピアスが輝いた。
(おおう。顔面国宝とはこのことか)
「ルチア?」
不思議そうにこてんと首を傾げる顔が神々しい。少し切れ長の藤色の瞳に整った鼻筋、陶器のような肌。その男性の見目に見惚れてしまいそうになるのを堪えて、カップを置き表情を営業スマイルに戻した。
「大丈夫ですよ。どうぞ」
「ありがとう」
私の前のカウンター席へ手を向けると、緩やかに笑った。その笑顔が眩しくてチカチカする。このままだと目がやられそうだから、サングラスをかけたいところだ。
長いローブを脱いで隣の椅子の背もたれに掛けると中には黒を基調とした軍服を着ている。美しい金縁の装飾がされており、高貴な人が着る服装だとすぐに分かるものだ。
(うーん、これが攻略対象の風格?)
彼は『アマリス』の攻略対象の一人である魔術師のカシアン・トュレイスだ。
歳は二十五歳でこの国の全魔術師のトップにあたる筆頭魔術師だ。とにかくすご~い男性なのだ。
(優しくて、格好よくて、能力が高くて一番人気なのが分かるわ)
カシアン様は七人の攻略対象の中でダントツの人気ナンバーワンだった。改めてこの世界で彼と実際に対面して王者たる風格を感じる。
私は『アマリス』ではストーリー性が好きだったため、推しキャラクターはいなかった。なので彼に対しての耐性があったのは救いだろう。そうでなければ、いま頃、卒倒している。
「カシアン様。最近は毎日来られてますが、王宮は大丈夫なのですか?」
私が出したハンバーグの上に乗った目玉焼きを、器用にナイフで黄身を割って美味しそうに食べている。
「あぁ、大丈夫。ルチアのご飯は魔力も回復するし美味しいからね。それになんだか惹き寄せられるんだよね」
「あ……あはは。恐れ多いです」
ぎこちない笑みを返しつつ、夜に出すための料理の下準備を始めた。軽快なリズムでキュウリを包丁で切りながら改めて『アマリス』の世界観を思い出す。
(システム上、来るようになってるからかな?)
この世界に転生してからの私の立ち位置は、回復係というやつだった。つまり、先ほど説明したバトルシステムのために用意された回復させるためのキャラクターというわけだ。
体力や魔力ゲージを回復させるために食堂で『おちこぼれ魔術師ルチア』のご飯を食べる、というもの。『ルチア』は様々な相談にも乗ってくれて、攻略対象の好感度パラメータも確認してくれる重要な役割で、攻略時も何度も助けられた。だからこそ転生してからすぐに私が『ルチア』という存在を認識することができたのだ。
いい感じに酔いが回ってきたとき、さきいかを咥えながら丸椅子から立ち上がって徒歩一歩の部屋に移動する。
(よし。今日は少しだけゲームでもして寝ようかな)
ベッドとテーブルだけが置かれた部屋の床に積み重なった乙女ゲームをしゃがんで手に取る。
『アマリスの七不思議~君と解く謎と深愛~』
耳の尖った女の子を囲む多種多様なイケメンが描かれた乙女ゲームのパッケージ。
このゲームの内容はエルフである主人公が、多種多様な種族が暮らすアマリス帝国で起きる七不思議を攻略対象と共に解きながら恋愛し、諸悪の根源の悪役を倒すというものだ。
「乙女ゲームなのにバトルシステム入ってるのが珍しいんだよね」
七不思議を解き明かす途中で魔物を倒すバトル仕様のために、ヒロインや攻略対象を鍛錬、回復させるのも必要だった。設定が凝っており、なかなかに面白く何度も攻略した。
(また最初から攻略しようかな~)
起き上がってベッドに移動しようとしたとき……。
「っわ!?」
酔っ払っていたこともあるのか、ぐらりと視界が揺れた。そのまま足の力が抜けて手から離れたパッケージが宙に浮かぶ。
(―――――あ)
実際は一秒くらいの短い時間なはずなのに、ゆっくりと身体が傾いて倒れ込んでいく光景が見える。浮かぶパッケージの先、尖ったテーブルの角が視界に入った。
大きくなっていく尖った角。これは危ないと直感的に思った直後、ゴンッという衝撃が頭に走ると同時に世界が真っ暗になった――……。
――……。
「そうして無様な亡くなり方をしましたとさ……ってなると思ったのに」
頭の中にある最期の記憶の回想が終わったあと、珈琲のポットをしっかりと手に持ち注ぎ直す。カウンター内にある椅子に腰掛けて、カップに口をつけた。
食堂の窓の外には頭から耳が生えた獣人や小さな可愛らしい魔獣が飛ぶ光景が広がっている。記憶の中にある社会の歯車時代ではあり得ない光景だ。
(特徴的な種族が多くて、なおかつ攻略後だったから、この世界が『アマリス』のだってすぐに気づけたのよね)
なんと脳内の記憶とマッチした世界は、何度も私が繰り返し攻略したゲームの世界だった――――どんな変異が起こったのか、気がつけば私は『アマリスの七不思議~君と解く謎と深愛~』の世界に入っていたのだ。
転生前の記憶が蘇ったとき、私はこの食堂でいまと同じように珈琲をすすっていた。
(記憶があったのは幸いだわ)
ヒロインではないキャラクター、帝都にある食堂で働く田舎町の男爵家出身のルチア。それが私の中にあった記憶だ。けれど記憶があってもなくても大丈夫だったのかもしれない。なぜなら……。
――――カラン。
そのとき扉が開かれる音が静かな食堂に響く。
「ルチア、営業時間外だけど大丈夫?」
はっと顔を上げれば、扉を開いていたのは長いローブを羽織った背の高い男性。彼が頭からローブを下ろすと綺麗な紫紺色の髪が現れて、耳についた水色のピアスが輝いた。
(おおう。顔面国宝とはこのことか)
「ルチア?」
不思議そうにこてんと首を傾げる顔が神々しい。少し切れ長の藤色の瞳に整った鼻筋、陶器のような肌。その男性の見目に見惚れてしまいそうになるのを堪えて、カップを置き表情を営業スマイルに戻した。
「大丈夫ですよ。どうぞ」
「ありがとう」
私の前のカウンター席へ手を向けると、緩やかに笑った。その笑顔が眩しくてチカチカする。このままだと目がやられそうだから、サングラスをかけたいところだ。
長いローブを脱いで隣の椅子の背もたれに掛けると中には黒を基調とした軍服を着ている。美しい金縁の装飾がされており、高貴な人が着る服装だとすぐに分かるものだ。
(うーん、これが攻略対象の風格?)
彼は『アマリス』の攻略対象の一人である魔術師のカシアン・トュレイスだ。
歳は二十五歳でこの国の全魔術師のトップにあたる筆頭魔術師だ。とにかくすご~い男性なのだ。
(優しくて、格好よくて、能力が高くて一番人気なのが分かるわ)
カシアン様は七人の攻略対象の中でダントツの人気ナンバーワンだった。改めてこの世界で彼と実際に対面して王者たる風格を感じる。
私は『アマリス』ではストーリー性が好きだったため、推しキャラクターはいなかった。なので彼に対しての耐性があったのは救いだろう。そうでなければ、いま頃、卒倒している。
「カシアン様。最近は毎日来られてますが、王宮は大丈夫なのですか?」
私が出したハンバーグの上に乗った目玉焼きを、器用にナイフで黄身を割って美味しそうに食べている。
「あぁ、大丈夫。ルチアのご飯は魔力も回復するし美味しいからね。それになんだか惹き寄せられるんだよね」
「あ……あはは。恐れ多いです」
ぎこちない笑みを返しつつ、夜に出すための料理の下準備を始めた。軽快なリズムでキュウリを包丁で切りながら改めて『アマリス』の世界観を思い出す。
(システム上、来るようになってるからかな?)
この世界に転生してからの私の立ち位置は、回復係というやつだった。つまり、先ほど説明したバトルシステムのために用意された回復させるためのキャラクターというわけだ。
体力や魔力ゲージを回復させるために食堂で『おちこぼれ魔術師ルチア』のご飯を食べる、というもの。『ルチア』は様々な相談にも乗ってくれて、攻略対象の好感度パラメータも確認してくれる重要な役割で、攻略時も何度も助けられた。だからこそ転生してからすぐに私が『ルチア』という存在を認識することができたのだ。
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