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サポートしましょ②
しおりを挟む「ルチアの綺麗な指に傷が残らなくてよかった」
「あ、ありがとう、ございます。わざわざ治していただいて申し訳ないです」
「気にしなくていいよ。ルチアならいくらでも治してあげる」
「そんな……」
(ん?)
苦笑しつつ『筆頭魔術師様に恐れ多い』とでも伝えようと顔を上げると、そこにはふわりと笑うカシアン様がいた。いつもの優しげな笑顔……なんだけれど。
(んんん?)
――――カシアン様の好感度パラメータが枠を飛びこえているのは見間違いでしょうか。
もはや軸がガタガタと揺れているのが、怖い。怖すぎる。いったいいまの流れでどこにシュミエットとの好感度が振り切れる要因があったんだろうか。
「ごちそうさま。ルチア」
何度攻略しても現実になっては難しいものだ。不思議に思っていると、カシアン様が綺麗に食べ終わっていた。
(まぁ、好感度が高いままなのはいいことだからいっか)
考えていても分からないことに時間を費やすのは無駄だろう。転生してから痛いくらいに学んだ。そのために今回も簡単に流しておく。
それよりもシュミエットが悩んでいたことのほうが問題だ。あの話は最後の七不思議のことで、王宮の地下で出現する魔物をルート選択した攻略対象と必ずともに退治しないといけない。だからこそ、カシアン様の力が必要なのだ。
「カシアン様、そういえばシュミエットが……」
「シュミエット?」
振り切れて震えていたパラメータがしゅんっと一瞬で元の枠に落ち着く。それにカシアン様の表情も凍りついたような。
「あの……カシアン様?」
(き、気のせい? さっきからなんなんだろう)
「ううん。なんでもないよ。それよりシュミエットがどうかした?」
「あっ、えっと、彼女が最後の七不思議の謎が解けずに困っておりました。できればカシアン様も少し協力していただけると……」
「最後の七不思議……あぁ、王宮の地下で魔物が現れるという七不思議のこと?」
「はい。彼女が調べても何も起こらないらしくて」
カシアン様は考えるように斜め上を眺めている。
「ちっ、めんどくさい。あいつならそのくらい簡単に解けるだろう。わざとだな」
「え?」
ポツリと何かを呟いたような気がする。小さな声だったので聞こえなかったが、不穏な感じのニュアンスだったような。
「分かった。ルチアのお願いなら俺からも手助けしよう」
ぱっと視線を私に戻して、いつもの笑顔と優しい言葉を返してもらえる。やはり気のせいか。
「カシアン様ーーーー!」
そのとき食堂の外から大きな声が響く。窓の外を見れば、食堂のほうへ走ってくる魔術師の男性の姿。どうやらカシアン様を探しているみたいだ。
「あぁ、もう行かないと。じゃあまた、ルチア」
「はい、お気をつけて」
カシアン様が椅子から立ち上がりフードを被ってから、私に軽く手を振って食堂を出ていく。彼に手を振り返し食堂の扉を閉めたあと、自分の指に赤色の印が入っていることに気がついた。
「なんだろう、これ」
よく見ると傷を治してもらった左指に、赤い花の模様が入っていて、指をぐるりと一周している。
まるで指輪のようだが、蔦も花とともに巻きついているから鎖のようにも見える。くいっと首を傾げて、その印を見つめる。
(悪いものの感じはしないけど……うーん、可愛いからいっか)
ハッピーエンドならなんでもいい。これまた深く考えることを放棄して、優しいカシアン様の粋な心遣いだと簡単に結論づけた。
◇◇◇
それから数週間後、賑わうお昼の食堂。獣人族や小人族、魔獣など多種多様な種族が食事をとっている。
「ルチア~! ここにもカレーライスくれ!」
「はーい」
「ルチア、こっちはスパゲティ定食とハンバーグ定食!」
「はいはーい」
そんな中で高速で仕上げて食事を振舞っていく。異世界で日本の定食屋のようなラインナップがテーブルに並んでいることに初めの頃は違和感を覚えたが、最近では見慣れてきた。
客側も最初は摩訶不思議な日本の食べ物に警戒していたが、いまでは手慣れたように注文している。むしろ大好評だ。家庭料理をこんなにも喜んでもらえるのはありがたい。
「ふぅ、忙しかったね。はい、ルチアのお茶」
「ありがとう。疲れた~……」
忙しい昼営業がやっと終わって『CLOSE』の看板を店前に立てると店内が静かになる。日本の平均身長くらいの私より少しだけ大きい男の子が、お茶の入ったグラスを渡してくれた。
カウンターでだらけていた私の隣に、彼も座って無表情で自分のお茶を飲んでいる。ショートボブくらいの水色の髪にアーモンドアイのスカイブルーの瞳、女の私より断然可愛らしい顔をしている。
(可愛い顔してるよなぁ、くそう)
「ルチア?」
「あぁ、セルは仕事終わりも変わらないなぁって」
「そうかな。結構僕も疲れてるよ」
「え~、肌荒れひとつもないくせに。これも攻略対象効果か……」
「コウリャク……? なんのこと?」
「ううん~、こっちの話」
不思議そうに首を傾げた男の子、ならぬ男性。彼も攻略対象の一人であるセルフィ・ジョナエルだ。
童顔だが私より二歳年上で『ルチア』の補佐役的な存在として食堂で働いている。妖精族と人間のハーフといった珍しい生まれでもあった。終始無表情だが案外優しいというギャップ萌えで、彼も人気があった覚えがある。
(セルルートでもよかったんだけど、そうなると人手が減るのよねぇ)
この食堂にはオーナー的な存在はいたが、めったに店には出てこない。実質、私とセルが二人で食堂を切り盛りしている感じだった。そんな裏事情は知りたくなかったが、なんともブラックな職場環境だったのだ。
だからこそセルがシュミエットとの七不思議解決に駆り出されてしまえば、きっと私は過労死してしまう。つまりは自分勝手な理由でセルの運命の相手をなくしてしまったというわけだ。
「ごめんね、セル」
「何? さっきから何を言ってるの?」
「ううん。セルにいいお嫁さんがいたら紹介してあげるねってこと」
「お嫁さん……」
罪悪感から握りこぶしを作って誓うと、セルの目はまん丸に開いた。
(なんにも後押ししてないセルのパラメータが高めなのが謎でもあるけど)
彼の頭上に浮かぶ高めの好感度パラメータ。とくにシュミエットとの後押しはしていないはずなのだが。
「いらないよ。べつに」
そんな簡単な攻略対象だっただろうかと、じっとパラメータを見ていれば、セルが顔を背けてしまった。
それに少しだけむくれている。なんだか彼から不穏な空気も流れているので気まずくなってきた。何かしたのだろうか。
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