6 / 11
エンドロールに入りました①
しおりを挟む「よ、夜の食材の買い出し行ってくるね」
機嫌が悪くなってしまったセルから逃げるように、適当な理由をつけてそそくさと食堂を出ることにする。
(急に機嫌悪くなるんだから、セルはゲームでも現実でも難しいなぁ~……ん? あれは……)
「早く刑が執行されてほしいわ。国を乗っ取ろうとしてたなんて怖いわよね~」
「シュミエット様とカシアン様に感謝しないとね」
道端に立てられた案内板の前で、帝都に暮らす人たちが心配そうな顔をしていた。案内板に貼られているのは、顔に大きくバッテンを書かれている男性の姿絵だ。
あの姿絵の男性は見覚えがある。このアマリス帝国の宰相であるロマネスク・ニールセン。センター分けの金髪で、くりんと丸まった口ひげが彼のトレードマークだ。『アマリス』プレイヤーからは、その見た目から『ピエール』と呼ばれていた。
「ふっ、ふふ……」
彼の姿絵を見て笑みがこぼれる。堪えきれない喜びが抑えきれず、周りの人々が気持ち悪そうにして私から離れていった。だが、気にしない。なぜなら……。
(ハッピーエンドを迎えたからよ~!!)
プピプピッと笛とクラッカーを脳内で鳴らして小躍りする。
シュミエットが私に相談してきてから、約一ヶ月後。カシアン様と彼女が協力して、王宮に現れるという伝説の魔物を見事に倒したのだ。
「黒幕だった宰相も倒したから、攻略後だよね~」
ロマネスクは黒幕だった。簡単に言うと『アマリス』のストーリーは、最初は小さな出来事である七不思議から大きな事象の七不思議に変わってゆき、最終的に国を乗っ取ろうとするロマネスクの野望へと繋がっていく。
シュミエットに黒幕を伝えてもよかったのだが、モブキャラの私が物語に深く関わってしまえば、話が変わってしまう可能性もあった。
(なんで知ってるんだとピエールに目をつけられても困るからね)
そのためにサポートキャラというモブキャラの立場を従順に守ったのだ。ふふん。
「ピエールが捕まったということはカシアン様たちも結ばれてるよね。いまはエンドロール中かな」
実際のゲームであれば、エンディングの素敵な音楽が流れて綺麗な終わりを迎えている頃だろう。
意気揚々とスキップしながら夜の食事の食材を買いに馴染みの店へ入り、籠へぽいぽいっと野菜を入れていく。
「おっ、ルチア。なんだか楽しそうだな」
話しかけてきた店主のおじさんに籠とお金を渡す。
「まぁね~、そろそろ故郷にでも帰ろうかなって」
「は!? じゃあお前の美味しい創作料理が食べられなくなるじゃないか!」
「そうだね。たまに遊びに来るよ、そのとき気が向けば作ってあげる」
「えー、絶対作ってくれよ! ていうか大前提として帰るなよ~!」
商店のおじさんや店にいたお客さんが悲しそうな声を上げる。
向こうでは定番の家庭料理が、ここでは珍しい創作料理になって人気があるのはありがたい。だがもう私は料理を作りたくないのだ。
「ありがたいけど、もう決めたことだから」
みんなからの「え~!」というブーイングを背中に受けながら颯爽と店を出る。
(セルには申し訳ないけど、食堂のオーナーに退職届を出さないとね)
書店へ入り封書と便箋を手に取る。それと店頭に並ぶ『ロマネスク卿、地下牢で刑執行を待つ』や『今回の英雄シュミエット様、筆頭魔術師カシアン様、ご婚約!』という晴れ晴れしい見出しが載った新聞も二部購入しておいた。
「ハッピーエンド記念に部屋に飾ろうかしら」
故郷にある古びた家の壁に掲げなければと大切に鞄の中へとしまい、再びスキップしながら食堂へと戻ったのだった――……。
「なんだか楽しそうだね? ルチア」
「そ、そう?」
それから一週間経った頃、ハッピーエンド後の平和な世界で何事もなく過ごしていた日のお昼。
包丁で食材を軽快な音を鳴らして切っていた私にセルは不思議そうにしている。
(今日オーナーが来る予定だから、セルにも辞めること伝えていいかな?)
シュミエットやカシアン様にも早めに伝えておきたいが、やはり忙しいのか、ここ最近は二人とも食堂に来ていない。
包丁を動かす手をとめてセルのほうへ向く。じっと真剣に見つめると、セルのアーモンドアイの綺麗な目が丸くなった。セルと会えなくなるのは寂しいけれど、致し方ない。
「セルにお伝えしたいことがございまして……」
「伝えたいこと?」
「実はですね……」
――――カラン。
彼に伝えようと口を開いたとき、食堂の扉についた鈴が鳴る。開いた扉から食堂に入ってきたのはカシアン様だ。
(おぉう。なんというタイミング)
もしやこれはハッピーエンド後のシステム仕様か。私のお役目御免を後押ししてくれてるのかもしれない。
それに今日は彼の部下である魔術師のキース様もいた。キース様は狐の獣人族で、薄黄色の長髪をひとつに束ねた頭から耳が生えている。彼も攻略対象の一人だ。
0
あなたにおすすめの小説
どうぞお好きになさってください
みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。
婚約者の第一王子殿下は言った。
「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」
公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。
「好きになさればよろしいわ」
【完結】旦那に愛人がいると知ってから
よどら文鳥
恋愛
私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。
だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。
それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。
だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。
「……あの女、誰……!?」
この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。
だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。
※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
大人になったオフェーリア。
ぽんぽこ狸
恋愛
婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。
生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。
けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。
それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。
その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。
その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。
どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。
無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。
彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。
ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。
居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。
こんな旦那様、いりません!
誰か、私の旦那様を貰って下さい……。
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる