攻略対象の筆頭魔術師が「運命の相手は君だ」と婚姻届片手にモブの私を追いかけてくる〜エンドロール後なので放っておいてもらっていいですか?〜

前澤のーん

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エンドロールに入りました①

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「よ、夜の食材の買い出し行ってくるね」

 機嫌が悪くなってしまったセルから逃げるように、適当な理由をつけてそそくさと食堂を出ることにする。

(急に機嫌悪くなるんだから、セルはゲームでも現実でも難しいなぁ~……ん? あれは……)

「早く刑が執行されてほしいわ。国を乗っ取ろうとしてたなんて怖いわよね~」
「シュミエット様とカシアン様に感謝しないとね」

 道端に立てられた案内板の前で、帝都に暮らす人たちが心配そうな顔をしていた。案内板に貼られているのは、顔に大きくバッテンを書かれている男性の姿絵だ。
 あの姿絵の男性は見覚えがある。このアマリス帝国の宰相であるロマネスク・ニールセン。センター分けの金髪で、くりんと丸まった口ひげが彼のトレードマークだ。『アマリス』プレイヤーからは、その見た目から『ピエール』と呼ばれていた。

「ふっ、ふふ……」

 彼の姿絵を見て笑みがこぼれる。堪えきれない喜びが抑えきれず、周りの人々が気持ち悪そうにして私から離れていった。だが、気にしない。なぜなら……。

(ハッピーエンドを迎えたからよ~!!)

 プピプピッと笛とクラッカーを脳内で鳴らして小躍りする。
 シュミエットが私に相談してきてから、約一ヶ月後。カシアン様と彼女が協力して、王宮に現れるという伝説の魔物を見事に倒したのだ。

「黒幕だった宰相も倒したから、攻略後だよね~」

 ロマネスクは黒幕だった。簡単に言うと『アマリス』のストーリーは、最初は小さな出来事である七不思議から大きな事象の七不思議に変わってゆき、最終的に国を乗っ取ろうとするロマネスクの野望へと繋がっていく。
 シュミエットに黒幕を伝えてもよかったのだが、モブキャラの私が物語に深く関わってしまえば、話が変わってしまう可能性もあった。

(なんで知ってるんだとピエールに目をつけられても困るからね)

 そのためにサポートキャラというモブキャラの立場を従順に守ったのだ。ふふん。

「ピエールが捕まったということはカシアン様たちも結ばれてるよね。いまはエンドロール中かな」

 実際のゲームであれば、エンディングの素敵な音楽が流れて綺麗な終わりを迎えている頃だろう。
 意気揚々とスキップしながら夜の食事の食材を買いに馴染みの店へ入り、籠へぽいぽいっと野菜を入れていく。

「おっ、ルチア。なんだか楽しそうだな」

 話しかけてきた店主のおじさんに籠とお金を渡す。

「まぁね~、そろそろ故郷にでも帰ろうかなって」
「は!? じゃあお前の美味しい創作料理が食べられなくなるじゃないか!」
「そうだね。たまに遊びに来るよ、そのとき気が向けば作ってあげる」
「えー、絶対作ってくれよ! ていうか大前提として帰るなよ~!」

 商店のおじさんや店にいたお客さんが悲しそうな声を上げる。
 向こうでは定番の家庭料理が、ここでは珍しい創作料理になって人気があるのはありがたい。だがもう私は料理を作りたくないのだ。

「ありがたいけど、もう決めたことだから」

 みんなからの「え~!」というブーイングを背中に受けながら颯爽と店を出る。

(セルには申し訳ないけど、食堂のオーナーに退職届を出さないとね)

 書店へ入り封書と便箋を手に取る。それと店頭に並ぶ『ロマネスク卿、地下牢で刑執行を待つ』や『今回の英雄シュミエット様、筆頭魔術師カシアン様、ご婚約!』という晴れ晴れしい見出しが載った新聞も二部購入しておいた。

「ハッピーエンド記念に部屋に飾ろうかしら」

 故郷にある古びた家の壁に掲げなければと大切に鞄の中へとしまい、再びスキップしながら食堂へと戻ったのだった――……。


「なんだか楽しそうだね? ルチア」
「そ、そう?」

 それから一週間経った頃、ハッピーエンド後の平和な世界で何事もなく過ごしていた日のお昼。
 包丁で食材を軽快な音を鳴らして切っていた私にセルは不思議そうにしている。

(今日オーナーが来る予定だから、セルにも辞めること伝えていいかな?)

 シュミエットやカシアン様にも早めに伝えておきたいが、やはり忙しいのか、ここ最近は二人とも食堂に来ていない。
 包丁を動かす手をとめてセルのほうへ向く。じっと真剣に見つめると、セルのアーモンドアイの綺麗な目が丸くなった。セルと会えなくなるのは寂しいけれど、致し方ない。

「セルにお伝えしたいことがございまして……」
「伝えたいこと?」
「実はですね……」

 ――――カラン。

 彼に伝えようと口を開いたとき、食堂の扉についた鈴が鳴る。開いた扉から食堂に入ってきたのはカシアン様だ。

(おぉう。なんというタイミング)

 もしやこれはハッピーエンド後のシステム仕様か。私のお役目御免を後押ししてくれてるのかもしれない。
 それに今日は彼の部下である魔術師のキース様もいた。キース様は狐の獣人族で、薄黄色の長髪をひとつに束ねた頭から耳が生えている。彼も攻略対象の一人だ。


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