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生贄と共犯者①
しおりを挟む(私がロマネスクの共犯者で、捕らえられた彼を逃がした? どいうこと!?)
「お待ちなさい。そんな話は私は何も知らないわ」
呆然としていれば、兵士たちが私に近づいてきたが、シュミエットが私の前へ出た。
「それはそうです。これは国王陛下と大教皇様と限られたものだけしか知られていない厳密な事件ですから」
「限られたもの? 私はなぜ入れられなかったの」
兵士たちが目を合わせたあと、どっと笑いが起きる。
「罪人を捕らえ少し英雄扱いされたからと、何を勘違いされているのだか」
「自分の国へ戻られたらどうですか? あなたは人間ではなくエルフだ」
「今回のロマネスクを捕らえたことで、たくさん稼いだでしょう」
(なんてことを……)
たしかにヒロインのシュミエットはエルフの国から、この大きな帝国へ働きにきた。多種多様な人種が暮らす帝国だが、上にいるものはこの国の人間だ。彼らは根本的に他国の異種に対して差別意識がある。
悔しそうに頬を赤らめているシュミエットに近づこうとしたが、兵士たちが私の前に立ち塞がる。
「すぐに王宮で取り調べを行う!」
「ちょっ、ま、待って! 私、何も知らないです!」
「ええい! うるさい女だ、さっさと来い!」
「やめて、ルチアを離しなさい!」
兵士たちに腕をつかまれ無理やり引きずられる。シュミエットが止めようとするが、ほかの兵士たちに押さえつけられた。
次から次へと結末後からかけ離れた現実に、脳内が追いついていない。せめてひとつにしてほしい。
(いまはそんな突っ込みを入れてる場合じゃない!!)
このまま連れていかれれば、死ぬことは明確だ。牢屋の中で私の首に剣を振りかざされる想像が浮かび、ぞっと背筋が凍ったとき……。
「待て」
兵士たちと私の前の地面に七色の魔術陣が浮かび上がる。はっと顔を上げれば、ふわりと揺れる黒のローブが現れた。
地面に浮かび上がる魔術陣に足先から降り立つと、魔術陣が破片が砕けるように消えていった。
「騒がしいと転移してみれば……そのことはまだ調査中のはずだが?」
彼の身体から黒い靄が放たれると、兵士が気味が悪いものを見るように表情を歪める。私をつかむ手に靄が伸びると、すぐに手を離した。
(か、カシアン様ーー!)
謎のプロポーズをしてきたことは、いまは置いておくとして。
止めてくれるのなら、とつてもなくありがたい。あれだけ彼を避けておきながらと自分でも思うが、こんなときだけは許してほしい。
「筆頭魔術師カシアン・トュレイス様。これは陛下と大教皇様の決定事項です」
「ロマネスクを逃がしたのは王宮の管理が甘かったからだろう」
「私どもは厳密に管理しておりました。けれど何者かに兵士や魔術師が殺されたのは、あなたもご存知ですよね」
「それは知っているが、どうしてそこでルチアが出てくる?」
カシアン様が鋭い視線を向けたが、兵士たちが嘲笑うようにこちらに視線を返した。
「この女の作ったものが殺された彼らの胃から出てきたのです。その内容物から猛毒の魔術薬が検出されました」
――――ドクン。
私をつかんでいた兵士に睨まれながら指をさされると心臓が飛び跳ねる。
私の作ったご飯が胃から出てきた。それが猛毒だった。もちろんそんなことはまったく知らないし、猛毒の魔術薬を入れた覚えもない。
「カシアン様、早くその女をお渡しください」
「嫌だといったら?」
「いくら筆頭魔術師とはいえ、王宮と大教皇様に歯向かうことは許されておりません。もし拒否するのであれば……」
兵士が剣を抜いて、銀色に光る剣先をカシアン様へ向けた。
「キース、手を出すな」
彼が微かに路地裏に目を向けると、ビクリと揺れた影。そこには暴れるセルの口を塞いで、片手で魔術陣を描いているキース様がいた。
「なるほど。嵌められたということか」
(嵌められた? どういうこと?)
カシアン様が小声で呟いたあと、ゆっくりと指先で向けられた剣をつかむ。
「誰に刃を向けている。お前は死にたいのか」
指先から黒い靄が放たれて剣を包んでいく。カシアン様の表情が鋭く冷たいものになっていた。彼のあまりに重い圧に空気がしんと凍りつく。
指で簡単に兵士に向かって剣先が曲げられると「ひっ!?」と声を出して手を離し尻もちをついた。
「ルチア・ルーセントの処分は俺に任せるよう国王と教皇に伝えよ」
――――カラン。
曲げられた剣を軽く床に投げ捨てると高い音が鳴る。呆然とその様子を見ていた私のほうへ振り向いた。彼の表情がいつもの笑顔に変わっている。
「あ、あのカシアン様……わっ!?」
私を抱えると、そのまま歩き出した。兵士たちが何もできずに道を開ける。だが、先ほどの兵士がよろめきながらもカシアン様の前に立った。
「そ、その女をどうするおつもりですか」
「彼女は俺の屋敷で取り調べて、すべてを吐かせる」
「何も解決できなければ……」
顔を真っ青にさせながらも、カシアン様を睨みつけている。するとカシアン様がふっと笑ったあと、自身の左胸に手を当てた。
「俺の命を懸ける。筆頭魔術師の命だ、妥当だろう」
兵士が目を見開いたが、諦めたのか横にずれる。カシアン様が開けた道の間を歩き、つけてあった馬車に私を抱えたまま乗り込んだ――……。
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